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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定
クローズド・アイの特殊攻撃
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ゲームの知識ではクローズド・アイは防御力はとても高いけれど、それほど強くはない。定点に浮かび続けて闇魔法で攻撃をしてくる。針状に伸ばした闇の力の塊を打ち付けてくる。けれども装備には闇魔法対策の術式をきっちりと刻みつけているからおそらく大丈夫だろう。
難点は特殊攻撃をしてくること。パーティに対して恐怖や金縛りといった効果をランダムに付与するもの。その存続時間は普通のモンスターより長いけれども、ただそれだけだ。
それに特殊攻撃のムーブもわかっている。クローズド・アイがその球体表面に亀裂を走らせるとき。つまりクローズド・アイの目が開いた時、目があった対象に特殊攻撃が発動する。
すでにこの階層を踏破したアレクとソルの意見も同様だった。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名において、ジャスティン・バウフマンに風羽の靴と秘蹟の理を与えよ。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名において、アレクサンドル・ヴェルナー・ケーリングに光の刃と闇の守りを与えよ。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名においてかのクローズド・アイの滴る闇を乱せ。
『泥濘とカミツレ』とはなんだろう。そんな疑問を浮かべながらバフとデバフをかける。
クローズド・アイを倒すにはいくつかの方法がある。
鉄板は部屋の中央に浮遊するクローズド・アイを引きずり下ろして特殊攻撃を避けながらひたすら攻撃を加え続けること。
私たちもそれを踏襲することにした。
ジャスティンが返しのついた鎖付きの投げナイフを投擲し、その鎖の片側にくくりつけられた楔を地面に縫い付ける。ようは床近くまで押さえこまれたクローズド・アイにアレクとソルが光属性の攻撃をする。
グラシアノは始終私の背中に隠れてその戦闘を眺めていた。これまでの26階層での戦闘もそうだった。
グラシアノは魔法が封じられている。魔族はそのあふれる魔力によって無意識に体を強化している。グラシアノに強化が使えるとしても、魔法が行使されなければ肉体的に強化されることもない。とすればグラシアノはその姿相当の子ども程度の能力しか発揮できない。もともとのゲームでも最初は弱かったけれども。
それは私たちに安心をもたらしていたけれど、グラシアノにとっては諸刃の剣だ。その守りを全てこのパーティに委ねなければならないんだから。逃げるにも逃げられない。逃げて生き延びても一生ブレスレットは取れない。つまり今後成長したとしても自由に魔力を使えないということ。
そしてボス戦に至ってもグラシアノに変化はなかった。
どこまで様子を見ればいいのだろう。この先ずっと? わからない。
けれども今優先しなければならないのはボス戦だ。
私はバフとデバフが切れないように何度にも重ねがけをする。戦闘は順調。予定通りクローズド・アイの動きが緩慢になってきて、放つ闇魔法も散漫になってきたような気がする。おそらくあと半刻も攻撃を続ければ撃破できるのだろう、と思う。
けれどもその瞬間、妙なことが起こった。
クローズド・アイの3分の1ほどの部分がぐずりと少し縦にずれた。好機と見たアレクがそこに剣を叩きつけるとそのずれはさらに顕著になり、ストン、3分の1ほどの部分が床に落ちた。
なんだかおかしい。クローズド・アイは倒すとパチンと割れて霧散するはずだ。
けれども3分の1は床に崩れ落ち、3分の2は未だ浮かんでいる。なんだ、これ。倒したの? 倒してないの?
倒したことのあるアレクとソルは思わず攻撃の手を止め、それからジャスティンも2人の様子に手を止めてクローズド・アイを注視した。そうするとパチャリと床に崩れた部分が床上で液状に広がり、浮かんでいる部分からもポタポタと黒い闇が滴った。
そしてその切り口をさらに見つめていると突然その部分が白く反転して光る。
その瞬間、ふわりと意識が薄らいだ。
まずい、これ、特殊攻撃を直視、した。割れていたからモーションに気づかなかった。
くらくらと頭がふらつき上がる。
全てのものがぼんやりと混じり合い、なんだかよくわからなくなる。視界が色々な色に染まってゆらゆらと揺れていく。……これは……幻覚?
そういえば自分は状態異常というものを受けたことがない。
ジャスティンと2人のときはそんなものをどちらかが食らえば2人とも死ぬ。だから細心の注意を払っていた。
アレクとソルが加入してからは私は完全に後衛になったから状態異常を食らうこともなかった。
ますます頭がぼんやりしていく。
走馬灯のように色々な思い出が巡る。前世の思い出。彼氏と親友で遊園地にいったこと。一緒にプレイしたグローリーフィア。
今世の思い出。小さい頃の実家の料理人と楽しく料理をしたこと。ギルドでのやり取り。それからアレクとのいくつかのエンディングとソルとのエンディング。あの天空の塔は誰とのエンディングだっけ。誰かと一緒に酒場を開いて大盛況になって。あれ? そんなはずはない。前世のゲームと混同しているのかな。なんだっけ、これ。でもそんな設定あっただろうか。
突然すぐ近くで大きな叫び声があがった。それからキーンとハウリングのような高い音がして、頭の中がぐずぐずと掻き回される。
怖い。これも幻覚?
左右を見渡す。なんだっけ。ここはどこだっけ。知らない部屋。ううん。
そして大きな光が視界を覆った。
眩しい。
けれどもその光が薄れるのと同時にすぅと意識が覚めていくような感覚。
そして先ほどの大きな叫び声が自分の背後から聞こえていることに気がついた。
ガタガタと肩が揺らされる。
「大丈夫か⁉︎ マリー⁉︎ 返事しろ⁉︎」
「ん、あ、ソル……?」
「そうだ。俺だ。ふう、よかった。大丈夫だ。クローズド・アイの特殊攻撃だ。もう倒したから大丈夫」
私を見つめるソルの目がふわりと優しい形に戻る。
それと同時に聴覚が戻る。
「あああああああああああああああああ」
「な、何⁉︎」
「グラシアノだ。さっきから様子がおかしい」
改めて見回すとそこは確かに26階層のボス部屋で、クローズド・アイは霧散したのか影も形もなかった。
少し先でジャスティンが頭を押さえ、アレクが片膝をついている。
そして私のすぐ後ろでグラシアノがうずくまって叫んでいた。
「グラシアノ? 大丈夫⁉︎」
「いや、嫌だ! 違う、僕は! そんな! 嫌あぁ」
ー全てを癒すスリスに願う その清浄なる流れをもってに鎮静をもたらせ。
ソルがそう唱えると同時にグラシアノはくたりと冷たい床に崩れ落ちる。
あわてて駆け寄るとその呼吸はゆったりと落ち着いていたけれど、その閉じたまぶたの周りにはたくさんの涙の跡が見て取れた。
難点は特殊攻撃をしてくること。パーティに対して恐怖や金縛りといった効果をランダムに付与するもの。その存続時間は普通のモンスターより長いけれども、ただそれだけだ。
それに特殊攻撃のムーブもわかっている。クローズド・アイがその球体表面に亀裂を走らせるとき。つまりクローズド・アイの目が開いた時、目があった対象に特殊攻撃が発動する。
すでにこの階層を踏破したアレクとソルの意見も同様だった。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名において、ジャスティン・バウフマンに風羽の靴と秘蹟の理を与えよ。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名において、アレクサンドル・ヴェルナー・ケーリングに光の刃と闇の守りを与えよ。
ー『泥濘とカミツレ』の魔女の名においてかのクローズド・アイの滴る闇を乱せ。
『泥濘とカミツレ』とはなんだろう。そんな疑問を浮かべながらバフとデバフをかける。
クローズド・アイを倒すにはいくつかの方法がある。
鉄板は部屋の中央に浮遊するクローズド・アイを引きずり下ろして特殊攻撃を避けながらひたすら攻撃を加え続けること。
私たちもそれを踏襲することにした。
ジャスティンが返しのついた鎖付きの投げナイフを投擲し、その鎖の片側にくくりつけられた楔を地面に縫い付ける。ようは床近くまで押さえこまれたクローズド・アイにアレクとソルが光属性の攻撃をする。
グラシアノは始終私の背中に隠れてその戦闘を眺めていた。これまでの26階層での戦闘もそうだった。
グラシアノは魔法が封じられている。魔族はそのあふれる魔力によって無意識に体を強化している。グラシアノに強化が使えるとしても、魔法が行使されなければ肉体的に強化されることもない。とすればグラシアノはその姿相当の子ども程度の能力しか発揮できない。もともとのゲームでも最初は弱かったけれども。
それは私たちに安心をもたらしていたけれど、グラシアノにとっては諸刃の剣だ。その守りを全てこのパーティに委ねなければならないんだから。逃げるにも逃げられない。逃げて生き延びても一生ブレスレットは取れない。つまり今後成長したとしても自由に魔力を使えないということ。
そしてボス戦に至ってもグラシアノに変化はなかった。
どこまで様子を見ればいいのだろう。この先ずっと? わからない。
けれども今優先しなければならないのはボス戦だ。
私はバフとデバフが切れないように何度にも重ねがけをする。戦闘は順調。予定通りクローズド・アイの動きが緩慢になってきて、放つ闇魔法も散漫になってきたような気がする。おそらくあと半刻も攻撃を続ければ撃破できるのだろう、と思う。
けれどもその瞬間、妙なことが起こった。
クローズド・アイの3分の1ほどの部分がぐずりと少し縦にずれた。好機と見たアレクがそこに剣を叩きつけるとそのずれはさらに顕著になり、ストン、3分の1ほどの部分が床に落ちた。
なんだかおかしい。クローズド・アイは倒すとパチンと割れて霧散するはずだ。
けれども3分の1は床に崩れ落ち、3分の2は未だ浮かんでいる。なんだ、これ。倒したの? 倒してないの?
倒したことのあるアレクとソルは思わず攻撃の手を止め、それからジャスティンも2人の様子に手を止めてクローズド・アイを注視した。そうするとパチャリと床に崩れた部分が床上で液状に広がり、浮かんでいる部分からもポタポタと黒い闇が滴った。
そしてその切り口をさらに見つめていると突然その部分が白く反転して光る。
その瞬間、ふわりと意識が薄らいだ。
まずい、これ、特殊攻撃を直視、した。割れていたからモーションに気づかなかった。
くらくらと頭がふらつき上がる。
全てのものがぼんやりと混じり合い、なんだかよくわからなくなる。視界が色々な色に染まってゆらゆらと揺れていく。……これは……幻覚?
そういえば自分は状態異常というものを受けたことがない。
ジャスティンと2人のときはそんなものをどちらかが食らえば2人とも死ぬ。だから細心の注意を払っていた。
アレクとソルが加入してからは私は完全に後衛になったから状態異常を食らうこともなかった。
ますます頭がぼんやりしていく。
走馬灯のように色々な思い出が巡る。前世の思い出。彼氏と親友で遊園地にいったこと。一緒にプレイしたグローリーフィア。
今世の思い出。小さい頃の実家の料理人と楽しく料理をしたこと。ギルドでのやり取り。それからアレクとのいくつかのエンディングとソルとのエンディング。あの天空の塔は誰とのエンディングだっけ。誰かと一緒に酒場を開いて大盛況になって。あれ? そんなはずはない。前世のゲームと混同しているのかな。なんだっけ、これ。でもそんな設定あっただろうか。
突然すぐ近くで大きな叫び声があがった。それからキーンとハウリングのような高い音がして、頭の中がぐずぐずと掻き回される。
怖い。これも幻覚?
左右を見渡す。なんだっけ。ここはどこだっけ。知らない部屋。ううん。
そして大きな光が視界を覆った。
眩しい。
けれどもその光が薄れるのと同時にすぅと意識が覚めていくような感覚。
そして先ほどの大きな叫び声が自分の背後から聞こえていることに気がついた。
ガタガタと肩が揺らされる。
「大丈夫か⁉︎ マリー⁉︎ 返事しろ⁉︎」
「ん、あ、ソル……?」
「そうだ。俺だ。ふう、よかった。大丈夫だ。クローズド・アイの特殊攻撃だ。もう倒したから大丈夫」
私を見つめるソルの目がふわりと優しい形に戻る。
それと同時に聴覚が戻る。
「あああああああああああああああああ」
「な、何⁉︎」
「グラシアノだ。さっきから様子がおかしい」
改めて見回すとそこは確かに26階層のボス部屋で、クローズド・アイは霧散したのか影も形もなかった。
少し先でジャスティンが頭を押さえ、アレクが片膝をついている。
そして私のすぐ後ろでグラシアノがうずくまって叫んでいた。
「グラシアノ? 大丈夫⁉︎」
「いや、嫌だ! 違う、僕は! そんな! 嫌あぁ」
ー全てを癒すスリスに願う その清浄なる流れをもってに鎮静をもたらせ。
ソルがそう唱えると同時にグラシアノはくたりと冷たい床に崩れ落ちる。
あわてて駆け寄るとその呼吸はゆったりと落ち着いていたけれど、その閉じたまぶたの周りにはたくさんの涙の跡が見て取れた。
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