ラヴィ=フォーティスと竜の頭と愉快な食レポの旅

Tempp

文字の大きさ
上 下
20 / 27
1章-3 逃げるか、逃げないか

とびきり特別なもの

しおりを挟む
「アイネお兄さんはなんでカプト様のことがわかったの?」
「うーん、どうしてというわけでもないんだけど、その帽子の辺りからイライラした気配を感じたというか?」
 カプト様はふんと鼻をならした。
「適当にごまかすのはよせ。なんらかの方法で知り得たのだろう」
「なんらか?」
「なんらかだ」
 僕らはアイネお兄さんの泊まる宿に追加でベッドを入れてもらって、泊めてもらうことにした。お兄さんはそれほど大きな宿ではないと言っていたけれどしっかりした作りで、入ると広いロビーがあってピシっとした格好のおじさんが荷物を持ってくれた。凄くもてなされてる感。
 差額ベッド代だけでも僕が支給されている一泊の想定宿泊費より結構高かったから、かなりいい部屋なんだろう。見た感じもすごく広くてゆったりしてるし、家具もなんか上品な感じ。ピカピカに手入れされていてきのこも生えそうにない。廊下にもお部屋にもお花が活けてあったけど、食べると怒られちゃうよね。有料な気がする。
 アイネお兄さんが言うにはエグザプトのお祭りが終わるまでは国境の町に留まる人も多いらしく、今から探しても宿は見つからないんだそうだ。
「ラヴィ君はどうするつもりだったの?」
「駄目ならそのへんで寝ればいいかなと思って」
「馬鹿! お主は誘拐されたのをもうわすれたのか!」
「そうだった!」
「……知らないところで野宿はやめたほうがいいよ」
 カプト様に危ないって凄く怒られた。でも野宿するとそのへんの草は食べ放題なんだけど。
 でもまた誘拐されるのは嫌だから、ありがたくアイネお兄さんのお部屋に泊めさせてもらう。エネルギーバーだけの生活なんて嫌。

 アイネお兄さんは部屋の窓を厳重に閉めて部屋の四隅に四角い何かを置いて、それぞれに何かぶつぶつ呪文を唱えると、パキリとひび割れるような音がした。
「それは何ですか?」
「内緒話するおまじないだよ」
「そんな生易しいものでもなかろう」
「さて、ええと、ラヴィ君の言うことを前提とすると、そちらの黒い鳥さんに乗ってエグザブトの近くから一晩のうちにアガーティに来たんだよね?」
「待て、それを信じるのか?」
「本当だよ!」
 カプト様と声が被った。
「本当って言ってるよ?」
「いや、常識的に考えてだな」
「君たち常識的じゃないでしょ」
「本当に飛んできたのになんでカプト様は信じてくれないのさ!」
 あれ? でもカプト様は一緒に飛んできたよね? うん????
 カプト様は盛大にため息を吐いた。
「それで僕は祭りの間にエグザプトに入りたいんだよね。だからええと、鳥さん、と仮にお呼びしますが、私を乗せては頂けないでしょうか。対価はいかほどにもお支払い致します」
「断る。我は古き盟約により協力しておるに過ぎぬ」
「あれ? 鳥さんは船ではラヴィ君と一緒にいなかったよね? ん? そうすると、へぇ、ふうん」
 アイネお兄さんは鞄からお茶のパックみたいなものを出して、宿に備え付けられていた青いポッドにいれる。そうするとポッドの中に勝手にお湯が湧いて、くるくるとパックが円を描いて動き始めて、これまで嗅いだことのない雨が降った後の古い木の匂いにたくさんのベリーの香りがまざったような不思議な香りが漂って、薄い青い煙みたいなものがふうわり漂った。

