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7章 エルフの森の典型的で非典型なイベント

エルフの森のエルフはモンスターではない、はず

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「60名であればエルフの森が負けることはないでしょうけれど、もうしばらく膠着するか諦めてほしいところですね」
「マリオン様はダンジョンの者でも親エルフ派なのですね」
「ダンジョン……? ああ。ここのエルフはおそらくリポップ再出現しない類のエルフなのだと思います」
「ダンジョンなのに……? そんなことがありうるのでしょうか」

 ダンジョンのモンスターはポップする。
 野良亜人というか、ダンジョンのなかでポップする亜人やエルフもいる。けれどもここのエルフは一度滅べばリポップしない。
 あれ? 何故だろう。

「ザビーネ様も28階層でリポップしないユニークモンスターに遭遇されたのでしょう? そのような存在は一定ありうると思います」
「それは、いえ、そうですね。確かにリポップしないモンスターもいます。ここのエルフも同様とお考えの根拠をお教え願えますか?」

 それは私が『幻想迷宮グローリーフィア』をプレイしてリポップしないことを知っているからだけれど、けれどもそれ以外にもここには説明になりそうな特殊性がいくつかある。
 ここをセーフティポイントにしているのはエルフの森の中心である神樹アブハル・アジド。そして神樹アブハル・アジドもユニークモンスターでリポップしない。

「エルフの森はセーフティゾーンになっています。セーフティゾーンは通常の悪意ある、ダンジョンでポップするような存在は入れません。とすればエルフの森のエルフは通常のモンスターとは異なると思われます」
「なるほど、たしかに」
「それからエルフの森には文化があります」
「文化、でしょうか」
「そう。その積み重ねがあるとしか考えられない。あの重層的に複雑に築き上げられた回廊や自然に組み込まれた家屋。エルフの森は独自の技術や文化体系を持っていると思います。そういったものも含めていきなりポップすると考えるのは難しいのではないでしょうか」
「そうするとあのエルフの森は随分前から存在するとおっしゃるの? このダンジョンは1年と少し前に現れたばかりですのよ」

 ザビーネ嬢は理解しかねるという様子で眉をしかめた。
 そこがわからない。けれどもエルフの森のエルフたちは長年あそこに住み続けていると自己認識している。1年4ヶ月ほど前にダンジョンができたとすると確かにおかしい。けれども少なくとも、『幻想迷宮グローリーフィア』ではエルフの森はリポップしなかった。

「ザビーネ様のおっしゃることはわかります。確かにグローリーフィアが出来た時期を考えると全くあわないもの。でも可能性はあると思いますし第一」

 エルフの森の周辺をぐるりと一通り回って、私たちは再びエルフの森の勢力圏内に戻ってきていた。
 見上げるとそのまま後ろに倒れてしまいそうな巨木で構成された森。年季の入った階段やそこからつながる集落。

「こんな立派な集落が突然現れて、そして滅んでも一晩経てばまた現れる、とは思えないのです」
「それは…そうですね」

 ザビーネと別れて再びジャスティンと2人でエルフの森を回る。
 今までのは所謂敵情視察。ここからは防衛戦の構築のためだ。設置型の術式陣を刻むにはどこがよいのか、どのような術式を付与するのが効果的かを確認して回る。
 対人戦と考えればやはり行動阻害などの効果。けれども設置型にするとエルフにも効果を及ぼす。そうすると冒険者だけが通るような動線を作る必要がある。動線。ウォルターが言っていた考え方。そして『幻想迷宮グローリーフィア』ではたいていの場合、火が掛けられるから防火効果。効率的に防火をするためには消火設備を併設したほうがいいのだろうけれど、これだけ広いと一朝一夕にはいかない。

「マリオン様。冒険者はやはり攻めてくるのでしょうか」
「そうね。おそらくは。そしてこの森は火に包まれる、可能性がある」
「火に……これほど広いのにそんなことは可能なのでしょうか」
「どうやるのかはよくわからない。私の夢はとても断片的で、気がついたら森が燃えて追われていたから」

 『幻想迷宮グローリーフィア』はあくまで主人公視点でイベントが進む。主人公が戦っている間にも、別の地点で複数のパーティによる攻防があり、おそらくその何処かが突破されるのだろう。主人公が気がついたときには、エルフの森は炎に包まれている。だから誰がどうやって火をつけ、森が燃えるのかはわからない。
 けれどもジャスティンには説明しづらいな。ゲームというとあまりにあまりだから夢で見たということにはしたのだけれど。

「夢の中では燃えたエルフの森はリポップしなかった。だからおそらくこのエルフの森もリポップしないと思う。こんな立派な施設がリポップするとはとても思えない。けれどもザビーネ様がおっしゃることも確かで、この迷宮ができたのは1年4カ月ほど前。どう考えても時間が合わない」
「私も午前の会議では、彼らが1年そこらで出現した方々のようには思われませんでした。長くこのエルフの森に住まわれているように感じます」
「やっぱりそうよね」
「それにこの階段や道。経年の変化による黒ずみや同化が見られます。所々に数十年、場合によっては数百年の歴史を感じる。そもそもリポップとは何なのでしょうか。どういう原理で起こるのでしょう。生まれて育つわけでもなく、そのままの姿で突然現れるのですよね」

 リポップ?
 ダンジョンで倒したモンスターが再び現れること。
 そう考えるとたしかに妙な気がする。低層階であればそれほど広くはないから複数パーティであたれば階層全てを殲滅することもおそらく不可能ではない。けれども一定時間が立つとモンスターは再び復活する。大人の姿で。いったいどこから現れているの?

「ねぇジャス。リポップするモンスターって個体差はあるものなの?」
「個体差、ですか?」
「そう。全く同じモンスターが発生するのか、それとも同種の異なる個体が発生するのか」
「それは……なんともいいかねます。たくさんのモンスターがいますしリポップしたものと遭遇しているのかどうかすら区別が付きません。そうですね……低層階のボスを周回すればわかるのかもしれませんが」
「そうすると、全く同じものということも考えがたいわよね。入る度に配置や種類なんかが少しずつ違うし、ギルドには階層ボスには個体差があるように報告されているもの」

 そうするとリポップというのはコピーアンドペーストのように無から有を機械的に作り出すものではないのか。
 可能性としてはどこかダンジョン外から合致する個体を強引に転移させて連れてくる。
 あるいは遺伝子情報やなんかのバリエーションがあるものが保管されていて、その中から急速培養・育成する。
 なんとなくSFっぽい。
 というよりこの『ダンジョン』っていうものはそもそも何なんだろう。
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