ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

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6章 転生者の自発的な選択とそれによって変化する未来

スヴァルシン集め

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 グラシアノは自らが魔王の欠片であると言った。
 しかし今その繋がりは断絶していて何故自分が26階層にいたのかわからない。
 断片的にその記憶を思い出したのはクローズド・アイの特殊攻撃を受けた時だそうだ。
 その時に、おそらく重複する記憶の中で自分が魔王と繋がるものであることを知った。それは俺のダブついた記憶と同じ現象だろう。俺のありえない記憶も突然存在するのではなく、現在の小麦っ原の姿から徐々に様々な姿に変化していったのだから。そしてその時の俺は確かにその変化の速さに驚いでいた、ように思える。
 つまりその重複した記憶とはありうる未来、なのだ。

 つまりグラシアノは将来魔王と繋がる予定がある魔王に類する存在である。そしてグラシアノは自らが討伐の対象であると認識し、魔王に会わないといけないと認識している。
 アレクは下層階にいれば安全だと簡単に言うが事態はそう簡単ではない。

 グラシアノは魔族ではなく魔王だ。なんのために魔王が26階層に放置したのかはわからないが、ひょっとしたら自らが倒されたときのバックアップなのかもしれない。けれども何らかの理由でそれが破棄され繋がりが断たれた、のだとしたら。グラシアノとしてもそれを解明する必要があるのだろう。
 俺だってそんなどでかい不確定事項があるなら迷宮を潜るしかない。つまりグラシアノにとって好意的に扱う俺たちについてくることは利益なのだ。

 そしておそらくマクゴリアーテとスヴァルシンもグラシアノと同様の存在なのだろう。
 そうするとアレグリットもそうなのか、そこがよくわからない。
 アレグリットは最近エスターライヒに現れた。グラシアノと会ったのと同じ頃合いだ。
 そうするとアレグリットもグラシアノのいう魔王の欠片、とやらなのか。確かに見た目はグラシアノやマクゴリアーテによく似ている。
 グラシアノの話す魔王は長身で長髪の黒髪黒目でグラシアノと同様に尻尾と角がある。アレグリットは長身黒目といった点は当てはまるが、角や尻尾はなさそうだ。魔王、といった雰囲気でもない。それにそもそもモンスターであれば迷宮前の結界を抜けられないはずだ。
 いや、マクゴリアーテはウッドゴーレムでスヴァルシンは宝石だ。素材は異なるのかも知れない。そうすれば人間で出来た魔王の欠片、というものが観念できるのかもしれない。
 きっとマクゴリアーテの先に繋がるうちの1つがアレグリットなのだろう。
 そうすると最終的にはアレグリットはグラシアノの敵になりうるのだ、おそらく。
 いや、今はまずスヴァルシンだ。夜を無駄にできない。あいにく俺は寝なくても平気なタチだ。
 再びダンジョンへの道を下る。

「あれ、ソル? アレクは?」
「いない。グラシアノ、お前は寝なくても大丈夫か?」
「何日かなら多分」
「それなら今のうちにスヴァルシンを探そう。帰還を考えると寝ている時間はない」
「わかった」

 ぱたぱたと尻の埃を払いながらグラシアノが立ち上がる。
 28階層に出ると緩やかな風が冴え渡る。
 光源がどこかはわからないが柔らかく水面を照り返す陽光とその表面を揺らすそよ風がこの階層の一番の敵だ。チラチラと揺れる波間にモンスターの位置を巧妙に隠す。
 けれども今はグラシアノがいる。なるべくモンスターの少ないルートを通り、グラシアノの指示で雑に魔法の矢を打ち込んでモンスターを散らす。

 俺はグラシアのを信用しているわけではないが、今はさほど警戒しているわけでもない。グラシアノにとってもスヴァルシンは集めたいだろうし、そもそも俺を攻撃できないようにしている。それを魔術具が監視している。
 けれどもグラシアノは俺に怯えていた。万一の時に俺を止める奴がいないからだろう。俺はグラシアノに恐怖を与えることしかしてない。けれどもそれは仕方のないことだ。
 チルチルとのどかに鳥が鳴く声がしてぱちゃりぱちゃりと歩くごとに水面は波紋をたてて明るい空を照り返す。
 その雰囲気が俺たちにもこの階層にも酷く不似合いだなと思う。

 スヴァルシンの欠片は恐ろしいほど簡単に見つかった。そしてそれは広範囲に散らばっていた。
 その一つ一つについてグラシアノは話しかけ、そのたびにスヴァルシンは応答して光をグラシアノに注ぐ。
 そして最終的にスヴァルシンの6割程度を集めることはできた。

「もう見つからない。他のスヴァルシンはどこにいっちゃったんだろう」
「おそらく冒険者が拾ったんだろうな」
「冒険者が?」
「そうだ。見るからに宝石だからな」
「そっか……」
「そっちは別口で探してみるからスヴァルシンの一部を預かってもいいか」

 グラシアノはびくりと俺を見る。
 俺を追い剥ぎかなにかだと思ってるのかな。それはそれで心外だが仕方がないしどうグラシアノに思われようが構いやしない。

「ちゃんと返すよ。それにそれはお前のものだ」
「これはスヴァルシンで僕じゃない」
「でもお前が見つけてお前が拾ったものだ。それならお前が取得すべきだ。それがマリーが決めたルールだから」
「ルール……あの」
「なんだ?」
「皆の中で一番えらいのはお姉さんなの?」

 偉い、か。
 偉いかなんてそんなことは考えたこともなかったな。妙におかしい。
 ダンジョン入場許可証を持ち、パーティリーダーであるのはマリーだ。
 俺にとってマリーは偉い。ジャスにとっては主人で偉い。アレクはマリーに忠誠を誓ったから偉いんだろう。
 ウォルターはもはや余所者でパーティ加入の決定権を持つのはマリーなんだからマリーは偉いんだろうな。
 だがグラシアノにとってマリーは特別に偉くはないのだろう。なんだか面白いな。

「そうだな、マリーは偉いよ、多分な」

 なんだかよくわからない表情をするグラシアノからいくつかのスヴァルシンの宝石を受け取る。
 見た感じは高価そうだがモンスター製品であることは鑑定ですぐにバレるだろう。だから未知の危険が存在する。ギルドでは高くは評価はされない。
 それでもたいていの冒険者は諦めてギルドで売るだろうが、場合によっては露天で売ったり誰かにプレゼントしたりするかもしれない。
 そうするとそれを集めるのは専門じゃないと無理だな。セバスチアンにサンプルを見せて回収を頼もう。

「残りを地上で探すからしばらくかかるかもしれない」
「わかった。あの、ありがとう、ソル。それからごめんなさい」
「ごめん? 何がだ?」
「あの、ソルは僕がついてこないほうがいいんでしょう?」
「俺が嫌なのは不要なリスクを背負い込むことだよ。今はお前が俺たちを襲えない状態にしてある。だから問題ない。それにその能力は攻略に役立つしな」
「そっか……よかった。あの僕、頑張るから何でも言ってね」
「……おう」
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