[R18]トロンプ・ルイユ(旧Ver

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7.あの月に梯子をかける、結局の所俺はそうしたい。

肌を直すことの意味と、それがもたらす効果への葛藤。 E

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 片桐さんを口に含む。最近はだいたいそんな感じ。『準備する』というよくわからない言い訳で、『お願い』に含まれるのを防げた気がする。行為の前にベッドで抱き合って少し話をして。それからアイマスクをつけて。服を脱いで。片桐さんが俺を少し解して。
 まだくたっとして小さいのを丁寧に舐めるのと同時に傷だらけの腿を左手で抱えてに頬擦りする。
 片桐さんからぁ、という小さな吐息が漏れる。

 ちゃんと全部好きです。なんとなく性器自体を口に含むより傷を愛した方が喜ばれている気がする。
 右手を軽く上下させながら腿の凹凸を舌で探る。傷自体は昔のものだから舐めても大丈夫と言っていたけれど、見えないから加減がわからない。だから恐る恐る、皮膚が厚く盛り上がっているところを中心に。この辺りもあまり感覚はないらしい。優しく頭が撫でられる。多分、片桐さんは喜んでいる。

 準備ができたら片桐さんの顔を探して口づけして、片桐さんが入るかどうか俺の中を確認して、そのあと繋がって、片桐さんの背中を抱きしめる。そっと肩甲骨に手を回す。正直ざらざらしてどこが肩甲骨なのかよくわからないけど、多分この辺。なんていうか、変なんだ。変なところがへこんでたりする。穴が空いているような感触もある。
 触ってるのはよくわからないみたいだけどなるべく優しく圧迫する。体温が伝わりますように。
 でもその頃には俺の頭の中は快感にとろけてだいたい何が何だかわからなくなっているけど、なるべく肌が接するように。くっついていたいと思っていることが伝わるように。

 ギュッと抱きしめるとたまに片桐さんが小さく声を上げることがある。それがなんだか、嬉しい。

 は、ぁ、っふ、ぅ

 いつのまにか片桐さんから小さく気持ちよさそうな声が漏れている気がした。ぼんやりする頭と耳を傾けると吐息が重なっているのがわかる。それともこれは、俺の呼吸音? 何がなんだかよくわからない。片桐さんももっと気持ち良くなって。片桐さんが気持ちよくなっていると思うと、なんだか俺も嬉しくてますます頭がぼんやりする。

「かた、り、さん、キス、し、て」

 薬は飲んでないけど、体はすでにガクガクと痙攣してうまく動かない。片桐さんが俺の上に覆い被さって、唇が近づく。触れる。その隙間から片桐さんの吐息を感じる。口の中に吹き込まれる吐息が熱い。嬉しい。少しだけ乱暴に奥が突かれて思わず喜びで体が跳ね上がる。そのすきに片桐さんの唇は誤魔化すように移動して少し強めに喉にキスをした。何だかもう身体中がべとべとで、混ざり合っている。自分の体の形がよくわからない。
 また新しい何かがくる。もう何回イってるのかよくわからない。今も小刻みに体が震え続けている。片桐さんもイッてくれないかな。今は片桐さんの中では俺を気持ちよくさせる時間なんだろうけど、俺が気持ちよくなることと片桐さんが気持ちよくなることは矛盾しないんですよ。うつらうつらする頭でそう思う。
 頑張って力の入らない足を片桐さんの腰に絡める。もっと気持ちよく、なって、欲しい。俺から腰を擦り付ける。んぁ。片桐さんと俺が繋がるぱちぱちという肉が触れ合う音とじゅぶじゅぶという粘膜が擦れ合う音がする。中が溶けて繋がってる。お願い、出して、俺に。俺で気持ち良く、なって?
 でもそれは、言えない。悲しい。

「啓介、気持ちいいですか?」
「ぁ、きも、ち、ぃ、んぁ」

 俺の中で片桐さんが少し震える。片桐さんが喜んでる。呼吸から漏れる温度が少し熱い。片桐さんの背中に手を回す。ざりざりとした感触。でも感触なんて、俺が触れるのが片桐さんであればどうだっていい。全部が好き。わかって。胸に頬を擦り付ける。大好き。
 ああ、片桐さんがぴくりと震えた。嬉しい。
 でも何だかもう頭が働かなくて、ぼんやり霧がかかって、もう体の奥で感じる片桐さんの刺激のことしか考えられなくて、なんだか、ぼんやり、す、ふ。

「大丈夫ですか?」
「う、ゆ」

 何とか声を返す。途中でやめないで、お願い。片桐さん、も。ぁ。またィく。

◇◇◇
 
 その日、突然転機が訪れた。大きな。
 なぜそんな話になったのかよくわからないけど、うちとアスティナ技研と近くの附属病院が共同してパラメディカルアートメイクの治験を行うことになった。附属病院の形成外科の医師と専門の看護士がチームを組み、商社のうちが治験に必要だったり足りなかったりする機材や薬剤等を揃える。
 アスティナ技研は人体に優しいアートメイク用の顔料インクの開発をしている。アートメイクというと女性の眉を描いたりする美容イメージが強いけど、片桐さんがやっているように傷跡を隠したりすることもできる。パラメディカルピグメンテーションは医療行為だ。将来的にはアスティナ技研は顔料インクに保険適用されるよう承認申請するつもりらしい。

 片桐さんも治験に誘われた。今回の治験の目的はこれまでのような模様を書いてごまかすのではなく、元の色に戻すことだ。真っ当な傷のカバー、普通の肌色に戻すことを目的としているものだから、猟奇的な絵を描くものではない。

「左上腕か右上腕でやってみねぇか」
「ですが」
「一箇所ぐらいまともな柄があってもいいだろ、な、ケースケ」

 なんだかこの頃には桜川さんに俺と片桐さんの関係がバレていた。うちの会社ではバレていないと思いたいのだけど少し不安になった。片桐さんはあまり気にしていないようだけど。

「あの、ええと」
「ケースケも堂々とこいつの裸見たいだろ?」
「そのような」
「そんなこと言ったらこいつ悲しむぞ」
「いえ、どんな体でも、好きです」
「うわ」

 うわって何だ。

「片桐、仕事だからやれ。うまくいかせる。そうすりゃこいつの会社の株が上がる、ケースケも喜ぶ」
「喜んでいただけますか?」
「ええと、その」
「なんだ煮え切らねぇな。こいつはイカレてるからお前が喜ぶっつったら喜ぶんだよ。儲かった金でなんかプレゼントでも買ってやれよ」
「プレゼント」

 そういえば片桐さんに何かをプレゼントしたことはなかった。
 でも会社の都合でこんな重要なことを押し付けたくない。

「お前、変なとこで道琉に似てんな」
「父ですか?」
「妙に生真面目でよ。こいつはどうでもいいことは心底どうでもよくて、嫌なことは断るやつだから嫌がってなけりゃ押し付けても問題ねぇんだよ」
「啓介の言う通りにしますよ」
「ほら。ケースケの言う通り」
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