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1章-3 逃げるか、逃げないか
とびきり特別なもの
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「アイネお兄さんはなんでカプト様のことがわかったの?」
「うーん、どうしてというわけでもないんだけど、その帽子の辺りからイライラした気配を感じたというか?」
カプト様はふんと鼻をならした。
「適当にごまかすのはよせ。なんらかの方法で知り得たのだろう」
「なんらか?」
「なんらかだ」
僕らはアイネお兄さんの泊まる宿に追加でベッドを入れてもらって、泊めてもらうことにした。お兄さんはそれほど大きな宿ではないと言っていたけれどしっかりした作りで、入ると広いロビーがあってピシっとした格好のおじさんが荷物を持ってくれた。凄くもてなされてる感。
差額ベッド代だけでも僕が支給されている一泊の想定宿泊費より結構高かったから、かなりいい部屋なんだろう。見た感じもすごく広くてゆったりしてるし、家具もなんか上品な感じ。ピカピカに手入れされていてきのこも生えそうにない。廊下にもお部屋にもお花が活けてあったけど、食べると怒られちゃうよね。有料な気がする。
アイネお兄さんが言うにはエグザプトのお祭りが終わるまでは国境の町に留まる人も多いらしく、今から探しても宿は見つからないんだそうだ。
「ラヴィ君はどうするつもりだったの?」
「駄目ならそのへんで寝ればいいかなと思って」
「馬鹿! お主は誘拐されたのをもうわすれたのか!」
「そうだった!」
「……知らないところで野宿はやめたほうがいいよ」
カプト様に危ないって凄く怒られた。でも野宿するとそのへんの草は食べ放題なんだけど。
でもまた誘拐されるのは嫌だから、ありがたくアイネお兄さんのお部屋に泊めさせてもらう。エネルギーバーだけの生活なんて嫌。
アイネお兄さんは部屋の窓を厳重に閉めて部屋の四隅に四角い何かを置いて、それぞれに何かぶつぶつ呪文を唱えると、パキリとひび割れるような音がした。
「それは何ですか?」
「内緒話するおまじないだよ」
「そんな生易しいものでもなかろう」
「さて、ええと、ラヴィ君の言うことを前提とすると、そちらの黒い鳥さんに乗ってエグザブトの近くから一晩のうちにアガーティに来たんだよね?」
「待て、それを信じるのか?」
「本当だよ!」
カプト様と声が被った。
「本当って言ってるよ?」
「いや、常識的に考えてだな」
「君たち常識的じゃないでしょ」
「本当に飛んできたのになんでカプト様は信じてくれないのさ!」
あれ? でもカプト様は一緒に飛んできたよね? うん????
カプト様は盛大にため息を吐いた。
「それで僕は祭りの間にエグザプトに入りたいんだよね。だからええと、鳥さん、と仮にお呼びしますが、私を乗せては頂けないでしょうか。対価はいかほどにもお支払い致します」
「断る。我は古き盟約により協力しておるに過ぎぬ」
「あれ? 鳥さんは船ではラヴィ君と一緒にいなかったよね? ん? そうすると、へぇ、ふうん」
アイネお兄さんは鞄からお茶のパックみたいなものを出して、宿に備え付けられていた青いポッドにいれる。そうするとポッドの中に勝手にお湯が湧いて、くるくるとパックが円を描いて動き始めて、これまで嗅いだことのない雨が降った後の古い木の匂いにたくさんのベリーの香りがまざったような不思議な香りが漂って、薄い青い煙みたいなものがふうわり漂った。
その手元を見ていた僕とお兄さんの目があって、お兄さんは優しそうな感じでニコッと笑う。
「これはねぇ、他の領域で買ってきた特別なエントのお茶なんだ。僕のお気に入り」
「エントってなんですか?」
「古い木かな。生えている場所によって香りがぜんぜん異なるんだよ。鳥さんはそちらのカプト様のお友達?」
つまり森に行けば色んな味が食べ放題!
「鳥さんはね、捕まってるところに来てくれたの」
「ラヴィ、お主はもう黙っておれ」
「そうか。鳥さんがこの領域の方ならラヴィ君たちの代わりに僕を手伝って頂けないかと思ったんだ」
「駄目ですよ! 僕がエグザプトまで運んでもらうんだから!」
「うん? え? ラヴィ君はエグザプトに行くの?」
お兄さんの目がまんまるになる。
「もちろんです! まだエグザプトの食べ物をたべてないもの!」
そういうとアイネお兄さんは混乱したみたいな目で僕を見つめた。
「でも祭りの日は飲食店は全部閉まってるよ。大抵の人は部屋に閉じこもるし、外にいる人はたいていろくでもない目的だろうし」
「お祭りの日は特別な食事があるって聞いたんですけど」
「あーうーん。それはなんて言えばいいのか。まあ確かに普段のお祭りだと他の国と同じように色々面白い屋台が出てたりするんだけどね、大祭では何もない」
「アイネよ。無理なのだ。こやつは変わったものがあると聞くと頭がおかしくなるのだ」
「酷い!」
僕はただ、珍しいものが食べたいだけなのに。
でも普段あるなら今もあるんじゃないの?
編集長はお祭りの時しか食べられないって言ってたし。
そういえばそれって何だろう?
「どうしてもエグザプトに行くの? 食べられなくても?」
「結果的に食べられなかったならしょうがないけど、食べられるかもしれないのに行かないはないでしょう?」
「アイネ、行くと言ったら行くやつなのだ」
「ふうん。まあ特別なものといえば思いつくものはいくつかあるけど、どうせならとびきり特別なものを食べに行くかい? 一緒について行っていいのなら」
「行きます!」
アイネお兄さんが配ったお茶は、一口目はとても苦いのに口のなかでくるくるっと回った後は色んなナッツの味がして、最後に木苺の甘い味がした。
とびきり特別って何だろう?
「うーん、どうしてというわけでもないんだけど、その帽子の辺りからイライラした気配を感じたというか?」
カプト様はふんと鼻をならした。
「適当にごまかすのはよせ。なんらかの方法で知り得たのだろう」
「なんらか?」
「なんらかだ」
僕らはアイネお兄さんの泊まる宿に追加でベッドを入れてもらって、泊めてもらうことにした。お兄さんはそれほど大きな宿ではないと言っていたけれどしっかりした作りで、入ると広いロビーがあってピシっとした格好のおじさんが荷物を持ってくれた。凄くもてなされてる感。
差額ベッド代だけでも僕が支給されている一泊の想定宿泊費より結構高かったから、かなりいい部屋なんだろう。見た感じもすごく広くてゆったりしてるし、家具もなんか上品な感じ。ピカピカに手入れされていてきのこも生えそうにない。廊下にもお部屋にもお花が活けてあったけど、食べると怒られちゃうよね。有料な気がする。
アイネお兄さんが言うにはエグザプトのお祭りが終わるまでは国境の町に留まる人も多いらしく、今から探しても宿は見つからないんだそうだ。
「ラヴィ君はどうするつもりだったの?」
「駄目ならそのへんで寝ればいいかなと思って」
「馬鹿! お主は誘拐されたのをもうわすれたのか!」
「そうだった!」
「……知らないところで野宿はやめたほうがいいよ」
カプト様に危ないって凄く怒られた。でも野宿するとそのへんの草は食べ放題なんだけど。
でもまた誘拐されるのは嫌だから、ありがたくアイネお兄さんのお部屋に泊めさせてもらう。エネルギーバーだけの生活なんて嫌。
アイネお兄さんは部屋の窓を厳重に閉めて部屋の四隅に四角い何かを置いて、それぞれに何かぶつぶつ呪文を唱えると、パキリとひび割れるような音がした。
「それは何ですか?」
「内緒話するおまじないだよ」
「そんな生易しいものでもなかろう」
「さて、ええと、ラヴィ君の言うことを前提とすると、そちらの黒い鳥さんに乗ってエグザブトの近くから一晩のうちにアガーティに来たんだよね?」
「待て、それを信じるのか?」
「本当だよ!」
カプト様と声が被った。
「本当って言ってるよ?」
「いや、常識的に考えてだな」
「君たち常識的じゃないでしょ」
「本当に飛んできたのになんでカプト様は信じてくれないのさ!」
あれ? でもカプト様は一緒に飛んできたよね? うん????
