[R18]トロンプ・ルイユ(旧Ver

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1.クリスマスイブは雪が降っていた。

気がついたら体が動かなかった。 E

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 どう、されたい?
 その言葉だけはすぐに理解できた。急に思い出した本能的な衝動。
 それはもう、片桐さんとしたい。キスして、抱きしめて、片桐さんに挿れたい。
 それはもう、毎晩とはいわないけど、ちょくちょく夜中に妄想していたことだから。

 でもそれは全然具体性のない妄想で。頭の中の片桐さんは喘いだりすることもなくて、というかそんな姿は想像できなくて。今みたいにずっと俺を優しそうに見ていて。だから随分非現実的で、でも片桐さんと、したくて。
 そう思っていると、ぷちