上 下
70 / 70
不安定

70

しおりを挟む
【33日目の朝】

 拠点もかなり発展して来た。レンガモドキで作った窯が、用途によって数種類出来ている。今はまだ使わないだろうが、獣の皮で作った服や靴も試作品が出来ていた。

 次の目標は農作や金属を手に入れる事らしい。それに新たな住居。竪穴住居ではなく、平地式の住居にも取り掛かっている。

 要の方は、回復の兆しを見せてはいるが、十日ほど寝たきりだったため、まだ体調が万全では無い。そのためもうしばらく休みをもらった。それは、安静にする期間ではなく、体作りのための休みだ。


 俺は支度した後に採取に行く。田中さんが来ていたのに驚いた。目的地に到着し、粘土を採取しながら話しかける。

「田中さん、昨日の事とかで採取とかキツくない? 無理せず休んでも大丈夫だから」

「佐久間君にも同じ事言われたけど、大丈夫」

(俺は自分周辺の事で精一杯だったのに。流石は佐久間だな)

 拠点には秋元がいるから、彼と離れる事が出来る、採取に参加したのかもしれない。どちらにしても佐久間がケアしたなら深掘りする必要はなさそうだ。

「それなら良かった。天羽も大神も昨日の事は気にするなよ。皆疑ってないからな。それに、秋元も色々とストレスを抱えてると思うから……」

「言おうとしてる事は分かるけど、私はあいつ嫌いよ」

 天羽はまだまだ怒っているようだ。

「まあ、そうなるよな」

「私はそんなに気にしてないから……大丈夫。それよりも宮本君、元気になって良かったね」

「ありがとう。今はリハビリしてる。直ぐに何時も通りになるよっ」

 思ったよりも皆の精神面は大丈夫そうなので安心した。せっせと働いた後、採取を終えて拠点へと帰る。


 川で夕飯のための水を汲みに来ると大橋がいた。水を飲もうとしているように見えたので止めに行く。

「大橋さん。水を直接飲むのは良くないよ」

「あの! これは!」

「え?」

 大橋が水を含んだまま喋ったので、聞き取れなかった。それに、それどころではない。彼女が水を吐き出すと、それは少し赤かったからだ。

「怪我したのか?」

「ち、違う。これはちょっと転んだだけでっ……」

(何で慌てているんだ? 心配させないとしているのか? それとも……)

「もしかして、何か隠してる?」

「そ、そんな事ない……」

「……取りあえず、和の所に行こう」

「そ、それは駄目ッ」

 彼女は慌ててそれを断った。

「どうして?」

「……」

 彼女は何も言わなかった。何処か怯えている様にも見えた。

「……誰かにやられたのか?」

 それを聞いて驚いた様な表情をした。拒否しようと口を開けたが声を出すのを止めた。

「清水さんの所には行けない。そんなところを見られると、もっとひどい目に合うから……」

「誰かは言えるか?」

「……言えない」

 事情は何となくだが分かった。恐らく大橋はいじめられている。彼女はこのままほっといて欲しいのだろう。しかし、ここは見知らぬ土地。逃げ場がない。現代でさえ無くならないそれ。

 さらに法が無い世界ではさらにどうしようも無い。何処かで止めないと、暴力はエスカレートするばかりだろう。このままじゃ彼女の命が危なくなるかもしれない。



しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

強奪系触手おじさん

兎屋亀吉
ファンタジー
【肉棒術】という卑猥なスキルを授かってしまったゆえに皆の笑い者として40年間生きてきたおじさんは、ある日ダンジョンで気持ち悪い触手を拾う。後に【神の触腕】という寄生型の神器だと判明するそれは、その気持ち悪い見た目に反してとんでもない力を秘めていた。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

追放シーフの成り上がり

白銀六花
ファンタジー
王都のギルドでSS級まで上り詰めた冒険者パーティー【オリオン】の一員として日々活躍するディーノ。 前衛のシーフとしてモンスターを翻弄し、回避しながらダメージを蓄積させていき、最後はパーティー全員でトドメを刺す。 これがディーノの所属するオリオンの戦い方だ。 ところが、SS級モンスター相手に命がけで戦うディーノに対し、ほぼ無傷で戦闘を終えるパーティーメンバー。 ディーノのスキル【ギフト】によってパーティーメンバーのステータスを上昇させ、パーティー内でも誰よりも戦闘に貢献していたはずなのに…… 「お前、俺達の実力についてこれなくなってるんじゃねぇの?」とパーティーを追放される。 ディーノを追放し、新たな仲間とパーティーを再結成した元仲間達。 新生パーティー【ブレイブ】でクエストに出るも、以前とは違い命がけの戦闘を繰り広げ、クエストには失敗を繰り返す。 理由もわからず怒りに震え、新入りを役立たずと怒鳴りちらす元仲間達。 そしてソロの冒険者として活動し始めるとディーノは、自分のスキルを見直す事となり、S級冒険者として活躍していく事となる。 ディーノもまさか、パーティーに所属していた事で弱くなっていたなどと気付く事もなかったのだ。 それと同じく、自分がパーティーに所属していた事で仲間を弱いままにしてしまった事にも気付いてしまう。 自由気ままなソロ冒険者生活を楽しむディーノ。 そこに元仲間が会いに来て「戻って来い」? 戻る気などさらさら無いディーノはあっさりと断り、一人自由な生活を……と、思えば何故かブレイブの新人が頼って来た。

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※異世界転移が何番煎じか分からないですが、書きたいのでかいています! 面白いと思ったらブックマーク、感想、評価お願いします!!※ ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

Fairy Song

時雨青葉
ファンタジー
妖精たちが飛び交う世界。 ここでは皆、運命石と呼ばれる石を持って生まれてくる。 この運命石は、名のとおり自分の運命の相手へと繋がっているのだという。 皆いずれ旅立つ。 対になる運命石を持つ、運命の相手を捜して。 ―――しかし、そんなロマンチックな伝承に夢を見れない者がここに一人。 自分は生まれながらの欠陥品。 だからどうせ、運命の相手なんて…… 生まれ持った体質ゆえに、周囲との価値観の差に壁を感じずにいられないシュルク。 そんな彼に、とある夜の出会いが波乱を巻き起こす。 「恨むなら、ルルーシェを恨みなさい。」 唐突に振り上げられる刃は、退屈でも平和だった日常を打ち砕く。 運命石を中心に繰り広げられる、妖精世界の冒険譚!! 運命の出会いを、あなたは信じますか…?

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...