22 / 43
第19話:品評会その3
しおりを挟む
「あらぁ、たしか先ほど宝石のご紹介をしてくれた方だったかしら?」
エスクワイア夫人が眉をひそめた。
夫人の前に進み出たのは勝気な表情をした若い令嬢とどことなく虚ろな表情をした令息だった。
「私はレベッカ・シエンタ、横にいるのは夫のラルフ・シエンタです。ささやかながら宝石の販売を手掛けております。以後、お見知りおきを」
「それで?どのようなご用件かしら。手短に済ませてくださる?」
「もちろんですわ。まず確認ですが、この品評会は優れた宝飾品を作る、人品骨柄卑しからぬ方々を広く世に知らしめるために催されてるんですわよね?」
「ええ、そうでしてよ」
エスクワイア夫人の口調にかすかな苛立ちが混ざる。
しかい国内有数の権力者の機嫌を損ねながらもレベッカ・シエンタは堂々としていた。
「なら不思議ですわね?どうして真っ当な貴族とは言い難いアレン・ヴェルファイアがそもそも招かれているのですか?」
「レベッカ嬢、聞き捨て何らないセリフが聞こえたんだがどういう意味かな?」
ここでアレンが割り込んだ。
「そうですわよレベッカさん、ここに招かれたのは全員が貴族名鑑に載っている方々ですわ」
エスクワイア夫人もアレンに加勢する。
しかし、レベッカ・シエンタの口は止まらない。
「では、アレン・ヴェルファイア様はつい数か月前まで家名のない平民で、困窮していたヴェルファイア家の令嬢との結婚をお金で買って貴族の身分を手に入れたことは当然ご存じなんですね?」
「・・・・!!」
アレンは息をのんだ。
「あら、本当ですの?」
エスクワイア夫人の視線が今度はアレンの方を向く。
「ええ、本当ですわ。その証拠にアレン・ヴェルファイアが連れている女性――あれはヴェルファイア家の令嬢ではありません、そうよねラルフ?」
「え、ええ。僕はヴェルファイア家のご令嬢と親しくしていたのですが、あの女性は間違いなくエミリー・・・ヴェルファイア家の令嬢ではありません」
(そうか、あの男の名前・・聞いたことがあると思ったらエミリーの元婚約者か!)
アレンは心中で歯噛みする。
「その・・・妻は少々事情がありまして、私の知り合いの女性に同伴を頼んだのです」
「本当かしら?見た目だけの卑しい娼婦を売り子代わりに雇ったのではないですかぁ?」
「な、何ですって!?アンタ言わせておけば 「やめろユリア!」
煽り文句に応じかけたユリアをアレンが静止する。
だが、すでにアレンは不利な状況に陥ってしまった。
エミリーとの結婚を金で買ったのは事実、そしてユリアの言動が図らずも追い打ちをかけてしまった。
貴族社会ではどんな事情があれど人前で感情をむき出しにして激昂することはありえない。
場の人々はすでにアレンとユリアのことを疑いの目で見始めていた。
にわかにざわめきだす会場――そして。
パンパンパン!
