上 下
47 / 70
足音

47

しおりを挟む
 彼女は服を着るのを待っている途中、ある事に気が付いて顔をしかめた。ドアの前。自分の隠れた位置とは逆側。入口の横に佐野という男がいたからだ。彼は股を大きく開いたまま腰を下ろし、中腰で座って居た。ヤンキー座りだ。

「で、佐野君はそこで何してるの……?」

「鉄さんの護衛っす!」

 この状況にそぐわない、頭の悪そうな回答に後藤は頭を抱えた。

「着たぞ」

 中から聞こえたその声を合図に後藤は室内へと入った。佐野も中に入って来た。出口を塞ぐように彼女の背後へと着く。

「で、何の用だ?」

「何の用だっ……じゃないわよ! 仕事しなさいよ仕事をぉ!」

「今日は体調が悪くてな。休む事にした」

「はぁ? そんな話聞いてないわよ!」

「なら佐野の伝達漏れだな」

「うっ、申し訳ないっす!」


「……体調不良ねぇ? ん? ……ていうか体調悪い奴が何で裸だったのよ! 絶対に嘘でしょ!」

 それを聞いて鉄は立ち上がる。

「それなら仕方ない。いっちょ働くとするか」

 素直なその発言に後藤は内心ホッとする。そこで佐野が心配そうに叫んだ。


「でも、鉄さん! 昨日の夜、拠点の周辺を朝まで見回って寝てないんじゃ!!?」

「言うなって言っただろうが? 殺すぞ」

「す、すいませんっ、つい!」


「え……あんたがそんな事を……?」

「ああ? 何でもねぇよ……こいつの妄言だ……」

 心なしか鉄の足元がふらついていた。後藤はさっきまでの怒った表情から一変、柔らかい表情に変わっていく。

「ふぅー……もう分かったわよ。今日はゆっくりと休んで体調を戻しなさい……皆には私が言っておくから」

 鉄が後藤をジッと見つめた。

「……お前、良い女だな。クラスの連中が怖がる理由が分からん。そうだ、付き合うか?」

「は、はぁ! ばばば馬鹿じゃないの!? そもそもあんたは好みじゃないし!」

 後藤は顔を真っ赤にしてそれを拒否した。

「えー、鉄さんと委員長。お似合いって感じがするっすけどね~」

「何言ってんのよ、佐野! 適当言うな! そそそそれにっ、私の好みはかっこよくて頭が良くて運動神経が良い人よ!」

「俺の特徴にそっくりじゃねぇーか」

「っちがーう! 明るくて優しくって真面目じゃないと駄目なんだから! 真逆よ真逆! 誰があんたなんかと!」

「そりゃ残念だ」


「あ、その特徴って全部佐久間ですかね?」

「ちちちち違う! 今のは理想っ。架空の人物よ! 勘違いしないでよね!」

「そうかよ」

「じゃ、じゃあ! 私はもう行くから! 次変なこと言ったら許さないからっ!」

 裏返りそうな声を出しながら彼女は慌てて去っていた。彼女の足音が遠ざかると佐野が嫌らしい笑みを浮かべた。


しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

強制無人島生活

デンヒロ
ファンタジー
主人公の名前は高松 真。 修学旅行中に乗っていたクルーズ船が事故に遭い、 救命いかだで脱出するも無人島に漂着してしまう。 更に一緒に流れ着いた者たちに追放された挙げ句に取り残されてしまった。 だが、助けた女の子たちと共に無人島でスローライフな日々を過ごすことに…… 果たして彼は無事に日本へ帰ることができるのか? 注意 この作品は作者のモチベーション維持のために少しずつ投稿します。 1話あたり300~1000文字くらいです。 ご了承のほどよろしくお願いします。

日本帝国陸海軍 混成異世界根拠地隊

北鴨梨
ファンタジー
太平洋戦争も終盤に近付いた1944(昭和19)年末、日本海軍が特攻作戦のため終結させた南方の小規模な空母機動部隊、北方の輸送兼対潜掃討部隊、小笠原増援輸送部隊が突如として消失し、異世界へ転移した。米軍相手には苦戦続きの彼らが、航空戦力と火力、機動力を生かして他を圧倒し、図らずも異世界最強の軍隊となってしまい、その情勢に大きく関わって引っ掻き回すことになる。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

天日ノ艦隊 〜こちら大和型戦艦、異世界にて出陣ス!〜 

八風ゆず
ファンタジー
時は1950年。 第一次世界大戦にあった「もう一つの可能性」が実現した世界線。1950年4月7日、合同演習をする為航行中、大和型戦艦三隻が同時に左舷に転覆した。 大和型三隻は沈没した……、と思われた。 だが、目覚めた先には我々が居た世界とは違った。 大海原が広がり、見たことのない数多の国が支配者する世界だった。 祖国へ帰るため、大海原が広がる異世界を旅する大和型三隻と別世界の艦船達との異世界戦記。 ※戦艦など知らない人も楽しめるため、解説などを出し努力しております。是非是非「知識がなく、楽しんで読めるかな……」っと思ってる方も読んでみてください!※

分析スキルで美少女たちの恥ずかしい秘密が見えちゃう異世界生活

SenY
ファンタジー
"分析"スキルを持って異世界に転生した主人公は、相手の力量を正確に見極めて勝てる相手にだけ確実に勝つスタイルで短期間に一財を為すことに成功する。 クエスト報酬で豪邸を手に入れたはいいものの一人で暮らすには広すぎると悩んでいた主人公。そんな彼が友人の勧めで奴隷市場を訪れ、記憶喪失の美少女奴隷ルナを購入したことから、物語は動き始める。 これまで危ない敵から逃げたり弱そうな敵をボコるのにばかり"分析"を活用していた主人公が、そのスキルを美少女の恥ずかしい秘密を覗くことにも使い始めるちょっとエッチなハーレム系ラブコメ。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...