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1章-1 カプト様が落ちていた。 ~『無法と欠けた月』のエグザプト聖王国の旅
カッツェ王国とワールド・トラベル出版
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そんなこんなでやって来ましたカッツェ王国王都カッツェ。
魔女様の紹介には国名と社名しか書いてなかったから、僕はとりあえず王都に向かった。ワールド・トラベル出版は大きな会社みたいだし、王都ならなんとかなるかなと思って。
王都カッツェはラタラタの町からバスで2日。村から出て最初の町のラタラタで珍しいものを食べよう! と思っていたけれど、村から3時間程度の場所では村の食事と何も変わらなかった。少し残念。
それでバスに乗って国を渡れば途中の場所で珍しいものが食べられるんじゃないかと思ったんだけれど、餞別のお金でなんとか買えた切符は一番安い切符。赤くて古くて小さい10人乗りくらいのバスの硬い座席に乗り込む。
バスは大きな街には長時間留まることもなく、小さな街で時折停車し休憩を挟む。大きな街では停車料金とかバスの保管料金が結構かかるらしくてお客さんが出入りする一時停車のみ、長時間停車するのは僕の村と同じくらいの大きさの村ばかり。だから食べるものは僕の村と大して代わり映えはなかった。
探検して面白いものを探そうと思っても、停車時間はあんまり長くなくてすぐ出発しちゃうからままならない。
寝る場所も車内。夜中に面白いものを探しに行くこともできない。あれ? 僕は冒険がしたいのかな? そんなことはないはずだけど。
運転手さんもカッツェにつく頃には回復薬を飲みながら到着時刻がとかぶつぶつ言いながら、死にそうな感じで運転していたから無理をいえない。というか到着時刻が遅れそうなのは僕のせいだし。そんなわけで結局代わり映えのしない食生活を送ってつまらなかった。
けれどもそんな短い弾丸ツアーでも僕の評判は地に落ちていた。周りのヒソヒソとしたささやき声と視線が痛い。
「お主は正気ではない。何かの呪いにでもかかっておるのではないか」
周りの声よりヒソヒソとした声が帽子の端っこから聞こえる。
「それ、村でも言われて教会で調べてもらったけど、呪われてないみたいだったよ。第一、見たことがないものは食べたくなるでしょ?」
「それにしてもだ。昨日道に生えていたキノコはいくらなんでも毒物にしか見えぬだろう? 何故あんな泡だったものを食べて平気なのだ」
「なんかシュワシュワしてて美味しそう、でもないけど万一美味しいかもしれないじゃない?」
「断じてない」
昨日の停車場で僕は初めてみたキノコに興奮して、それで思わず食べてちょっと気持ち悪くなった。というかグエェとかいう変な音が喉の奥でして、ちょっと吐いた。
うん、あれはなんて言うか、蒸し暑い日に洗い場の床に放置された雑巾みたいな匂いがして、齧るとじゅくじゅくふやけた分厚いガーゼみたいな噛み心地で、その隙間から濃縮された排水が口の中に溢れ出ると言うか……。まあ匂いから想像できる味だったけど、これまで食べた中ではそこまでヤバいものでもなくて。調子悪くなった原因は毒とかじゃなくて、匂いが気持ち悪かっただけのような気もするし。
「お客さん、大丈夫ですか……って何を持ってるんですか!」
「いえ、ちょっと、食べてみようかと……」
「これを食べる!?!? 一体何を言っているんです!」
調子が悪そうな僕と僕の手にしていたキノコを見て運転手が真っ青になって、キノコのあまりの形状に子どもが悲鳴を上げた。
僕は大丈夫だと言ったけど、念の為ということで予定にない場所なのに大事を取って休もうといわれた。本当に大丈夫なのに。
そんなアクシデントがあったせいかわからないけど、僕とカプト様との関係がちょっとよくなっていた。
「すみません。僕は毒物を食べないと生きていけない呪いにかかってるんです……」
「そんな馬鹿な?」
カプト様の言う通りのよくわからない言い訳をして、極度に耐性の高いステータスカードを見せたら一応納得してくれた。呪いはステータスカードに表示されないから、記載がなくても問題ない。キノコを食べたことについては大丈夫になったけど呪いと言ってしまったものだから、腫れ物扱いが続いている。感染ったりしないのに。
「そんな狂った呪いが伝染るとかおぞましい」
「カプト様ひどい」
そしてそれはそれとして、僕は自分があまりに物を知らないことが判明した。
そうだよね、僕はバスに何度か乗ったことあるけど、それって父さんと一緒だったし父さんがチケットを買ってくれていたから。
だから最初、チケットの買い方すらよくわからなくてさ、カプト様に色々教えて頂いた。様をつけるととても喜ばれた。
カプト様には本当に頭が上がらない。頭しか無いけど。もしカプト様をあの時食べてしまっていれば詰んでいたかもしれない……。
なんだか睨まれた気がする。ごめんなさい。
それでたどり着いた王都カッツェはなんかもう凄かった。
何ていうのか、これまで僕が見たことがある場所とあまりに違っていた。
めっちゃ高いとんがったビルとか見たこともない機械の乗り物とか。空も小竜車とか飛んでいる。僕の村だとあんなに広かった空がごちゃごちゃと色々なもので切り取られている。
同じ魔女様の支配領域でもだいぶん違うんだな、と固まっていても仕方がない。
「何を呆けておる。行くぞ?」
「カプト様は驚かないんですか?」
「フン、この程度ではもはや驚かぬ。世にはこことは比肩するのも馬鹿馬鹿しいほどの場所が多くある。雲よりさらに高い建物や反対に雲の奥から伸びてくる建物だ」
「それ、どうやって建ってるんです?」
