ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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7章 エルフの森の典型的で非典型なイベント

ビアステット家のいけ好かない従兄弟

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「何人くらいだ? おかしな動きは?」
「2パーティ、約20名です。特に動きはありません」
「そうか、放っとけ。進むぞ」

 俺はアーバン家から借りた人工6名と護衛3名と共にエルフの森から転移陣に向かっていた。
 エルフの森を攻撃しようとするパーティの存在。だからイベント自体は進行している。俺が技術ツリーをスキップしているように、イベントというものも色々なものをスキップして発生し得るのだろう。
 ダンジョン内で他のパーティを攻撃することは禁じられている。だから俺たち自身を攻撃する可能性は極めて低い。

 それにしてもビアステット家か。
 王族は大臣などの役職として以外、直接貴族と接触しないし話さない。先代当主、俺の爺さんという人とは俺が廃嫡してから何度か話したが、それでも直接話すのは初めてだった。ビアステット領というのにも行ったことがない。確か王都の北方にあるのだったか。そのくらいあやふやだ。
 公爵家には10枚の許可状が発布される。だから今は20人程度でも本気でエルフの森を攻めるときは100人体制は確実で、少なくともその半分は戦闘員だろう。39階層まで潜った奴らが50か。
 それにおそらく他のパーティも加入するだろう。最大何人にまで増えるのかな。けど、それにしたってエルフは200人くらいいて高地に陣取っている。それを相手にするんだ、それほど簡単なことではないだろう。

 俺だったらどうするかな。
 やっぱ木なんだから火攻めだな。けれども今、マリーがあの木々に防火の術式を刻んでいくはずだ。そうそう容易には燃やし続けることは困難だろう。それに燃やしたらエルフの財も何も丸焼けになるだろう?
 というかエルフの森の1番の財は神樹をはじめとした木材資源だ。焼いてどうする。ユニークアイテムはあるにはあるが、それにしたってそのままじゃ一緒に焼け落ちるだけだろう。

 その他と考えるとやっぱりエルフ自身かなぁ? ザビーネが言ってたけど奴隷にすんのかな。
 俺はあんまりそういうの萌えないしなぁ。やっぱラブラブがいいじゃん?
 でもまぁエルフはつるぺたばっかだから興味ない。せめて前世の彼女くらいぽよぽよしてくれてればいいのに。はぁ。この世界の女はマリーにしろエリザベートにしろ、俺の周りにはつるぺたしか発生しかいないのかよ。セバスチアンの店もつるぺ……あぁセバスチアンは特種性癖だからなぁ。

「ウォルター様、2名近づいてまいりました」
「うん?」

 見上げると2人の男が近づいてくる。
 1人は獅子を思わせる赤い蓬髪の巨躯。遠目に見てもすんげぇ偉そう。あれがカステッロ・ビアステットか。
 それから、うん? 隣にいる長身緑髪のつるぺた瘦身は『魔王の渇き』ギローディエ? あいつは常闇の33階層にいるはずじゃ。それにしても俺の周りに現れる女はスリムすぎるだろう。
 2人は俺たちから2メートルほど先で足を止める。

「貴殿が従兄弟殿ということでよろしいか」
「そうだな。初めましてだ」
「ふん。俺はカステッロ・ビアステットだ。お初お目にかかる」
「ウォルターだ」

 カステッロは俺を上から下までジロジロと眺める。こいつ、俺を馬鹿にしてんな。さすがにわかりやすい表情に出したりはしないようだが、日本人は恐ろしく空気を読むんだよ。この世界の人間が想像できない精度でな。
 全く何の用だよ面倒臭ぇ。
 俺は忙しい。

「何か用か?」
「いや。従兄弟殿と親交を深めたいと思ってな」
「親交ねぇ」
「それは何をされているのだ?」
「交易だよ。エルフの森から資材を買い取ってるのさ」
「買い取らずとも奪い取れば良いのでは?」

 鼻で笑われてしまった。
 脳筋的発想だな、というより常識がそもそも違うのだ。面倒臭ぇな。俺とこいつは相容れない空気がぷんぷんする。理解を求めても仕方がない手合いだろう。せいぜい相容れないことを前提に交渉するしかない。理解を求めようとするから交渉がなりたたなくなるのだ。
 交渉。エルフの森。必要なのは情報か。だがこの雰囲気ではそれもままならないだろう。

「お伺いしたいがどのように攻めるおつもりだ? エルフの森は地の利があり高所から矢と魔法が降り注ぐ。エルフの森の倍以上の人員が必要なのでは?」
「ほう。従兄弟殿はなかなか慧眼であられるな。だがそんなものはやりようによるのだ」
「ねぇカステッロ様。本当にこの方が予備なの?」

 予備?
 ああ、ビアステット家は2人当主体制だったな。
 ビアステット家では長男と次男が全てを分け合い、各代2組ずつの血族会議で方針を決定すると聞く。

「せっかくだから言っておくが、俺はビアステット家に入るつもりはない」
「ほう。奇遇だな。俺も入れるつもりはない」
「気が合うな。ただ、敵対する気もない。それじゃあ失礼する」
「ああ、ではな」

 いけすかないと思っているのはお互い様だろう。『またな』とは言われなかった。俺の名を呼びもしなかった。まあそれもお互い様だ。
 つまりはそういうことだ。お互い友好的にするつもりはないということだ。少なくとも現時点では。エルフの森を挟んで敵対しているしな。

 うーん。
 なんだかイラつく。そういえばゲーム設定上もウォルターとカステッロの相性はあんまり良くなかった気がするな。そういうのも響いているのかもしれない。
 やはりザビーネの言う通りカステッロはエルフの森を攻めてくる。『幻想迷宮グローリーフィア』でエルフの森を攻めてくるのは『貴族』としか表示されていなかったが、ビアステット家なのか。あるいはもとよりランダムなのか。
 あの感じでは俺がいてもいなくても攻めてくるんだろうなぁ。本当に面倒だぜ。
 それにしてもギローディエは何故カステッロに付いている。エルフなのに。
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