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1章-2 欠けて満ちてそれからカプト様の右腕
エグザプト聖王国到着
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とうとうやってきましたエグザプト聖王国! ではなくてベルデ・エザル領域統括港。
ここはこの『無法と欠けた月』の領域唯一の領域港。僕のいた『渡り鳥と不均衡』の領域では他の領域へ繋がる港は複数あるけれども、この領域ではたった一つ、このベルデ・エザルだけ。
領域から出る人も領域に入る人も、必ずここで入領のスタンプをもらう。入領のスタンプがない場合、領域内で何をされても文句を言えない……らしい。アイネお兄さんのお話だと食べられちゃったりする……のかな。耳の毛がサババと逆だっている。
「じゃあスタンプがない人は食べていいの?」
「よいはずがないであろう、たわけ者。山賊に襲われても助けも呼べないということだ」
「へー」
「……」
手荷物をもって順番に客室から出て進む。
入領ゲートは向かう国別に分かれていて、長蛇の列も人がほとんどいない列もある。アイネお兄さんはまたねと手を振って、人の多い列の後ろに向かった。僕は、ええとエグザプト聖王国、エグザプト聖王国。キョロキョロ見回したらほとんど人がいない列。ラッキー。
そこには小難しい顔をした小柄な役人が暇そうにしていた。
「ご滞在の目的は何でしょうか」
「取材です」
「あぁ、そんな時期なのですかね。では認証付所属証明かステータスカードを……はい、確認しましたよ。お通りください」
ふぅ、ほっと息をなでおろず。結構緊張した。
アイネお兄さんの話だと、獣人であることがバレると食べられてしまうらしい。だからステータスカードの表示をいじった。カプト様は常識だと言ってたけど僕は知らなかったんだもの。
ステータスカードというのは魔女様が作られた金属片。
領域によって表示される内容は違うらしい。
例えば一番簡素なものでは名前と出身領域しか表示されないけど、すごいものではリアルタイムの身長体重を含めた全身のサイズが表示されるそうだ。『渡り鳥と不均衡』の魔女様の領域は比較的情報量が多いけれども、普段表示するのは名前と出身領域と罪状、今回のように仕事で訪れる場合はそれを示す所属のみでいいらしい。後は非表示にすると、カードに刻まれた文字がうにょうにょ溶けて真っ平らになった。変なの。
そしてエグザプト王国行きの馬車に乗る。多分乗ってるんだよね。乗った途端からずっと目隠しをされていて、どっちの方向にいっているのかさっぱりわからない。手足は無事だけど、窓を触ると鉄格子みたいな感じになっている。変な国。
だんだん海の香りがなくなって懐かしい山や森の匂いを抜けて、平地や岩山っぽいところをガタゴトと馬車は揺れ、支給されたつまらない栄養補助食品ばかり食べながら旅は続く。
カプト様は帽子の飾りのフリをして帽子に乗っかってるから外は見えるらしく、時々ううむとか唸っている。明日の朝にようやくようやくエグザプト聖王国にたどり着くという時、カプト様の小さな声が聞こえた。
「ラヴィよ。この馬車に乗ったのは失敗だったかもしれぬ」
「食べられちゃうの?」
「……否定はできぬ」
変なの。
一方その頃、エグザプト聖王国のよくある貴族の頭の中。
今年は百年に一度の大建国祭だ。
そのため、エグザプト聖王国のどの町においてもしめやかに祭りの準備が執り行われている。各家は1ヶ月は暮らせる備蓄をして、全ての動物を処分しているはずだ。
この『無法と欠けた月』の領域。
この領域では他の領域と異なり、魔女様が積極的に人種に影響を与えることはない。逆に言えばその魔力の運行、つまり魔女様のお仕事のお邪魔をしない限り、何をしても魔女様のお怒りに触れることはない。
この世界には多くの生き物が存在する。肉を持つ人間や動物、魔力の塊たる精霊、それから精霊が肉を得た妖精、肉と魔力が混ざりあった魔獣やモンスターと言われるものども。
我々の国は基礎人と呼ばれる種族で構成されている。これは混ざり物のない純粋な人間ということだ。今はこの領域も安定しているが、建国時には大きな魔力の乱れがあり、そのせいでこの地は荒れていた。複数の種族や国が相争い、せめぎ合っていた。
この領域において頼りとなるのは自らと自らの属するコミュニティであり、我々にとっては同じ人、つまり基礎人しかなかった。
基礎人はこれといった特色、強みがない。獣人や獣より力が弱く、妖精や精霊より魔力が弱い。魔獣やモンスターにも単独では太刀打ちできない。だから我々は同じ基礎人同士がより集まり、集団を形成し、外敵から身を守ってきた。
それがこのエグザプト聖王国の始まりだ。
エグザプト聖王国の歴史は熾烈な戦いの歴史だ。人々は小さく寄り集まり、必死で隠れ、防衛する。特に嗅覚の鋭い獣人は不倶戴天の敵となった。
現在では領域も安定し、各国との間では協定が結ばれている。魔女様が最終的な裁定をなされない以上、後は力の支配となる。けれども長年の戦に疲れ果てたこの領域内の国々は、協定を結んで各国不干渉とする取り決めをした。
戦の気配はない。そのため現在、獣人は流石に容認できないが、忌々しくも半獣人、人である割合の多いものについては一定の条件のもとに短期滞在を許している。この祭りの期間以外は。
結局の所、現在は平穏であるといはいえ、そしてそれがここ何百年か続いているとはいえ、それが恒久のものであるとは思われない。各国は虎視眈々と力を蓄えているに違いない。いつかその他の全てを支配下に置くために。
