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彼はもう動かない

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 思わず名を呟いたが、それを気にせずにくろがねは問いかける。

「秋元、お前……この状況でそんな重要なモノを隠せると……本気で思ってんのか?」

「な、何だよ……それ以外に考えられねぇだろうが……ッ」

「じゃあ、それが出来たとして、何故隠す?」

「はぁ? 独り占めしてっ、自分だけ生き残るためだろ!」

 彼はそれを聞いて嘲笑する。

「独り占めねぇ……馬鹿かお前は」

「何だとッ! 不良のてめーに言われたくない! 全教科赤点のくせしてよぉッ」

「はぁ~。現代で最高の文明を持つ最強の霊長類様が……たかが三日程度で無事死にかけてんだ。よく考えろ。こんな辺境の地で三年も一人で生きられるはずがねーだろうが……」

「ッ……な、なら間引きだ! 都合のいいように人数を減らして生き残ろうと企んでいるんだ!?」

「なるほど、確かにそれは有効である、かもしれねぇな」

「だろ! だから……ッ!!!!」

「だが分かってんのか秋元。その思想に至るのは、道徳を捨てないとなぁ……つい数日前に平和な学校で教育を受けてた奴の発想じゃねぇ」

 鉄の圧に秋元は唾を飲んだ。

「それとも何だ? お前ならそれを実行できるっていうのか? お前はそういう人間なのか?」

「そ、それは……ッ」

 鉄は愉しそうに続ける。

「出来るなら、そう答えても良いぞ……それでお前の評価はガラリと変わるがな」

「ち、違う! 俺には出来ないが、佐久間たちはそれをやってるって事だ!」


 鉄は呆れながらもそれに付き合っていた。

「そんな奴が、死にかけてる奴に少ない木の実を優先して食わせるかよ」

「だ、だけど……! そういうパフォーマンスかもしれないだろ! そうやって良い奴ぶってるんだ!!」


(秋元……言ってることが滅茶苦茶だ。そんな余裕があるなら間引いたりはしない……疲労で判断力が鈍っているのか)


 鉄はそれを聞いてクスリと笑う。

「そもそもだ。袋に隠せる程度の飲食物で一体何日生き残れる? 三日か? 一週間か?」

「き、きっと何処か別の場所にまとめて! もっと大量に隠してるんだ!」

「お前は知らないかもしれないが、食べ物は腐るんだぜ? ここに来てから、奴等が長時間一人で行動しているのを見たことがあるのか? どうやって処理をしている」

「ね、寝てる時だ! そうだ! きっとその時に!」

「何のためにごねてまで、グループに別れての見張りにしたと思ってる。主導権を握ろうとするやつを動きにくくするためだろうが。俺は誰も信じてちゃいねぇ……お前も、佐久間も、勿論愛丘も、だ」

 不規則な見張り。誰が何を見ているか分からない状況。普段そこまで目立たない者ならともかく、ただでさえ目立つ佐久間と愛丘がそれをくぐり抜けるのは至難の業だろう。

(嘘だろ……そこまで考えていたのか、鉄)

 鉄はまだまだ続ける。

「それに、多人数で大物を狩って分けた方が、低リスクで腹を満たせると、身をもって体験したはずだが?」


(そう、後は水源さえ確保出来れば、少なくとも全滅は回避できる。いや、それどころか生活水準がグンと上がる……)


「……ッ。のっ、能力とかで自由に飲み食い出来るんだ!」

「はぁ~、今までのやり取りを理解してるか? そんな能力があるなら誰も死にかけてねぇだろ……」

「ッ……」

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