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8.トロンプ・ルイユの本当の中身。
一緒に料理をして、パズルをする。そんな日常もいい。
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4日目はやることが尽きた。仕方がないので料理をすることにした。『定番』のカレー。一緒にカレールーや具材をを買ってきて包丁で切る。
おそるおそるな感じだけどやっぱりカレーは簡単で何とかなった。サラダも切った。あとはこの間買った炊飯器でご飯を炊いたら完成。
「啓介のカレーはとても美味しいです」
とても。嬉しい。『十分』を超えた。にやにやしてくる口元をなるべく真っ直ぐに保つ。
「一緒に作ったんだから『俺と片桐さんの』カレーですよ」
「ふふ、嬉しいです」
片桐さんは料理が好きなのかもしれない。明日も料理でもいいような気はするけど『俺は料理が好き』だから料理をするとは思われたくはないな。楽しかったけど。うん、楽しかった。何かを一緒に作る方向で考えてみるのがいいだろうか。片桐さんにも楽しんでほしい。
翌日はジグソーパズルを買った。800ピース。絵柄を片桐さんに選んでもらうと酷くシンプルなものを選んだ。
「2色しかないと隣のピースを探すのは難しくないですか?」
「駄目ですか?」
「駄目じゃないです」
緑のたくさんのピースから隣り合ったものを探す。グラデーションもなにもない平たい緑。外枠を作って、色と色の境目をつくって、特徴的なピースを集めて1つ1つの形を小さく当てはめていく。酷く時間がかかったけれども、2晩分かけてようやく1枚の絵ができあがった。エルワーズ・ケイリーの『緑と白』。白いキャンパスの真ん中に緑のやわらかな四角が乗っている。それだけ。抽象画というやつだろうか。ただの白と緑。
完成した時、片桐さんはどことなく満足そうな表情をした。
「啓介、この絵を飾ってもいいでしょうか」
「いいですよ、じゃあ明日額縁を買ってきましょうか」
「嬉しいです」
「片桐さんはジグソーパズル好きですか?」
「この絵が好きです」
驚いた。俺以外で片桐さんが明確に好きと言った初めてのもの。俺以外の価値あるもの? 片桐さんは絵が好きなんだろうか。俺にはいまいちどこがいいのかよくわからないけれど。
「どのあたりが好きなんでしょう」
「啓介に似ています」
俺に? よくわからないな。ちょっと予想外。似てるのかな。でも結局好きなのは俺で、絵が好きなわけではないのかな。
でも片桐さんに好きなものが増えるのはとてもいいことだと思う。
「片桐さんにとって俺は緑色なんでしょうか」
「緑? そうですね、啓介はどちらかというと赤系統のイメージかもしれません」
ますますわからないけれど、片桐さんは何か酷く嬉しそうだった。片桐さんが喜ぶのは嬉しい。その日も抱き合ってベッドに入った。柔らかくかぶさる布団を俺と片桐さんの体温が暖める。好きです。
「啓介、ありがとう」
「パズル、楽しかったですか?」
「ええ、とても」
「明日もパズルを買ってきましょうか?」
「あの、そう、しますか?」
「どうしましょうか。枠を買ってから考えましょうか」
「はい」
探るような目線。パズル自体が好きなわけではないらしい。難しい。
でも、片桐さんが好きなものが増えた。俺に似ているらしいよくわからない緑色の絵。片桐さんの背中を抱きしめる。温かい。セックスをしないとなるとしたくなる。唇に触れたい。この体が恨めしい。まあ、俺をこんな体にしたのは片桐さんなわけだけど。それなのに片桐さんは恐る恐る俺の腕に触れる。なんだか変なの。
7日目。
ジグソーパズルの枠を買って、片桐さんにどれが一番楽しかったか聞くと料理だった。だから料理をすることにした。
ビーフシチュー。3日前と同じように材料を買って作る。美味しかった。今日で1週間休憩の最後。少しは関係性は変わったのだろうか。よくわからない。セックスが始まると、一緒に料理したりパズルをする時間はなくなるだろう。片桐さんにセックス以外のこともしたいと思って欲しいけど、まだ難しそうな気はするな。結局の所、すこしは楽しそうだったけど不安そうで戸惑っている印象のほうが強かった。
でもまぁ、俺と片桐さんは『付き合っている』んだからたまにこういう日を作ればいい。
気長に行こう。
月はもともととても遠くにあるものだ。
おそるおそるな感じだけどやっぱりカレーは簡単で何とかなった。サラダも切った。あとはこの間買った炊飯器でご飯を炊いたら完成。
「啓介のカレーはとても美味しいです」
とても。嬉しい。『十分』を超えた。にやにやしてくる口元をなるべく真っ直ぐに保つ。
「一緒に作ったんだから『俺と片桐さんの』カレーですよ」
「ふふ、嬉しいです」
片桐さんは料理が好きなのかもしれない。明日も料理でもいいような気はするけど『俺は料理が好き』だから料理をするとは思われたくはないな。楽しかったけど。うん、楽しかった。何かを一緒に作る方向で考えてみるのがいいだろうか。片桐さんにも楽しんでほしい。
翌日はジグソーパズルを買った。800ピース。絵柄を片桐さんに選んでもらうと酷くシンプルなものを選んだ。
「2色しかないと隣のピースを探すのは難しくないですか?」
「駄目ですか?」
「駄目じゃないです」
緑のたくさんのピースから隣り合ったものを探す。グラデーションもなにもない平たい緑。外枠を作って、色と色の境目をつくって、特徴的なピースを集めて1つ1つの形を小さく当てはめていく。酷く時間がかかったけれども、2晩分かけてようやく1枚の絵ができあがった。エルワーズ・ケイリーの『緑と白』。白いキャンパスの真ん中に緑のやわらかな四角が乗っている。それだけ。抽象画というやつだろうか。ただの白と緑。
完成した時、片桐さんはどことなく満足そうな表情をした。
「啓介、この絵を飾ってもいいでしょうか」
「いいですよ、じゃあ明日額縁を買ってきましょうか」
「嬉しいです」
「片桐さんはジグソーパズル好きですか?」
「この絵が好きです」
驚いた。俺以外で片桐さんが明確に好きと言った初めてのもの。俺以外の価値あるもの? 片桐さんは絵が好きなんだろうか。俺にはいまいちどこがいいのかよくわからないけれど。
「どのあたりが好きなんでしょう」
「啓介に似ています」
俺に? よくわからないな。ちょっと予想外。似てるのかな。でも結局好きなのは俺で、絵が好きなわけではないのかな。
でも片桐さんに好きなものが増えるのはとてもいいことだと思う。
「片桐さんにとって俺は緑色なんでしょうか」
「緑? そうですね、啓介はどちらかというと赤系統のイメージかもしれません」
ますますわからないけれど、片桐さんは何か酷く嬉しそうだった。片桐さんが喜ぶのは嬉しい。その日も抱き合ってベッドに入った。柔らかくかぶさる布団を俺と片桐さんの体温が暖める。好きです。
「啓介、ありがとう」
「パズル、楽しかったですか?」
「ええ、とても」
「明日もパズルを買ってきましょうか?」
「あの、そう、しますか?」
「どうしましょうか。枠を買ってから考えましょうか」
「はい」
探るような目線。パズル自体が好きなわけではないらしい。難しい。
でも、片桐さんが好きなものが増えた。俺に似ているらしいよくわからない緑色の絵。片桐さんの背中を抱きしめる。温かい。セックスをしないとなるとしたくなる。唇に触れたい。この体が恨めしい。まあ、俺をこんな体にしたのは片桐さんなわけだけど。それなのに片桐さんは恐る恐る俺の腕に触れる。なんだか変なの。
7日目。
ジグソーパズルの枠を買って、片桐さんにどれが一番楽しかったか聞くと料理だった。だから料理をすることにした。
ビーフシチュー。3日前と同じように材料を買って作る。美味しかった。今日で1週間休憩の最後。少しは関係性は変わったのだろうか。よくわからない。セックスが始まると、一緒に料理したりパズルをする時間はなくなるだろう。片桐さんにセックス以外のこともしたいと思って欲しいけど、まだ難しそうな気はするな。結局の所、すこしは楽しそうだったけど不安そうで戸惑っている印象のほうが強かった。
でもまぁ、俺と片桐さんは『付き合っている』んだからたまにこういう日を作ればいい。
気長に行こう。
月はもともととても遠くにあるものだ。
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