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楽園

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「は、はぁ? な、何だよ……それ……聞いてねぇぞ!」

「馬鹿、止めとけって! そんなに長時間の能力使用とかっ、絶対負担が大きすぎるって!」

「折角くつろぎに来たのに田中の体調が悪くなるとか、そんなの残酷だっ」

 しかしそれに対して、何時もは前に余り出て来ない田中も今回はきっぱりと言った。

「私の能力、結構燃費良いみたいだから、クラス中を巻き込んでも大丈夫」

 後藤は嬉しそうに言った。

「それじゃあ実験して大丈夫だったら、それで決まりだね」

 男子たちの大半は膝を付き地面を叩いていた。そんな中、リラックスした状態で温まってる鉄と佐野が居た。最後に不死原は言う。

「ふっ……これで喧嘩せずに入れるなっ。めでたしめでたしだ!」


 後藤はその言葉を聞いて訝しげな表情をした。

「……急に大人しくなったわね。逆に怖いんだけど」

「おいおい、この純粋な眼を見ろよ!」

「怪しいわね……まあ、佐久間君がいるし、大丈夫か」

「おい……」

 その後、木製の仕切りの様な物が現れたと皆は言っていた。その時の俺は、幻影の仕切りに背を向けて、敵を警戒している振りをした。

 皆が温泉を楽しみだした時、不死原たちがコソコソと壁に近づいて行った。何故か佐久間は止めなかった。まるで無理だと言わんばかりに気にしてなかった。もう少しで壁を超える事が出来る距離に差し掛かった時、後藤が壁の向こうから自信に溢れた口調で言う。

 その言葉には不思議な力強さがあった。手を腰に当て、仁王立ちをしているのではと感じる程、それは堂々としていた。

「さて……男子諸君。幻影など、何だかの手違いで突破すれば良いと考えてはないかね?」

「ッ……!? な、何の事かな?」

「俺たちは純粋に温泉を楽しんでるんだ! 下手な言いがかりは止めてもらえませんかねぇ……ッ!?」

(いや、多分声の距離からバレバレだぞ……)

「それなら良かったわ。あ、そうそう、ちょっと言い忘れてたけど……私の能力は《言霊ことだま》」

「……な、なんて? 今なんて言った……っ?」

「言葉に強制力を持たせる能力だって言ったのよッ。この馬鹿どもがぁ!」

 その意味を理解した彼等は叫んだ。

「てっめーッ」

 そして、後藤の力強い声が響き渡る。

「男子はこの幻影の仕切りを超える事が絶対に出来なくなるッ! 絶対にねぇ!?」

 その瞬間、男子たちの足取りは重くなった。


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