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7.あの月に梯子をかける、結局の所俺はそうしたい。
因果関係というのは客観的なはずなのに時には主観的に誤りをもたらしうるもの。
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何が何だかよくわからない流れのまま、結局、片桐さんは右上腕を奇麗に見えるように直すことにした。
だからその夜、片桐さんの袖をめくって右上腕を見た。触れていたから凹凸は知っていたけど、想像していた以上に引っ張られて、削れて、重なって、盛り上がっていて、皮膚ってこんな色んな色になるんだなって思った。でもこの色は均一にならされて、むしろ凹凸が目立たないようになるはずだ。
俺が驚いて少しだけ目を見張ってしまったから、片桐さんは目を背けてる。傷つけた。ごめんなさい、片桐さん。
「あの、気持ち悪いでしょう?」
「気持ち悪くないですよ」
「本当に?」
「本当に。見られるの、怖いですか?」
「怖いです」
片桐さんの右腕に頬擦りする。ちっとも嫌じゃないですよ。わかって。
でも片桐さんは目を逸らしたままだ。アイマスクしてるときもそうなのかな。でも目は逸らされたまま、腕が伸びてきて頭が撫でられた。
こっちを見て。でも『お願い』はできない。
「これで啓介に見てもらっても大丈夫になりますね」
そう微笑んで片桐さんは施術の同意書にサインした。
施術で皮膚がまともになる。そうすると多分片桐さんは右上腕を隠さないようになるだろう。
その様子を俺が見て、普通に接して、それが片桐さんの頭に腕がまともになったから普通に接しているんだろうと刷り込まれるのは耐え難かった。
片桐さんが嫌がることはしたくない。本当は片桐さんの心にはよくなかったのかもしれない。でも俺はどんな姿でも片桐さんが好き。傷の有無とは全く関係なく。それを伝えたい。
盛り上がっている所に舌を這わせて頬擦りをする。
「本当に治すのでよかったんですか?」
「それは、どういう意味でしょう」
「どういう? もし片桐さんが望んでいないことなら断って欲しかったんです」
「それはどうでもいいといいますか」
「どうでもいい?」
「……啓介が嫌でなければ」
「全然嫌じゃないです」
「本当に?」
「本当」
いつのまにか片桐さんの疑わしそうな目と目が合っていた。わざとらしく腕に頬を擦り付けると、少し混乱したように眉と眉の間に皺が寄った。ちゃんと混乱してください。片桐さんが肌を見せると俺に嫌われると思っているのはただの思い込みです。勘違いです。ちゃんと俺に好かれてます。きちんと片桐さん自身が。皮膚も含めて。わかって。
「俺は本当に今のままでも片桐さんが大好きなんです。だから別に治さなくてもいいと思ってる」
「そう、ですか?」
「そう。だから会社の都合を押し付けたようで、本当は片桐さんの希望とは違うんじゃないかと思って。その場合はとても不本意です」
「あの、本当に大丈夫です。最初はこの傷をなんとかしたほうがいいんじゃないかと思って始めたことなので」
「全然嫌でも怖くもないです。俺は片桐さんの全部が好きなんです。このままの皮膚も。ここからは見ないので安心してください」
目をつぶってお腹をめくって頬擦りする。見られたくないのは知っている。でも右上腕の様子を知ってても俺が今のままの片桐さんの全部が好きなことを示したい。
頭がそっと撫でられた。その指先は少し震えている、気がする。
「啓介は変な人ですね」
「変はひどいでしょう?」
「変な人です。とても」
多分このままだと何も変わらない。
嫌がられないっていうだけで片桐さんはひどく満足して喜んでいる。でも俺は『嫌じゃない』じゃなくて『好き』なんだ。この断絶を埋めたい。だから俺は片桐さんの心を落とすことを決意した。俺は片桐さんと恋人になりたい。この人を、俺が幸せにする。心に梯子をかける。
だからその夜、片桐さんの袖をめくって右上腕を見た。触れていたから凹凸は知っていたけど、想像していた以上に引っ張られて、削れて、重なって、盛り上がっていて、皮膚ってこんな色んな色になるんだなって思った。でもこの色は均一にならされて、むしろ凹凸が目立たないようになるはずだ。
俺が驚いて少しだけ目を見張ってしまったから、片桐さんは目を背けてる。傷つけた。ごめんなさい、片桐さん。
「あの、気持ち悪いでしょう?」
「気持ち悪くないですよ」
「本当に?」
「本当に。見られるの、怖いですか?」
「怖いです」
片桐さんの右腕に頬擦りする。ちっとも嫌じゃないですよ。わかって。
でも片桐さんは目を逸らしたままだ。アイマスクしてるときもそうなのかな。でも目は逸らされたまま、腕が伸びてきて頭が撫でられた。
こっちを見て。でも『お願い』はできない。
「これで啓介に見てもらっても大丈夫になりますね」
そう微笑んで片桐さんは施術の同意書にサインした。
施術で皮膚がまともになる。そうすると多分片桐さんは右上腕を隠さないようになるだろう。
その様子を俺が見て、普通に接して、それが片桐さんの頭に腕がまともになったから普通に接しているんだろうと刷り込まれるのは耐え難かった。
片桐さんが嫌がることはしたくない。本当は片桐さんの心にはよくなかったのかもしれない。でも俺はどんな姿でも片桐さんが好き。傷の有無とは全く関係なく。それを伝えたい。
盛り上がっている所に舌を這わせて頬擦りをする。
「本当に治すのでよかったんですか?」
「それは、どういう意味でしょう」
「どういう? もし片桐さんが望んでいないことなら断って欲しかったんです」
「それはどうでもいいといいますか」
「どうでもいい?」
「……啓介が嫌でなければ」
「全然嫌じゃないです」
「本当に?」
「本当」
いつのまにか片桐さんの疑わしそうな目と目が合っていた。わざとらしく腕に頬を擦り付けると、少し混乱したように眉と眉の間に皺が寄った。ちゃんと混乱してください。片桐さんが肌を見せると俺に嫌われると思っているのはただの思い込みです。勘違いです。ちゃんと俺に好かれてます。きちんと片桐さん自身が。皮膚も含めて。わかって。
「俺は本当に今のままでも片桐さんが大好きなんです。だから別に治さなくてもいいと思ってる」
「そう、ですか?」
「そう。だから会社の都合を押し付けたようで、本当は片桐さんの希望とは違うんじゃないかと思って。その場合はとても不本意です」
「あの、本当に大丈夫です。最初はこの傷をなんとかしたほうがいいんじゃないかと思って始めたことなので」
「全然嫌でも怖くもないです。俺は片桐さんの全部が好きなんです。このままの皮膚も。ここからは見ないので安心してください」
目をつぶってお腹をめくって頬擦りする。見られたくないのは知っている。でも右上腕の様子を知ってても俺が今のままの片桐さんの全部が好きなことを示したい。
頭がそっと撫でられた。その指先は少し震えている、気がする。
「啓介は変な人ですね」
「変はひどいでしょう?」
「変な人です。とても」
多分このままだと何も変わらない。
嫌がられないっていうだけで片桐さんはひどく満足して喜んでいる。でも俺は『嫌じゃない』じゃなくて『好き』なんだ。この断絶を埋めたい。だから俺は片桐さんの心を落とすことを決意した。俺は片桐さんと恋人になりたい。この人を、俺が幸せにする。心に梯子をかける。
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