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奇跡

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 直ぐにのどか天羽あもうの隣に座り、傷と頭に触れた。彼女の表情が少し和らいだ。どうやら佐久間には伝えていなかったらしく。彼は驚いていたが、何も言わなかった。何かと察してくれた様だ。

 一方で俺は鉄を追う。気が付くと、少し離れた場所に来ていた。そこで彼が急に振り返ったので慌てて止まる。

「何だ、城詰か……何しにきやがった?」

「あ、お礼を言って置こうと思って」

「まだ助かってないがな」

「それでもだよ」

「はっ。だが許されないらいしいぞ?」

「いや、お前。ボトルの水飲んでなかったじゃん」


「……それで? 何を聞きたい?」

「え?」

「ちっ……呆れた奴だ。本当にそれだけの為に来たのか」

「え、あ~……」

(悪いかよ……どうせならちょっと頭の良さそうな事言っとくか)

「まさかあんな事を考えて、見張りを決めようとしてたなんて。愛丘並みのキレじゃないか?」

(くっ……思いつかなかった)


 鉄は俺を暫く見て言う。

「馬鹿か……あれは適当だ」

「え?」

「最初にごねた理由は簡単だ。佐久間が嫌いだからだ」

(ただの嫌がらせかよっ……とはいえ。とっさの機転で秋元を黙らせた。凄い事には変わりないけどな)

「まあいいや、後で肉を分けるから来いよ」

「ふん……」

 彼は背を向けてそのまま自分の焚火の方向へ進み出す。

「変な奴」

 突然鉄が止まり振り向いたので俺はビクリとした。聞こえたか?

「城詰……余り他人を信用しない方が身のためだぜ」

「……クラスメイトだろ」

「他人じゃねぇか」

 そう言って彼は去って行った。俺はそれを見送らずに焼く準備に行く。要の今の状態からもあの獣の尻尾に毒は無いはず。傷をなるべく清潔に保てば大丈夫そうだ。今回の収穫は佐久間たちが狩った兎の獣が二、羽? と俺たちが狩った狼の獣。

 処理を考えながら戻っていると、すでにかんなぎたちが協力して下ごしらえをしてくれていた。鮮度は大事。有難い。

 巫と円城寺かこちらに気が付くと微笑んだ。

(へー。あの二人、仲良いんだな)

「城詰君、こんな感じでどうかな?」

「こっちは私がやったんだけど……」

「うん、二人ともばっちりだ!」

(これなら任せても大丈夫そうだ)

「あ、ごめん。ちょっと萩原見てきていい? そろそろ起きてくれないと不安だ」

 二人は一瞬止まった。そして、再び笑顔になって見送ってくれた。


 小さな屋根のある住居に向かう。住居と言っても二人ほどしか入れない小さな所で、壁も扉も窓も無い。形状は三角形だ。入ると彼の意識はあり、既に上半身を起こしていた。ホッと胸をなでおろした。

「萩原、大丈夫か?」

 手を握ったり開いたり、腰を捻るように動かして、体調を確かめていた。

「ああ、大丈夫。意識がなくなるのは初めてだ。MPの使いすぎ、なのか……?」

「お前もよく分からないのか……MP、もしくは疲労かもな。どっちにしろ気を付けろよ」

 彼は僅かに頷いていた。

「……皆は?」

「探索組は全員無事だよ。ただ、天羽の体調が最悪だ。やれる事はやっているが……」

「そうか……」

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