ノーマルエンドは趣味じゃない ~ダンジョン攻略から始まる世界の終焉の物語~

Tempp

文字の大きさ
上 下
49 / 234
4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定

クローズド・アイの特殊攻撃

しおりを挟む
 ゲームの知識ではクローズド・アイは防御力はとても高いけれど、それほど強くはない。定点に浮かび続けて闇魔法で攻撃をしてくる。針状に伸ばした闇の力の塊を打ち付けてくる。けれども装備には闇魔法対策の術式をきっちりと刻みつけているからおそらく大丈夫だろう。
 難点は特殊攻撃をしてくること。パーティに対して恐怖や金縛りといった効果をランダムに付与するもの。その存続時間は普通のモンスターより長いけれども、ただそれだけだ。
 それに特殊攻撃のムーブもわかっている。クローズド・アイがその球体表面に亀裂を走らせるとき。つまりクローズド・アイの目が開いた時、目があった対象に特殊攻撃が発動する。
 すでにこの階層を踏破したアレクとソルの意見も同様だった。

ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名において、ジャスティン・バウフマンに風羽の靴と秘蹟の理を与えよ。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名において、アレクサンドル・ヴェルナー・ケーリングに光の刃と闇の守りを与えよ。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名においてかのクローズド・アイの滴る闇を乱せ。

 『泥濘とカミツレ』とはなんだろう。そんな疑問を浮かべながらバフとデバフをかける。
 クローズド・アイを倒すにはいくつかの方法がある。
 鉄板は部屋の中央に浮遊するクローズド・アイを引きずり下ろして特殊攻撃を避けながらひたすら攻撃を加え続けること。
 私たちもそれを踏襲することにした。
 ジャスティンが返しのついた鎖付きの投げナイフを投擲し、その鎖の片側にくくりつけられた楔を地面に縫い付ける。ようは床近くまで押さえこまれたクローズド・アイにアレクとソルが光属性の攻撃をする。

 グラシアノは始終私の背中に隠れてその戦闘を眺めていた。これまでの26階層での戦闘もそうだった。
 グラシアノは魔法が封じられている。魔族はそのあふれる魔力によって無意識に体を強化している。グラシアノに強化が使えるとしても、魔法が行使されなければ肉体的に強化されることもない。とすればグラシアノはその姿相当の子ども程度の能力しか発揮できない。もともとのゲームでも最初は弱かったけれども。

 それは私たちに安心をもたらしていたけれど、グラシアノにとっては諸刃の剣だ。その守りを全てこのパーティに委ねなければならないんだから。逃げるにも逃げられない。逃げて生き延びても一生ブレスレットは取れない。つまり今後成長したとしても自由に魔力を使えないということ。
 そしてボス戦に至ってもグラシアノに変化はなかった。
 どこまで様子を見ればいいのだろう。この先ずっと? わからない。

 けれども今優先しなければならないのはボス戦だ。
 私はバフとデバフが切れないように何度にも重ねがけをする。戦闘は順調。予定通りクローズド・アイの動きが緩慢になってきて、放つ闇魔法も散漫になってきたような気がする。おそらくあと半刻も攻撃を続ければ撃破できるのだろう、と思う。

 けれどもその瞬間、妙なことが起こった。
 クローズド・アイの3分の1ほどの部分がぐずりと少し縦にずれた。好機と見たアレクがそこに剣を叩きつけるとそのずれはさらに顕著になり、ストン、3分の1ほどの部分が床に落ちた。

 なんだかおかしい。クローズド・アイは倒すとパチンと割れて霧散するはずだ。
 けれども3分の1は床に崩れ落ち、3分の2は未だ浮かんでいる。なんだ、これ。倒したの? 倒してないの?
 倒したことのあるアレクとソルは思わず攻撃の手を止め、それからジャスティンも2人の様子に手を止めてクローズド・アイを注視した。そうするとパチャリと床に崩れた部分が床上で液状に広がり、浮かんでいる部分からもポタポタと黒い闇が滴った。
 そしてその切り口をさらに見つめていると突然その部分が白く反転して光る。
 その瞬間、ふわりと意識が薄らいだ。
 まずい、これ、特殊攻撃を直視、した。割れていたからモーションに気づかなかった。

 くらくらと頭がふらつき上がる。
 全てのものがぼんやりと混じり合い、なんだかよくわからなくなる。視界が色々な色に染まってゆらゆらと揺れていく。……これは……幻覚?
 そういえば自分は状態異常というものを受けたことがない。
 ジャスティンと2人のときはそんなものをどちらかが食らえば2人とも死ぬ。だから細心の注意を払っていた。
 アレクとソルが加入してからは私は完全に後衛になったから状態異常を食らうこともなかった。

 ますます頭がぼんやりしていく。
 走馬灯のように色々な思い出が巡る。前世の思い出。彼氏と親友で遊園地にいったこと。一緒にプレイしたグローリーフィア。
 今世の思い出。小さい頃の実家の料理人と楽しく料理をしたこと。ギルドでのやり取り。それからアレクとのいくつかのエンディングとソルとのエンディング。あの天空の塔は誰とのエンディングだっけ。誰かと一緒に酒場を開いて大盛況になって。あれ? そんなはずはない。前世のゲームと混同しているのかな。なんだっけ、これ。でもそんな設定あっただろうか。

 突然すぐ近くで大きな叫び声があがった。それからキーンとハウリングのような高い音がして、頭の中がぐずぐずと掻き回される。
 怖い。これも幻覚?
 左右を見渡す。なんだっけ。ここはどこだっけ。知らない部屋。ううん。
 そして大きな光が視界を覆った。
 眩しい。
 けれどもその光が薄れるのと同時にすぅと意識が覚めていくような感覚。
 そして先ほどの大きな叫び声が自分の背後から聞こえていることに気がついた。
 ガタガタと肩が揺らされる。

「大丈夫か⁉︎ マリー⁉︎ 返事しろ⁉︎」
「ん、あ、ソル……?」
「そうだ。俺だ。ふう、よかった。大丈夫だ。クローズド・アイの特殊攻撃だ。もう倒したから大丈夫」

 私を見つめるソルの目がふわりと優しい形に戻る。
 それと同時に聴覚が戻る。

「あああああああああああああああああ」
「な、何⁉︎」
「グラシアノだ。さっきから様子がおかしい」

 改めて見回すとそこは確かに26階層のボス部屋で、クローズド・アイは霧散したのか影も形もなかった。
 少し先でジャスティンが頭を押さえ、アレクが片膝をついている。
 そして私のすぐ後ろでグラシアノがうずくまって叫んでいた。

「グラシアノ? 大丈夫⁉︎」
「いや、嫌だ! 違う、僕は! そんな! 嫌あぁ」
ー全てを癒すスリスに願う その清浄なる流れをもってに鎮静をもたらせ。

 ソルがそう唱えると同時にグラシアノはくたりと冷たい床に崩れ落ちる。
 あわてて駆け寄るとその呼吸はゆったりと落ち着いていたけれど、その閉じたまぶたの周りにはたくさんの涙の跡が見て取れた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

素材採取家の異世界旅行記

木乃子増緒
ファンタジー
28歳会社員、ある日突然死にました。謎の青年にとある惑星へと転生させられ、溢れんばかりの能力を便利に使って地味に旅をするお話です。主人公最強だけど最強だと気づいていない。 可愛い女子がやたら出てくるお話ではありません。ハーレムしません。恋愛要素一切ありません。 個性的な仲間と共に素材採取をしながら旅を続ける青年の異世界暮らし。たまーに戦っています。 このお話はフィクションです。実在の人物や団体などとは関係ありません。 裏話やネタバレはついったーにて。たまにぼやいております。 この度アルファポリスより書籍化致しました。 書籍化部分はレンタルしております。

神に異世界へ転生させられたので……自由に生きていく

霜月 祈叶 (霜月藍)
ファンタジー
小説漫画アニメではお馴染みの神の失敗で死んだ。 だから異世界で自由に生きていこうと決めた鈴村茉莉。 どう足掻いても異世界のせいかテンプレ発生。ゴブリン、オーク……盗賊。 でも目立ちたくない。目指せフリーダムライフ!

役立たずと言われダンジョンで殺されかけたが、実は最強で万能スキルでした !

本条蒼依
ファンタジー
地球とは違う異世界シンアースでの物語。  主人公マルクは神聖の儀で何にも反応しないスキルを貰い、絶望の淵へと叩き込まれる。 その役に立たないスキルで冒険者になるが、役立たずと言われダンジョンで殺されかけるが、そのスキルは唯一無二の万能スキルだった。  そのスキルで成り上がり、ダンジョンで裏切った人間は落ちぶれざまあ展開。 主人公マルクは、そのスキルで色んなことを解決し幸せになる。  ハーレム要素はしばらくありません。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界でリサイクルショップ!俺の高価買取り!

理太郎
ファンタジー
坂木 新はリサイクルショップの店員だ。 ある日、買い取りで査定に不満を持った客に恨みを持たれてしまう。 仕事帰りに襲われて、気が付くと見知らぬ世界のベッドの上だった。

転生受験生の教科書チート生活 ~その知識、学校で習いましたよ?~

hisa
ファンタジー
 受験生の少年が、大学受験前にいきなり異世界に転生してしまった。  自称天使に与えられたチートは、社会に出たら役に立たないことで定評のある、学校の教科書。  戦争で下級貴族に成り上がった脳筋親父の英才教育をくぐり抜けて、少年は知識チートで生きていけるのか?  教科書の力で、目指せ異世界成り上がり!! ※なろうとカクヨムにそれぞれ別のスピンオフがあるのでそちらもよろしく! ※第5章に突入しました。 ※小説家になろう96万PV突破! ※カクヨム68万PV突破! ※令和4年10月2日タイトルを『転生した受験生の異世界成り上がり 〜生まれは脳筋な下級貴族家ですが、教科書の知識だけで成り上がってやります〜』から変更しました

処理中です...