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楽園

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「う、動かねぇ……馬鹿な……ッ」

「そんな……上下の桃ぉ。桃源郷は目の前なのに……ここまで来て……ッ」

「くそ! くそっ! くそぉぉお! 動いてくれぇぇええ!」


「さ、鮫島! お前の《文字霊もじだま》なら対抗できるんじゃ!」

「すまん……無理だ。幻影に書く事は出来ない……ていうか書く物が無い……ッ」

 それを聞いた男子たちは力尽き、温水へと沈んで行った。

「勝った……」

 そんな委員長の声が壁の向こうから聞こえて来た。

(委員長って案外ノリ良いよな……)

 しかし、実のところ。俺はお湯で体を洗いながらそのやり取りを聞きながら、もの凄く震えていた。そろそろ温泉に入ろうと移動を始める。

 何故震えているか。それは自分の能力を言いそびれたからだ。俺はまだ自分の能力使いこなせて無いな……慌てず目立たず速やかに。

 男子の心が沈んでいる。それは好都合でニンマリとした。だが、湯船に沈んでいたはずの鮫島がふと顔を上げて俺に尋ねる。

「お前さ、何でずっと蟹みたいな変な歩き方してんだ?」

「え? ……かっ、蟹さん大好き! カニカニカニー」


「お、おう……頑張れよ」

 鮫島はドン引きしたような表情をしていた。頑張って出来る限り優しい一言を絞り出した。

(ふぅー。セーフ!)

 そこで白竜が思い出したかの様に言う。

「……ん、城詰の能力って確か」

 そこで要がさらりと答えた。

「お、気が付いたか。察しの通り、体の向きを反転すれば幻影の向こうが丸見えだな」

 そこで男子の冷たい視線が集まった。ザバンと大きな音を立てながら立ち上がる。


「おいおいおいおいっ、城詰くーん。それはおかしくないですかぁ?」

「あ~、俺視力が悪いからな……か、悲しいよ……」

「確かに。去年は1.2に落ちてたっけ? 1.5から下がったって落ち込んでたな~」

「要……お前……ッ」

「まあ、俺も見られて困る奴がいるんでな……皆に見張っててもらわないと」


 その時、鮫島が邪悪な笑みを浮かべる。すると大声で叫んだ。

「はーい! 女子の皆さーん! 城詰が最強の覗き能力で女子の裸を見てるぞぉー!」

 そこで女子側がざわざわと話し出した。

「さ、鮫島ぁ? 突然何言ってんだ!」

「悪いが女子からの評判を落とさせてもらう……理由は分かっているだろ?」

 鮫島はニヤニヤとしていた。それを見ていた田村が言う。

「おいおい、それは可哀そうだろ……見ない様に頑張ってたのに」

「はっはっは、この案が出た段階で能力を言って無い奴が悪いのさぁ」

 不死原がそれに楽しそうに反論する。清時も入って来た。

「もっともそのくらいじゃ、既に好意を抱いてる女子には意味ないと思うけどな」

「違いない」

 鮫島は悔しそうに言う。

「チッ……まあ、新しく寄って来る奴は減らせるはずだっ」

 そこで女子側から声が聞こえて来た。

「城詰君は覗いたりしないよー」

「そうそう! あんた達と一緒にしないでよっ」

(何故か分からないが助かった?)


 後から聞いたが、みーちゃんが時間を止めて、こそっと仕切りから顔を出して、俺が背を向けているのを確認したようだ。それを知らない不死原が叫んだ。

「はぁー! 何だそれ!」

「おかしいだろっ。反応が違う!」

 田村と清時が笑いながら言う。

「ほらな」

「日頃の行いだな」


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