色は変わらず花は咲きけり〜平城太上天皇の変

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prologue. 幸福を願う

 新京楽、平安楽土、万年春

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 異国の暦でいえば795年の正月。

 安らかたることを万民が願っていた。もう恐ろしいことは起きませぬように。
 かつての山背やましろ国、今は山城やましろ国と字を変えた三方を山に囲まれた天然の要害の葛野かどのの地に設けられた都。桓武かんむ天皇が開かれたその都の遷都を祝う正月の宴で、老若男女が大地を踏み鳴らし力強く歌い舞っていた。

 新京楽しんきょうらく平安楽土びょうあんがくつ万年春まんねんしゅん

 その危機迫る祈りから、都は山城京や葛野京ではなく平安京と名付けられた。
 そのように名付けられるほど、この時代は腐臭にまみれていた。権謀術数に満ち、弟が兄を、叔父が甥を殺そうと目論み、それによって生じた祟り怨霊が不幸を撒き散らす。暗闇に怯える暮らし。
 その血生臭さを覆い隠すように都は雅を誇り、華やかな和歌や文学が宮中を花散るように舞っていた。




ー資料

 当時の関連皇家の家系図です。右上の番号は即位の順番です。二重線は正室・側室に関わらず婚姻関係を示しています。そもそも皇族にはたくさんの婚姻関係・子どもがいますが、関係ないのはカットしています。例えば嵯峨天皇には公的に認められるだけで23人の皇子と15人の皇女がいたようですが、そんなレベルなので。
 この話の中心は平城天皇(安殿親王)で、藤原薬子の娘(氏名不詳)がその妃となっています。
 地図もそれっぽく書いてみましたが、変なところがあったら教えてくださいませ。


ー主だった歴史
(状況によって追加します。)
天皇    西暦
聖武天皇 737年 長屋王の祟で藤原4家当主没
    738年 安倍内親王立太子
    740年 藤原広嗣の乱
孝謙天皇 749年 孝謙天皇即位
    755年 酒田内親王誕生
    757年 橘奈良麻呂の乱
淳仁天皇 761年 他戸親王誕生
称徳天皇 762年 恵美押勝(藤原仲麻呂)の乱
    769年 宇佐八幡宮神託事件
    770年 白壁王立太子
光仁天皇 772年 井上内親王巫蠱大逆
桓武天皇 781年 氷上川嗣の乱
    784年 長岡京遷都
    787年 遷都勅
    805年 徳政相論
平城天皇 806年 平城天皇即位
    807年 伊予親王の変
嵯峨天皇 809年 嵯峨天皇に攘位
    810年 平城太上天皇の変



ー補足
考証を少し特殊地点に置いているので、一応事前説明。
①藤原薬子の年齢は平城天皇の1~2歳下と想定しています。
 平城天皇の出生は774年ですが、薬子の兄の藤原仲成の出生は公卿補任をベースに774年説を取りました。従ってこの話では薬子は平城天皇より年下です。
 藤原縄主が平城天皇の春宮大夫を勤めたのは799年とされていますから、この時点で平城天皇は25歳、薬子が23歳ほど、その長女はおそらく10歳弱の前提です。
②藤原縄主は太宰府に赴任していません。
 縄主が従三位となると同時に就任したのが太宰帥であり権帥ではないこと、翌年参議と西海道観察使を兼ねていること、その後の朝廷との良好な関係からその身は宮中にあったと思われます。

日本史は学校で履修してないレベルで門外漢なので、致命的な間違いがあったら是非ご指摘ください。どうか、何卒。
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