「わしの専門は建築ではない。それよりとっとと用事を済ませるべきであろう」
帽子の端っこから聞こえるそっけない声。
とはいえ確かにここに突っ立っていても仕方がないもんな。
魔女様の紹介には国名と社名しか書いてなかったから、僕はとりあえず王都に向かった。ワールド・トラベル出版は大きな会社みたいだし、王都ならなんとかなるかなと思って。
王都カッツェはラタラタの町からバスで2日。村から出て最初の町のラタラタで珍しいものを食べよう! と思っていたけれど、村から3時間程度の場所では村の食事と何も変わらなかった。少し残念。
それでバスに乗って国を渡れば途中の場所で珍しいものが食べられるんじゃないかと思ったんだけれど、餞別のお金でなんとか買えた切符は一番安い切符。赤くて古くて小さい10人乗りくらいのバスの硬い座席に乗り込む。
バスは大きな街には長時間留まることもなく、小さな街で時折停車し休憩を挟む。大きな街では停車料金とかバスの保管料金が結構かかるらしくてお客さんが出入りする一時停車のみ、長時間停車するのは僕の村と同じくらいの大きさの村ばかり。だから食べるものは僕の村と大して代わり映えはなかった。
探検して面白いものを探そうと思っても、停車時間はあんまり長くなくてすぐ出発しちゃうからままならない。
寝る場所も車内。夜中に面白いものを探しに行くこともできない。あれ? 僕は冒険がしたいのかな? そんなことはないはずだけど。
運転手さんもカッツェにつく頃には回復薬を飲みながら到着時刻がとかぶつぶつ言いながら、死にそうな感じで運転していたから無理をいえない。というか到着時刻が遅れそうなのは僕のせいだし。そんなわけで結局代わり映えのしない食生活を送ってつまらなかった。
けれどもそんな短い弾丸ツアーでも僕の評判は地に落ちていた。周りのヒソヒソとしたささやき声と視線が痛い。
「お主は正気ではない。何かの呪いにでもかかっておるのではないか」
周りの声よりヒソヒソとした声が帽子の端っこから聞こえる。
「それ、村でも言われて教会で調べてもらったけど、呪われてないみたいだったよ。第一、見たことがないものは食べたくなるでしょ?」
「それにしてもだ。昨日道に生えていたキノコはいくらなんでも毒物にしか見えぬだろう? 何故あんな泡だったものを食べて平気なのだ」
「なんかシュワシュワしてて美味しそう、でもないけど万一美味しいかもしれないじゃない?」
「断じてない」
昨日の停車場で僕は初めてみたキノコに興奮して、それで思わず食べてちょっと気持ち悪くなった。というかグエェとかいう変な音が喉の奥でして、ちょっと吐いた。
うん、あれはなんて言うか、蒸し暑い日に洗い場の床に放置された雑巾みたいな匂いがして、齧るとじゅくじゅくふやけた分厚いガーゼみたいな噛み心地で、その隙間から濃縮された排水が口の中に溢れ出ると言うか……。まあ匂いから想像できる味だったけど、これまで食べた中ではそこまでヤバいものでもなくて。調子悪くなった原因は毒とかじゃなくて、匂いが気持ち悪かっただけのような気もするし。
「お客さん、大丈夫ですか……って何を持ってるんですか!」
「いえ、ちょっと、食べてみようかと……」
「これを食べる!?!? 一体何を言っているんです!」
調子が悪そうな僕と僕の手にしていたキノコを見て運転手が真っ青になって、キノコのあまりの形状に子どもが悲鳴を上げた。
僕は大丈夫だと言ったけど、念の為ということで予定にない場所なのに大事を取って休もうといわれた。本当に大丈夫なのに。
そんなアクシデントがあったせいかわからないけど、僕とカプト様との関係がちょっとよくなっていた。
「すみません。僕は毒物を食べないと生きていけない呪いにかかってるんです……」
「そんな馬鹿な?」
カプト様の言う通りのよくわからない言い訳をして、極度に耐性の高いステータスカードを見せたら一応納得してくれた。呪いはステータスカードに表示されないから、記載がなくても問題ない。キノコを食べたことについては大丈夫になったけど呪いと言ってしまったものだから、腫れ物扱いが続いている。感染ったりしないのに。
「そんな狂った呪いが伝染るとかおぞましい」
「カプト様ひどい」
そしてそれはそれとして、僕は自分があまりに物を知らないことが判明した。
そうだよね、僕はバスに何度か乗ったことあるけど、それって父さんと一緒だったし父さんがチケットを買ってくれていたから。
だから最初、チケットの買い方すらよくわからなくてさ、カプト様に色々教えて頂いた。様をつけるととても喜ばれた。
カプト様には本当に頭が上がらない。頭しか無いけど。もしカプト様をあの時食べてしまっていれば詰んでいたかもしれない……。
なんだか睨まれた気がする。ごめんなさい。
それでたどり着いた王都カッツェはなんかもう凄かった。
何ていうのか、これまで僕が見たことがある場所とあまりに違っていた。
めっちゃ高いとんがったビルとか見たこともない機械の乗り物とか。空も小竜車とか飛んでいる。僕の村だとあんなに広かった空がごちゃごちゃと色々なもので切り取られている。
同じ魔女様の支配領域でもだいぶん違うんだな、と固まっていても仕方がない。
「何を呆けておる。行くぞ?」
「カプト様は驚かないんですか?」
「フン、この程度ではもはや驚かぬ。世にはこことは比肩するのも馬鹿馬鹿しいほどの場所が多くある。雲よりさらに高い建物や反対に雲の奥から伸びてくる建物だ」
「それ、どうやって建ってるんです?」
「わしの専門は建築ではない。それよりとっとと用事を済ませるべきであろう」
帽子の端っこから聞こえるそっけない声。
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