「今日はここまでにしましょう」
手拍子とともにエスクワイア夫人が宣言した。
「今夜のMVPの発表は取り消しとします。2か月後にまた品評会を開きますので、その時に改めて評価を行いますわ。皆様、よろしいですね?」
声をあげるものはいなかった。
「それからアレン・ヴェルファイアさん。できたら次は奥方を連れてきてくださる?是非とも挨拶させていただきたいわ」
「・・・善処します」
アレンは笑顔で取り繕うので精一杯だった。
何とか首の皮1枚つながったものの、今夜の品評会では予想をはるかに下回る成果しか得られなかったのである。
エスクワイア夫人が眉をひそめた。
夫人の前に進み出たのは勝気な表情をした若い令嬢とどことなく虚ろな表情をした令息だった。
「私はレベッカ・シエンタ、横にいるのは夫のラルフ・シエンタです。ささやかながら宝石の販売を手掛けております。以後、お見知りおきを」
「それで?どのようなご用件かしら。手短に済ませてくださる?」
「もちろんですわ。まず確認ですが、この品評会は優れた宝飾品を作る、人品骨柄卑しからぬ方々を広く世に知らしめるために催されてるんですわよね?」
「ええ、そうでしてよ」
エスクワイア夫人の口調にかすかな苛立ちが混ざる。
しかい国内有数の権力者の機嫌を損ねながらもレベッカ・シエンタは堂々としていた。
「なら不思議ですわね?どうして真っ当な貴族とは言い難いアレン・ヴェルファイアがそもそも招かれているのですか?」
「レベッカ嬢、聞き捨て何らないセリフが聞こえたんだがどういう意味かな?」
ここでアレンが割り込んだ。
「そうですわよレベッカさん、ここに招かれたのは全員が貴族名鑑に載っている方々ですわ」
エスクワイア夫人もアレンに加勢する。
しかし、レベッカ・シエンタの口は止まらない。
「では、アレン・ヴェルファイア様はつい数か月前まで家名のない平民で、困窮していたヴェルファイア家の令嬢との結婚をお金で買って貴族の身分を手に入れたことは当然ご存じなんですね?」
「・・・・!!」
アレンは息をのんだ。
「あら、本当ですの?」
エスクワイア夫人の視線が今度はアレンの方を向く。
「ええ、本当ですわ。その証拠にアレン・ヴェルファイアが連れている女性――あれはヴェルファイア家の令嬢ではありません、そうよねラルフ?」
「え、ええ。僕はヴェルファイア家のご令嬢と親しくしていたのですが、あの女性は間違いなくエミリー・・・ヴェルファイア家の令嬢ではありません」
(そうか、あの男の名前・・聞いたことがあると思ったらエミリーの元婚約者か!)
アレンは心中で歯噛みする。
「その・・・妻は少々事情がありまして、私の知り合いの女性に同伴を頼んだのです」
「本当かしら?見た目だけの卑しい娼婦を売り子代わりに雇ったのではないですかぁ?」
「な、何ですって!?アンタ言わせておけば 「やめろユリア!」
煽り文句に応じかけたユリアをアレンが静止する。
だが、すでにアレンは不利な状況に陥ってしまった。
エミリーとの結婚を金で買ったのは事実、そしてユリアの言動が図らずも追い打ちをかけてしまった。
貴族社会ではどんな事情があれど人前で感情をむき出しにして激昂することはありえない。
場の人々はすでにアレンとユリアのことを疑いの目で見始めていた。
にわかにざわめきだす会場――そして。
パンパンパン!
「今日はここまでにしましょう」
手拍子とともにエスクワイア夫人が宣言した。
「今夜のMVPの発表は取り消しとします。2か月後にまた品評会を開きますので、その時に改めて評価を行いますわ。皆様、よろしいですね?」
声をあげるものはいなかった。
「それからアレン・ヴェルファイアさん。できたら次は奥方を連れてきてくださる?是非とも挨拶させていただきたいわ」
「・・・善処します」
アレンは笑顔で取り繕うので精一杯だった。
何とか首の皮1枚つながったものの、今夜の品評会では予想をはるかに下回る成果しか得られなかったのである。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説
【完結】見ず知らずの騎士様と結婚したけど、多分人違い。愛する令嬢とやっと結婚できたのに信じてもらえなくて距離感微妙
buchi
恋愛
男性恐怖症をこじらせ、社交界とも無縁のシャーロットは、そろそろ行き遅れのお年頃。そこへ、あの時の天使と結婚したいと現れた騎士様。あの時って、いつ? お心当たりがないまま、娘を片付けたい家族の大賛成で、無理矢理、めでたく結婚成立。毎晩口説かれ心の底から恐怖する日々。旦那様の騎士様は、それとなくドレスを贈り、観劇に誘い、ふんわりシャーロットをとろかそうと努力中。なのに旦那様が親戚から伯爵位を相続することになった途端に、自称旦那様の元恋人やら自称シャーロットの愛人やらが出現。頑張れシャーロット!
