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6章 転生者の自発的な選択とそれによって変化する未来
漸く気づいた英雄の必要性、圧倒的な個の力
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人の範疇を超えた力をもって世界を渡る一握りの存在。例えば勇者、剣聖、魔人、賢者、魔女の御使い。その1人で国をも滅ぼす力を有する者たち。ようは夢物語の登場人物たちだ。
そのような者は確かにいる。だが雇う、従わせるには莫大な報奨が必要だ。それにそのような者たちはそもそも金を求めるレベルにはいない。だからどだい『雇う』という行為には向いていない。
そして英雄を育てようとすることはさらに愚かしい行為。英雄とはそもそも育てられるようなものではないのだから。
けれどもダンセフェストを倒すにはその力が必要なのだろう。
幸いにも1人だけ、酔狂にもこのダンジョンに潜っている賢者がいる。ソルタン・デ・リーデル。賢者の塔を出たばかりのまだ新しい賢者。それにアレクサンドル・ヴェルナー・ケーリング。私たちが一緒に旅をしたあの時点ですら、騎士としての力量はこの階層に留まる誰よりも上、だったと思う。
そしてその証拠に2人が所属するマリオン・ゲンスハイマー嬢のパーティは先日たった5人で、さらに驚くべきことにたった1日でアイス・ドラゴンを撃破したという。そんな記録がパーティのダンジョン入退出記録に綴られていた。
みんなはありえない、実際はパーティメンバーを残してマリオン嬢だけダンジョンを出入りし、何日もかけて倒したのだろうというけれど、あの2人の力では不可能ではないのかもしれない。そう確信する。その5人のうちの1人にウォルターが紛れているのがよくわからないけれど。
「ともあれ必要なものはダンセフェストを打倒する一個人の力。実入りはさておいたといても、今優先すべきはダンジョン踏破です」
「それには同意だ。踏破の報奨金は大きいだろう。しかし本当にあのダンセフェストを倒す人間を鍛えようというのか? 倒せる者の訪れを待って借り受ければよかろう?」
「しばらくは試してみたいと存じます。カステッロ様もごきげんよろしゅう」
「ああ、まぁ精々頑張るのだな」
ひらひらと手を振りながらカステッロは自陣営に戻っていった。
なんとなくカステッロが早々にこの階層を放置する理由はわかる。いずれは誰かが39階層を突破、つまりダンセフェストを倒さなければならない。けれどもそれは誰でも良いのだ。そこにリソースを割かなくとも、ダンセフェストを倒した者を高額で借り受ければ自パーティも突破できる。
貴族にとって一般の冒険者や部下など消耗品だ。だから金を積めば借りられるものだ。一時的にパーティに加入させてリポップしたダンセフェストを倒させればいい。
ここまでの貴族家は、連合を組み、総合力を高めてダンジョンを進んできた。ここからたった一人の英雄を育て上げるのは大変な労力を要する。わざわざ自分で強者を育ててその間の実入りを失うより、自分たちは採掘に専念してその実入りの一部で誰かを雇うほうがいい。その方が私財の投資先としては理にかなっている。何せ貴族家は自領を富ませるためにダンジョンに潜っているのだから。貴族としてはそれが正しい考え方だろう。
私のアーバン家も含め、多くの家が複数パーティを連合してこのダンジョンを下ってきた。それは自パーティの戦力を高めるより、そのほうが効率がいいからだ。
下の階層のほうがより貴重なものが埋まっている。だから降りられるところまで数の力で押しつぶす。それが正しいダンジョン踏破。
そういえばフレイム・ドラゴン戦の前にウォルターに何故ボス戦なのに連合を組まないのか聞いたことがある。
その時の答えは、当時の私には到底理解不能なものだった。
「レベルを上げなきゃ下で戦えない」
「そんな時こそ助けあえばよいのではないでしょうか」
「そうはいってもそのうちタイマンはらないといけない時がくる」
「タイマン、ですか? モンスターと一騎打ち?」
「あぁ」
最初はそんな馬鹿なこと、と思った。けれどもたしかにその時は訪れた。
多くの人数でモンスターを倒すよりは、少人数でモンスターを倒すほうが練度が上がりやすい。
だから私も、ハンナもカリーナも、このアーバン家のパーティ連合に入っている今よりウォルターのパーティに入っていた時の方が練度は上がっていた、気がする。
それはそうだろう。何せ必死なのだ。気が抜けない。本当にこの3人きり。誰かが怪我をしたら。誰かが動けなくなったら。僅かなほころびが容易に死を運んでくる。そんなヒリヒリとした緊張感が隣り合わせにあった。余裕など無い。
一方の今は安心感がある。怪我をしたり疲れれば、交代の要因がいる。何かあれば回復してもらえる、その手段がある。
けれどもダンセフェストとの戦いにはそれがない。
たった1人で敵と対峙しなければならない。
ハンナも一度トライしたけれど、やはりウォルターのパーティとの戦闘が思い起こされたそうだ。
ウォルターのパーティでは私たち3人、マリオン嬢のパーティではマリオン嬢はバッファーでジャスティンは従者というから実質的な戦闘員は2人だろう。そしてマリオン嬢のパーティはアイス・ドラゴンを2人で超えられるほどの練度を保持している。どれほどの紙一重を積み重ねて30階層まで到達したんだろう。
だから2人になんとか教えを請えないか。私たちを鍛えてもらえないか、そう思っている。
結局の所、この個人の力の重要性、というものをこの期に及んでも誰も重視しないのだ。私と一緒に死地を抜けてきたハンナとカリーナの2人以外は。私の家のパーティですら。
