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4章 転生者たちの行動によって変革を始める世界と崩れていくゲーム設定

極めて説明し難いウォルターの特性とエスターライヒの未来

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 俺が紹介された人物、それはセバスチアン・カウフフェルだった。カウフフェル商会の元会頭。
 何故主人公がセバスチアンとの伝手がある?
 いや、そういえばフレイム・ドラゴンを倒した時点でセバスチアン自体はこのゲームに発生する。クエスト自体が発生しているのなら受注品の確認に行くとかで知り合いになったのかもしれない。
 そういえばセバスチアンも攻略対象だ。攻略ルートに乗らなくても主人公補正で何らかの繋がりが発生しているのかもしれない。エンディング後の世界なんてそもそもがバグだ。何が起こってもおかしくはない。そう、俺の廃嫡のように。

「それでウォルター様。あなたは何がお出来になり、何がお出来にならないのでしょうか」

 セバスチアンは静かに俺に問いかけた。
 俺に何ができるのか。俺ができること。ステータスカードをセバスチアンに手渡す。
 俺は力も素早さも知力も平均値を多少上回る程度だ。スキルもないし魔法も使えない。だから剣士や魔法使いとして役にはたたない。けれどもウォルターはダンジョン攻略パーティにちょくちょく紛れ込んでいることがある。
 セバスチアンはほう、と息を飲む。セバスチアンならわかるはずだ。俺の説明し難い能力を。

 俺、もといウォルター王子の特性はラッキーマンだ。素の幸運地が異常に高い。おそらく『幻想迷宮グローリーフィア』で1,2を争うほど。
 幸運を願ってサイを振れば高確率でその目が出る。宝箱が欲しいと思えば高確率で宝箱に導かれ、ランダムドロップで特定の武器を願えば高確率でその武器がでる。
 これまでの冒険ではそれを意識的に使っていなかった。俺は廃嫡され、何とかこの苦境を乗り越えるため、色々と試した。この幸運というものを能力として使うためには、そのような認識を持った意思が必要なのだ。意思が明確であればあるほど、その幸福を呼び寄せる効果が高まる。

 けれどもその幸運という力は、いずれ全て結果論という霞がかかる。
 この宝箱を見つけたのは俺の運がいいからだ。望む武器がでたのは俺の運がいいからだ。
 そう言ったとしても、誰も信じてくれはしない。だから堂々と言うことなんかできない。
 それに人の好感度とかそういったものは対象外、なんだろうな。おそらく人の意思を左右することはできない。

 思えば本当に戦闘向きじゃないな。予め司令をすればそれは高確率で上手くはいく。けれども俺に戦闘の能力はない。俺の能力が高いわけじゃないから、戦闘時に不測の事態が発生した時は目が追いつかない。避けないとと思った時点で既に手遅れで被弾している。
 そもそも幸運は完璧じゃない。だから悪い結果を完全には避けられない。だから俺は結局、戦闘では役立たずだ。
 それ以前に、記憶を取り戻す前の俺はその特性を理解していなくて随分空回りをしていた。
 運というのは存在する可能性の中で良い方向に舵を切るものだ。存在しないものを探し回っても見つからない。例えば他の冒険者に回収されたアイテムを探し求めても、そんなものは見つけようがない。
 それにこの能力を戦闘に役立てようとは思ってすらいなかった。活用の方法なんて考えてすらいなかった。

 けれどもセバスチアンにはこの幸運の価値が理解できるはずだ。
 上がれと願えば相場が上がる。下がれと願えば相場は下がる。
 サイコロを降る神の手にも似たこの能力を。

「俺はこのエスターライヒを必ず富ませて発展させることができる、はずだ。けれどもどうやったらいいのかはわからない」
「思ったより正直な方なのですね。失礼を承知で申し上げますと、ダンジョンに潜ったせいで気が触れられたと伺っておりましたから」

 気が触れている。
 確かに俺はみんなの言っている『当然のこと』がよくわからない。
 何故俺がザビーネやハンナやカリーナと上手く行かなかったのか。そして何故主人公やアレクやソルの言っていることが理解できないのか。そして何故俺が廃嫡になっているのかも。
 でもそれがダンジョンに潜ったせいなのかはよくわからないけれど。

「気が触れている。そうなのかもしれない。けれども国の発展と俺の頭は関係ないはずだ。それがおそらく魔王討伐に役に立つ」
「なるほど、気に入りました。しかし宜しいのですか? 私は貴族でもなくただの商売人です。商売人の徒弟として働くことになる。貴方の将来に必ず傷がつく」
「傷? 何故だ。俺にはもう他に方法がない」

 将来?
 そんなものは俺にはもうないんだ。魔王を討伐しない限り俺の先行きは何もない。道はプッツリと途切れている。
 魔王を討伐して俺は仕切り直す。第一王子に返り咲いてハーレムを築くのだ。
 そうじゃなければやってられっか。

「宜しいでしょう。本当に、ある意味で気が触れておられるのですね。なに、商売というものは多少の狂気があったほうが上手くいくものです。それにそれほどにあの方のパーティは魅力的なのでしょう。商売についてはできうる限りお教えしましょう。私とあなたは同士です」
「同士?」
「そう。あなたと同じような言葉を先日別々のタイミングでお2人の方から伺いました。自らが儲けるのではなく市場を栄えさせ、そして自らの目的を完遂させるというのです。世の巡りというものは本当に不思議ですな。そのような波が来ているのでしょう。変革という波が。私もこの老骨に鞭打って微力を尽くしましょう」

 そうして俺の徒弟生活が始まった。
 三の塔から新しい従僕とともにカウフフェル商会に通う姿は奇異な目で見られたが、一時期の視線よりは幾分ましになっている、気はする。
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