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6章 転生者の自発的な選択とそれによって変化する未来
エルフの森の素敵なコテージ
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「ウォルター、私はエルフの森と同盟を組むけどあなたはいいの?」
「何がだ? 必要なんだろ?」
ウォルターは廃嫡されたけど一応は王家? いえ、今はビアステット公爵家? 物凄く微妙な立場にいるような。そもそも商人としてここにいるなら、貴族の身分やパーティーとは無関係なの?
よくわからないけどウォルターが良いというならいいか。
ともあれ森の入口を守るミルリーヌを残してエアリーヌと共に大樹を登る。
成人していないエルフはセーフティゾーン内でエルフの森の警護を行っている。イベントで出会うはずだったエルフも同じ。
エアリーヌに続いて巨木の外周に穿たれた螺旋状の階段を緩やかに登ると、いつのまにか高度は上がり、下を見下ろすと手をふるミルリーヌが小さく見えた。
「こっえ。こっえ」
「あらウォルター、あなた高所恐怖症なの?」
「んなこたないが普通は手すりとかあるだろ、こういうアトラクションは」
「ばーか。落ちやしねぇよ。お前運いいんだろ?」
「うっせ。運良くても落ちるときゃ落ちるんだよ」
ソルとウォルターが言い合っている。
確かに段の幅は1メートルほどはあるし、重なっているから踏み外したりはしないだろう。けれどもそう言われると、なんだかちょっとだけ怖くなってきてしまった。ここは前世と違って安全性が保証されていない世界。
進むうちにわずかに見えていた地面も複層的な枝葉に隠れ、ってことは高度は更に上がっているから下から見た光景を思い出せば足は震えてくるんだけれど、とりあえず前を歩くエアリーヌの背中だけを見つめながらゆっくり登れば平たく開けた集落に行きつく。
エルフの森の家々はそれぞれの樹々をくり抜いて作られることもあるけれど、このように樹々の枝が組み合わさり或いは編まれてできた平らな場所の上で集落を形成することもある。足元は少しぎしぎし揺れるけれど、さっきの階段に比べると広くて安定感は高い。
エルフの森ではこういった樹上集落が大きな樹木が重なり合うたびに形成され、それは森とエルフたちがお互いに助け合い寄り添って暮らしている姿を思い起こさせる。
「本日は宿でおくつろぎ下さい。明日までにはこの村の代表に話を通しておきますね」
「エアリーヌさん、助かりましたわ」
「こちらこそ命を助けて頂きましたもの、恩返しをさせて頂かなくては」
「ところで他の冒険者パーティが滞在しているかどうかを知る方法はあるのでしょうか」
「他のパーティですか。後ほど知らせるよう管理人に言付けておきます。では失礼いたします」
そう言ってエアリーヌは部屋を辞した。
私とジャスティンで1つ、アレクとソル、グラシアノとウォルターで1つのコテージを借りた。ウォルターたちがもめないといいけど。
エアリーヌの紹介だからか、案内されたのは上等な宿に思える。ログハウスのように丸太で組まれた家の中には1つの広間と小さな客間、それから2つの寝室。そのほか広間の一面は広いウッドデッキに繋がって、そこからはこの領域の多くの樹々を下に見下ろせた。ざわざわと針葉樹林の樹頭がたくさん突き出ていて風に揺れ、はるか遠くの雪のかぶる峻烈な山々の麓まで広がっている。どことなくドイツの高山地帯っぽい。
木の上に作られた木の家。
グランピングってこんな感じなのかなと前世で見たテレビのCMを思い出す。
そういえばインドア派のミフネが森林描かなきゃなんねぇとか言って突然キャンプに行こうって誘われたことがあった。将光が面倒くせぇって言ったけど、ミフネが1人でも行くって全然ゆずらなくて。
でもミフネって危機管理能力がいまいちっていうか方向感覚が残念なところにあるから、絶対に遭難するって止めて、結局中学の時の遠足で登った電車で1時間くらい行ったところの籠屋山っていう山の中腹にあるキャンプ場でテントを借りて一泊したんだ。
あれはゴールデンウィークだったかなぁ。ミフネは馬鹿みたいな薄着でやってきて、寒い寒いって言ってた。将光は無駄に防寒着を持ってきて重い重いって言ってたからそれを貸し借りするとちょうど良くって。それで結局朝までテントに寝転がってwifiで『幻想迷宮グローリーフィア』をプレイしてて。
それで朝になってお前何しに来たの、森林描くんじゃないのって将光が突っ込んだから、そうだったと叫んだミフネが慌てて外に出た。そうしたら眼下に見える山や丘の間に綿菓子がぷかぷか浮かぶみたいに雲海ができていて、そこに朝日が差し込んで金色のふわっふわのもこもこになっていた。あれは物凄く綺麗だった。
懐かしいな。
ここはダンジョン内だから時間の経過は外とは違う。白夜というほどではないけれど、この32階層は日の入りが遅く日の出が早い。だからまだ明るいけれど、踏破してきた距離や体の疲れを考えるともう夕方も遅い時間帯だろう。
ザビーネたちが近くの集落に宿をとっていることを聞き、明日の午後に待ち合わせる連絡を依頼する。
そして改めて食事処に集まって晩ごはんを食べながら、簡単に翌日の打ち合わせをする。
私はイベントを強引に進めている。ゲームでは協定はしばらく森に滞在してから発生するイベント。けれどもイベントのスタート地点にいるのかどうかがよくわからない。イベントルートに乗っているのかすら。なら、強引に進めてみよう。
明日からは多分、忙しくなる。
たくさんのやらないといけないこと。
そして発生しうるイベント。
けれど、その夜私はジャスティンといろいろな話をした。それは『幻想迷宮グローリーフィア』では発生するはずのない、私のイベント。
「何がだ? 必要なんだろ?」
ウォルターは廃嫡されたけど一応は王家? いえ、今はビアステット公爵家? 物凄く微妙な立場にいるような。そもそも商人としてここにいるなら、貴族の身分やパーティーとは無関係なの?
