42 / 44
おまけのショートショート
今日は俺の誕生日
しおりを挟む
「わ。わ、啓介これどうしたらいいんでしょう」
「あ、ちょっとすぐ火を切って、早く」
コンロが泡だらけになっている。片桐さんは相変わらず器用なのか不器用なのかよくわからない。でもそういうところも愛しい。
「あんなに急に沸騰するとは思いませんでした」
「まあ、大丈夫でしょう」
「そういえば沸騰したら差し水をするんでした」
片桐さんは難しそうな顔で携帯で何かを検索している。多分沸騰をする時間の目安とかを調べているんだろうけど、そんなの火加減によるのに。相変わらず想定外に弱すぎる。よく見ると水自体はコンロの脇のコップに入って用意されていた。
「俺が代わりましょうか?」
「いえ、私がやってみます」
片桐さんが張り切っている。
この間一緒にカレーを作ってから妙に料理が気に入ったようだ。でも本格的に料理にトライするほどの時間はない。結局の所、市販のルーや調味の素を使って作るくらいだけど、たまに一緒に飯を作っていた。一緒に飯を作るのはなんだか楽しい。でも今日は俺はNG。
この間、片桐さんの誕生日だったから俺が飯を作ることにした。素を使った炊き込みご飯を朝に炊飯器にセットして、帰ったら回鍋肉のもとで肉と野菜を炒めたのと相変わらずのレトルトのスープだけだったんだけど。でも片桐さんはとても喜んでくれて俺の誕生日には自分が作ると言った。
今はパスタを茹でようとしている。秘書室の女性社員にこっそり素を使わない一番簡単な料理を聞いていたのを知っている。
さっきから片桐さんはパスタをどのくらいの量を茹でていいのか悩んでいる。俺もググってみたけど男の一人前は150~200gらしい。ふうん。片桐さんは痩せてるのに結構食べる。あのパスタは1袋500gみたいだから全部まとめて入れてもいいんじゃないかな。ああ、そうするみたい。
それでまた鍋に火をかけて、今度は沸騰する前に水を入れたけどまたすぐ沸騰しそうだ。
「啓介、どうしましょう、パスタが鍋に入りません」
「ええと、ちょっとかして下さい」
「駄目です、私が作るんです」
「じゃあそこのトングで下の方が柔らかくなったところを折り曲げたらどうでしょう」
「なるほど」
何か苦戦しているようで面白い。今日は『片桐さんが料理を作る日』。そう決まってしまったらしい。でも俺じゃなくて片桐さんが決めたんだからそれはそれでいいんだ。誕生日を祝ってもらう。俺は身寄りがもうない。だからここ数年は誰も祝ってもらえなくて、まあ忙しくてそれどころではなかったのだけど。だから片桐さんに祝ってもらうのはとても嬉しい。
でもそんなパスタを心配しすぎては手順として駄目なんじゃないだろうか。
「あの、そろそろソースを作るべきじゃないでしょうか」
「そうでした」
あわててフライパンにオリーブオイルと予め小さく切ったにんにくを入れて火を付ける。弱火過ぎるんじゃないかな。それじゃあパスタの方が先に茹で上がりそう。気がついたみたいで、でもいきなり中火にすると焦げてしまうのでは。ひそひそと女子社員と話している声が聞こえていたから手順は知っている。多分俺が隣にいたのに気づいてなかったような気はするけど。仕事はあんなに手際がいいのにプライベートでは残念なところが多い。変な片桐さん。
それでベーコンと唐辛子をいれて茹で汁を少し入れて、鍋からパスタを移動して絡める。ペペロンチーノのできあがり。
「いただきます」
「……どうでしょうか」
「とても美味しいです」
「少し茹ですぎた、ような気が」
また随分不安そうだ。片桐さんが作ってくれたっていうだけでものすごく嬉しいのに。それに、まあ確かに少し柔らかいけれど、とても美味しいです。本当に。味付けはきっちり量っていたからそもそも美味しくないはずはない、よな。
「本当に美味しいので、片桐さんのも全部食べちゃおうかな」
「食べますか?」
「いえ、そのくらい美味しいってこと」
「よかった」
やっと笑った。
ふう。なんで自分の誕生日にこんなにやきもきしてるんだろう。変な片桐さん。でも大好きです。食べ終わったらデザートを俺が作りますね。レアチーズケーキにソースをかけるだけだけど。
「あ、ちょっとすぐ火を切って、早く」
コンロが泡だらけになっている。片桐さんは相変わらず器用なのか不器用なのかよくわからない。でもそういうところも愛しい。
「あんなに急に沸騰するとは思いませんでした」
