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9章 この世界におけるプレイヤー
第1回緊急会議と客人
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「それでは第1回緊急会議を始める」
「ねぇねぇ魔王、緊急ってなになに? 何があったの?」
「議題はちゃんと伝えただろ。世界の理についてだよ。お前には興味がない話だ」
そう告げると、フィーリエットは不満そうに頬を膨らます。こいつが来るとは思わなかったが面倒だな、いや、そうでもないのか。
ヘイグリットから借りたグローリーフィアの角と尻尾からできた短剣をいじくり回していると、やっぱりこれとは相容れないなと思うわけだ。俺じゃない感がある。
今日の参加者はヘイグリットとフィーリエット、それからグーディキネッツ。あとは待機しているダルギスオンともう1人。
「会議の前に伝えることがある。これから1人、客人を迎える。その客人についてだ。この場に限り、その客人を攻撃すること及びその姿を認識することを禁じる予定だ」
「なんで? それって誰?」
フィーリエットは興味を隠しきれないようにブンブンと俺の回りを飛び回る。鬱陶しい。
「そいつは多分人間で、今ダンジョンに潜っている。そのうち俺らを殺しに来る奴だ」
「何でよ! そんなら今殺しちゃった方がいいじゃん!」
「そう思うなら出ていけ。強制はしない。俺は俺の目的のためにそいつを呼ぶ。それでそいつにもこちらの姿を認識できないようにはする。本当にお前には興味のない話だぞ、フィー」
「うー。いいもん、いるもん」
「魔王。私には関係があるものか」
グーディキネッツが俺を見る。
現況、グーディキネッツが俺に次いで外に興味を示しているのは知っているが、それが何故なのかは分からない。というより気軽に頼まれごとをするし、頼み事をする、俺とグーディキネッツはそんな関係だ。けれどもグーディキネッツが何を考えているのかはわからない。
前世で『幻想迷宮グローリーフィア』をプレイしていた時も、俺はこいつを攻略対象にしたことがない。だから最低限、攻略のための設定しかしらない。
「俺はお前が何をしたいか知らん。だからわからんとしかいいようがないな」
「なるほど。ふむ。魔王は先程のことを以前と同じように私に命じるのか?」
「そうだな。命令する。だからフィーも嫌なら出てけ」
「いいもん」
「では少し失礼する」
そう言ってグーディキネッツは徐に衣服やらなにやらを脱ぎ、装備品や付属物を次々と近くの台の上に置き始める。次第に現れるその姿に、俺は酷く混乱した。グーディキネッツはこんな姿だったかな。おかしいな。
俺の記憶では、というより一般的な公式グラでは、グーディキネッツは装飾過多でファンシーなつるぺたケモミミ幼女だ。今俺の前に姿を表している散々なものはそんなものとはかけ離れた姿をしている。
そういえばグーディキネッツのグラフィッカーはポンピポバクターさんか。俺とは違う方向で運営と戦っていて、よく取得難度狂のグラで並んでいたな。これも隠しグラなのかな。なんか闇堕ち感がすげぇ。
そして外した全てを背負い袋の中に入れ、袋を閉じてかき消した。
「これでよいだろう」
「ではここで締切とする」
ー魔王グローリーフィアはこの迷宮内のこの室に存する者に命じる。期限は現時点から各人がこの部屋を出るまでとする
ー1つ、これからこの部屋を訪れる『幻想迷宮グローリーフィア』所属外の者になんらの影響を及ぼしてはならない
ー1つ、これからこの部屋を訪れる『幻想迷宮グローリーフィア』所属外の者の姿等、識別情報を方法の如何を問わず記憶及び記録にとどめてはならない
ー以上だ
金属をすり合わせたような、何かが共鳴する高い音がする。
それがグローリーフィアだった剣から発せられる。何だか酷く気持ちが悪い。これが魔王で、魔王の力か。
