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Prologue
僕の大切なお仕事
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――。
それから最後のデザートは『飛びキノコのオレンジスライム寄せ、弾けるナッツを添えて』。
オレンジスライム漬けはこのノリル地方の特産物です。核を取り除いて柑橘類と一緒に漬けられた飴色のスライムは、オレンジの爽やかな香りと蕩けるような絶妙な舌触りで満ちている。飛びキノコの足を辛うじてスライムが捕えているから逃げられなくてパタパタもがいているところをフォークをぷすりと刺すとクタっと大人しくなる。
ちょっと残酷な気もするけど、これは擬態だから注意!
油断せずにオレンジスライムごと素早く口に入れないと、飛んで逃げてっちゃうから。でもそうやって噛みしめるとね、爽やかなオレンジの香りとともに飛びキノコがふわりふわりと口の中で柔らかく飛び跳ねて、最後にヨーグルトのような酸味とともにしゅるんと淡雪のように口の中に溶けるんだ。
この不思議な感覚は他では味わえないものだから、是非実際に食べて頂きたい一品です!
弾けるナッツは丁寧にローストされて香ばしいけど、唾液に反応して結構な勢いで爆散するので物理耐性Lv1以上をお持ちの方におすすめです。
今回のラヴィズ・ワールド・フードは『蜜柑と夏の雨』の魔女様の領域、ファウエル王国ノリル地方ミズリ街のリストランテ『カーサ・アソンブローゾ』からお送りしました!
この地方の食べ物はほとんどが耐性不要! 中でも柑橘類は本当に美味しいので、あなたの秋の旅先にオススメです。是非お越しください』
よしっと。
ペンを置いて一息つく。背伸びをしたら柑橘系の香りが鼻腔をくすぐって、ちょっとげんなりした。
この宿に滞在するのも今日で最後だ。
うん、この地方のご飯は本当に美味しかったんだ。特に魔女様がお好きな柑橘類製品は国を上げて開発しているから、本当に舌が蕩けるほどおいしいものばかり。
うーんでも、でもね、なんていうか。
あーもう、ここはオフレコだから言っちゃう!
全部が! 全部の食べ物にオレンジの味が混ざってるんだよ!
いや、美味しいんだけどさ、本当に美味しいんだけど。でも蜜柑以外の味が、蜜柑が混ざらない味が食べたいなって、はぁ。
そんな風に心を叫ばせていると、ドスンと何かが落下する音がした。
振り返るとカプト様が歩きキノコを追いかけてベッドから落ちていた。あれは何故か目の前をうろちょろするから鬱陶しかったんだろう。それにしてもこのあたりのキノコは本当に元気だなぁ。
部屋を見回すと、今も1,2本の歩きキノコがうろついている。きっとこの宿の壁の木が苗床に適しているからだ。ため息を吐く。寝ているあいだ中カサコソとうるさかった、本当に。
取材のための食事代金は会社からお店に直接支払われるけれど、その他は微々たるお給料で回さないといけない。だから僕が泊まるのは少しだけ難ありのお宿が多い。でもまあ、世界中を回って色んなものを食べられるんだから文句は言っていらんない。
ここでの取材はこれで終わり。
「カプト様、いきますよ」
「う? む? もう終わったのか?」
「はい。これを郵便局に出したら終わりです。次の国に向かいます」
「そうか、了解した」
カプト様は竜の頭だ。頭だけで体はない。でもどうやってるのかぴょんぴょん飛んで小指ほどの大きさまで小さくなって、僕のカバンのアクセサリーに擬態する。ぷらんぷらんするカプト様はちょっとかわいい。
「どうした、いかぬのか」
「行きます行きます」
「返事は1回」
「はぁい」
伸ばさない、とぶつくさ言ってるけれど、僕は気にせず鞄を持って扉を開けた。精算を終えて宿を出て丘に登る。オレンジの芳しい風がふわりと髪を吹き流し、帽子を持っていこうとする。なんだかんだいってこの香り自体は結構気に入っていた、せめて食べ物には加減してもらえれば。香りが濃縮されちゃうんだよね、食べ物は……。
「ようやくこの香りとはおサラバか。そう思うと名残惜しい」
「あれ? カプト様、やっぱりこの香り苦手だったんですか?」
「そ、そんなことないわい。わしに苦手なものなど」
「次は港町です。たくさんお魚が食べられますね」
急にパタパタとストラップが揺れた。
「お、いいな、それ。まさか魚にオレンジの香りが……」
「そんなことないですよ、多分、多分だけど」
それから最後のデザートは『飛びキノコのオレンジスライム寄せ、弾けるナッツを添えて』。
オレンジスライム漬けはこのノリル地方の特産物です。核を取り除いて柑橘類と一緒に漬けられた飴色のスライムは、オレンジの爽やかな香りと蕩けるような絶妙な舌触りで満ちている。飛びキノコの足を辛うじてスライムが捕えているから逃げられなくてパタパタもがいているところをフォークをぷすりと刺すとクタっと大人しくなる。
ちょっと残酷な気もするけど、これは擬態だから注意!
油断せずにオレンジスライムごと素早く口に入れないと、飛んで逃げてっちゃうから。でもそうやって噛みしめるとね、爽やかなオレンジの香りとともに飛びキノコがふわりふわりと口の中で柔らかく飛び跳ねて、最後にヨーグルトのような酸味とともにしゅるんと淡雪のように口の中に溶けるんだ。
この不思議な感覚は他では味わえないものだから、是非実際に食べて頂きたい一品です!
弾けるナッツは丁寧にローストされて香ばしいけど、唾液に反応して結構な勢いで爆散するので物理耐性Lv1以上をお持ちの方におすすめです。
今回のラヴィズ・ワールド・フードは『蜜柑と夏の雨』の魔女様の領域、ファウエル王国ノリル地方ミズリ街のリストランテ『カーサ・アソンブローゾ』からお送りしました!
この地方の食べ物はほとんどが耐性不要! 中でも柑橘類は本当に美味しいので、あなたの秋の旅先にオススメです。是非お越しください』
よしっと。
ペンを置いて一息つく。背伸びをしたら柑橘系の香りが鼻腔をくすぐって、ちょっとげんなりした。
この宿に滞在するのも今日で最後だ。
うん、この地方のご飯は本当に美味しかったんだ。特に魔女様がお好きな柑橘類製品は国を上げて開発しているから、本当に舌が蕩けるほどおいしいものばかり。
うーんでも、でもね、なんていうか。
あーもう、ここはオフレコだから言っちゃう!
全部が! 全部の食べ物にオレンジの味が混ざってるんだよ!
いや、美味しいんだけどさ、本当に美味しいんだけど。でも蜜柑以外の味が、蜜柑が混ざらない味が食べたいなって、はぁ。
そんな風に心を叫ばせていると、ドスンと何かが落下する音がした。
振り返るとカプト様が歩きキノコを追いかけてベッドから落ちていた。あれは何故か目の前をうろちょろするから鬱陶しかったんだろう。それにしてもこのあたりのキノコは本当に元気だなぁ。
部屋を見回すと、今も1,2本の歩きキノコがうろついている。きっとこの宿の壁の木が苗床に適しているからだ。ため息を吐く。寝ているあいだ中カサコソとうるさかった、本当に。
取材のための食事代金は会社からお店に直接支払われるけれど、その他は微々たるお給料で回さないといけない。だから僕が泊まるのは少しだけ難ありのお宿が多い。でもまあ、世界中を回って色んなものを食べられるんだから文句は言っていらんない。
ここでの取材はこれで終わり。
「カプト様、いきますよ」
「う? む? もう終わったのか?」
「はい。これを郵便局に出したら終わりです。次の国に向かいます」
「そうか、了解した」
カプト様は竜の頭だ。頭だけで体はない。でもどうやってるのかぴょんぴょん飛んで小指ほどの大きさまで小さくなって、僕のカバンのアクセサリーに擬態する。ぷらんぷらんするカプト様はちょっとかわいい。
「どうした、いかぬのか」
「行きます行きます」
「返事は1回」
「はぁい」
伸ばさない、とぶつくさ言ってるけれど、僕は気にせず鞄を持って扉を開けた。精算を終えて宿を出て丘に登る。オレンジの芳しい風がふわりと髪を吹き流し、帽子を持っていこうとする。なんだかんだいってこの香り自体は結構気に入っていた、せめて食べ物には加減してもらえれば。香りが濃縮されちゃうんだよね、食べ物は……。
「ようやくこの香りとはおサラバか。そう思うと名残惜しい」
「あれ? カプト様、やっぱりこの香り苦手だったんですか?」
「そ、そんなことないわい。わしに苦手なものなど」
「次は港町です。たくさんお魚が食べられますね」
急にパタパタとストラップが揺れた。
「お、いいな、それ。まさか魚にオレンジの香りが……」
「そんなことないですよ、多分、多分だけど」
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