何故ならこの領域の魔女様は、たとえば一人の超人が領域の8割程度の生物を滅ぼしたくらいでは何ら興味を持たれないであろうから。
今年は百年に一度の建国祭。そこでは料理が供される。
ここはこの『無法と欠けた月』の領域唯一の領域港。僕のいた『渡り鳥と不均衡』の領域では他の領域へ繋がる港は複数あるけれども、この領域ではたった一つ、このベルデ・エザルだけ。
領域から出る人も領域に入る人も、必ずここで入領のスタンプをもらう。入領のスタンプがない場合、領域内で何をされても文句を言えない……らしい。アイネお兄さんのお話だと食べられちゃったりする……のかな。耳の毛がサババと逆だっている。
「じゃあスタンプがない人は食べていいの?」
「よいはずがないであろう、たわけ者。山賊に襲われても助けも呼べないということだ」
「へー」
「……」
手荷物をもって順番に客室から出て進む。
入領ゲートは向かう国別に分かれていて、長蛇の列も人がほとんどいない列もある。アイネお兄さんはまたねと手を振って、人の多い列の後ろに向かった。僕は、ええとエグザプト聖王国、エグザプト聖王国。キョロキョロ見回したらほとんど人がいない列。ラッキー。
そこには小難しい顔をした小柄な役人が暇そうにしていた。
「ご滞在の目的は何でしょうか」
「取材です」
「あぁ、そんな時期なのですかね。では認証付所属証明かステータスカードを……はい、確認しましたよ。お通りください」
ふぅ、ほっと息をなでおろず。結構緊張した。
アイネお兄さんの話だと、獣人であることがバレると食べられてしまうらしい。だからステータスカードの表示をいじった。カプト様は常識だと言ってたけど僕は知らなかったんだもの。
ステータスカードというのは魔女様が作られた金属片。
領域によって表示される内容は違うらしい。
例えば一番簡素なものでは名前と出身領域しか表示されないけど、すごいものではリアルタイムの身長体重を含めた全身のサイズが表示されるそうだ。『渡り鳥と不均衡』の魔女様の領域は比較的情報量が多いけれども、普段表示するのは名前と出身領域と罪状、今回のように仕事で訪れる場合はそれを示す所属のみでいいらしい。後は非表示にすると、カードに刻まれた文字がうにょうにょ溶けて真っ平らになった。変なの。
そしてエグザプト王国行きの馬車に乗る。多分乗ってるんだよね。乗った途端からずっと目隠しをされていて、どっちの方向にいっているのかさっぱりわからない。手足は無事だけど、窓を触ると鉄格子みたいな感じになっている。変な国。
だんだん海の香りがなくなって懐かしい山や森の匂いを抜けて、平地や岩山っぽいところをガタゴトと馬車は揺れ、支給されたつまらない栄養補助食品ばかり食べながら旅は続く。
カプト様は帽子の飾りのフリをして帽子に乗っかってるから外は見えるらしく、時々ううむとか唸っている。明日の朝にようやくようやくエグザプト聖王国にたどり着くという時、カプト様の小さな声が聞こえた。
「ラヴィよ。この馬車に乗ったのは失敗だったかもしれぬ」
「食べられちゃうの?」
「……否定はできぬ」
変なの。
一方その頃、エグザプト聖王国のよくある貴族の頭の中。
今年は百年に一度の大建国祭だ。
そのため、エグザプト聖王国のどの町においてもしめやかに祭りの準備が執り行われている。各家は1ヶ月は暮らせる備蓄をして、全ての動物を処分しているはずだ。
この『無法と欠けた月』の領域。
この領域では他の領域と異なり、魔女様が積極的に人種に影響を与えることはない。逆に言えばその魔力の運行、つまり魔女様のお仕事のお邪魔をしない限り、何をしても魔女様のお怒りに触れることはない。
この世界には多くの生き物が存在する。肉を持つ人間や動物、魔力の塊たる精霊、それから精霊が肉を得た妖精、肉と魔力が混ざりあった魔獣やモンスターと言われるものども。
我々の国は基礎人と呼ばれる種族で構成されている。これは混ざり物のない純粋な人間ということだ。今はこの領域も安定しているが、建国時には大きな魔力の乱れがあり、そのせいでこの地は荒れていた。複数の種族や国が相争い、せめぎ合っていた。
この領域において頼りとなるのは自らと自らの属するコミュニティであり、我々にとっては同じ人、つまり基礎人しかなかった。
基礎人はこれといった特色、強みがない。獣人や獣より力が弱く、妖精や精霊より魔力が弱い。魔獣やモンスターにも単独では太刀打ちできない。だから我々は同じ基礎人同士がより集まり、集団を形成し、外敵から身を守ってきた。
それがこのエグザプト聖王国の始まりだ。
エグザプト聖王国の歴史は熾烈な戦いの歴史だ。人々は小さく寄り集まり、必死で隠れ、防衛する。特に嗅覚の鋭い獣人は不倶戴天の敵となった。
現在では領域も安定し、各国との間では協定が結ばれている。魔女様が最終的な裁定をなされない以上、後は力の支配となる。けれども長年の戦に疲れ果てたこの領域内の国々は、協定を結んで各国不干渉とする取り決めをした。
戦の気配はない。そのため現在、獣人は流石に容認できないが、忌々しくも半獣人、人である割合の多いものについては一定の条件のもとに短期滞在を許している。この祭りの期間以外は。
結局の所、現在は平穏であるといはいえ、そしてそれがここ何百年か続いているとはいえ、それが恒久のものであるとは思われない。各国は虎視眈々と力を蓄えているに違いない。いつかその他の全てを支配下に置くために。
何故ならこの領域の魔女様は、たとえば一人の超人が領域の8割程度の生物を滅ぼしたくらいでは何ら興味を持たれないであろうから。
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