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除霊始めました 陰陽師土御門太郎と金井武(全5話)
Prologue.おかしな陰陽師
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友人の土御門太郎に会いに土御門神社を訪ねると、その清涼に佇む山門に貼られた珍妙な張り紙が夏の熱い風に揺れていた。
『除霊始めました』
……なんだこの冷やし中華始めましたみたいなのは。
その達筆の筆書きはそれだけで威厳を溢れさせる雄渾なものであったが、それを書いたであろう太朗本人の混乱した内心を想像すると著しく残念な気分に陥ってくる。
ぼんやり眺めていると汗が吹き出し、シャツの首元を濡らす。早く中に入れとでもいうようにクマゼミが一声うるさく響き、やれやれと思いつつ山門に足を踏み入れた。
除霊、ねぇ。それは改めて募集すべきことなのか。心底そう思う。太郎はこの緑の深い神社で宮司をしている俺の幼なじみだ。今日も案の定、社務所で1人、のんびりとほうじ茶を飲んでいた。長めの髪を頭の上の方で適当にくくり、トノサマバッタと書かれたTシャツにチノパンで扇風機の前でだらけている。
宮司ならせめて服くらいはきちっとしとけとは思うが、この神社はそもそもあまり人が来ないから問題はないのだろう。
「あれ? 金井じゃん」
「何だよあの張り紙。お前、普通に仕事で除霊やってんじゃん」
「そんなこといってもさぁ。わかんないんだもん」
太郎は口を尖らせて悪態をつく。いつも思うが子供っぽい。
この土御門太郎という幼馴染は随分と変わっている。神社の宮司は仮の姿、とまでは言わないまでもおまけの姿、その収入の大部分を凄腕の陰陽師として稼いでいる。
その仕事は主に県や市、区、町といった行政から直接請け負う。だから近隣住民としては、太郎は宮司だからお祓いくらいはしているだろうという認識は持っていても、陰陽師だなんて人の道に外れた仕事で荒稼ぎしているとは露とも思っていないのだ。
けれどもまさに、太郎はその『陰陽師』という部分が理解できない。
なにせ太郎は退魔の力は6代前の先祖返りといわれるほどに強大であるのに、覚知というか認識というか、ようするに太郎には霊や化け物を見るための霊感というものがまるでない。
そして頼まれて除霊をしても、漫画なんかでよくあるようにMP的なものを消費したりも疲れたりもしないらしい。なので太郎にとって除霊という行為は、ただテケレッツノパァとでも唱えるのと同義なのだ。
それでいて適当に唱えた祝詞はその強大な退魔の力で絶大な効果を発揮し、目の前で展開する不幸やら呪いやらを綺麗サッパリスッキリバッサリと胡散霧消させるものだから、理不尽この上ない。
けれども太郎はその退魔の結果もまた同様に認識できない。だから依頼者にありがとうございますと頭を下げられると、流石にそんなことはないだろうと思いつつも、県ぐるみで騙されているのではないかという一抹の不安が拭えずにいつもビクビクしている。
太郎の力は間違いなく有る。馬鹿みたいに本物だ。
なにせ俺はその不幸の根源も、それがきれいさっぱり消滅したことも見えるのだから。
『除霊始めました』
……なんだこの冷やし中華始めましたみたいなのは。
その達筆の筆書きはそれだけで威厳を溢れさせる雄渾なものであったが、それを書いたであろう太朗本人の混乱した内心を想像すると著しく残念な気分に陥ってくる。
ぼんやり眺めていると汗が吹き出し、シャツの首元を濡らす。早く中に入れとでもいうようにクマゼミが一声うるさく響き、やれやれと思いつつ山門に足を踏み入れた。
除霊、ねぇ。それは改めて募集すべきことなのか。心底そう思う。太郎はこの緑の深い神社で宮司をしている俺の幼なじみだ。今日も案の定、社務所で1人、のんびりとほうじ茶を飲んでいた。長めの髪を頭の上の方で適当にくくり、トノサマバッタと書かれたTシャツにチノパンで扇風機の前でだらけている。
宮司ならせめて服くらいはきちっとしとけとは思うが、この神社はそもそもあまり人が来ないから問題はないのだろう。
「あれ? 金井じゃん」
「何だよあの張り紙。お前、普通に仕事で除霊やってんじゃん」
「そんなこといってもさぁ。わかんないんだもん」
太郎は口を尖らせて悪態をつく。いつも思うが子供っぽい。
この土御門太郎という幼馴染は随分と変わっている。神社の宮司は仮の姿、とまでは言わないまでもおまけの姿、その収入の大部分を凄腕の陰陽師として稼いでいる。
その仕事は主に県や市、区、町といった行政から直接請け負う。だから近隣住民としては、太郎は宮司だからお祓いくらいはしているだろうという認識は持っていても、陰陽師だなんて人の道に外れた仕事で荒稼ぎしているとは露とも思っていないのだ。
けれどもまさに、太郎はその『陰陽師』という部分が理解できない。
なにせ太郎は退魔の力は6代前の先祖返りといわれるほどに強大であるのに、覚知というか認識というか、ようするに太郎には霊や化け物を見るための霊感というものがまるでない。
そして頼まれて除霊をしても、漫画なんかでよくあるようにMP的なものを消費したりも疲れたりもしないらしい。なので太郎にとって除霊という行為は、ただテケレッツノパァとでも唱えるのと同義なのだ。
それでいて適当に唱えた祝詞はその強大な退魔の力で絶大な効果を発揮し、目の前で展開する不幸やら呪いやらを綺麗サッパリスッキリバッサリと胡散霧消させるものだから、理不尽この上ない。
けれども太郎はその退魔の結果もまた同様に認識できない。だから依頼者にありがとうございますと頭を下げられると、流石にそんなことはないだろうと思いつつも、県ぐるみで騙されているのではないかという一抹の不安が拭えずにいつもビクビクしている。
太郎の力は間違いなく有る。馬鹿みたいに本物だ。
なにせ俺はその不幸の根源も、それがきれいさっぱり消滅したことも見えるのだから。
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