Re:Dive

沢蔵人

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Ⅰ:目覚め

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「今までありがとう、ゆっくりやすんでね。」
涙を流して言葉を詰まらせながら最後にアイツが言っていた言葉だ。

それが徐々に遠くへ行くと同時に視界がぼやける。視界が暗くなると同時に音も段々と消え、無音が包み込む。

どれくらい経ったのだろう、無音だった音が段々と大きくなってくる。騒音というよりはかつて経験した

家の近所にある公園で集会を開いてた時よりももっと賑やかだった、気づけばそこは緑の壮大な草原で七色の橋や

ミルクの吹き出す噴水に豚バラの薔薇など、奇妙奇天烈な光景だった。何よりも多種多様な動物達がそこにいたのだった。

見とれていると、少し散策しようとぶらぶらと歩いていたらふとトイレに行きたくなるので探すが

どこにもトイレが見当たらない、仕方なく少し離れた茂みで用をたす「…あれ?ちゃんと出てる…痛くない…しかも身体の調子が良いぞ」

18年も生きてると体が重く得意の木登りや狩り、トイレも苦痛だったが今じゃそれが嘘のように軽い!まるで若かりし頃の自分だ!

…とそこで小さい頭の中で矛盾というか違和感を感じた。それはある日、いつものようにアイツの膝の上を占領していた時に

テレビという得体の知れない大きな物の中で、アイツ以外の人間が講釈を垂れて言ってた「猫の1年は人間の4年分」

つまりはアイツらの年齢で言うと88歳、老人の部類に入るはずなのに…小さな頭で思いつく知恵を絞っていたその時。

同じく茂みに一頭の馬がやってきた、「びっくりさせないでくれ!、トイレ中に目の前に出るなんてどういう神経してるんだ。馬にはデリカシーというものが無いのかね!」

そう怒ると彼は「ごめんごめん、その先に人参が沢山ぶら下がっている木が見えたんで通りかかっただけなんだ、悪気はないので許しておくれよ」

申し訳なさそうな顔でこちらを見つめ謝る、昔なら引っ搔いてやるところだったが、筋骨隆々な彼を見てやめた。とても勝てる気がしない。

「まぁ、そこまで言うなら許そうじゃないか、ついでに暇だからその人参がぶら下がる不思議な木とやらに一緒にいってあげるよ」

上から目線な猫の答えに馬は喜ぶ「ありがとう!ちょうど友達がいなくて色々と不安だったから助かるよ!」

見るからに嬉しそうな動きで回りを回っている、馬という生き物はつくづく変な奴だなと思った。

「早速行こうか、そういえば名前を聞いてなかったけど名前はなんて言うんだい?」面長な間抜け面で見える喜々とした表情で語りかけてくる。

「名前?名前はジロウって呼ばれてたから、多分それが名前じゃない?」

余程話をしたがっていたのか「ジロウって言うんだ!兄弟とかいるの?やっぱり兄はタロウで弟はサブロウとかだよね?」とやたらとこちらのプライバシーに入りたがる。

とは言え自分も暇つぶしで付き合ってる身なので渋々ではあるが話相手になりながら彼の背中の上に乗り目的地へと向かう。

この馬の名前は「マシェリ」競馬という人間の世界で言うギャンブルというお金を賭けて遊ぶレースで活躍した奴らしい。

色々な所で勝ち数々の賞を取って息子や娘が沢山いると言う。産まれてすぐに命の次に大事なアレを取られた自分には遠い世界の話だからそこは聞き流した。

どれ位の距離を歩いたのだろうか、初めは小さな木だったはずが近づくにつれ段々と大きさを増す、目の前来た時には馬ですら凌駕する木がそこに鎮座していた。

高さは馬が何頭分になるだろうか、少なくとも自分が束になっても越えられない大きい木だった。

2匹が唖然と見上げていると何やら大木の裏から大きないびきが聞こえてきた。そっと2匹ぐ覗いてみると、心地良さそうに一頭の大きな熊がそこには居た。

側には酒瓶が何本も転がってる、2匹は本能で「ヤバい」そう感じ互いにそっと大木から立ち去ろうとすると

「こんにちは、僕はヴォイテク。君達は猫と馬だよね?こんな所で何してるんだい?」ジロウはマシェリの背に乗りしがみつきマシェリは必死に去ろうとする。

必死に走るマシェリに必死に追いつこうとするヴォイテク、互いにみるみるうちに疲労が見え始め段々と速度が落ち気づけば追いつかれ2匹は諦めと言う考えが脳裏に出始めた。

「驚かせてごめんね!僕、この前まで動物園に居たんだけど段々眠くなってきたから寝ちゃって、起きたらここに居たんだけど心地よくて二度寝してたらたまたま君たちが通りかかって嬉しくてついてきちゃったんだ。まだこっちに来て友達が居ないから良かったら仲良くしてくれないかな?」

人間よりもずっしりと。そしてがっしりとした大きな熊からは想像も出来ない言葉に2匹は呆気にとられ首を縦に振る。

3匹とも久々に体を動かして疲れが溜まったのか、その場に座り互いの生い立ちや今までの話をするのだった。

ここがどこで何故自分たちは若返ったのか、それにはきっと何か意味があるのだろうと思い時間を忘れて話し合うのだった。

その時3匹はこの先に降りかかる苦難も知らず…
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