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8.トロンプ・ルイユの本当の中身。
これで1週間は経過した。何か、片桐さんが楽しむことはあっただろうか。
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啓介とカレーを作った。台所に隣で立って、買ったばかりのエプロンを付けて、カレールーのパックの説明書きを読みながら。本格的に料理をするのは初めてかも知れない。一人で暮らしていた時はいつもどこかで食べるか出来合いのものを買って食べていた。
玉ねぎを切る啓介から涙が出ている。なんだか少し面白い。玉ねぎに親近感が湧きます。それからお米を炊飯器にセットする。
「啓介、中火ってどのくらいでしょう」
「コンロのつまみの真ん中くらいでしょうか」
とりあえず真ん中にセットしてサラダ油を入れる。8皿分で大さじ2ということは2皿分は大さじ半分?
「片桐さん、これって2皿分で作ります?」
「違うんですか?」
「カレーは2日目が美味しいと聞きますから」
「では明日の分を含めて4皿分で作りましょうか」
大さじ1の油を入れる。なんだか実験みたいです。
次は具材を入れて炒める。パッケージの作り方の絵ではしゃもじを動かしているようにみえますが、これってたくさんかき混ぜたほうがいいんでしょうか。
「『玉ねぎがしんなりするまで』ってどのくらいなんでしょう」
「しんなり? 柔らかくなったらではないんですか?」
「柔らかいはしんなりでしょうか? どのくらいで『柔らかい』なんでしょう」
「まあ、適当でもきっと美味しくなりますよ」
「そうですか?」
水をいれて柔らかくなるまで煮込む。『柔らかく』はよくわからないから、記載の通り沸騰後15分を測る。これでいいのかな。それから火を止めてルウを割って入れる。これはルーの溝にそったサイズで割ればいいんですよね。
「どうしましょう、溶けません」
「混ぜたら溶けるかな」
啓介がお玉をかき回す。鍋の端から少しカレーが飛び散ったけど溶けて混ざった。それから弱火で10分煮込む……ためにまた火をつける。
「『とろみがつくまで』ってどのくらいでしょう」
「うーん、カレーっぽくなるくらい?」
「……これでできたんでしょうか」
「味見してみてください。カレーっぽいですか?」
おたまから小さな皿にとって少し飲む。カレー? できた?
「あ、そうだ。サラダ作らなきゃ。片桐さん炊飯器見てください。あと何分?」
「あと15分です」
「どうしよう、カレーって火を切っていいのかな。書いてある時間より煮る時間が長くなっちゃうけど、煮すぎになったりする? でも食べる時冷たいとだめですよね。お手伝いさんは温め直してた記憶があるけど」
「検索してみます。……よくわからない。いくつかレシピを見てみたのですが完成のところまでしか書いていません。どうしましょう」
「ええと、じゃあ物凄く弱火で」
「物凄く?」
「火が消えるか消えないかくらい?」
「それって弱火じゃないんですか?」
「ううん、よくわからないけど、まあ、とりあえず初めてですから試してみましょう」
啓介が野菜を切る間、私は鍋を見張った。見張ってどうなるものではないような気もするけど、火が消えてないか、とか。混ぜたほうがいいのかな。
完成したカレーはすごく美味しかった。明日になるともっと美味しいのかな。不思議。
翌日はおもちゃ屋に行った。今日はジグゾーパズルらしい。その一角にはたくさんのパズルがあった。
「片桐さん、どれがいいですか?」
「どれ?」
「昨日のメニューをカレーに決めたのは俺なので、今日は片桐さんが絵柄を選ぶのがいいかなと思って」
そう言われて絵柄を見回す。
風景、人物、絵、アニメ、色々ある。風景とかがいいのでしょうか。そう思って色々眺めていると1枚の絵が目に入った。絵画のコーナー。
白い世界に緑色の柔らかな四角が広がっている。なんとなく私の中の啓介みたいだ。私の世界の中では啓介だけ色がついていて、それがとても大きな存在感を占めている。啓介の絵。
「これがいいです」
「2色しかないと隣のピースを探すのは難しくないですか?」
そういうものなのかな。
じゃあ違う絵にしましょう。そう思って別のものを探していたら、啓介は私が選んだ絵の箱を持ってさっさとレジに行ってしまった。いいのかな。
家に帰って広げてみると、たしかに難しかった。
ごめんなさい、啓介。ピースの違いがよくわかりません。
「片桐さん、このピースの端を見てください」
「端?」
「そう、突起の前後の形。上と下のどちらかが長かったり、辺自体が長かったり。そういうのを見て同じ長さを探して、当てはまるかどうか探すんです」
「似たようなのがたくさんあります」
「ある程度絞れたらあとは総当りかな」
総当り。
とりあえず私は緑の方、啓介は白の方を担当する。白い部分のほうが少ないから啓介のほうが先に終わった。どうして違いがわかるんでしょうか。白が終わると次は絵を挟んで向かい合って、それぞれに近いピースから探していく。
思ったより時間がかかるものなのですね。完成まで2日かかった。
あと少しということで2日目は夜更かしして午前2時にようやく完成した。白いキャンバスに緑色が浮いている。ふふ。私の啓介に似ている。なんだか嬉しい。啓介の絵。なんだか温かい。
玉ねぎを切る啓介から涙が出ている。なんだか少し面白い。玉ねぎに親近感が湧きます。それからお米を炊飯器にセットする。
「啓介、中火ってどのくらいでしょう」
「コンロのつまみの真ん中くらいでしょうか」
とりあえず真ん中にセットしてサラダ油を入れる。8皿分で大さじ2ということは2皿分は大さじ半分?