魔王とは何か。それは色々と実験を重ねる中で、最近少しだけ理解してきた。そしてそれは俺が想定するものとだいたい同じだった。それで前の魔王の考えも、おぼろげながらに理解した。それがおそらく『幻想迷宮グローリーフィア』の設定に合致していたのだろう。
この部屋は今、魔王の命令の支配下にある。それは俺自身にも影響を及ぼす。だから俺もそいつを正しく認識することができない。
合図をするとダルギスオンとともに人影が現れた。その影はグネグネと姿を蠢かせ、はっきりとはしないのだ。
「ようこそ。魔王の階層へ。本来なら名乗りを上げるべきなのだろうが、裏口から入られたので今回は省略することとする」
「ああ、俺は」
「名乗らなくて良い。せっかく互いに認識阻害をかけたんだから。とりあえず座れ。まずは認識の共有からだ」
事務机とセットの椅子にそいつは腰掛け、大人しくこちらの言に耳を傾ける。
まず1つ。5ヶ月ほど前、おそらくウォルター=エスターライヒとマリオン・ゲンスハイマーの結婚式があった日以降、世界は歪み、それは1月と少し前の元旦に決定的になった。その日、世界には俺が呼ぶところの『バグ』が何かの守りを超えてこの世界に表出した。
その『何かの守り』とは魔女の防壁である。仮にその防壁を『結界』と呼ぶ。
このエスターライヒが他国、つまりこの領域の外と異なる点は、1年が経過すればその1年の記録を喪失し、また新しい1年が開始することだ。これは時間が巻き戻っているのとも異なる。時間の経過はそのままに、公文書等の特別な保護が施されたもの以外は全てが1年前の状況に戻る。人の記憶も、街の風景も、全て。
魔女はこのエスターライヒの国境を境界として、その内と外を結界で区切った。その目的はわからないが、可能性としてはこの1年を繰り返す『バグ』がエスターライヒ外に拡散することを防ぐためではないかと思われる。
「ここまでは異存はないな。それでは各自、判明したところを述べよ。名乗らなくて良い」
そう名乗ると、ダルギスオンが口を開いた。
「ねぇねぇ魔王、緊急ってなになに? 何があったの?」
「議題はちゃんと伝えただろ。世界の理についてだよ。お前には興味がない話だ」
そう告げると、フィーリエットは不満そうに頬を膨らます。こいつが来るとは思わなかったが面倒だな、いや、そうでもないのか。
ヘイグリットから借りたグローリーフィアの角と尻尾からできた短剣をいじくり回していると、やっぱりこれとは相容れないなと思うわけだ。俺じゃない感がある。
今日の参加者はヘイグリットとフィーリエット、それからグーディキネッツ。あとは待機しているダルギスオンともう1人。
「会議の前に伝えることがある。これから1人、客人を迎える。その客人についてだ。この場に限り、その客人を攻撃すること及びその姿を認識することを禁じる予定だ」
「なんで? それって誰?」
フィーリエットは興味を隠しきれないようにブンブンと俺の回りを飛び回る。鬱陶しい。
「そいつは多分人間で、今ダンジョンに潜っている。そのうち俺らを殺しに来る奴だ」
「何でよ! そんなら今殺しちゃった方がいいじゃん!」
「そう思うなら出ていけ。強制はしない。俺は俺の目的のためにそいつを呼ぶ。それでそいつにもこちらの姿を認識できないようにはする。本当にお前には興味のない話だぞ、フィー」
「うー。いいもん、いるもん」
「魔王。私には関係があるものか」
グーディキネッツが俺を見る。
現況、グーディキネッツが俺に次いで外に興味を示しているのは知っているが、それが何故なのかは分からない。というより気軽に頼まれごとをするし、頼み事をする、俺とグーディキネッツはそんな関係だ。けれどもグーディキネッツが何を考えているのかはわからない。
前世で『幻想迷宮グローリーフィア』をプレイしていた時も、俺はこいつを攻略対象にしたことがない。だから最低限、攻略のための設定しかしらない。
「俺はお前が何をしたいか知らん。だからわからんとしかいいようがないな」
「なるほど。ふむ。魔王は先程のことを以前と同じように私に命じるのか?」
「そうだな。命令する。だからフィーも嫌なら出てけ」
「いいもん」
「では少し失礼する」
そう言ってグーディキネッツは徐に衣服やらなにやらを脱ぎ、装備品や付属物を次々と近くの台の上に置き始める。次第に現れるその姿に、俺は酷く混乱した。グーディキネッツはこんな姿だったかな。おかしいな。
俺の記憶では、というより一般的な公式グラでは、グーディキネッツは装飾過多でファンシーなつるぺたケモミミ幼女だ。今俺の前に姿を表している散々なものはそんなものとはかけ離れた姿をしている。
そういえばグーディキネッツのグラフィッカーはポンピポバクターさんか。俺とは違う方向で運営と戦っていて、よく取得難度狂のグラで並んでいたな。これも隠しグラなのかな。なんか闇堕ち感がすげぇ。
そして外した全てを背負い袋の中に入れ、袋を閉じてかき消した。
「これでよいだろう」
「ではここで締切とする」
ー魔王グローリーフィアはこの迷宮内のこの室に存する者に命じる。期限は現時点から各人がこの部屋を出るまでとする
ー1つ、これからこの部屋を訪れる『幻想迷宮グローリーフィア』所属外の者になんらの影響を及ぼしてはならない
ー1つ、これからこの部屋を訪れる『幻想迷宮グローリーフィア』所属外の者の姿等、識別情報を方法の如何を問わず記憶及び記録にとどめてはならない
ー以上だ
金属をすり合わせたような、何かが共鳴する高い音がする。
それがグローリーフィアだった剣から発せられる。何だか酷く気持ちが悪い。これが魔王で、魔王の力か。
魔王とは何か。それは色々と実験を重ねる中で、最近少しだけ理解してきた。そしてそれは俺が想定するものとだいたい同じだった。それで前の魔王の考えも、おぼろげながらに理解した。それがおそらく『幻想迷宮グローリーフィア』の設定に合致していたのだろう。
この部屋は今、魔王の命令の支配下にある。それは俺自身にも影響を及ぼす。だから俺もそいつを正しく認識することができない。
合図をするとダルギスオンとともに人影が現れた。その影はグネグネと姿を蠢かせ、はっきりとはしないのだ。
「ようこそ。魔王の階層へ。本来なら名乗りを上げるべきなのだろうが、裏口から入られたので今回は省略することとする」
「ああ、俺は」
「名乗らなくて良い。せっかく互いに認識阻害をかけたんだから。とりあえず座れ。まずは認識の共有からだ」
事務机とセットの椅子にそいつは腰掛け、大人しくこちらの言に耳を傾ける。
まず1つ。5ヶ月ほど前、おそらくウォルター=エスターライヒとマリオン・ゲンスハイマーの結婚式があった日以降、世界は歪み、それは1月と少し前の元旦に決定的になった。その日、世界には俺が呼ぶところの『バグ』が何かの守りを超えてこの世界に表出した。
その『何かの守り』とは魔女の防壁である。仮にその防壁を『結界』と呼ぶ。
このエスターライヒが他国、つまりこの領域の外と異なる点は、1年が経過すればその1年の記録を喪失し、また新しい1年が開始することだ。これは時間が巻き戻っているのとも異なる。時間の経過はそのままに、公文書等の特別な保護が施されたもの以外は全てが1年前の状況に戻る。人の記憶も、街の風景も、全て。
魔女はこのエスターライヒの国境を境界として、その内と外を結界で区切った。その目的はわからないが、可能性としてはこの1年を繰り返す『バグ』がエスターライヒ外に拡散することを防ぐためではないかと思われる。
「ここまでは異存はないな。それでは各自、判明したところを述べよ。名乗らなくて良い」
そう名乗ると、ダルギスオンが口を開いた。
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