全体的に、ふんわりのほほん主義。
そんなにその方が気になるなら、どうぞずっと一緒にいて下さい。私は二度とあなたとは関わりませんので……。
しげむろ ゆうき
恋愛
男爵令嬢と仲良くする婚約者に、何度注意しても聞いてくれない
そして、ある日、婚約者のある言葉を聞き、私はつい言ってしまうのだった
全五話
※ホラー無し
【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。
貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした
ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。
彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。
しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。
悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。
その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・
【完結】名ばかりの妻を押しつけられた公女は、人生のやり直しを求めます。2度目は絶対に飼殺し妃ルートの回避に全力をつくします。
yukiwa (旧PN 雪花)
恋愛
*タイトル変更しました。(旧題 黄金竜の花嫁~飼殺し妃は遡る~)
パウラ・ヘルムダールは、竜の血を継ぐ名門大公家の跡継ぎ公女。
この世を支配する黄金竜オーディに望まれて側室にされるが、その実態は正室の仕事を丸投げされてこなすだけの、名のみの妻だった。
しかもその名のみの妻、側室なのに選抜試験などと御大層なものがあって。生真面目パウラは手を抜くことを知らず、ついつい頑張ってなりたくもなかった側室に見事当選。
もう一人の側室候補エリーヌは、イケメン試験官と恋をしてさっさと選抜試験から引き揚げていた。
「やられた!」と後悔しても、後の祭り。仕方ないからパウラは丸投げされた仕事をこなし、こなして一生を終える。そしてご褒美にやり直しの転生を願った。
「二度と絶対、飼殺しの妃はごめんです」
そうして始まった2度目の人生、なんだか周りが騒がしい。
竜の血を継ぐ4人の青年(後に試験官になる)たちは、なぜだかみんなパウラに甘い。
後半、シリアス風味のハピエン。
3章からルート分岐します。
小説家になろう、カクヨムにも掲載しています。
表紙画像はwaifulabsで作成していただきました。
https://waifulabs.com/
【完結】愛に溺れたらバッドエンド!?巻き戻り身を引くと決めたのに、放っておいて貰えません!
白雨 音
恋愛
伯爵令嬢ジスレーヌは、愛する婚約者リアムに尽くすも、
その全てが裏目に出ている事に気付いていなかった。
ある時、リアムに近付く男爵令嬢エリザを牽制した事で、いよいよ愛想を尽かされてしまう。
リアムの愛を失った絶望から、ジスレーヌは思い出の泉で入水自害をし、果てた。
魂となったジスレーヌは、自分の死により、リアムが責められ、爵位を継げなくなった事を知る。
こんなつもりではなかった!ああ、どうか、リアムを助けて___!
強く願うジスレーヌに、奇跡が起こる。
気付くとジスレーヌは、リアムに一目惚れした、《あの時》に戻っていた___
リアムが侯爵を継げる様、身を引くと決めたジスレーヌだが、今度はリアムの方が近付いてきて…?
異世界:恋愛 《完結しました》
お読み下さり、お気に入り、エール、ありがとうございます☆
【完結】転生令嬢はハッピーエンドを目指します!
かまり
恋愛
〜転生令嬢 2 〜 連載中です!
「私、絶対幸せになる!」
不幸な気持ちで死を迎えた少女ティアは
精霊界へいざなわれ、誰に、何度、転生しても良いと案内人に教えられると
ティアは、自分を愛してくれなかった家族に転生してその意味を知り、
最後に、あの不幸だったティアを幸せにしてあげたいと願って、もう一度ティアの姿へ転生する。
そんなティアを見つけた公子は、自分が幸せにすると強く思うが、その公子には大きな秘密があって…
いろんな事件に巻き込まれながら、愛し愛される喜びを知っていく。そんな幸せな物語。
ちょっと悲しいこともあるけれど、ハッピーエンドを目指してがんばります!
〜転生令嬢 2〜
「転生令嬢は宰相になってハッピーエンドを目指します!」では、
この物語の登場人物の別の物語が現在始動中!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる