ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

Tempp

文字の大きさ
上 下
219 / 234
10章 この世界への溶性

魔女の訪れ

しおりを挟む
「んー。今はこれでいい、気がする」
「いや、私が良くないんだけど」
「マリー、新年に世界が割れたんだろ? 俺は見てないんだけどさ。俺たち、というかこの国の人間はその割れた地点から外に出ることができない。それは言ったっけな。それでその原因は魔女の張った封印なんだ。おそらくこの国の異常が外に広がらないように」
「この国の異常……? 広がる?」
 お祖母様が軽くうなずき、先を促す。
「とにかく始めましょう」
「そうだな、マリー、アレグリット。こいつを囲うように手をつなぎ、地面に触れてくれ」
「マリオン様にはご説明を申し上げず、誠に申し訳ございません。けれども何卒、ご協力頂ければと存じます」

 マリオン嬢はますます混乱を深めたようにしか見えない。本当に何も伝えていないのか? それであれば簡単に説明するというものも難しい気はする。
 14,5ほどの子供くらいの大きさで、全身を波打つ大きな袋のようなものに覆われた奇妙な格好をした者が全員の真ん中に立つ。あれがダルギスオンの言っていた媒介というものだろうか。そしてその者を囲むように、マリオン嬢、ウォルターとアレグリット殿が手を繋ぎ跪く。そして更に離れて、それぞれの後ろにソルタン殿、お祖母様、ダルギスオン殿が立つ。

「アルバート様、僭越ながらお伺いしたいのですが、これは何の集まりなのでしょう」
 それ以外は下がるようにと言われ、同じく蚊帳の外となった私にジャスティンが話しかける。
「本当に聞いていないのか」
「ええ」
 そこまで秘しているのなら、何か理由があるのかもしれない。そう考えて、そもそも論に思い当たる。私が自分をアレックスだと認識できるのはこの顔の傷によるものだ。私が調べた所、マリオン嬢が本当は誰なのか、未だわからない。本当の名前がわからなければ、この世界の異常を知り得ても忘れてしまう。
 だからウォルターとソルたんが既に説明したけれど、マリオン嬢とジャスティンはそれを覚えていない可能性がある、のか。
 無意識に左目の傷に手を当てた。触れてわずかにわかるこの凹凸が私を正気たらしめているもの。
「そうだな……あの2人が何故秘しているのかその理由がわからないから詳しくはそちらに聞いてほしいのだが、現在のこの国は異常が満ちている」
「異常、でしょうか」
「ああ。国全体に病気が蔓延しているようなものだ。それが他の土地に蔓延することを防ぐために魔女様が防壁を張った。だからこの国の者はその防壁の外に出られない、というのが現在の推測だ。本当はわからない。けれどもそれでは色々支障があるのでな。魔女様に真意をお伺いに行く」
「魔女様に……? それは危険なのではないでしょうか」
 危険。危険であることは確かだ。
 魔女様に会う。それは普通考えられないほど恐れ多いこと。
 魔女様という存在は人智で捉えられるものではない。だから何が起こるかわからない。けれどもこのままでは、いつどのタイミングで全てが巻き戻り、永劫に繋がった階段を昇り続けるしかなくなる、かもしれない。正気を保てる者がいる現在が、先に進むためのわずかなチャンスなのだろう。それであれば正しく、私はきちんとマリオン嬢を説得し、参加を願うべきだと思うのだが、そう考えるとやはり記憶を保持できないのだろうか。

「魔女様に会うのはあの真ん中にいる者だ。本来はあの者とエリザベート、ソルタン殿とダルギスオン殿のみで行う予定だったが、ウォルターが自分とマリオン嬢とアレグリット殿が居たほうがよいと述べた。だから加わってもらうことにした」
「アレグリット殿はその……特別な者なのでしょうか」
「特別……特別なのだろうが、私にはよくわからないな。正直な所、私はこの国の王子だからここにいるというだけで、詳しいところは理解できていないんだ、すまないな。ソルタン殿であれば詳しく把握されているだろう」
「いえ、お答えいただき、誠にありがとうございます」
 納得し難いといった表情のジャスティンには申し訳ないとは思うものの、こと魔術については私も門外漢で答えられない。
 お祖母様とソルタン殿、ダルギスオン殿が何らかの魔法を行使しているのだろう。次第に我々の足下が薄っすらと光り始め、白く煙り始める。まるで冬の湖面に朝もやが立つような風情だ。そしてその煙は次第に均一に慣らされ、地面近くに落ち着いていけば、まるで鏡のように私たちを下から照らしあげるのだ。その光はこの広い地の辺縁から次第にお祖母様、ソルタン殿、ダルギスオン殿の3人を外縁にした中心部により収束し、地面自体が発光しているかのような神々しさを醸し出す。
 そうして次の瞬間、真ん中に立つ者が消えた。いや、正確にいえばその纏う服だけが残って地面に崩れ落ちる。中には誰も入っていなかったのだろうか。一瞬そう思ったが、しばらく待つとその服が再び膨れ上がり、元の形状に戻った。
 そうしてその者は目の前の3人を眺め、何かを語りかけている、ようだ。マリオン嬢が驚いた顔をしている。その内容はここからでは聞こえない。術が成功したのであれば、おそらくあの者が魔女様に会い、言付けを受け取ったのかもしれない。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

のほほん異世界暮らし

みなと劉
ファンタジー
異世界に転生するなんて、夢の中の話だと思っていた。 それが、目を覚ましたら見知らぬ森の中、しかも手元にはなぜかしっかりとした地図と、ちょっとした冒険に必要な道具が揃っていたのだ。

異世界転生ファミリー

くろねこ教授
ファンタジー
辺境のとある家族。その一家には秘密があった?! 辺境の村に住む何の変哲もないマーティン一家。 アリス・マーティンは美人で料理が旨い主婦。 アーサーは元腕利きの冒険者、村の自警団のリーダー格で頼れる男。 長男のナイトはクールで賢い美少年。 ソフィアは産まれて一年の赤ん坊。 何の不思議もない家族と思われたが…… 彼等には実は他人に知られる訳にはいかない秘密があったのだ。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

とあるおっさんのVRMMO活動記

椎名ほわほわ
ファンタジー
VRMMORPGが普及した世界。 念のため申し上げますが戦闘も生産もあります。 戦闘は生々しい表現も含みます。 のんびりする時もあるし、えぐい戦闘もあります。 また一話一話が3000文字ぐらいの日記帳ぐらいの分量であり 一人の冒険者の一日の活動記録を覗く、ぐらいの感覚が お好みではない場合は読まれないほうがよろしいと思われます。 また、このお話の舞台となっているVRMMOはクリアする事や 無双する事が目的ではなく、冒険し生きていくもう1つの人生が テーマとなっているVRMMOですので、極端に戦闘続きという 事もございません。 また、転生物やデスゲームなどに変化することもございませんので、そのようなお話がお好みの方は読まれないほうが良いと思われます。

2回目の人生は異世界で

黒ハット
ファンタジー
増田信也は初めてのデートの待ち合わせ場所に行く途中ペットの子犬を抱いて横断歩道を信号が青で渡っていた時に大型トラックが暴走して来てトラックに跳ね飛ばされて内臓が破裂して即死したはずだが、気が付くとそこは見知らぬ異世界の遺跡の中で、何故かペットの柴犬と異世界に生き返った。2日目の人生は異世界で生きる事になった

転生テイマー、異世界生活を楽しむ

さっちさん
ファンタジー
題名変更しました。 内容がどんどんかけ離れていくので… ↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓↓ ありきたりな転生ものの予定です。 主人公は30代後半で病死した、天涯孤独の女性が幼女になって冒険する。 一応、転生特典でスキルは貰ったけど、大丈夫か。私。 まっ、なんとかなるっしょ。

【本編完結】転生したら第6皇子冷遇されながらも力をつける

そう
ファンタジー
転生したら帝国の第6皇子だったけど周りの人たちに冷遇されながらも生きて行く話です

処理中です...