よくわからないけどウォルターが良いというならいいか。
ともあれ森の入口を守るミルリーヌを残してエアリーヌと共に大樹を登る。
成人していないエルフはセーフティゾーン内でエルフの森の警護を行っている。イベントで出会うはずだったエルフも同じ。
エアリーヌに続いて巨木の外周に穿たれた螺旋状の階段を緩やかに登ると、いつのまにか高度は上がり、下を見下ろすと手をふるミルリーヌが小さく見えた。
「こっえ。こっえ」
「あらウォルター、あなた高所恐怖症なの?」
「んなこたないが普通は手すりとかあるだろ、こういうアトラクションは」
「ばーか。落ちやしねぇよ。お前運いいんだろ?」
「うっせ。運良くても落ちるときゃ落ちるんだよ」
ソルとウォルターが言い合っている。
確かに段の幅は1メートルほどはあるし、重なっているから踏み外したりはしないだろう。けれどもそう言われると、なんだかちょっとだけ怖くなってきてしまった。ここは前世と違って安全性が保証されていない世界。
進むうちにわずかに見えていた地面も複層的な枝葉に隠れ、ってことは高度は更に上がっているから下から見た光景を思い出せば足は震えてくるんだけれど、とりあえず前を歩くエアリーヌの背中だけを見つめながらゆっくり登れば平たく開けた集落に行きつく。
エルフの森の家々はそれぞれの樹々をくり抜いて作られることもあるけれど、このように樹々の枝が組み合わさり或いは編まれてできた平らな場所の上で集落を形成することもある。足元は少しぎしぎし揺れるけれど、さっきの階段に比べると広くて安定感は高い。
エルフの森ではこういった樹上集落が大きな樹木が重なり合うたびに形成され、それは森とエルフたちがお互いに助け合い寄り添って暮らしている姿を思い起こさせる。
「本日は宿でおくつろぎ下さい。明日までにはこの村の代表に話を通しておきますね」
「エアリーヌさん、助かりましたわ」
「こちらこそ命を助けて頂きましたもの、恩返しをさせて頂かなくては」
「ところで他の冒険者パーティが滞在しているかどうかを知る方法はあるのでしょうか」
「他のパーティですか。後ほど知らせるよう管理人に言付けておきます。では失礼いたします」
そう言ってエアリーヌは部屋を辞した。
私とジャスティンで1つ、アレクとソル、グラシアノとウォルターで1つのコテージを借りた。ウォルターたちがもめないといいけど。
エアリーヌの紹介だからか、案内されたのは上等な宿に思える。ログハウスのように丸太で組まれた家の中には1つの広間と小さな客間、それから2つの寝室。そのほか広間の一面は広いウッドデッキに繋がって、そこからはこの領域の多くの樹々を下に見下ろせた。ざわざわと針葉樹林の樹頭がたくさん突き出ていて風に揺れ、はるか遠くの雪のかぶる峻烈な山々の麓まで広がっている。どことなくドイツの高山地帯っぽい。
木の上に作られた木の家。
グランピングってこんな感じなのかなと前世で見たテレビのCMを思い出す。
そういえばインドア派のミフネが森林描かなきゃなんねぇとか言って突然キャンプに行こうって誘われたことがあった。将光が面倒くせぇって言ったけど、ミフネが1人でも行くって全然ゆずらなくて。
でもミフネって危機管理能力がいまいちっていうか方向感覚が残念なところにあるから、絶対に遭難するって止めて、結局中学の時の遠足で登った電車で1時間くらい行ったところの籠屋山っていう山の中腹にあるキャンプ場でテントを借りて一泊したんだ。
あれはゴールデンウィークだったかなぁ。ミフネは馬鹿みたいな薄着でやってきて、寒い寒いって言ってた。将光は無駄に防寒着を持ってきて重い重いって言ってたからそれを貸し借りするとちょうど良くって。それで結局朝までテントに寝転がってwifiで『幻想迷宮グローリーフィア』をプレイしてて。
それで朝になってお前何しに来たの、森林描くんじゃないのって将光が突っ込んだから、そうだったと叫んだミフネが慌てて外に出た。そうしたら眼下に見える山や丘の間に綿菓子がぷかぷか浮かぶみたいに雲海ができていて、そこに朝日が差し込んで金色のふわっふわのもこもこになっていた。あれは物凄く綺麗だった。
懐かしいな。
ここはダンジョン内だから時間の経過は外とは違う。白夜というほどではないけれど、この32階層は日の入りが遅く日の出が早い。だからまだ明るいけれど、踏破してきた距離や体の疲れを考えるともう夕方も遅い時間帯だろう。
ザビーネたちが近くの集落に宿をとっていることを聞き、明日の午後に待ち合わせる連絡を依頼する。
そして改めて食事処に集まって晩ごはんを食べながら、簡単に翌日の打ち合わせをする。
私はイベントを強引に進めている。ゲームでは協定はしばらく森に滞在してから発生するイベント。けれどもイベントのスタート地点にいるのかどうかがよくわからない。イベントルートに乗っているのかすら。なら、強引に進めてみよう。
明日からは多分、忙しくなる。
たくさんのやらないといけないこと。
そして発生しうるイベント。
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