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3.片桐さんは何かおかしいのじゃないか、とふと思った。
恋人って何だろう。よくわからない。
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片想いというのはなんだか少しばかりジリジリと皮膚の表面を焦がす夏の太陽に似ている気がする。片桐さんのイメージはどちらかというと月だけれど。空の上の遠くにぽっかり浮かんでいる月。その光が俺を焦がしていた。
クリスマスより前は片桐さんを抱きしめたいと思っていても全然手が届かなかった。もっと仕事じゃなくて、事務的にじゃなくて、その視線を俺だけに向けて笑いかけてほしかった。けれどもやっぱり月みたいに遠い距離を感じて、でも仕事で俺に話しかけてくれる、それだけでいいと思っていた。
唇に触れたい、俺だけを見てほしい、そんなことを思った。でもまあ男同士だし、そんなことになるはずはないとも思っていた。ヒリヒリした気持ちを感じながら近くにいるだけでそれなりに幸せで満足していた。
月というものは所詮遠くて触れられないものだから。
それはクリスマスの日に突然訪れた。月が急に落ちてきた。唇に触れて、俺だけがその視界に入っていると考えたら、なんだか全てが予想を超えてきた。
片桐さんは漫然とじゃなく意思を持って俺の全身を見つめ、俺はすっかり囚われた。その視線が熱くて、何が何だかわからなくなった。
両思いっていうのは片想いとは違うと思っていた。片方から片方へのベクトルの愛が、双方向になる。そういうものかと。
けれども片桐さんはやっぱり俺にとっては月で、なんだか遠くて、俺をとても愛してくれるけど、俺の愛はちっとも届かない。こちらを向いているからこそその距離が遠いことを実感してしまう。ひたすら一方的に降ってくる月の光。でもとても愛おしい光。
どうやったら届くんだろう。エリック・カールの童話のように、いつか梯子をかけて月を取ってくることはできるんだろうか。
◇◇◇
啓介と唇を合わせる。
外気に触れている部分はつるつると弾力があって、少しめくると湿っている。滑らかに絡まるその唾液が私の唇と啓介の唇を薄い膜のように繋いでいる。舌を絡めるとその柔らかさと啓介の体温を感じる。
この口内の湿度。
私の啓介。
啓介と唇で繋がっている。
啓介がすぐ近くにある。
愛しい。
クリスマスの日に初めてキスをした。『好き』と言われた。なんだか私は舞い上がってしまって。
私を『好き』?
本当に?
本当かな。
どきどきした。
啓介は自分を私にくれると言ってくれた。嬉しい。クリスマスの奇跡。神様、ありがとう。
でも、クリスマスだから、特別なんだろう。そんな気もして。明日になったら啓介は私のものではなくなってしまうんだろうな、そんな気もして。
だから私がいつも飲んでいる薬を飲んでもらった。この薬は普通の人が飲んだら副作用は残らないけど一時的に動けなくなるから管理に気をつけてと言われていた。
……今日だけは、私のものになって。
私を嫌がらないでほしい。一晩、啓介を私が独占する。それで、それだけでも。
でもどうしていいのかよくわからなかった。男性と行為をしたことがない。とりあえず服を脱がせた。とても綺麗な肌が現れ、思わず息を呑む。
少しだけ小麦色。
社長になってから休む暇もなかったはず。それならこれは啓介の本来の肌の色。健康的で美しい。いつまでも見ていたい。滑らかで、なんだか触れるのがもったいないほどで。でも思わず唇で触れてしまう。こんなに近くにあるんだから。欲望に負けても仕方がない。
欲望?
近づくほどに不思議な香りが漂う。日向のような暖かな香り。これが啓介の香り。
目を下に移すと、少し興奮しているのが服の上からでもわかった。脱がせると、少し隆起していた。どきどきしながらそっと手で触れてみる。そうするとますます大きさを増した。嬉しい。喜んでくれている。嬉しい。もっと喜んでほしい。
たくさん気持ちよくなってもらえれば私のことを好きでい続けてもらえるでしょうか。
1つ1つ確かめながら啓介に触れる。どうすると気持ちよくなってもらえるのだろう。気持ちいいということは少なくとも幸せなことだと思う。好き。好きな人が幸せなのは、おそらく幸福なことなのだと思う。
どうすれば気持ちいいですか?
教えてほしい。
どうしてほしい?
