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足音

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 その時、巫たちに呼ばれた。

「何だろ。悪いまたな。困った事があったら何でも話してくれ、じゃあな」


 巫の所に来ると彼女は嬉しそうに言う。

「じゃーん! 今日は何とっ!? 魚が取れました!」

「おお、大きい!!」


 その声を聞いて鮫島が近づいて来た。

「分かるー。巫って上位に食い込むくらいおっぱいデカいよなー」

(来んなよ、自然に俺を巻き込むなっ)

 巫が真っ赤な顔をして驚いた表情を見せる。

「っ!?」

 彼女が慌てて胸を隠す。思わず手を放してしまった事で魚が宙を舞う。田村がそれを落とすまいと、必死に走り、ヘッドスライディングを決める。しかし、まるで落下位置を予測していたかのように、既に清時が余裕の表情で、そこに立っていた。

 そこで、要が脚に力を込める。凄まじい脚力で清時の真上に跳躍した。それに負けまいと清時は慌ててジャンプする。結果、みーちゃんが魚を捕まえた。

「大丈夫? 巫ちゃん」

「あ、ありがとう、みーちゃん」

 要と清時がぶつかりそうになるが、頭と肩に手を置き、跳び箱のハンドスプリングをする要領でアグレッシブに回避した。着地した清時がズボンが少しずれ落ちていている事に気が付いて、慌てて直していた。

 みーちゃんの能力を知らない人たちは、彼女が魚を持っていた事に呆気に取られて不思議そうに呟く。

「……え?」

 鮫島は近くにいた後藤から頭を殴られた後、速やかに連行された。落ち着いた空気に戻った時、三名ほどが俺の方をジーと見ていたので弁解する。

「違うよ。大きい魚の話だから!」

 笑顔になってくれたが無言だった。その後、田村が痛みを訴えながら歩いていた。和に甘える様に治癒を頼んでいたが、どこか嘘くさい気がする。

(いや、重要なのは早い段階で治す事。後から痛くなって気が付く方が怖い、とはいえ。もう少し離れてくれ)

 そんなこんながあったが、皆楽しそうに笑っていた。少し前までの殺伐とした雰囲気が明らかに和らいでいた。それほどに生活が安定してきていた。


 そこでふと気が付く。円城寺の方から良い匂いがする。すでに数匹の魚を焼いていた。その獣の肉とはまた違う香ばしい匂いに自然と涎があふれる。

 夕食は皆が一緒に食べる訳ではない。大体同じ時間帯に食べる。ご飯の振り分けはしっかりしているので、焦る必要は無い。

 最初に準備が出来た者から。そして、徐々に増えて賑やかになるのが結構良い雰囲気になっている。誰が決めたでも無くいつの間にかなっていた。

 好きな時に、一番仲の良いグループで食べると言う自由さが楽しいからだろう。今日の夕飯も大いに盛り上がりそうだ。



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