4 / 27
1章-1 カプト様が落ちていた。 ~『無法と欠けた月』のエグザプト聖王国の旅
とりあえず挨拶は大事と教わった
しおりを挟む
「あの、僕はラヴィ=フォーティスと言います」
「……わしはカプト・ラセルテだ。ところでここは……どこだ」
頭、カプトは改めてキョロキョロと周りを見渡して困惑した声で告げた。
そういえば何でここにいたんだろう。普通通るなら道だよね。首が道を通る? うん? どうやって。
「ここはラテラテの町の近くです」
「ラテラテ? 聞いたことがないな。ふむ。ここはどの魔女様の領域だ?」
「『渡り鳥と不均衡』の魔女様です」
「む……思ったより飛んだな」
飛んだ?
カプトはなんだか考え込んでいるようだけど、トカゲの表情はいまいちよくわからない。首が飛ぶの? でも首族なんてみたことないから、遠くから来たのかな。そう思っているとざわざわと風が吹いて木立が揺れた。
改めて見ると本当に地面に埋まっているだけにみえる。なんとなく地面に埋まって頭だけ出してるトカゲ人を想像すると面白くなってきた。どこかシュールだ。
でもやっぱり道を逸れると危ないかもだし、そろそろ行かないと。
「あの、じゃあ僕はこの辺で……」
「待て待て‼ わしを連れて行け‼」
「えぇ? 無理無理。結構重いし」
「わしを齧っておいて何を言う⁉」
気づいてたんだ……。
「う、そう言われると少し心苦しいです……」
「それにわしは小さくなれるから問題はない」
小さく?
カプトがぶつぶつと何かを呟くと、見る間に縮んで手のひらに収まるサイズになった。
トカゲ人って小さくなれるものなのかな?
「ひょっとして魔法ですか?」
「そんなようなものだ」
「魔法って初めて見ました」
この大きさだと食べられるかな。でもわざわざ小さくして食べるのはもったいない気がする。
ちょっと真面目に考えよう。
やっぱり焼いたら固くなるのかな。お肉だもんね。でもちょっと齧った感じでは結構柔らかかったような気がする。ため息をつかれたような気もする。
「お主、今不埒なことを考えてるだろ」
「いえ、そんなことは」
「はぁ。わしは『大きな辻と狂乱』の魔女様の領域から来た。そこに連れて行ってもらえぬか。この大きさであればその鞄の脇とか帽子のヘリにでもくっ付けておいて貰えればよい」
「えええ無理です。僕はこれから就職」
「お主は頭は弱そうだが悪いやつではなさそうだ」
「はい?」
「礼はする」
返事をする前にカプトの首は飛び上がり、帽子の隙間に収まった。どうやって飛んだんだろう。飛びキノコの仲間なのかな。
「ちょっと、あの」
「わしはもう動かんぞ! わしを齧ったんだからな! 運の尽きと思って連れて行くがいい!」
「えぇ?」
「ほら、どこかに行くのだろう? わしはこれでも諸国を広く回っておったのだ。旅をするなら何か役に立つこともあるだろう」
「別に旅をしているわけでは」
「なんだ。そうなのか? ここは深い森ではないのか? 隠された財宝や未知なる遺跡、古代文明!」
村でも冒険だとか夢みたいなことを言う友達はいたけれど、そんなものより僕は美味しいものがいい。美味しいものがたべたいんだ。でも未知なる遺跡とかには未知なる食べ物もあったりするのかな。
でも遺跡でしょ? もうすっかり腐るか風化してるよね。美味しいものなんてありそうもない。
「あの、そういうのは別に。それに歩くとすぐ街道に出ますし」
「なんじゃつまらんのう。お主も男子であろうが。では何に興味があるのだ。おなごか」
「えぇ? おなごとか、そんな、その。その僕が好きなのは美味しいものです」
「何? そんなものでよいのか? まあ、各地の名産物産はある程度ならわかるが」
「本当に……⁉ カプト様。是非ご教示ください!」
「だがこの魔女の領域は知らぬ」
なんだ、駄目じゃないか。
でも僕の就職先はワールド・トラベル出版だから旅に出たりもする……よね?
僕の未来は美味しいものに満ちている、に違いない。
「……わしはカプト・ラセルテだ。ところでここは……どこだ」
頭、カプトは改めてキョロキョロと周りを見渡して困惑した声で告げた。
そういえば何でここにいたんだろう。普通通るなら道だよね。首が道を通る? うん? どうやって。
「ここはラテラテの町の近くです」
「ラテラテ? 聞いたことがないな。ふむ。ここはどの魔女様の領域だ?」
「『渡り鳥と不均衡』の魔女様です」
「む……思ったより飛んだな」
飛んだ?
カプトはなんだか考え込んでいるようだけど、トカゲの表情はいまいちよくわからない。首が飛ぶの? でも首族なんてみたことないから、遠くから来たのかな。そう思っているとざわざわと風が吹いて木立が揺れた。
改めて見ると本当に地面に埋まっているだけにみえる。なんとなく地面に埋まって頭だけ出してるトカゲ人を想像すると面白くなってきた。どこかシュールだ。
でもやっぱり道を逸れると危ないかもだし、そろそろ行かないと。
「あの、じゃあ僕はこの辺で……」
「待て待て‼ わしを連れて行け‼」
「えぇ? 無理無理。結構重いし」
「わしを齧っておいて何を言う⁉」
気づいてたんだ……。
「う、そう言われると少し心苦しいです……」
「それにわしは小さくなれるから問題はない」
小さく?
カプトがぶつぶつと何かを呟くと、見る間に縮んで手のひらに収まるサイズになった。
トカゲ人って小さくなれるものなのかな?
「ひょっとして魔法ですか?」
「そんなようなものだ」
「魔法って初めて見ました」
この大きさだと食べられるかな。でもわざわざ小さくして食べるのはもったいない気がする。
ちょっと真面目に考えよう。
やっぱり焼いたら固くなるのかな。お肉だもんね。でもちょっと齧った感じでは結構柔らかかったような気がする。ため息をつかれたような気もする。
「お主、今不埒なことを考えてるだろ」
「いえ、そんなことは」
「はぁ。わしは『大きな辻と狂乱』の魔女様の領域から来た。そこに連れて行ってもらえぬか。この大きさであればその鞄の脇とか帽子のヘリにでもくっ付けておいて貰えればよい」
「えええ無理です。僕はこれから就職」
「お主は頭は弱そうだが悪いやつではなさそうだ」
「はい?」
「礼はする」
返事をする前にカプトの首は飛び上がり、帽子の隙間に収まった。どうやって飛んだんだろう。飛びキノコの仲間なのかな。
「ちょっと、あの」
「わしはもう動かんぞ! わしを齧ったんだからな! 運の尽きと思って連れて行くがいい!」
「えぇ?」
「ほら、どこかに行くのだろう? わしはこれでも諸国を広く回っておったのだ。旅をするなら何か役に立つこともあるだろう」
「別に旅をしているわけでは」
「なんだ。そうなのか? ここは深い森ではないのか? 隠された財宝や未知なる遺跡、古代文明!」
村でも冒険だとか夢みたいなことを言う友達はいたけれど、そんなものより僕は美味しいものがいい。美味しいものがたべたいんだ。でも未知なる遺跡とかには未知なる食べ物もあったりするのかな。
でも遺跡でしょ? もうすっかり腐るか風化してるよね。美味しいものなんてありそうもない。
「あの、そういうのは別に。それに歩くとすぐ街道に出ますし」
「なんじゃつまらんのう。お主も男子であろうが。では何に興味があるのだ。おなごか」
「えぇ? おなごとか、そんな、その。その僕が好きなのは美味しいものです」
「何? そんなものでよいのか? まあ、各地の名産物産はある程度ならわかるが」
「本当に……⁉ カプト様。是非ご教示ください!」
「だがこの魔女の領域は知らぬ」
なんだ、駄目じゃないか。
でも僕の就職先はワールド・トラベル出版だから旅に出たりもする……よね?
