[R18]トロンプ・ルイユ(旧Ver

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2.日常とのバランスがうまくとれない。

俺の体が何かおかしい。 E

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 なんとも表現し難い微妙な気分。
 携帯で調べながら中を綺麗にしてタオルを巻いて風呂から上がったら、ベッドに腰掛ける片桐さんに『おいで』と誘われた。
 緊張しながら抱き合って、片桐さんの少し開いた膝の上に座る。そうすると自動的に俺の膝も開いて、なんだか妙に気まずくて恥ずかしい。タオルが心許ない。それを察したのか、片桐さんにそっと抱きしめられて頭を優しく撫でられて、タオルはさらりと取り去られてしまった。

「啓介、かわいい。とても綺麗です」
「そう、でしょうか?」

 かわいいのかな。
 俺だけ全裸なのが極めて恥ずかしい。なんだか今もじっくりと全身を眺められて落ち着かない。でも嫌がる片桐さんの怪我を無理に見たいとは思わない。
 ……アダルトグッズ屋の店員から、最初はリラックスしながら解すのが良いと聞いたらしい。すでに俺より詳しい。やっぱり試すのか。不安が湧き上がる。拒否感がある。

 優しく頭が撫でられて啄むようなキスを重ねる。
 少し気分が落ち着いたところに片桐さんの手で腰をそっと寄せられ尻に冷たくねとねとした液体の感触が広がった。冷たさはすぐに体温に混じったけど、ねばつく液体に緊張で背中が硬直する。

「怖がらなくても大丈夫、座薬のようなものらしいですよ」

 座薬のようなものって。
 片桐さんがされるわけじゃないからそんな気楽に言えるんじゃないのかな。らしいって言われても。本当に試すだけ、ですよね?
 ぴったりと抱き寄せられて背中越しにゆっくりと開かれて入ってくる片桐さんの指先に思わず腰が逃げるけど、片桐さんの左腕で腰を抱かれていてなんとなく動けない。んぅ。侵入する指の圧迫。ひどい違和感。全然座薬と違う。奥に抜けていかないし、ぐにぐにと動く。入り口に引っかかる異物感が半端ない。

「痛いですか?」
「だいじょ、ぶ、ん」

 胸の突起が軽く齧られる。くすぐったい。意識が少し分散する。あと、この片桐さんの膝の上に足を広げて乗ってる格好がとても恥ずかしい。なんだか尻に力が入らない。それに顔が近くてうっとりした片桐さんと目があって優しく微笑まれた。なんだろうこれ? 混乱。

「気持ちいいですか?」
「ふっ、気持ちよく、は、ない、です。ん。変な、感じ」
「変な感じというのは?」

 気遣いというよりは何か、不具合がないか確認されているような、妙な応答。左手の指で孔の周りの皮膚をそっと広げて、右指がそれに沿ってつぷつぷと中に誘われて、ゆっくりと出し入れされるうちになんだか自然と奥の方に入ってくるような。

「う。ふ、違和感、が」
「嫌じゃないなら大丈夫です。きっとすぐ気持ちよくなります。そう聞いたから安心して」
「え、ぁ、んん、ひっ」

 安心と言われても体は異常事態になんだか緊張して、でも力が入らない体勢とぬるりとしたローションで指がさらに奥にねじ込まれて変な所をくすぐられる。じわじわ妙な圧迫感が広がるけど、気持ちよくは、ない、な。おなかが、へん。

「啓介、好きです」
「ん、ぁ」
「ほら、気持ちよくなってきました」
「あ、れ? いや、でも気持ちいいとは違うような」

 同じようなスピードで摩擦される俺の中。ん、ん。このはじめての感触はどちらかというと気持ち悪い。

「これはとても気持ちいいんですよ」
「そ、れは、暗示、で、は」
「でも先走りが出ています」
「あ、れ? っん、ごめんな、さい」

 目を落とすと、確かに片桐さんのシャツに染みができていた。恥ずかしくて、それから申し訳ない。でもこれは気持ちいいとかではなくて何かの生理現象ではないだろうか。ただでさえ好きな人の前でなんだか恥ずかしい格好で裸でいるんだし。

 片桐さんの舌が顎を這って、左手で首筋を引き寄せられて柔らかいけど長いキスをする。
 舌に合わせて指が動く。思わず腰が浮くけど、首元が押さえられて動かないから背中を丸めた妙に落ち着かない姿勢で、仕方がないから落ち着かない両手で片桐さんの頭をそっと抱える。絡まる舌が優しい。なるべく唇の方に意識を集中する。柔らかい。ん。ぁ。
 気持ちよくもないし、下腹部の違和感は無くなる気配はない。でもしばらく出し入れされるうちに、いつの間にか抵抗が少しだけ少なくなった気がする。
 長い長いキスの果てに片桐さんの目がそっと開いてにこりと微笑んで、唇が離れるのと同時に指が最後にふちを引っ張って抜けていった。