「片桐さん、これって2皿分で作ります?」
「違うんですか?」
「カレーは2日目が美味しいと聞きますから」
「では明日の分を含めて4皿分で作りましょうか」
大さじ1の油を入れる。なんだか実験みたいです。
次は具材を入れて炒める。パッケージの作り方の絵ではしゃもじを動かしているようにみえますが、これってたくさんかき混ぜたほうがいいんでしょうか。
「『玉ねぎがしんなりするまで』ってどのくらいなんでしょう」
「しんなり? 柔らかくなったらではないんですか?」
「柔らかいはしんなりでしょうか? どのくらいで『柔らかい』なんでしょう」
「まあ、適当でもきっと美味しくなりますよ」
「そうですか?」
水をいれて柔らかくなるまで煮込む。『柔らかく』はよくわからないから、記載の通り沸騰後15分を測る。これでいいのかな。それから火を止めてルウを割って入れる。これはルーの溝にそったサイズで割ればいいんですよね。
「どうしましょう、溶けません」
「混ぜたら溶けるかな」
啓介がお玉をかき回す。鍋の端から少しカレーが飛び散ったけど溶けて混ざった。それから弱火で10分煮込む……ためにまた火をつける。
「『とろみがつくまで』ってどのくらいでしょう」
「うーん、カレーっぽくなるくらい?」
「……これでできたんでしょうか」
「味見してみてください。カレーっぽいですか?」
おたまから小さな皿にとって少し飲む。カレー? できた?
「あ、そうだ。サラダ作らなきゃ。片桐さん炊飯器見てください。あと何分?」
「あと15分です」
「どうしよう、カレーって火を切っていいのかな。書いてある時間より煮る時間が長くなっちゃうけど、煮すぎになったりする? でも食べる時冷たいとだめですよね。お手伝いさんは温め直してた記憶があるけど」
「検索してみます。……よくわからない。いくつかレシピを見てみたのですが完成のところまでしか書いていません。どうしましょう」
「ええと、じゃあ物凄く弱火で」
「物凄く?」
「火が消えるか消えないかくらい?」
「それって弱火じゃないんですか?」
「ううん、よくわからないけど、まあ、とりあえず初めてですから試してみましょう」
啓介が野菜を切る間、私は鍋を見張った。見張ってどうなるものではないような気もするけど、火が消えてないか、とか。混ぜたほうがいいのかな。
完成したカレーはすごく美味しかった。明日になるともっと美味しいのかな。不思議。
翌日はおもちゃ屋に行った。今日はジグゾーパズルらしい。その一角にはたくさんのパズルがあった。
「片桐さん、どれがいいですか?」
「どれ?」
「昨日のメニューをカレーに決めたのは俺なので、今日は片桐さんが絵柄を選ぶのがいいかなと思って」
そう言われて絵柄を見回す。
風景、人物、絵、アニメ、色々ある。風景とかがいいのでしょうか。そう思って色々眺めていると1枚の絵が目に入った。絵画のコーナー。
白い世界に緑色の柔らかな四角が広がっている。なんとなく私の中の啓介みたいだ。私の世界の中では啓介だけ色がついていて、それがとても大きな存在感を占めている。啓介の絵。
「これがいいです」
「2色しかないと隣のピースを探すのは難しくないですか?」
そういうものなのかな。
じゃあ違う絵にしましょう。そう思って別のものを探していたら、啓介は私が選んだ絵の箱を持ってさっさとレジに行ってしまった。いいのかな。
家に帰って広げてみると、たしかに難しかった。
ごめんなさい、啓介。ピースの違いがよくわかりません。
「片桐さん、このピースの端を見てください」
「端?」
「そう、突起の前後の形。上と下のどちらかが長かったり、辺自体が長かったり。そういうのを見て同じ長さを探して、当てはまるかどうか探すんです」
「似たようなのがたくさんあります」
「ある程度絞れたらあとは総当りかな」
総当り。
とりあえず私は緑の方、啓介は白の方を担当する。白い部分のほうが少ないから啓介のほうが先に終わった。どうして違いがわかるんでしょうか。白が終わると次は絵を挟んで向かい合って、それぞれに近いピースから探していく。
思ったより時間がかかるものなのですね。完成まで2日かかった。
あと少しということで2日目は夜更かしして午前2時にようやく完成した。白いキャンバスに緑色が浮いている。ふふ。私の啓介に似ている。なんだか嬉しい。啓介の絵。なんだか温かい。
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