「まあ、大丈夫でしょう」
「そういえば沸騰したら差し水をするんでした」
片桐さんは難しそうな顔で携帯で何かを検索している。多分沸騰をする時間の目安とかを調べているんだろうけど、そんなの火加減によるのに。相変わらず想定外に弱すぎる。よく見ると水自体はコンロの脇のコップに入って用意されていた。
「俺が代わりましょうか?」
「いえ、私がやってみます」
片桐さんが張り切っている。
この間一緒にカレーを作ってから妙に料理が気に入ったようだ。でも本格的に料理にトライするほどの時間はない。結局の所、市販のルーや調味の素を使って作るくらいだけど、たまに一緒に飯を作っていた。一緒に飯を作るのはなんだか楽しい。でも今日は俺はNG。
この間、片桐さんの誕生日だったから俺が飯を作ることにした。素を使った炊き込みご飯を朝に炊飯器にセットして、帰ったら回鍋肉のもとで肉と野菜を炒めたのと相変わらずのレトルトのスープだけだったんだけど。でも片桐さんはとても喜んでくれて俺の誕生日には自分が作ると言った。
今はパスタを茹でようとしている。秘書室の女性社員にこっそり素を使わない一番簡単な料理を聞いていたのを知っている。
さっきから片桐さんはパスタをどのくらいの量を茹でていいのか悩んでいる。俺もググってみたけど男の一人前は150~200gらしい。ふうん。片桐さんは痩せてるのに結構食べる。あのパスタは1袋500gみたいだから全部まとめて入れてもいいんじゃないかな。ああ、そうするみたい。
それでまた鍋に火をかけて、今度は沸騰する前に水を入れたけどまたすぐ沸騰しそうだ。
「啓介、どうしましょう、パスタが鍋に入りません」
「ええと、ちょっとかして下さい」
「駄目です、私が作るんです」
「じゃあそこのトングで下の方が柔らかくなったところを折り曲げたらどうでしょう」
「なるほど」
何か苦戦しているようで面白い。今日は『片桐さんが料理を作る日』。そう決まってしまったらしい。でも俺じゃなくて片桐さんが決めたんだからそれはそれでいいんだ。誕生日を祝ってもらう。俺は身寄りがもうない。だからここ数年は誰も祝ってもらえなくて、まあ忙しくてそれどころではなかったのだけど。だから片桐さんに祝ってもらうのはとても嬉しい。
でもそんなパスタを心配しすぎては手順として駄目なんじゃないだろうか。
「あの、そろそろソースを作るべきじゃないでしょうか」
「そうでした」
あわててフライパンにオリーブオイルと予め小さく切ったにんにくを入れて火を付ける。弱火過ぎるんじゃないかな。それじゃあパスタの方が先に茹で上がりそう。気がついたみたいで、でもいきなり中火にすると焦げてしまうのでは。ひそひそと女子社員と話している声が聞こえていたから手順は知っている。多分俺が隣にいたのに気づいてなかったような気はするけど。仕事はあんなに手際がいいのにプライベートでは残念なところが多い。変な片桐さん。
それでベーコンと唐辛子をいれて茹で汁を少し入れて、鍋からパスタを移動して絡める。ペペロンチーノのできあがり。
「いただきます」
「……どうでしょうか」
「とても美味しいです」
「少し茹ですぎた、ような気が」
また随分不安そうだ。片桐さんが作ってくれたっていうだけでものすごく嬉しいのに。それに、まあ確かに少し柔らかいけれど、とても美味しいです。本当に。味付けはきっちり量っていたからそもそも美味しくないはずはない、よな。
「本当に美味しいので、片桐さんのも全部食べちゃおうかな」
「食べますか?」
「いえ、そのくらい美味しいってこと」
「よかった」
やっと笑った。
ふう。なんで自分の誕生日にこんなにやきもきしてるんだろう。変な片桐さん。でも大好きです。食べ終わったらデザートを俺が作りますね。レアチーズケーキにソースをかけるだけだけど。
0
お気に入りに追加
26
あなたにおすすめの小説
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/love.png?id=38b9f51b5677c41b0416)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/bl.png?id=5317a656ee4aa7159975)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる