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10章 この世界への溶性
河川運搬の打ち合わせ
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グラシアノが急に大きくなった。中学生くらいにみえる。
ベルセシオを吸収しただけでは賄えないほどの成長具合に思える。グラフィックとしては2段階進化したのと同程度。
可能性としてはベルセシオが2段階分の進化を促した、あるいは、普通に2つの欠片を吸収した。といってもここまでの階層で現れる欠片はギローディエとスヴァルシンだけ。ギローディエはグラシアノの進化後にイェールヴィーンのビアステッド邸に返還したからギローディエではない。そうするとスヴァルシン?
私たちのパーティはスヴァルシンと遭遇していない。だからその線もない。うーん。新しい魔王の欠片が発生した?
そんなことを考えていると、ウォルターに話しかけられた。
「どうしたマリー」
「ん? えっと、なんでもない」
「しっかりしろ」
「うん」
今の一番はビアステッド家との交渉だ。今日もソルとウォルターと一緒に王都のビアステッド邸に向かう。ビアステット家の王都邸は貴族街の中でも一際大きく、人の出入りも多い。来訪を取り次ぎに告げると、以前と同じ豪華な執務室に通された。
「ギローディエの返還は確認した。ティーフベルグでは何か見つかったのか?」
「いいえ、やっぱりあのあたりには鉱山は見つからなかったわ」
「だろうな」
カステッロは鼻で笑うけれど、それは私たちも知っていたことだ。
「けれど、人手の確保はできました」
「掘る鉱山がないだろう?」
カステッロは無駄骨だったなとても言うように眉を上げる。
実際にはベルセシオがいた洞窟がある。あの洞窟ではわずかに宝石が算出されるようだ。けれども採掘量はそれほどでもなく、第一ブロッコが眠っている以上、誰にも手を出されたくはない。だから私たちが宝石が必要な場合だけ、こっそり潜って採掘する許しをヤークから得ている。
私たちのティーフベルグの調査と同時並行して、というかウォルターは私たちとはずっと別行動で37階層に潜っていた。
だからここからは純粋に交渉だ。
「その代わりの提案にきた。俺たちは輸送を提供する」
「輸送?」
「そうだ。ビアステッド家は今、鉱石を岸壁沿いの道を荷馬車で運んでいるだろ。俺たちは岸壁から川まで昇降機をつけた。岸壁の下に今、船着き場を作っている。すでにギルドに占有報告はしてある」
「船着き場? あそこは水流が早くて駄目だろう」
「最近ゆっくりになったんだ」
私たちはティーフベルグでソルとヤークから、ブロッコと水源が繋がっていたと聞いた。本来はブロッコが水晶から離れると決壊するシステムになっていたらしい。けれどもヤークがその一部を書き換えて、ブロッコを介して水流を制御できるようにした。だからあの洞窟でブロッコは眠り、川は緩やかになっている。
結局、後味の悪い結論になってしまった。
ヤークを仲立ちとしてブロッコ、いいえベルセシオとグラシアノの間でどのような話があったのかはわからない。けれどもソルが言うには、ブロッコもヤークからこのままでは水没すると聞き、眠りにつくことを受け入れたそうだ。
そしてブロッコの中にある何かをグラシアノに移した。私の最初に考えた通りの結論になったけれど、それでよかったのかはわからない。
それで水流を減らすことに成功した結果、水位が下がり、川底からゆるやかな交互砂洲が現れた。ちょうど転移陣とイェールヴィーンの直下に発生した砂洲を平らにならし、ソルの魔法で突き固めてニーヘリトレで補強した。
そしてニーヘリトレの蔦で簡易な昇降機をつけ、ギルドに占有を主張する書面を先程提出してきたばかりだ。
「どうやって輸送するんだ?」
「あの川にモンスターはいないわ。だから運搬物の質量を計測して、それに対応する上昇の風魔法をつけた浮きを荷物ごとに付けるの。そしてイェールヴィーン直下から転移陣直下までの川の真ん中にロープを通して引っ掛けて川に流す。そして転移陣前で回収して引き上げる」
「ふむ。イェールヴィーンの人足は出せないぞ。あそこのドワーフの奴らは穴を掘って酒を飲む以外は嫌がるからな」
「ティーフベルグのドワーフを雇うわ。すでに協力の約束をもらっている」
ヤークはティーフベルグのドワーフの神だ。
ヤークが手の空いた者に協力を依頼してくれた。輸送にどのくらい利益を乗せるかによるけど、十分な給料を払うことはできるだろう。
ティーフベルグとの交渉は、王都で人を雇って道路を作っているウォルターにノウハウがあった。交渉はスムーズに進んだ。
「交渉に応じるなら、王都からビアステッド家に至る道の通行料を割引しよう。投下資本を回収する必要があるからゼロにはできんがな。儲けるにはここの鉱山を牛耳ってるお前から金を取るしかない」
「ふむ。要件は承った。利益を計算した上で追って返答をしよう。それにしても従兄弟殿は優秀だな」
「それはどうも」
ウォルターは得意げにニヤリと笑うが、カステッロは意に介してはいないようだ。
「ビアステッド家のために働かんか。当主の座は譲れぬが、相応の地位を約束しよう」
「申し出には感謝するが、俺の目的は王都の発展だ」
「従兄弟殿は王都育ちだからな。ビアステッド家には愛着もないか」
王都より遥かに北方にあるというビアステッド家は湖に面した領地と聞く。
そういえば『幻想迷宮グローリーフィア』では主人公はエスターライヒから離れることはないけれど、実際にはこの国にはたくさんの領土がある。そして多くの人々が住んでいる、んだろうな。
その後、ソルは調べ物があるといって別れ、私はウォルターと2人切りになった。ジャスティンはまだ眠り続けているグラシアノについている。話をするなら今しかない。
「ウォルター、あなたは転生者よね」
「うん? ああ、そうだよ」
「私もなの。それで」
「そこまでだ」
「え?」
「俺は前世の話をするつもりはない。前世に戻れたとしても、戻るつもりもないからな」
ベルセシオを吸収しただけでは賄えないほどの成長具合に思える。グラフィックとしては2段階進化したのと同程度。
可能性としてはベルセシオが2段階分の進化を促した、あるいは、普通に2つの欠片を吸収した。といってもここまでの階層で現れる欠片はギローディエとスヴァルシンだけ。ギローディエはグラシアノの進化後にイェールヴィーンのビアステッド邸に返還したからギローディエではない。そうするとスヴァルシン?
私たちのパーティはスヴァルシンと遭遇していない。だからその線もない。うーん。新しい魔王の欠片が発生した?
そんなことを考えていると、ウォルターに話しかけられた。
「どうしたマリー」
「ん? えっと、なんでもない」
「しっかりしろ」
「うん」
今の一番はビアステッド家との交渉だ。今日もソルとウォルターと一緒に王都のビアステッド邸に向かう。ビアステット家の王都邸は貴族街の中でも一際大きく、人の出入りも多い。来訪を取り次ぎに告げると、以前と同じ豪華な執務室に通された。
「ギローディエの返還は確認した。ティーフベルグでは何か見つかったのか?」
「いいえ、やっぱりあのあたりには鉱山は見つからなかったわ」
「だろうな」
カステッロは鼻で笑うけれど、それは私たちも知っていたことだ。
「けれど、人手の確保はできました」
「掘る鉱山がないだろう?」
カステッロは無駄骨だったなとても言うように眉を上げる。
実際にはベルセシオがいた洞窟がある。あの洞窟ではわずかに宝石が算出されるようだ。けれども採掘量はそれほどでもなく、第一ブロッコが眠っている以上、誰にも手を出されたくはない。だから私たちが宝石が必要な場合だけ、こっそり潜って採掘する許しをヤークから得ている。
私たちのティーフベルグの調査と同時並行して、というかウォルターは私たちとはずっと別行動で37階層に潜っていた。