カプト様は盛大にため息を吐いた。
「それで僕は祭りの間にエグザプトに入りたいんだよね。だからええと、鳥さん、と仮にお呼びしますが、私を乗せては頂けないでしょうか。対価はいかほどにもお支払い致します」
「断る。我は古き盟約により協力しておるに過ぎぬ」
「あれ? 鳥さんは船ではラヴィ君と一緒にいなかったよね? ん? そうすると、へぇ、ふうん」
アイネお兄さんは鞄からお茶のパックみたいなものを出して、宿に備え付けられていた青いポッドにいれる。そうするとポッドの中に勝手にお湯が湧いて、くるくるとパックが円を描いて動き始めて、これまで嗅いだことのない雨が降った後の古い木の匂いにたくさんのベリーの香りがまざったような不思議な香りが漂って、薄い青い煙みたいなものがふうわり漂った。
その手元を見ていた僕とお兄さんの目があって、お兄さんは優しそうな感じでニコッと笑う。
「これはねぇ、他の領域で買ってきた特別なエントのお茶なんだ。僕のお気に入り」
「エントってなんですか?」
「古い木かな。生えている場所によって香りがぜんぜん異なるんだよ。鳥さんはそちらのカプト様のお友達?」
つまり森に行けば色んな味が食べ放題!
「鳥さんはね、捕まってるところに来てくれたの」
「ラヴィ、お主はもう黙っておれ」
「そうか。鳥さんがこの領域の方ならラヴィ君たちの代わりに僕を手伝って頂けないかと思ったんだ」
「駄目ですよ! 僕がエグザプトまで運んでもらうんだから!」
「うん? え? ラヴィ君はエグザプトに行くの?」
お兄さんの目がまんまるになる。
「もちろんです! まだエグザプトの食べ物をたべてないもの!」
そういうとアイネお兄さんは混乱したみたいな目で僕を見つめた。
「でも祭りの日は飲食店は全部閉まってるよ。大抵の人は部屋に閉じこもるし、外にいる人はたいていろくでもない目的だろうし」
「お祭りの日は特別な食事があるって聞いたんですけど」
「あーうーん。それはなんて言えばいいのか。まあ確かに普段のお祭りだと他の国と同じように色々面白い屋台が出てたりするんだけどね、大祭では何もない」
「アイネよ。無理なのだ。こやつは変わったものがあると聞くと頭がおかしくなるのだ」
「酷い!」
僕はただ、珍しいものが食べたいだけなのに。
でも普段あるなら今もあるんじゃないの?
編集長はお祭りの時しか食べられないって言ってたし。
そういえばそれって何だろう?
「どうしてもエグザプトに行くの? 食べられなくても?」
「結果的に食べられなかったならしょうがないけど、食べられるかもしれないのに行かないはないでしょう?」
「アイネ、行くと言ったら行くやつなのだ」
「ふうん。まあ特別なものといえば思いつくものはいくつかあるけど、どうせならとびきり特別なものを食べに行くかい? 一緒について行っていいのなら」
「行きます!」
アイネお兄さんが配ったお茶は、一口目はとても苦いのに口のなかでくるくるっと回った後は色んなナッツの味がして、最後に木苺の甘い味がした。
とびきり特別って何だろう?
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