赤司れこの予定調和な神津観測日記

Tempp

文字の大きさ
上 下
1 / 32
その長い闇の向こうへ 呪術師円城環(全8話)

Prologue.成康の夢

しおりを挟む
 成康なりやすは真っ暗闇で目が冷めた。
 妙に生ぬるい。なんだか嫌な感じがする。 
 慌てて左右を眺め、そして遥か遠くに小さな光を見つけてホッとした。そこが出口につながっているようで、パンドラが残した僅かな希望のように思えたのだ。吐いたその息は暖かかった。
 その温度を感じていると、自らの周りがなにやら生暖かいことに気が付く。狭い部屋にたくさんの生き物がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。そんな気持ち悪さを感じて身震いをした。そうすると、背後からなにかの息遣いを感じた。
「気持ち悪い」
 思わずそう呟き、さらに吐いた息によって闇の中の空気が僅かに動き始める。

 その小さな対流は次第にざわざわとした蠢きに転じ、やがてそれに呼応してノソリ、と大きな何者かが起き上がる気配を感じた。
 そしてそれは不吉なものだ、と成康の記憶は警鐘を鳴らす。
 弾き出されたように光に向かって駆け出す。光は次第に大きくなり、いつしかそのふちがぼんやりと横長の四角みを帯びてくる。出口だ。あそこまでいけばこの闇は切れる。なんとかなる。そう思って必死に走る成康の足元に生暖かい風が吹く。そして何者かが、確かに成康を追いかけているような気配を感じた。
 全速力で走るうちに呼気は上がり、ハァハァと息切れが溢れる落ちる。血圧が上がり耳がぼんやりし始めて、次第に視界が狭まっていく。そのような状況だから、本当に後ろから音が聞こえているのかどうかは自らの呼吸音に紛れて定かではない。
 けれども。足を止めてはならない。
 それはきっと確かにいる。その存在は自分を追いかけている。
 けれども。大丈夫だ。
 まだ遠い。あの光にたどり着けば大丈夫だ。きっと。

 そう念じながら次第に近づく四角い光が視界いっぱいに広がった頃、そこに奇妙なものが存在していることに気がついた。
 ゆらゆらとした縦長の四角い影が3つ。それが相互に手をつなぎ、壁のように立ちふさがっている。その腕と腕の細い隙間を抜ければ出口、すなわち光の向こうには行けそうだ。
 けれども何だこれは。
 どうしたらいいんだ。
 目の前に現れた新たな3つの闇。その闇は背後から迫り来る闇とは違って嫌な感じはしなかった。
 嫌な感じはしなかったけれども、その隙間に飛び込むのはためらわれる。なぜなら成康には現在自らが滞在する闇と、眼の前の光の中に浮かぶ闇の区別がつかなかったからだ。

 成康は光と闇との境界に立ちすくむ。そうして足を止めて初めて、明瞭な音を聞く。生臭さを感じる。その息遣いは荒々しい。闇の中の何者かは成康のすぐ背後にまで迫っていた。
 悪しきもの。心臓を握りつぶされるような恐怖が沸き起こる。
 そこで成康はベッドから飛び起き、目を冷ます。全身にかいた大量の汗とともに。
 成康の喘鳴はなかなか収まらず、その汗が夏の暑さに蒸発していくうちに思い出す。その夢はその日だけではなく、ここのところ毎日見ているということに。
 そして日に日に、その何者かが近づいていることに。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

春秋花壇
現代文学
注意欠陥多動性障害(ADHD)の日常

体育座りでスカートを汚してしまったあの日々

yoshieeesan
現代文学
学生時代にやたらとさせられた体育座りですが、女性からすると服が汚れた嫌な思い出が多いです。そういった短編小説を書いていきます。

アルバイトで実験台

夏向りん
BL
給料いいバイトあるよ、と教えてもらったバイト先は大人用玩具実験台だった! ローター、オナホ、フェラ、玩具責め、放置、等々の要素有り

処理中です...