上 下
185 / 234
10章 この世界への溶性

河川運搬の打ち合わせ

しおりを挟む
 グラシアノが急に大きくなった。中学生くらいにみえる。
 ベルセシオを吸収しただけでは賄えないほどの成長具合に思える。グラフィックとしては2段階進化したのと同程度。
 可能性としてはベルセシオが2段階分の進化を促した、あるいは、普通に2つの欠片を吸収した。といってもここまでの階層で現れる欠片はギローディエとスヴァルシンだけ。ギローディエはグラシアノの進化後にイェールヴィーンのビアステッド邸に返還したからギローディエではない。そうするとスヴァルシン?
 私たちのパーティはスヴァルシンと遭遇していない。だからその線もない。うーん。新しい魔王の欠片が発生した?
 そんなことを考えていると、ウォルターに話しかけられた。
「どうしたマリー」
「ん? えっと、なんでもない」
「しっかりしろ」
「うん」
 今の一番はビアステッド家との交渉だ。今日もソルとウォルターと一緒に王都のビアステッド邸に向かう。ビアステット家の王都邸は貴族街の中でも一際大きく、人の出入りも多い。来訪を取り次ぎに告げると、以前と同じ豪華な執務室に通された。

「ギローディエの返還は確認した。ティーフベルグでは何か見つかったのか?」
「いいえ、やっぱりあのあたりには鉱山は見つからなかったわ」
「だろうな」
 カステッロは鼻で笑うけれど、それは私たちも知っていたことだ。
「けれど、人手の確保はできました」
「掘る鉱山がないだろう?」
 カステッロは無駄骨だったなとても言うように眉を上げる。
 実際にはベルセシオがいた洞窟がある。あの洞窟ではわずかに宝石が算出されるようだ。けれども採掘量はそれほどでもなく、第一ブロッコが眠っている以上、誰にも手を出されたくはない。だから私たちが宝石が必要な場合だけ、こっそり潜って採掘する許しをヤークから得ている。
 私たちのティーフベルグの調査と同時並行して、というかウォルターは私たちとはずっと別行動で37階層に潜っていた。
 だからここからは純粋に交渉だ。

「その代わりの提案にきた。俺たちは輸送を提供する」
「輸送?」
「そうだ。ビアステッド家は今、鉱石を岸壁沿いの道を荷馬車で運んでいるだろ。俺たちは岸壁から川まで昇降機をつけた。岸壁の下に今、船着き場を作っている。すでにギルドに占有報告はしてある」
「船着き場? あそこは水流が早くて駄目だろう」
最近・・ゆっくりになったんだ」
 私たちはティーフベルグでソルとヤークから、ブロッコと水源が繋がっていたと聞いた。本来はブロッコが水晶から離れると決壊するシステムになっていたらしい。けれどもヤークがその一部を書き換えて、ブロッコを介して水流を制御できるようにした。だからあの洞窟でブロッコは眠り、川は緩やかになっている。
 結局、後味の悪い結論になってしまった。
 ヤークを仲立ちとしてブロッコ、いいえベルセシオとグラシアノの間でどのような話があったのかはわからない。けれどもソルが言うには、ブロッコもヤークからこのままでは水没すると聞き、眠りにつくことを受け入れたそうだ。
 そしてブロッコの中にある何かをグラシアノに移した。私の最初に考えた通りの結論になったけれど、それでよかったのかはわからない。

 それで水流を減らすことに成功した結果、水位が下がり、川底からゆるやかな交互砂洲川の内側で砂洲になった部分が現れた。ちょうど転移陣とイェールヴィーンの直下に発生した砂洲を平らにならし、ソルの魔法で突き固めてニーヘリトレで補強した。
 そしてニーヘリトレの蔦で簡易な昇降機をつけ、ギルドに占有を主張する書面を先程提出してきたばかりだ。
「どうやって輸送するんだ?」
「あの川にモンスターはいないわ。だから運搬物の質量を計測して、それに対応する上昇の風魔法をつけた浮きを荷物ごとに付けるの。そしてイェールヴィーン直下から転移陣直下までの川の真ん中にロープを通して引っ掛けて川に流す。そして転移陣前で回収して引き上げる」
「ふむ。イェールヴィーンの人足は出せないぞ。あそこのドワーフの奴らは穴を掘って酒を飲む以外は嫌がるからな」
「ティーフベルグのドワーフを雇うわ。すでに協力の約束をもらっている」
 ヤークはティーフベルグのドワーフの神だ。
 ヤークが手の空いた者に協力を依頼してくれた。輸送にどのくらい利益を乗せるかによるけど、十分な給料を払うことはできるだろう。
 ティーフベルグとの交渉は、王都で人を雇って道路を作っているウォルターにノウハウがあった。交渉はスムーズに進んだ。

「交渉に応じるなら、王都からビアステッド家に至る道の通行料を割引しよう。投下資本を回収する必要があるからゼロにはできんがな。儲けるにはここの鉱山を牛耳ってるお前から金を取るしかない」
「ふむ。要件は承った。利益を計算した上で追って返答をしよう。それにしても従兄弟殿は優秀だな」
「それはどうも」
 ウォルターは得意げにニヤリと笑うが、カステッロは意に介してはいないようだ。
「ビアステッド家のために働かんか。当主の座は譲れぬが、相応の地位を約束しよう」
「申し出には感謝するが、俺の目的は王都の発展だ」
「従兄弟殿は王都育ちだからな。ビアステッド家には愛着もないか」
 王都より遥かに北方にあるというビアステッド家は湖に面した領地と聞く。
 そういえば『幻想迷宮グローリーフィア』では主人公はエスターライヒから離れることはないけれど、実際にはこの国にはたくさんの領土がある。そして多くの人々が住んでいる、んだろうな。
 その後、ソルは調べ物があるといって別れ、私はウォルターと2人切りになった。ジャスティンはまだ眠り続けているグラシアノについている。話をするなら今しかない。

「ウォルター、あなたは転生者よね」
「うん? ああ、そうだよ」
「私もなの。それで」
「そこまでだ」
「え?」
「俺は前世の話をするつもりはない。前世に戻れたとしても、戻るつもりもないからな」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

私は婚約破棄を回避するため王家直属「マルサ」を作って王国財政を握ることにしました

中七七三
ファンタジー
王立貴族学校卒業の年の夏―― 私は自分が転生者であることに気づいた、というか思い出した。 王子と婚約している公爵令嬢であり、ご他聞に漏れず「悪役令嬢」というやつだった このまま行くと卒業パーティで婚約破棄され破滅する。 私はそれを回避するため、王国の財政を握ることにした。

乙女ゲームの断罪イベントが終わった世界で転生したモブは何を思う

ひなクラゲ
ファンタジー
 ここは乙女ゲームの世界  悪役令嬢の断罪イベントも終わり、無事にエンディングを迎えたのだろう…  主人公と王子の幸せそうな笑顔で…  でも転生者であるモブは思う  きっとこのまま幸福なまま終わる筈がないと…

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

魔境に捨てられたけどめげずに生きていきます

ツバキ
ファンタジー
貴族の子供として産まれた主人公、五歳の時の魔力属性検査で魔力属性が無属性だと判明したそれを知った父親は主人公を魔境へ捨ててしまう どんどん更新していきます。 ちょっと、恨み描写などがあるので、R15にしました。

マイナー18禁乙女ゲームのヒロインになりました

東 万里央(あずま まりお)
恋愛
十六歳になったその日の朝、私は鏡の前で思い出した。この世界はなんちゃってルネサンス時代を舞台とした、18禁乙女ゲーム「愛欲のボルジア」だと言うことに……。私はそのヒロイン・ルクレツィアに転生していたのだ。 攻略対象のイケメンは五人。ヤンデレ鬼畜兄貴のチェーザレに男の娘のジョバンニ。フェロモン侍従のペドロに影の薄いアルフォンソ。大穴の変人両刀のレオナルド……。ハハッ、ロクなヤツがいやしねえ! こうなれば修道女ルートを目指してやる! そんな感じで涙目で爆走するルクレツィアたんのお話し。

アスカニア大陸戦記 黒衣の剣士と氷の魔女【R-15】

StarFox
ファンタジー
無頼漢は再び旅に出る。皇帝となった唯一の親友のために。 落ちこぼれ魔女は寄り添う。唯一の居場所である男の傍に。 後に『黒い剣士と氷の魔女』と呼ばれる二人と仲間達の旅が始まる。 剣と魔法の中世と、スチームパンクな魔法科学が芽吹き始め、飛空艇や飛行船が大空を駆り、竜やアンデッド、エルフやドワーフもいるファンタジー世界。 皇太子ラインハルトとジカイラ達の活躍により革命政府は倒れ、皇太子ラインハルトはバレンシュテット帝国皇帝に即位。 絶対帝政を敷く軍事大国バレンシュテット帝国は復活し、再び大陸に秩序と平和が訪れつつあった。 本編主人公のジカイラは、元海賊の無期懲役囚で任侠道を重んじる無頼漢。革命政府打倒の戦いでは皇太子ラインハルトの相棒として活躍した。 ジカイラは、皇帝となったラインハルトから勅命として、革命政府と組んでアスカニア大陸での様々な悪事に一枚噛んでいる大陸北西部の『港湾自治都市群』の探索の命を受けた。 高い理想を掲げる親友であり皇帝であるラインハルトのため、敢えて自分の手を汚す決意をした『黒衣の剣士ジカイラ』は、恋人のヒナ、そしてユニコーン小隊の仲間と共に潜入と探索の旅に出る。 ここにジカイラと仲間達の旅が始まる。 アルファポリス様、カクヨム様、エブリスタ様、ノベルアップ+様にも掲載させて頂きました。 どうぞよろしくお願いいたします。 関連作品 ※R-15版 アスカニア大陸戦記 亡国の皇太子 https://ncode.syosetu.com/n7933gj/

蘇生魔法を授かった僕は戦闘不能の前衛(♀)を何度も復活させる

フルーツパフェ
大衆娯楽
 転移した異世界で唯一、蘇生魔法を授かった僕。  一緒にパーティーを組めば絶対に死ぬ(死んだままになる)ことがない。  そんな口コミがいつの間にか広まって、同じく異世界転移した同業者(多くは女子)から引っ張りだこに!  寛容な僕は彼女達の申し出に快諾するが条件が一つだけ。 ――実は僕、他の戦闘スキルは皆無なんです  そういうわけでパーティーメンバーが前衛に立って死ぬ気で僕を守ることになる。  大丈夫、一度死んでも蘇生魔法で復活させてあげるから。  相互利益はあるはずなのに、どこか鬼畜な匂いがするファンタジー、ここに開幕。      

うちの娘が悪役令嬢って、どういうことですか?

プラネットプラント
ファンタジー
全寮制の高等教育機関で行われている卒業式で、ある令嬢が糾弾されていた。そこに令嬢の父親が割り込んできて・・・。乙女ゲームの強制力に抗う令嬢の父親(前世、彼女いない歴=年齢のフリーター)と従者(身内には優しい鬼畜)と異母兄(当て馬/噛ませ犬な攻略対象)。2016.09.08 07:00に完結します。 小説家になろうでも公開している短編集です。

処理中です...