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足音

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 北川は睨み付けていた。

「はぁ? お前のせいだろ。自分で後処理しろよ」

「そんな……っ」

「分かってると思うけど、勝手に名前出すなよ?」

 彼女等はそう言って去って行った。その時、佐野を引き連れていた後藤が通りかかった。


「あれ? どうしたの大橋さん」

「あっ……そ、その……」


 佐野が落ちている物に気が付いた。

「ん? それって茶碗じゃねぇ……まさか大橋っ、お前!」

「これはっ……そのっ……あ、ごめんなさい!」

 後藤が怪訝な表情で大橋を見ていた。佐野が嬉しそうに言う。

「やった? もしかしてやったっすかッ? あ~あ、やばいっすよ! マジでやばいっす!」

 大橋が泣きそうな表情になった時、後藤が制止する。

「うるさい佐野!」

 怒鳴ると彼は大人しくなった。

「何があったの大橋さん……?」

「その、お茶が飲みたくて……勝手に持ち出して……わ……私が落としました……本当にごめんなさい」

 後藤は少し考えて言った。一応転移前の大橋の状況を何となくだが察している。しかし、証拠もなく彼女が話さない以上、それを断言はできない。

「それは関心しないわね……でもね、正直に言ってくれてありがとう」

「お、怒って無いんですか……こんな大事な物を……」

 後藤は微笑んだ。

「大事なのは物じゃなくて、大橋さん本人だよ。今度はしっかりと許可をもらってね」

「はいっ……ご、ご迷惑をおかけしました……ッ」

 そこで後藤が急に叫ぶ。

「ん、あれ? 佐野ぉおお!」

 無意識に手を離していたので、佐野がいつの間にか消えていた。

「ごめんね。ちょっと馬鹿を捕獲してくる。後処理は私でやっておくから、何時もの持ち場に戻ってて。あ、危ないから破片だけは片付けお願いね。それじゃ」

 そう言って彼女は去って行った。


【世界は違えど夕日は綺麗だ】

 太陽が沈みかける頃、皆は帰って来る。

 ただし採取組は少し変わっている。最初は一度だったが、今は道が決まったのと慣れたのもあり、体調に合わせて2,3回は往復している。

 俺は採取から戻ったばかりで休んでいた。その際に古川先生が少し離れた茂みでしゃがんでいるのを発見した。不思議だったのは、その周辺に誰も居なかった事だ。離れているとは言え、この距離なら誰かが近づきそうなモノなのだが。俺はそれが気になって仕方が無く近づいて行った。


「先生……何してるんですか?」

「……ぐすっ……アルゴリズム一世君の供養を……」

「!?」

(!? いや誰? 誰の供養だって?)

 俺は振り返って皆を確認する。平和だ。重苦しい雰囲気は感じられなかった。

(一体何を言っているんだろう?)

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