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その長い闇の向こうへ 呪術師円城環(全8話)
Prologue.成康の夢
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成康は真っ暗闇で目が冷めた。
妙に生ぬるい。なんだか嫌な感じがする。
慌てて左右を眺め、そして遥か遠くに小さな光を見つけてホッとした。そこが出口につながっているようで、パンドラが残した僅かな希望のように思えたのだ。吐いたその息は暖かかった。
その温度を感じていると、自らの周りがなにやら生暖かいことに気が付く。狭い部屋にたくさんの生き物がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。そんな気持ち悪さを感じて身震いをした。そうすると、背後からなにかの息遣いを感じた。
「気持ち悪い」
思わずそう呟き、さらに吐いた息によって闇の中の空気が僅かに動き始める。
その小さな対流は次第にざわざわとした蠢きに転じ、やがてそれに呼応してノソリ、と大きな何者かが起き上がる気配を感じた。
そしてそれは不吉なものだ、と成康の記憶は警鐘を鳴らす。
弾き出されたように光に向かって駆け出す。光は次第に大きくなり、いつしかその縁がぼんやりと横長の四角みを帯びてくる。出口だ。あそこまでいけばこの闇は切れる。なんとかなる。そう思って必死に走る成康の足元に生暖かい風が吹く。そして何者かが、確かに成康を追いかけているような気配を感じた。
全速力で走るうちに呼気は上がり、ハァハァと息切れが溢れる落ちる。血圧が上がり耳がぼんやりし始めて、次第に視界が狭まっていく。そのような状況だから、本当に後ろから音が聞こえているのかどうかは自らの呼吸音に紛れて定かではない。
けれども。足を止めてはならない。
それはきっと確かにいる。その存在は自分を追いかけている。
けれども。大丈夫だ。
まだ遠い。あの光にたどり着けば大丈夫だ。きっと。
そう念じながら次第に近づく四角い光が視界いっぱいに広がった頃、そこに奇妙なものが存在していることに気がついた。
ゆらゆらとした縦長の四角い影が3つ。それが相互に手をつなぎ、壁のように立ちふさがっている。その腕と腕の細い隙間を抜ければ出口、すなわち光の向こうには行けそうだ。
けれども何だこれは。
どうしたらいいんだ。
目の前に現れた新たな3つの闇。その闇は背後から迫り来る闇とは違って嫌な感じはしなかった。
嫌な感じはしなかったけれども、その隙間に飛び込むのはためらわれる。なぜなら成康には現在自らが滞在する闇と、眼の前の光の中に浮かぶ闇の区別がつかなかったからだ。
成康は光と闇との境界に立ちすくむ。そうして足を止めて初めて、明瞭な音を聞く。生臭さを感じる。その息遣いは荒々しい。闇の中の何者かは成康のすぐ背後にまで迫っていた。
悪しきもの。心臓を握りつぶされるような恐怖が沸き起こる。
そこで成康はベッドから飛び起き、目を冷ます。全身にかいた大量の汗とともに。
成康の喘鳴はなかなか収まらず、その汗が夏の暑さに蒸発していくうちに思い出す。その夢はその日だけではなく、ここのところ毎日見ているということに。
そして日に日に、その何者かが近づいていることに。
妙に生ぬるい。なんだか嫌な感じがする。
慌てて左右を眺め、そして遥か遠くに小さな光を見つけてホッとした。そこが出口につながっているようで、パンドラが残した僅かな希望のように思えたのだ。吐いたその息は暖かかった。
その温度を感じていると、自らの周りがなにやら生暖かいことに気が付く。狭い部屋にたくさんの生き物がぎゅうぎゅうに詰め込まれている。そんな気持ち悪さを感じて身震いをした。そうすると、背後からなにかの息遣いを感じた。
「気持ち悪い」
思わずそう呟き、さらに吐いた息によって闇の中の空気が僅かに動き始める。
その小さな対流は次第にざわざわとした蠢きに転じ、やがてそれに呼応してノソリ、と大きな何者かが起き上がる気配を感じた。
そしてそれは不吉なものだ、と成康の記憶は警鐘を鳴らす。
弾き出されたように光に向かって駆け出す。光は次第に大きくなり、いつしかその縁がぼんやりと横長の四角みを帯びてくる。出口だ。あそこまでいけばこの闇は切れる。なんとかなる。そう思って必死に走る成康の足元に生暖かい風が吹く。そして何者かが、確かに成康を追いかけているような気配を感じた。
全速力で走るうちに呼気は上がり、ハァハァと息切れが溢れる落ちる。血圧が上がり耳がぼんやりし始めて、次第に視界が狭まっていく。そのような状況だから、本当に後ろから音が聞こえているのかどうかは自らの呼吸音に紛れて定かではない。
けれども。足を止めてはならない。
それはきっと確かにいる。その存在は自分を追いかけている。
けれども。大丈夫だ。
まだ遠い。あの光にたどり着けば大丈夫だ。きっと。
そう念じながら次第に近づく四角い光が視界いっぱいに広がった頃、そこに奇妙なものが存在していることに気がついた。
ゆらゆらとした縦長の四角い影が3つ。それが相互に手をつなぎ、壁のように立ちふさがっている。その腕と腕の細い隙間を抜ければ出口、すなわち光の向こうには行けそうだ。
けれども何だこれは。
どうしたらいいんだ。
目の前に現れた新たな3つの闇。その闇は背後から迫り来る闇とは違って嫌な感じはしなかった。
嫌な感じはしなかったけれども、その隙間に飛び込むのはためらわれる。なぜなら成康には現在自らが滞在する闇と、眼の前の光の中に浮かぶ闇の区別がつかなかったからだ。
成康は光と闇との境界に立ちすくむ。そうして足を止めて初めて、明瞭な音を聞く。生臭さを感じる。その息遣いは荒々しい。闇の中の何者かは成康のすぐ背後にまで迫っていた。
悪しきもの。心臓を握りつぶされるような恐怖が沸き起こる。
そこで成康はベッドから飛び起き、目を冷ます。全身にかいた大量の汗とともに。
成康の喘鳴はなかなか収まらず、その汗が夏の暑さに蒸発していくうちに思い出す。その夢はその日だけではなく、ここのところ毎日見ているということに。
そして日に日に、その何者かが近づいていることに。
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