赤司れこの予定調和な神津観測日記

Tempp

文字の大きさ
上 下
32 / 32
除霊始めました 陰陽師土御門太郎と金井武(全5話)

Epilogue .怪異の原因

しおりを挟む
 LEDの懐中電灯を引っさげて天袋から天井裏に渡る。押入れの中は予想通りリフォーム済みで綺麗だったが、天井裏も予想外に埃はたまっていなかった。
 その代わりに妙な生活臭が漂い、3年間のうちにこの女がどこからともなく手に入れたのか、毛布やら雑誌やらなんだかよくわからないものが溜め込まれていた。使用者が女性だからかそれなりに綺麗には片付いている。
 結局のところ、この家には俺に嫌な予感をもたらすもの自体は存在するのだ。何となくその場所はわかる。だがライトを当ててもよくわからない。
「何してんの?」
「この柱のところ」
「うわ。何これちょっと気持ち悪」
「何がある?」
「何ってカタツムリ? でも違うかも。尖った巻貝? 白くて変な色」
 巻貝? 陸丁子貝陸上にいる巻貝の仲間か何かか。
 ともあれ俺が見えずに太郎が見えるというのなら、その貝が俺の認識にエラーを発生させているのだろう。蛤は蜃気楼を吐くというが、そういう類のものかもしれない。それで太郎はその超絶な退魔力で、貝のもたらすエラーの影響を受けない。だから普通に見えるのだ。全く変な話だ。
「それが気持ち悪さの原因だ。捕まえろ」
「ええ、やだよ気持ち悪い」
「残念ながら俺には見えないんだ」
「またまた。俺をからかってるんでしょう?」
「そっちのお姉さんにも見えないよな、ここにいるカタツムリ」
「あの、何か……いるのでしょうか」
「……本当に?」

 太郎は随分不審げな顔をしながら虚空から何かをつまみ、そこら辺にあった瓶にいれる。俺には透明な瓶にしか見えないが、たしかに気持ち悪さは柱から瓶に移っていた。
「よかったな。これで解決だ」
「解決? 何が? お姉さんは人間で、カタツムリを捕まえただけでしょう?」
「けれども大家の困りごとは解消した。今後この家で変な物音はしない。役に立ててよかったな」
「本当に? 全然スッキリしない」
 それで翌朝、草刈さんを呼んで屋根裏に人が住みついていたと話す。
 草刈さんは随分驚いていたが、女は身寄りも行きどころもないらしいから、草刈さんがしばらく面倒を見ることになった。
「まぁ、お祓いとはちょっと違ったけど解決してよかったよ、本当に。ありがとう、太郎ちゃん」
「お祓いもしたもん」
「そうだね、太郎ちゃんよく頑張ったよ。格好よかったよ」
 太郎は近所の人間には孫のように可愛がられている。
「むう。そうだ、草刈さんこれ見える?」
「瓶? 何かいれるのかい?」
「見えない? 小さいの」
「なんだろうねぇ。老眼ではないと思うけどね」
 草刈さんは目を細めたりしていたが、それはやはり太郎にしか見えないらしい。
 それで土御門神社には太郎にしか見えない巻貝が住み着き、瓶に入れられた葉っぱがたまにパリパリと自動的に欠けていく奇妙な姿が見られるようになった。

「でも俺がお祓いしたんじゃないじゃん」
「ちゃんと祓っただろ、そのカタツムリ」
「瓶に入れただけじゃん」
「お前にしかできないことだよ」
「やっぱり皆で俺をからかってるんでしょう?」
「信じるかどうかはさておき、解決はしただろ。女の人見つけたしな」
「う、うん」
 太郎はまた随分腑に落ちない顔をしていたが、それからしばらくしていつもより大分安い金額が太郎の口座に振り込まれたそうだ。
 ともあれ太郎が初めて自らの手で結果には・・・・納得できる金を稼いだのだから、それはとても有意義なことだ。

了。

お読みいただきありがとうございます。以降はキャラ文コンの時期に投稿を再開します。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

だんだんおかしくなった姉の話

暗黒神ゼブラ
ホラー
弟が死んだことでおかしくなった姉の話

【短編】怖い話のけいじばん【体験談】

松本うみ(意味怖ちゃん)
ホラー
1分で読める、様々な怖い体験談が書き込まれていく掲示板です。全て1話で完結するように書き込むので、どこから読み始めても大丈夫。 スキマ時間にも読める、シンプルなプチホラーとしてどうぞ。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...