啓介が気持ちいいと何だか私も幸せな気分になる。嬉しい。好き。
「あの、ええと、本当に挿れるんですか」
「駄目ですか?」
時間をかけて少しずつ準備した。大丈夫。痛くないですよ。
もっと気持ちよくなって欲しい。私で。啓介の額にキスをする。
「もう、中は気持ちいいでしょう?」
「それは、そうなんですが」
啓介を抱きしめる。
大好き。
背中に回した腕から感じる啓介の皮膚がすべすべしていて、とても気持ちいい。それからこの暖かい拍動も心地いい。首筋から啓介のいい香りがする。啓介がたくさん気持ちよくなるとその匂いに少しだけ甘酸っぱさが混ざる。その変化がとても好き。
私はこんなに幸せな気分に浸れている。だから啓介にももっと気持ちよくなってほしい。それに、そうするものなのでしょう?
頬にも口付ける。愛しい。啓介の全てが愛しい。
「えと、あの、なんて言ったらいいかよくわからないんですが」
「はい」
「なんというか、怖くて」
「痛くはないと思います」
「それは、俺もそう思うんですが。でもなんだか決心が」
初めてだから怖いんでしょうか。
撫でた背筋が少し強張っている。瞳が不安そうに揺れている。本当に怖いんだろう。私も初めてだ。好きな人と繋がるのは。なんだか、そうか、これが『甘酸っぱい』という気分なのかな。ふふ、啓介は私に色々なものをくれる。嬉しい。大好き。
大丈夫。きっと啓介はもっと気持ちよくなるはず。大丈夫。
私は何か、すごく高揚している。啓介と繋がりたい。私で気持ちよくなってもらえれば、きっと啓介は私を好きになってくれるに違いない。
少し困った顔をしている啓介も愛しい。けれども怖い思いはしてほしくない。どうしたらいいかな。
「後ろから挿れたほうが怖くないでしょうか?」
「ええと、その、怖いというのはそういう意味でも、ぁ」
そっと指を挿れると、すぐに反応して小さな吐息が漏れる。
嬉しい。啓介が喜んでくれている。
「大丈夫です。たくさん気持ちよくなってほしいんです」
怖いのは良くないと思ってたくさん解して、器具と同じように私のものを差し入れようとした時に気が付いた。
はじめて。
啓介のここに入る人は私が初めてなのか。そう思うとなんだか不思議に特別な感じがした。
ふと、啓介と目があった。啓介の目が不安に揺れていた。
大丈夫。私の啓介。
たくさん気持ちよくなってください。
私ので?
そう思うとなんだか急にどきどきした。啓介と、繋がる。不思議な、特別な感覚。大好きです。
クリスマスより前は片桐さんを抱きしめたいと思っていても全然手が届かなかった。もっと仕事じゃなくて、事務的にじゃなくて、その視線を俺だけに向けて笑いかけてほしかった。けれどもやっぱり月みたいに遠い距離を感じて、でも仕事で俺に話しかけてくれる、それだけでいいと思っていた。
唇に触れたい、俺だけを見てほしい、そんなことを思った。でもまあ男同士だし、そんなことになるはずはないとも思っていた。ヒリヒリした気持ちを感じながら近くにいるだけでそれなりに幸せで満足していた。
月というものは所詮遠くて触れられないものだから。
それはクリスマスの日に突然訪れた。月が急に落ちてきた。唇に触れて、俺だけがその視界に入っていると考えたら、なんだか全てが予想を超えてきた。
片桐さんは漫然とじゃなく意思を持って俺の全身を見つめ、俺はすっかり囚われた。その視線が熱くて、何が何だかわからなくなった。
両思いっていうのは片想いとは違うと思っていた。片方から片方へのベクトルの愛が、双方向になる。そういうものかと。
けれども片桐さんはやっぱり俺にとっては月で、なんだか遠くて、俺をとても愛してくれるけど、俺の愛はちっとも届かない。こちらを向いているからこそその距離が遠いことを実感してしまう。ひたすら一方的に降ってくる月の光。でもとても愛おしい光。
どうやったら届くんだろう。エリック・カールの童話のように、いつか梯子をかけて月を取ってくることはできるんだろうか。
◇◇◇
啓介と唇を合わせる。
外気に触れている部分はつるつると弾力があって、少しめくると湿っている。滑らかに絡まるその唾液が私の唇と啓介の唇を薄い膜のように繋いでいる。舌を絡めるとその柔らかさと啓介の体温を感じる。
この口内の湿度。
私の啓介。
啓介と唇で繋がっている。
啓介がすぐ近くにある。
愛しい。
クリスマスの日に初めてキスをした。『好き』と言われた。なんだか私は舞い上がってしまって。
私を『好き』?
本当に?
