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10章 この世界への溶性
謎のスケルタス
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武闘大会の運営にあたり、私は頭を抱えていた。今もコロシアムの会議室でウォルターと角を突き合わせている。
「おかしいだろ、この強さ」
「圧倒的すぎる。どこから湧いて出たんだ。ウォルター、こいつはお前にとっても想定外なのか?」
「城の資料にはなかったんだろ、アレックス。それなら俺に知りようはない。ギルドへの登録は先月だった。ここ800年、登録自体はあったりなかったりだが、登録がある場合はいつもグローリーフィアができて9ヶ月経つころだな」
手元に広げられた資料は少ない。そのほとんどが名前くらいしか書かれていない登録の際の資料と、王宮に残されたマリーとパーティを組んだ時の記録だ。
「武闘大会を含めて、こいつがギルド外に現れた記録は少なくとも今回が初めてだ。今も追加で資料を調査させているが、おそらく」
「ギルドの記録でもマリー以外のパーティに雇われていたこともこれまでにないんだよな。アッシュ公爵家はどこでこいつを知ったんだ?」
私は武闘大会の主催者だ。だからその進行については逐次報告を受けている。
下馬評ではマリオン嬢のパーティのアレクサンドルが優勝候補だった。圧倒的な強さ、総合力を誇る。けれどもそのような出場者は何人かいて、最終的にはアレクサンドルが優勝すると目されていたけれど、絶対ではなかった。だから興業的にはそれなりに盛り上がると目していた。けれどもアレクサンドルが比較にならないほどの強者が現れた。
アッシュ公爵家所属、闘士スケルタス。闘士というのも聞きなれない職業名称だが、ともあれ全ての試合であっという間に片がつく。試合開始早々、目に見えない速さで相手に突進してその首に剣を置く。辛うじて打ち合えても2、3合がせいぜいだ。お陰で優勝候補と見做されていた人間が、早々に2人も脱落してしまった。
スケルタスのギルドのランクはそもそも最低限だ。なにせ登録はしたものの依頼は何一つ受けていない。この800年間一度もだ。だからギルドの誰も、そして記録上も、スケルタスがどのような人間かを知らなかった。ファミリーネームも連絡先の登録もない。
そのスケルタスは全身を黄金色の金属鎧で覆っていて、姿の露出も全くないから種族すらわからない。わかるといえば外見上、背が高いことだけだ。
「本当にこいつがスケルタスなのか?」
「ウォルター? 心当たりがあるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ、あんだけ鎧で覆ってたら中に誰が入ってもわかんないだろうと思ってさ。ともあれこれじゃ賭けが成り立たない。王家が大損をこくぞ」
この武闘大会には大きな目的が3つある。
1つは武闘大会によって国を盛り上げるということ。もう1つは資金繰りだ。
この巨大すぎるコロシアムの建築資金は、ウォルターが敷いた道路の使用料と、あとは債といって各貴族から出資を募っている。そのおおよそはコロシアムと今後催されるファッションショーの入場料、それから今も屋台に対して場所代として売上の一部を徴収することで返済が可能だ。その後も必要に応じてコロシアムの貸し出し等を行い、整備の費用を確保する。ウォルターのぷれぜんてーしょんというものは実に説得的で、多くの資金が集まった。
けれども今後の開発も考えると、すぐに自由に動かせる金というのは得難いものらしい。それで王家が胴元となり、賭場に手を出したのだ。
本戦開始前の一番利益配分の大きい優勝者一点がけでは、無名のスケルタスに賭ける者などアッシュ公爵家くらいだった。だから利益のある程度は回収されるはずだ。けれどもこの圧倒的な強さでは今後の賭けはスケルタス一点張りになるだろう。そうするとスケルタスの掛け率、オッズも下がらざるを得ない。おそらく賭けに勝ってもほとんど儲けが出ないほど。そうすれば賭けをする者がいなくなる。賭けが動かなければそもそも運営側の儲けに繋がらない。
大規模な賭博を運営するには人件費がかかる。既に賭博のために多くを雇用している。このまま賭場から利益があがらなければ、人件費だけでも大赤字だ。各貴族への返済は滞ることはないが、今後の動きは遅くなるだろう。
けれどもそれは組織としての話だ。私もウォルターも個人で賭けに参加している。ウォルターが選ぶ大穴は何故だか悉く当たるのだ。だから最悪、それで補填できなくもない。
「さすがに出場者は変更できないから、エキシビジョン戦でも組むか?」
「えきしびじょん?」
「あぁ。試合の優勝とは関係なく、賭けのためだけに試合をする。盛り上げるためだけのやつだ。誰と誰の試合が見たいかを募集してもいいな。出場料とか賞金は払わないといけないだろうが、スケルタスを除いた試合を組むんだ。そうだなぁ。魔法は基本禁止してるけど、エルトリュールとソルタンを戦わせるとか」
「お祖母様と賢者殿か。それは確かに盛り上がりそうだが、どっちが勝つか私には想像もつかないぞ」
「うーん、俺もわからん。……いや、よく考えたら魔法合戦始めたら闘技場壊れそうだよな? あぁ糞。金が欲しい。スケルタスに匹敵するほど強いやつ。ヘイグリット?」
ヘイグリット?
城での会議によく参加する柔和で不思議な男だ。確かに素晴らしい体格を持ち、極めて特異な武具を所有していると聞く。けれどもそれほど強いのだろうか。今は場外で屋台をやっているのではなかったかな。
「おかしいだろ、この強さ」
「圧倒的すぎる。どこから湧いて出たんだ。ウォルター、こいつはお前にとっても想定外なのか?」
「城の資料にはなかったんだろ、アレックス。それなら俺に知りようはない。ギルドへの登録は先月だった。ここ800年、登録自体はあったりなかったりだが、登録がある場合はいつもグローリーフィアができて9ヶ月経つころだな」
手元に広げられた資料は少ない。そのほとんどが名前くらいしか書かれていない登録の際の資料と、王宮に残されたマリーとパーティを組んだ時の記録だ。
「武闘大会を含めて、こいつがギルド外に現れた記録は少なくとも今回が初めてだ。今も追加で資料を調査させているが、おそらく」
「ギルドの記録でもマリー以外のパーティに雇われていたこともこれまでにないんだよな。アッシュ公爵家はどこでこいつを知ったんだ?」
私は武闘大会の主催者だ。だからその進行については逐次報告を受けている。
下馬評ではマリオン嬢のパーティのアレクサンドルが優勝候補だった。圧倒的な強さ、総合力を誇る。けれどもそのような出場者は何人かいて、最終的にはアレクサンドルが優勝すると目されていたけれど、絶対ではなかった。だから興業的にはそれなりに盛り上がると目していた。けれどもアレクサンドルが比較にならないほどの強者が現れた。
アッシュ公爵家所属、闘士スケルタス。闘士というのも聞きなれない職業名称だが、ともあれ全ての試合であっという間に片がつく。試合開始早々、目に見えない速さで相手に突進してその首に剣を置く。辛うじて打ち合えても2、3合がせいぜいだ。お陰で優勝候補と見做されていた人間が、早々に2人も脱落してしまった。
スケルタスのギルドのランクはそもそも最低限だ。なにせ登録はしたものの依頼は何一つ受けていない。この800年間一度もだ。だからギルドの誰も、そして記録上も、スケルタスがどのような人間かを知らなかった。ファミリーネームも連絡先の登録もない。
そのスケルタスは全身を黄金色の金属鎧で覆っていて、姿の露出も全くないから種族すらわからない。わかるといえば外見上、背が高いことだけだ。
「本当にこいつがスケルタスなのか?」
「ウォルター? 心当たりがあるのか?」
「いや、そういうわけじゃないんだけどさ、あんだけ鎧で覆ってたら中に誰が入ってもわかんないだろうと思ってさ。ともあれこれじゃ賭けが成り立たない。王家が大損をこくぞ」
この武闘大会には大きな目的が3つある。
1つは武闘大会によって国を盛り上げるということ。もう1つは資金繰りだ。
この巨大すぎるコロシアムの建築資金は、ウォルターが敷いた道路の使用料と、あとは債といって各貴族から出資を募っている。そのおおよそはコロシアムと今後催されるファッションショーの入場料、それから今も屋台に対して場所代として売上の一部を徴収することで返済が可能だ。その後も必要に応じてコロシアムの貸し出し等を行い、整備の費用を確保する。ウォルターのぷれぜんてーしょんというものは実に説得的で、多くの資金が集まった。
けれども今後の開発も考えると、すぐに自由に動かせる金というのは得難いものらしい。それで王家が胴元となり、賭場に手を出したのだ。
本戦開始前の一番利益配分の大きい優勝者一点がけでは、無名のスケルタスに賭ける者などアッシュ公爵家くらいだった。だから利益のある程度は回収されるはずだ。けれどもこの圧倒的な強さでは今後の賭けはスケルタス一点張りになるだろう。そうするとスケルタスの掛け率、オッズも下がらざるを得ない。おそらく賭けに勝ってもほとんど儲けが出ないほど。そうすれば賭けをする者がいなくなる。賭けが動かなければそもそも運営側の儲けに繋がらない。
大規模な賭博を運営するには人件費がかかる。既に賭博のために多くを雇用している。このまま賭場から利益があがらなければ、人件費だけでも大赤字だ。各貴族への返済は滞ることはないが、今後の動きは遅くなるだろう。
けれどもそれは組織としての話だ。私もウォルターも個人で賭けに参加している。ウォルターが選ぶ大穴は何故だか悉く当たるのだ。だから最悪、それで補填できなくもない。
「さすがに出場者は変更できないから、エキシビジョン戦でも組むか?」
「えきしびじょん?」
「あぁ。試合の優勝とは関係なく、賭けのためだけに試合をする。盛り上げるためだけのやつだ。誰と誰の試合が見たいかを募集してもいいな。出場料とか賞金は払わないといけないだろうが、スケルタスを除いた試合を組むんだ。そうだなぁ。魔法は基本禁止してるけど、エルトリュールとソルタンを戦わせるとか」
「お祖母様と賢者殿か。それは確かに盛り上がりそうだが、どっちが勝つか私には想像もつかないぞ」
「うーん、俺もわからん。……いや、よく考えたら魔法合戦始めたら闘技場壊れそうだよな? あぁ糞。金が欲しい。スケルタスに匹敵するほど強いやつ。ヘイグリット?」
ヘイグリット?
城での会議によく参加する柔和で不思議な男だ。確かに素晴らしい体格を持ち、極めて特異な武具を所有していると聞く。けれどもそれほど強いのだろうか。今は場外で屋台をやっているのではなかったかな。
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