私たちも3人で7日をかけてフレイム・ドラゴンを倒した。けれども普通のパーティにとっては30人で1日で抜けるほうが重要だ。
だから私は2人を連れて、他のメンバーには採掘を託して31階層に上ることにした。
そのような者は確かにいる。だが雇う、従わせるには莫大な報奨が必要だ。それにそのような者たちはそもそも金を求めるレベルにはいない。だからどだい『雇う』という行為には向いていない。
そして英雄を育てようとすることはさらに愚かしい行為。英雄とはそもそも育てられるようなものではないのだから。
けれどもダンセフェストを倒すにはその力が必要なのだろう。
幸いにも1人だけ、酔狂にもこのダンジョンに潜っている賢者がいる。ソルタン・デ・リーデル。賢者の塔を出たばかりのまだ新しい賢者。それにアレクサンドル・ヴェルナー・ケーリング。私たちが一緒に旅をしたあの時点ですら、騎士としての力量はこの階層に留まる誰よりも上、だったと思う。
そしてその証拠に2人が所属するマリオン・ゲンスハイマー嬢のパーティは先日たった5人で、さらに驚くべきことにたった1日でアイス・ドラゴンを撃破したという。そんな記録がパーティのダンジョン入退出記録に綴られていた。
みんなはありえない、実際はパーティメンバーを残してマリオン嬢だけダンジョンを出入りし、何日もかけて倒したのだろうというけれど、あの2人の力では不可能ではないのかもしれない。そう確信する。その5人のうちの1人にウォルターが紛れているのがよくわからないけれど。
「ともあれ必要なものはダンセフェストを打倒する一個人の力。実入りはさておいたといても、今優先すべきはダンジョン踏破です」
「それには同意だ。踏破の報奨金は大きいだろう。しかし本当にあのダンセフェストを倒す人間を鍛えようというのか? 倒せる者の訪れを待って借り受ければよかろう?」
「しばらくは試してみたいと存じます。カステッロ様もごきげんよろしゅう」
「ああ、まぁ精々頑張るのだな」
ひらひらと手を振りながらカステッロは自陣営に戻っていった。
なんとなくカステッロが早々にこの階層を放置する理由はわかる。いずれは誰かが39階層を突破、つまりダンセフェストを倒さなければならない。けれどもそれは誰でも良いのだ。そこにリソースを割かなくとも、ダンセフェストを倒した者を高額で借り受ければ自パーティも突破できる。
貴族にとって一般の冒険者や部下など消耗品だ。だから金を積めば借りられるものだ。一時的にパーティに加入させてリポップしたダンセフェストを倒させればいい。
ここまでの貴族家は、連合を組み、総合力を高めてダンジョンを進んできた。ここからたった一人の英雄を育て上げるのは大変な労力を要する。わざわざ自分で強者を育ててその間の実入りを失うより、自分たちは採掘に専念してその実入りの一部で誰かを雇うほうがいい。その方が私財の投資先としては理にかなっている。何せ貴族家は自領を富ませるためにダンジョンに潜っているのだから。貴族としてはそれが正しい考え方だろう。
私のアーバン家も含め、多くの家が複数パーティを連合してこのダンジョンを下ってきた。それは自パーティの戦力を高めるより、そのほうが効率がいいからだ。
下の階層のほうがより貴重なものが埋まっている。だから降りられるところまで数の力で押しつぶす。それが正しいダンジョン踏破。
そういえばフレイム・ドラゴン戦の前にウォルターに何故ボス戦なのに連合を組まないのか聞いたことがある。
その時の答えは、当時の私には到底理解不能なものだった。
「レベルを上げなきゃ下で戦えない」
「そんな時こそ助けあえばよいのではないでしょうか」
「そうはいってもそのうちタイマンはらないといけない時がくる」
「タイマン、ですか? モンスターと一騎打ち?」
「あぁ」
最初はそんな馬鹿なこと、と思った。けれどもたしかにその時は訪れた。
多くの人数でモンスターを倒すよりは、少人数でモンスターを倒すほうが練度が上がりやすい。
だから私も、ハンナもカリーナも、このアーバン家のパーティ連合に入っている今よりウォルターのパーティに入っていた時の方が練度は上がっていた、気がする。
それはそうだろう。何せ必死なのだ。気が抜けない。本当にこの3人きり。誰かが怪我をしたら。誰かが動けなくなったら。僅かなほころびが容易に死を運んでくる。そんなヒリヒリとした緊張感が隣り合わせにあった。余裕など無い。
一方の今は安心感がある。怪我をしたり疲れれば、交代の要因がいる。何かあれば回復してもらえる、その手段がある。
けれどもダンセフェストとの戦いにはそれがない。
たった1人で敵と対峙しなければならない。
ハンナも一度トライしたけれど、やはりウォルターのパーティとの戦闘が思い起こされたそうだ。
ウォルターのパーティでは私たち3人、マリオン嬢のパーティではマリオン嬢はバッファーでジャスティンは従者というから実質的な戦闘員は2人だろう。そしてマリオン嬢のパーティはアイス・ドラゴンを2人で超えられるほどの練度を保持している。どれほどの紙一重を積み重ねて30階層まで到達したんだろう。
だから2人になんとか教えを請えないか。私たちを鍛えてもらえないか、そう思っている。
結局の所、この個人の力の重要性、というものをこの期に及んでも誰も重視しないのだ。私と一緒に死地を抜けてきたハンナとカリーナの2人以外は。私の家のパーティですら。
私たちも3人で7日をかけてフレイム・ドラゴンを倒した。けれども普通のパーティにとっては30人で1日で抜けるほうが重要だ。
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