本当かな。
どきどきした。
啓介は自分を私にくれると言ってくれた。嬉しい。クリスマスの奇跡。神様、ありがとう。
でも、クリスマスだから、特別なんだろう。そんな気もして。明日になったら啓介は私のものではなくなってしまうんだろうな、そんな気もして。
だから私がいつも飲んでいる薬を飲んでもらった。この薬は普通の人が飲んだら副作用は残らないけど一時的に動けなくなるから管理に気をつけてと言われていた。
……今日だけは、私のものになって。
私を嫌がらないでほしい。一晩、啓介を私が独占する。それで、それだけでも。
でもどうしていいのかよくわからなかった。男性と行為をしたことがない。とりあえず服を脱がせた。とても綺麗な肌が現れ、思わず息を呑む。
少しだけ小麦色。
社長になってから休む暇もなかったはず。それならこれは啓介の本来の肌の色。健康的で美しい。いつまでも見ていたい。滑らかで、なんだか触れるのがもったいないほどで。でも思わず唇で触れてしまう。こんなに近くにあるんだから。欲望に負けても仕方がない。
欲望?
近づくほどに不思議な香りが漂う。日向のような暖かな香り。これが啓介の香り。
目を下に移すと、少し興奮しているのが服の上からでもわかった。脱がせると、少し隆起していた。どきどきしながらそっと手で触れてみる。そうするとますます大きさを増した。嬉しい。喜んでくれている。嬉しい。もっと喜んでほしい。
たくさん気持ちよくなってもらえれば私のことを好きでい続けてもらえるでしょうか。
1つ1つ確かめながら啓介に触れる。どうすると気持ちよくなってもらえるのだろう。気持ちいいということは少なくとも幸せなことだと思う。好き。好きな人が幸せなのは、おそらく幸福なことなのだと思う。
どうすれば気持ちいいですか?
教えてほしい。
どうしてほしい?
啓介が気持ちいいと何だか私も幸せな気分になる。嬉しい。好き。
「あの、ええと、本当に挿れるんですか」
「駄目ですか?」
時間をかけて少しずつ準備した。大丈夫。痛くないですよ。
もっと気持ちよくなって欲しい。私で。啓介の額にキスをする。
「もう、中は気持ちいいでしょう?」
「それは、そうなんですが」
啓介を抱きしめる。
大好き。
背中に回した腕から感じる啓介の皮膚がすべすべしていて、とても気持ちいい。それからこの暖かい拍動も心地いい。首筋から啓介のいい香りがする。啓介がたくさん気持ちよくなるとその匂いに少しだけ甘酸っぱさが混ざる。その変化がとても好き。
私はこんなに幸せな気分に浸れている。だから啓介にももっと気持ちよくなってほしい。それに、そうするものなのでしょう?
頬にも口付ける。愛しい。啓介の全てが愛しい。
「えと、あの、なんて言ったらいいかよくわからないんですが」
「はい」
「なんというか、怖くて」
「痛くはないと思います」
「それは、俺もそう思うんですが。でもなんだか決心が」
初めてだから怖いんでしょうか。
撫でた背筋が少し強張っている。瞳が不安そうに揺れている。本当に怖いんだろう。私も初めてだ。好きな人と繋がるのは。なんだか、そうか、これが『甘酸っぱい』という気分なのかな。ふふ、啓介は私に色々なものをくれる。嬉しい。大好き。
大丈夫。きっと啓介はもっと気持ちよくなるはず。大丈夫。
私は何か、すごく高揚している。啓介と繋がりたい。私で気持ちよくなってもらえれば、きっと啓介は私を好きになってくれるに違いない。
少し困った顔をしている啓介も愛しい。けれども怖い思いはしてほしくない。どうしたらいいかな。
「後ろから挿れたほうが怖くないでしょうか?」
「ええと、その、怖いというのはそういう意味でも、ぁ」
そっと指を挿れると、すぐに反応して小さな吐息が漏れる。
嬉しい。啓介が喜んでくれている。
「大丈夫です。たくさん気持ちよくなってほしいんです」
怖いのは良くないと思ってたくさん解して、器具と同じように私のものを差し入れようとした時に気が付いた。
はじめて。
啓介のここに入る人は私が初めてなのか。そう思うとなんだか不思議に特別な感じがした。
ふと、啓介と目があった。啓介の目が不安に揺れていた。
大丈夫。私の啓介。
たくさん気持ちよくなってください。
私ので?
そう思うとなんだか急にどきどきした。啓介と、繋がる。不思議な、特別な感覚。大好きです。
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