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6章 転生者の自発的な選択とそれによって変化する未来

エルフの森との協定締結

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「改めて尋ねる。貴殿らは何故エルフの森との協定を望むのか。こちらとしては有り難いが貴殿らに利はなかろう」

 エルフの森の奥の奥、世界を覆うと思われるほど巨大な神樹のうろの中に設けられたエルフの中枢に私たちは困惑とともに招かれた。そこには外見年齢ではせいぜい30代くらいにしか見えないけれど、長老と呼ばれるエルフが6人待ち構えていて、そこでエルフの森を取り巻く原状についての状況について説明を受けた。

 最近。39階層の攻略が滞って以降、この階層に滞在する冒険者が増えているそうだ。そしてその狙いはおそらくこの森の資材、それから若いエルフ。ダンジョン内の生物はモンスターだ。エルフの森のエルフも同様で、テイム、つまり奴隷にしても問題がない。その考えは真理としての私は酷い違和感をおぼえるけれど、それ以前のマリオンとしての私の常識の中では当然のことだった。
 そうはいってもこのエルフの森には200人近くのエルフが住んでいる。それにエルフには地の利があり、場合によってはドライアドなどのこの階層に住むモンスターに協力を頼むことも不可能ではない。
 いかに貴族家のパーティーといえど、安易に攻め込める規模ではない。
 エルフの森のイベントがスタートしているのであれば、何もしなければエルフの森は焼き払われるだろう。けれどもこのエンディング後の世界ではイベントがスタートしなくても、エルフの森は焼き払われる可能性はある。もちろん攻めてこない可能性もあるけど、サビーネから聞いた話でもその公算は低い。ザビーネのパーティ自身もエルフの森攻略を勧誘されたというのだから。

「利はあります。私たちは土瀝青を手に入れたいのです。この土地の方は漆黒土と呼んでいるものです」
「あのようなおりをどうするつもりなのだ」
「ダンジョン外では防水などの様々な用途に用いるのです」
「ふうむ」

 その反応は半信半疑、といったところ。
 土瀝青はエルフの森には無用の長物どころか不要なものなのだろう。エルフは自然のままに暮らすことを良しとしている。だからわざわざ道を舗装することもないし、降り落ちる水を人工的に止めようとも思わない。

「それからお許し頂けるのであれば、狩りや斥候の技術、投擲や短弓の技術をこのジャスティンにご教示願いたいのです」
「是非ともお願い申し上げます」

 ジャスティンが深く頭を下げる。
 エルフは狩と隠密に優れている。ジャスティンの特性にとても合う。ザビーネたちが主に用があるのはアレクとソルだろう。それであればその間、ジャスティンはこのエルフの里で学びながら他のパーティの動きなどを探るのがよいだ。昨日そう話し合った。

「代わりにこちらは術式装備の技術をお伝えします。この森の皆様にはとても有用なものとなるでしょう。そしてその材料として、私どもが使用するためにお許し頂ける範囲で木材などを購入させて頂きたいのです」

 いくつかの装備を試してもらう。わかりやすい機能は素早さや攻撃力が増加するもの。
 エルフは木気と相性の悪い金属鎧や金属の大剣は好まない。精々金気のものはナイフくらいで、だから革鎧や木を材料とした弓や盾を主要な装備としている。皮や木であれば術式を刻むのは容易だろうから、エルフの森としても利益となるずだ。それにウォルターが言っていた、固定型の術式というものの実証実験の共同研究が行えればと思っている。それに第一に、エルフを強化することはエルフの森の防衛難度に直結する。
 その後も話し合いを深め、最終的にゲンスハイマー家とエルフの森は協定を締結することになった。
 協定を締結しているのは私たち以外には1組しかおらず今はこの階層には滞在していないそうだ。

 少し困ったな。『幻想迷宮グローリーフィア』でのイベントでは、もう少したくさんのパーティが防衛側に参加して、攻撃側、つまり襲ってくるパーティと協力して戦う、つまりレイド戦になるものなのだけれど。
 ザビーネのパーティも協定を結んでくれたりは……しないだろうなぁ多分。他のパーティにとって、セーフティゾーンという以外にこのエルフの森を守る利益やメリットは乏しい。
 ともあれ無事に協定は締結され、ジャスティンには追って師を紹介して頂くことになった。土瀝青については素材自体が危険なものであることと、このエルフの森の奥まったところにあることから、念の為にエルフの森が監督要員を1名つけることになった。
 午後からはザビーネとの打ち合わせがある。ソルはもう少し話したいことがあると言って1人残り、私たちは先に昼食を取ることにした。
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