僕の未来は美味しいものに満ちている、に違いない。
10
お気に入りに追加
9
あなたにおすすめの小説
魔法少女の食道楽
石田空
大衆娯楽
実家の事情で一番食欲旺盛だった頃、まともに食道楽を楽しめなかった過去を持つ一ノ瀬奈々。過労で食が細くなりがち。
そんな中、突然妖精のリリパスに魔法少女に選ばれてしまう。
「そんな、アラサーが魔法少女なんて……あれ、若返ってる。もしかして、今だったら若い頃食べられなかったようなご飯が食べられる?」
かくして昼は会社で働き、夜は魔法少女として闇妖精討伐をしながら帰りにご飯を食べる。
若い頃には食べられなかったあれやこれを食べるぞと張り切る奈々の、遅れてやってきた食道楽。
サイトより転載になります。

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です
カタナヅキ
ファンタジー
※弟子「究極魔法とかいいので収納魔法だけ教えて」師匠「Σ(゚Д゚)エー」
数十年前に異世界から召喚された人間が存在した。その人間は世界中のあらゆる魔法を習得し、伝説の魔術師と謳われた。だが、彼は全ての魔法を覚えた途端に人々の前から姿を消す。
ある日に一人の少年が山奥に暮らす老人の元に尋ねた。この老人こそが伝説の魔術師その人であり、少年は彼に弟子入りを志願する。老人は寿命を終える前に自分が覚えた魔法を少年に託し、伝説の魔術師の称号を彼に受け継いでほしいと思った。
「よし、収納魔法はちゃんと覚えたな?では、次の魔法を……」
「あ、そういうのいいんで」
「えっ!?」
異空間に物体を取り込む「収納魔法」を覚えると、魔術師の弟子は師の元から離れて旅立つ――
――後にこの少年は「収納魔導士」なる渾名を付けられることになる。

世の中は意外と魔術で何とかなる
ものまねの実
ファンタジー
新しい人生が唐突に始まった男が一人。目覚めた場所は人のいない森の中の廃村。生きるのに精一杯で、大層な目標もない。しかしある日の出会いから物語は動き出す。
神様の土下座・謝罪もない、スキル特典もレベル制もない、転生トラックもそれほど走ってない。突然の転生に戸惑うも、前世での経験があるおかげで図太く生きられる。生きるのに『隠してたけど実は最強』も『パーティから追放されたから復讐する』とかの設定も必要ない。人はただ明日を目指して歩くだけで十分なんだ。
『王道とは歩むものではなく、その隣にある少しずれた道を歩くためのガイドにするくらいが丁度いい』
平凡な生き方をしているつもりが、結局騒ぎを起こしてしまう男の冒険譚。困ったときの魔術頼み!大丈夫、俺上手に魔術使えますから。※主人公は結構ズルをします。正々堂々がお好きな方はご注意ください。
【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?
アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。
泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。
16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。
マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。
あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に…
もう…我慢しなくても良いですよね?
この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。
前作の登場人物達も多数登場する予定です。
マーテルリアのイラストを変更致しました。
公爵令嬢の私に騎士も誰も敵わないのですか?
海野幻創
ファンタジー
公爵令嬢であるエマ・ヴァロワは、最高の結婚をするために幼いころから努力を続けてきた。
そんなエマの婚約者となったのは、多くの人から尊敬を集め、立派な方だと口々に評される名門貴族の跡取り息子、コンティ公爵だった。
夢が叶いそうだと期待に胸を膨らませ、結婚準備をしていたのだが──
「おそろしい女……」
助けてあげたのにも関わらず、お礼をして抱きしめてくれるどころか、コンティ公爵は化け物を見るような目つきで逃げ去っていった。
なんて男!
最高の結婚相手だなんて間違いだったわ!
自国でも隣国でも結婚相手に恵まれず、結婚相手を探すだけの社交界から離れたくなった私は、遠い北の地に住む母の元へ行くことに決めた。
遠い2000キロの旅路を執事のシュヴァリエと共に行く。
仕える者に対する態度がなっていない最低の執事だけど、必死になって私を守るし、どうやらとても強いらしい──
しかし、シュヴァリエは私の方がもっと強いのだという。まさかとは思ったが、それには理由があったのだ。
能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?
火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…?
24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

いっとう愚かで、惨めで、哀れな末路を辿るはずだった令嬢の矜持
空月
ファンタジー
古くからの名家、貴き血を継ぐローゼンベルグ家――その末子、一人娘として生まれたカトレア・ローゼンベルグは、幼い頃からの婚約者に婚約破棄され、遠方の別荘へと療養の名目で送られた。
その道中に惨めに死ぬはずだった未来を、突然現れた『バグ』によって回避して、ただの『カトレア』として生きていく話。
※悪役令嬢で婚約破棄物ですが、ざまぁもスッキリもありません。
※以前投稿していた「いっとう愚かで惨めで哀れだった令嬢の果て」改稿版です。文章量が1.5倍くらいに増えています。
今日から始める最強伝説 - 出遅れ上等、バトル漫画オタクは諦めない -
ふつうのにーちゃん
ファンタジー
25歳の春、転生者クルシュは祖国を出奔する。
彼の前世はしがない書店経営者。バトル漫画を何よりも愛する、どこにでもいる最強厨おじさんだった。
幼い頃の夢はスーパーヒーロー。おじさんは転生した今でも最強になりたかった。
その夢を叶えるために、クルシュは大陸最大の都キョウを訪れる。
キョウではちょうど、大陸最強の戦士を決める竜将大会が開かれていた。
クルシュは剣を教わったこともないシロウトだったが、大会に出場することを決める。
常識的に考えれば、未経験者が勝ち上がれるはずがない。
だがクルシュは信じていた。今からでも最強の座を狙えると。
事実、彼の肉体は千を超える不活性スキルが眠る、最強の男となりうる器だった。
スタートに出遅れた、絶対に夢を諦めないおじさんの常勝伝説が始まる。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる