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8章 このゲームはこの世界のどこまで影響を及ぼしているのか
その中心たるマリオン・ゲンスハイマー
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「エリザベート、端的に聴きたい。何故繰り返していたのだ。そして何故繰り返さなくなったのだ」
「アルバート、それはわかりません。何故今1年を超えているのか。そして今後、また繰り返すのかはわからない。けれども繰り返しを起こしている原因の一助は確定しました。やはり魔女様です」
やはり魔女様。
魔女様がなされたということであれば人間ではどうしようもない。それほど魔女様のお力は強大だ。
「何故魔女様が……?」
「理由わかりません。しかしエスターライヒが『結界』に閉じ込められてしばらく後、魔女様が各国に伝令を遣わされたそうです。現在全ての国使を国元に返しています。そしてエスターライヒが認識し得なかった800年の間に経過した事象、それから魔女様からの正確な伝令を公開頂けるかを確認してもらっています」
「魔女様の正確な伝令……だと?」
「ええ。魔女様はこのように各国に伝えられたそうです。今後エスターライヒが1年を繰り返すこと、そして周辺国は可能な限り、これまでと同様にエスターライヒとの付き合いの継続を希望していること。実際には周辺物価はかなり上がっているそうです。エスターライヒの物価は安く、それを安価で購入する。エスターライヒへの売価も安く抑えなければならないけれども、それでも利益が出るため、他国はこれまであたりさわりなくエスターライヒと交流を続けてきたそうです。どうせ1年経てばすべてを繰り返すのですから。対外的にはそれで問題は発生していなかった」
エスターライヒはこれまでダンジョンが発生して枯れるまでを一区切りとした1年草のような歴史を繰り返してきた。
その事実は800年分の書類で疑いようがない。800年間、魔女様がエスターライヒを繰り返させている。
魔女様はそのお力をその管轄する領域の安定に用いられる。ということは『エスターライヒが繰り返さなければ領域の安定が破壊される』ということなのだろう。その意味はわからない。
そして各部の記録によって新たな事実が判明した。わけがわからない。
マリオン・ゲンスハイマー。
何故だ。ゲンスハイマー家はただの男爵家のはずだ。なのに何故物事の中心にいる。
「もう1つ、このマリオン・ゲンスハイマーとは何者なのだ」
「マリオン嬢が何なのかは私にもわかりません。けれども多くの場合、繰り返しの中心にいるのは彼女です」
「そのマリオン嬢が繰り返しの原因なのか?」
「いえ、そうともいえるし、そうではないともいえるでしょう。今回繰り返していない原因は、おそらくマリオン嬢とウォルター・ビアステットとの婚姻の不成立です」
「もし婚姻していたらどうなっていたんだ?」
「おそらくですが……新しい1年が生まれたでしょう」
各所の記録、特に典礼を担当する儀典部の保持していた記録から導かれる恐るべき結論。
それは800年の間、4割程はマリオン・ゲンスハイマー嬢のパーティがグローリーフィアを倒しているという事実だ。そして残り2割り程度がゲンスハイマー家の許可証を有したパーティがグローリーフィアを倒している。それらの度に国を上げて大きな祝祭を開いている。残り4割程がグローリーフィアは倒されていない。
要するに、ここから導かれる結論はグローリーフィアを倒したことがあるのはゲンスハイマー家が関係したパーティだけなのだ。
そしてダンジョンが倒された場合、その時点以降、エスターライヒは凍結されて他国の誰も立ち入れなくなる。そしてきっかり1年が経過した時点でそれまでの記録が失われ、新たな1年が開始する。
そしてダンジョンが倒されない場合にもグローリーフィア迷宮発生時から丁度1年経過すればそれまでの記録が失われて新しい1年が開始する。
「エリザベートよ、ゲンスハイマー家とグローリーフィアとの間に何らかの関係があるというのか……?」
「ゲンスハイマー男爵家の領地は王都から遠く離れています。そして男爵家は比較的新しい家ですが、それでも150年ほどの歴史があり、その記録に特筆すべきものはありません。むしろ特筆すべきはいずれの場合も、私は冒険者ギルドの記録を確認しましたが、ダンジョンが踏破されていない場合においてもマリオン嬢は冒険者ギルドに登録しています。つまり特異点があるとするならばそれはゲンスハイマー家ではなくマリオン嬢です」
「勇者……」
私に典型のように訪れたその小さな呟きは議場のすべての耳目を集めた。
「アルバート?」
「エリザベート。マリオン嬢の履歴は私も調べた。ウォルターのパーティの一員として不適切でないかを調べるために。マリオン嬢は男爵家の危急を助けるために冒険者登録をしたのだ。何らかの陰謀に巻き込まれている節などはなにもない。そこを中心に調査を行ったのだからそこを誤る可能性は少ないだろう。それにウォルターのパーティに加入したのは偶然だ。記録を見てもそうとしか思えない。……ただの貴族令嬢だった。そしてそれはここにいる多くの者もそう認識しているはずだ」
「ええ、それはそうだけれど」
「とするならば、マリオン嬢は『勇者』なのだと思う。このグローリーフィアを倒すことを運命づけられた『勇者』。だからマリオン嬢にしかグローリーフィアは倒せない、のかもしれない」
「しかし倒すと巻き戻ってしまうのだろう?」
「けれどもこのままでも巻き戻らないという保証はない」
「それでは一体どうすればいいというのだ!」
「アルバート、それはわかりません。何故今1年を超えているのか。そして今後、また繰り返すのかはわからない。けれども繰り返しを起こしている原因の一助は確定しました。やはり魔女様です」
やはり魔女様。
魔女様がなされたということであれば人間ではどうしようもない。それほど魔女様のお力は強大だ。
「何故魔女様が……?」
「理由わかりません。しかしエスターライヒが『結界』に閉じ込められてしばらく後、魔女様が各国に伝令を遣わされたそうです。現在全ての国使を国元に返しています。そしてエスターライヒが認識し得なかった800年の間に経過した事象、それから魔女様からの正確な伝令を公開頂けるかを確認してもらっています」
「魔女様の正確な伝令……だと?」
「ええ。魔女様はこのように各国に伝えられたそうです。今後エスターライヒが1年を繰り返すこと、そして周辺国は可能な限り、これまでと同様にエスターライヒとの付き合いの継続を希望していること。実際には周辺物価はかなり上がっているそうです。エスターライヒの物価は安く、それを安価で購入する。エスターライヒへの売価も安く抑えなければならないけれども、それでも利益が出るため、他国はこれまであたりさわりなくエスターライヒと交流を続けてきたそうです。どうせ1年経てばすべてを繰り返すのですから。対外的にはそれで問題は発生していなかった」
エスターライヒはこれまでダンジョンが発生して枯れるまでを一区切りとした1年草のような歴史を繰り返してきた。
その事実は800年分の書類で疑いようがない。800年間、魔女様がエスターライヒを繰り返させている。
魔女様はそのお力をその管轄する領域の安定に用いられる。ということは『エスターライヒが繰り返さなければ領域の安定が破壊される』ということなのだろう。その意味はわからない。
そして各部の記録によって新たな事実が判明した。わけがわからない。
マリオン・ゲンスハイマー。
何故だ。ゲンスハイマー家はただの男爵家のはずだ。なのに何故物事の中心にいる。
「もう1つ、このマリオン・ゲンスハイマーとは何者なのだ」
「マリオン嬢が何なのかは私にもわかりません。けれども多くの場合、繰り返しの中心にいるのは彼女です」
「そのマリオン嬢が繰り返しの原因なのか?」
「いえ、そうともいえるし、そうではないともいえるでしょう。今回繰り返していない原因は、おそらくマリオン嬢とウォルター・ビアステットとの婚姻の不成立です」
「もし婚姻していたらどうなっていたんだ?」
「おそらくですが……新しい1年が生まれたでしょう」
各所の記録、特に典礼を担当する儀典部の保持していた記録から導かれる恐るべき結論。
それは800年の間、4割程はマリオン・ゲンスハイマー嬢のパーティがグローリーフィアを倒しているという事実だ。そして残り2割り程度がゲンスハイマー家の許可証を有したパーティがグローリーフィアを倒している。それらの度に国を上げて大きな祝祭を開いている。残り4割程がグローリーフィアは倒されていない。
要するに、ここから導かれる結論はグローリーフィアを倒したことがあるのはゲンスハイマー家が関係したパーティだけなのだ。
そしてダンジョンが倒された場合、その時点以降、エスターライヒは凍結されて他国の誰も立ち入れなくなる。そしてきっかり1年が経過した時点でそれまでの記録が失われ、新たな1年が開始する。
そしてダンジョンが倒されない場合にもグローリーフィア迷宮発生時から丁度1年経過すればそれまでの記録が失われて新しい1年が開始する。
「エリザベートよ、ゲンスハイマー家とグローリーフィアとの間に何らかの関係があるというのか……?」
「ゲンスハイマー男爵家の領地は王都から遠く離れています。そして男爵家は比較的新しい家ですが、それでも150年ほどの歴史があり、その記録に特筆すべきものはありません。むしろ特筆すべきはいずれの場合も、私は冒険者ギルドの記録を確認しましたが、ダンジョンが踏破されていない場合においてもマリオン嬢は冒険者ギルドに登録しています。つまり特異点があるとするならばそれはゲンスハイマー家ではなくマリオン嬢です」
「勇者……」
私に典型のように訪れたその小さな呟きは議場のすべての耳目を集めた。
「アルバート?」
「エリザベート。マリオン嬢の履歴は私も調べた。ウォルターのパーティの一員として不適切でないかを調べるために。マリオン嬢は男爵家の危急を助けるために冒険者登録をしたのだ。何らかの陰謀に巻き込まれている節などはなにもない。そこを中心に調査を行ったのだからそこを誤る可能性は少ないだろう。それにウォルターのパーティに加入したのは偶然だ。記録を見てもそうとしか思えない。……ただの貴族令嬢だった。そしてそれはここにいる多くの者もそう認識しているはずだ」
「ええ、それはそうだけれど」
「とするならば、マリオン嬢は『勇者』なのだと思う。このグローリーフィアを倒すことを運命づけられた『勇者』。だからマリオン嬢にしかグローリーフィアは倒せない、のかもしれない」
「しかし倒すと巻き戻ってしまうのだろう?」
「けれどもこのままでも巻き戻らないという保証はない」
「それでは一体どうすればいいというのだ!」
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