「思ったよりすんなり入りましたね。2本にしてみましょう」
「あの、ええと」

 ローションが片桐さんの中指に加えて人差し指も濡らす。どこか事務的な流れが感じられてとても怖い。でも止め方がわからない。
 それから先ほどよりするりと1本が差し込まれ、その指先に沿うようにもう1本がねじ込まれようとするけどふちが引っぱられて痛い。

「つっ」
「痛いですか?」
「ん、ちょっと痛い」

 ぴりりと皮膚が裂けるようななんとも言い難い痛みが走り、人差し指は侵入を諦めてふちをくすぐった。やっぱ無理なんでは。それに指2本が無理じゃとても入らないよな。
 昨日触れた片桐さんを思い出す。無理無理。無意識に身体を片桐さんから離したら見透かしたような声が聞こえた。

「今日は挿れたりしませんよ」
「そう、なんですか?」
「ゆっくり慣らすのがいいと聞きましたから」

 ほっと一息つく。よかった。

「そんなに嫌ですか?」
「嫌というか」
「しばらくは私のが入った時にどう感じたらいいか体を慣らしましょう?」
「どう、感じたら?」
「痛くないように、気持ち良くなれるよう練習しましょう」

 それはなんだか、未来が確定されているようで、より酷いような。駄目ならやめるんじゃなかったのかな。駄目になるルートを潰すつもりだこれ。いや、待って。
 唇が反論しようとした俺の口を塞ぐ。唾液の交換。押し込まれず、舌先に乗せられるだけの錠剤。

「だからどうか、また飲んで頂けませんか。今日は挿れませんから」
「挿れない?」
「そう、解すだけ。痛いことは何もしません。啓介は私を信用できませんか?」
「信用」

 信用できないはずがない。俺は片桐さんを全部信用している。でも、怖い。動けないのは。

「昨日のように啓介を気持ちよくさせてあげたいだけ」
「それがなんだか怖くて」
「怖い?」
「気持ち良すぎて怖いというか」
「ふふ、変な啓介。気持ちいいのはいいことでしょう?」

 頭が優しく撫でられる。いいかどうかというとすごく気持ちはよかったけれど、でも昨日は途中で何が何だかわからなくなった。俺はもう少し、恋人的なことがしたい。まあ、行為は恋人的なことの最たるものではある気はするのだけれど、もう少しなにか触れ合いというか。

「俺も片桐さんに触りたいです」
「されたいことを言って頂ければ啓介の言う通りにしますから」

 そういう意味ではないんだけど。もっとこう、言えばするというのではなくて自然な感じで?

「どうしても飲まないとだめですか?」
「リラックスして、体の力を抜くのがいいと聞いたんです。その方が痛くないし負担も少ないって。痛くない方がいいでしょう? 本当に嫌なら出してください。でも飲んでくれたら嬉しい。私を受け入れてくれたみたいで」

 受け入れ。俺は片桐さんを拒絶するつもりなんて全然、ない、とは、いえ、ない、のか、な。本当に挿れない? 大丈夫? 飲んだ方が痛くない?

 片桐さんの頭を抱きしめて頬をくっつける。片桐さんも俺を抱きしめる。ふわりと柔らかくて上品な香りがした。片桐さんの膝の上に乗っているから、俺の胸と片桐さんの胸がシャツ越しにくっついている。俺はどきどきしている。でも片桐さんは服を着ているから、どきどししてるのかはよくはわからない、でも。

「こうやって俺も抱きしめたい」
「それ以上に私が抱きしめますから」

 何かやはり少し、話がずれている気がする。背骨に沿って片桐さんの指が背中を撫でる。その指の感触が暖かくて気持ちいい。でも、怖い。何かが。でも片桐さんは好き。どうしたらいいのか決められない。
 途方に暮れた。だから。
 片桐さんの顎を持ち上げてキスをすると、片桐さんは俺の喉の奥に錠剤を押し込んだ。

「ありがとう、啓介。たくさん気持ちよくしてあげますね」

 やっぱり少し何か違うと思いつつ、だんだん片桐さんの頭を抱きしめる腕の力が思うように入らなくなってがくりと落ちる。身体の力も抜けて支えられなくなって片桐さんに崩れ落ち、自分の体重が片桐さんに乗っかってるのがわかった。体に力が入らないというのはとても頼りない気持ちになる。俺の背中を片桐さんが撫でて、それから多分、愛おしそうに強く抱きしめられる。暖かくて気持ちいい。あったかい。気持ちよさじゃなくて、あったかさが欲しいな。もう薬を飲み込んだ後だったけど、なんとなくそう思った。

「でも、もうしばらく抱きしめていてください。あと、キスをもう少し、したいです」
「わかりました。なんでも言ってくださいね」

 もう少し、普通の感じを味わいたい。気持ち良すぎて頭がおかしくなる前に。
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