だからここからは純粋に交渉だ。
「その代わりの提案にきた。俺たちは輸送を提供する」
「輸送?」
「そうだ。ビアステッド家は今、鉱石を岸壁沿いの道を荷馬車で運んでいるだろ。俺たちは岸壁から川まで昇降機をつけた。岸壁の下に今、船着き場を作っている。すでにギルドに占有報告はしてある」
「船着き場? あそこは水流が早くて駄目だろう」
「最近ゆっくりになったんだ」
私たちはティーフベルグでソルとヤークから、ブロッコと水源が繋がっていたと聞いた。本来はブロッコが水晶から離れると決壊するシステムになっていたらしい。けれどもヤークがその一部を書き換えて、ブロッコを介して水流を制御できるようにした。だからあの洞窟でブロッコは眠り、川は緩やかになっている。
結局、後味の悪い結論になってしまった。
ヤークを仲立ちとしてブロッコ、いいえベルセシオとグラシアノの間でどのような話があったのかはわからない。けれどもソルが言うには、ブロッコもヤークからこのままでは水没すると聞き、眠りにつくことを受け入れたそうだ。
そしてブロッコの中にある何かをグラシアノに移した。私の最初に考えた通りの結論になったけれど、それでよかったのかはわからない。
それで水流を減らすことに成功した結果、水位が下がり、川底からゆるやかな交互砂洲が現れた。ちょうど転移陣とイェールヴィーンの直下に発生した砂洲を平らにならし、ソルの魔法で突き固めてニーヘリトレで補強した。
そしてニーヘリトレの蔦で簡易な昇降機をつけ、ギルドに占有を主張する書面を先程提出してきたばかりだ。
「どうやって輸送するんだ?」
「あの川にモンスターはいないわ。だから運搬物の質量を計測して、それに対応する上昇の風魔法をつけた浮きを荷物ごとに付けるの。そしてイェールヴィーン直下から転移陣直下までの川の真ん中にロープを通して引っ掛けて川に流す。そして転移陣前で回収して引き上げる」
「ふむ。イェールヴィーンの人足は出せないぞ。あそこのドワーフの奴らは穴を掘って酒を飲む以外は嫌がるからな」
「ティーフベルグのドワーフを雇うわ。すでに協力の約束をもらっている」
ヤークはティーフベルグのドワーフの神だ。
ヤークが手の空いた者に協力を依頼してくれた。輸送にどのくらい利益を乗せるかによるけど、十分な給料を払うことはできるだろう。
ティーフベルグとの交渉は、王都で人を雇って道路を作っているウォルターにノウハウがあった。交渉はスムーズに進んだ。
「交渉に応じるなら、王都からビアステッド家に至る道の通行料を割引しよう。投下資本を回収する必要があるからゼロにはできんがな。儲けるにはここの鉱山を牛耳ってるお前から金を取るしかない」
「ふむ。要件は承った。利益を計算した上で追って返答をしよう。それにしても従兄弟殿は優秀だな」
「それはどうも」
ウォルターは得意げにニヤリと笑うが、カステッロは意に介してはいないようだ。
「ビアステッド家のために働かんか。当主の座は譲れぬが、相応の地位を約束しよう」
「申し出には感謝するが、俺の目的は王都の発展だ」
「従兄弟殿は王都育ちだからな。ビアステッド家には愛着もないか」
王都より遥かに北方にあるというビアステッド家は湖に面した領地と聞く。
そういえば『幻想迷宮グローリーフィア』では主人公はエスターライヒから離れることはないけれど、実際にはこの国にはたくさんの領土がある。そして多くの人々が住んでいる、んだろうな。
その後、ソルは調べ物があるといって別れ、私はウォルターと2人切りになった。ジャスティンはまだ眠り続けているグラシアノについている。話をするなら今しかない。
「ウォルター、あなたは転生者よね」
「うん? ああ、そうだよ」
「私もなの。それで」
「そこまでだ」
「え?」
「俺は前世の話をするつもりはない。前世に戻れたとしても、戻るつもりもないからな」
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