 その手元を見ていた僕とお兄さんの目があって、お兄さんは優しそうな感じでニコッと笑う。
「これはねぇ、他の領域で買ってきた特別なエントのお茶なんだ。僕のお気に入り」
「エントってなんですか?」
「古い木かな。生えている場所によって香りがぜんぜん異なるんだよ。鳥さんはそちらのカプト様のお友達?」
 つまり森に行けば色んな味が食べ放題!
「鳥さんはね、捕まってるところに来てくれたの」
「ラヴィ、お主はもう黙っておれ」
「そうか。鳥さんがこの領域の方ならラヴィ君たちの代わりに僕を手伝って頂けないかと思ったんだ」
「駄目ですよ! 僕がエグザプトまで運んでもらうんだから!」
「うん? え? ラヴィ君はエグザプトに行くの?」
 お兄さんの目がまんまるになる。
「もちろんです! まだエグザプトの食べ物をたべてないもの!」
 そういうとアイネお兄さんは混乱したみたいな目で僕を見つめた。
「でも祭りの日は飲食店は全部閉まってるよ。大抵の人は部屋に閉じこもるし、外にいる人はたいていろくでもない目的だろうし」
「お祭りの日は特別な食事があるって聞いたんですけど」
「あーうーん。それはなんて言えばいいのか。まあ確かに普段のお祭りだと他の国と同じように色々面白い屋台が出てたりするんだけどね、大祭では何もない」
「アイネよ。無理なのだ。こやつは変わったものがあると聞くと頭がおかしくなるのだ」
「酷い!」

 僕はただ、珍しいものが食べたいだけなのに。
 でも普段あるなら今もあるんじゃないの?
 編集長はお祭りの時しか食べられないって言ってたし。
 そういえばそれって何だろう?
「どうしてもエグザプトに行くの? 食べられなくても?」
「結果的に食べられなかったならしょうがないけど、食べられるかもしれないのに行かないはないでしょう?」
「アイネ、行くと言ったら行くやつなのだ」
「ふうん。まあ特別なものといえば思いつくものはいくつかあるけど、どうせならとびきり特別なものを食べに行くかい? 一緒について行っていいのなら」
「行きます!」
 アイネお兄さんが配ったお茶は、一口目はとても苦いのに口のなかでくるくるっと回った後は色んなナッツの味がして、最後に木苺の甘い味がした。
 とびきり特別って何だろう?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

魔法少女の食道楽

石田空
大衆娯楽
実家の事情で一番食欲旺盛だった頃、まともに食道楽を楽しめなかった過去を持つ一ノ瀬奈々。過労で食が細くなりがち。 そんな中、突然妖精のリリパスに魔法少女に選ばれてしまう。 「そんな、アラサーが魔法少女なんて……あれ、若返ってる。もしかして、今だったら若い頃食べられなかったようなご飯が食べられる?」 かくして昼は会社で働き、夜は魔法少女として闇妖精討伐をしながら帰りにご飯を食べる。 若い頃には食べられなかったあれやこれを食べるぞと張り切る奈々の、遅れてやってきた食道楽。 サイトより転載になります。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」 数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。 ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。 「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」 「あ、そういうのいいんで」 「えっ!?」 異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ―― ――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

世の中は意外と魔術で何とかなる

ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。 神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。 『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』 平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?

海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。 そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。 夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが── 「おそろしい女……」 助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。 なんて男! 最高の結婚相手だなんて間違いだったわ! 自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。 遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。 仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい── しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持

空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。 その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。 ※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。 ※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。

とまどいの花嫁は、夫から逃げられない

椎名さえら
恋愛
エラは、親が決めた婚約者からずっと冷淡に扱われ 初夜、夫は愛人の家へと行った。 戦争が起こり、夫は戦地へと赴いた。 「無事に戻ってきたら、お前とは離婚する」 と言い置いて。 やっと戦争が終わった後、エラのもとへ戻ってきた夫に 彼女は強い違和感を感じる。 夫はすっかり改心し、エラとは離婚しないと言い張り 突然彼女を溺愛し始めたからだ ______________________ ✴︎舞台のイメージはイギリス近代(ゆるゆる設定) ✴︎誤字脱字は優しくスルーしていただけると幸いです ✴︎なろうさんにも投稿しています 私の勝手なBGMは、懐かしすぎるけど鬼束ちひろ『月光』←名曲すぎ

処理中です...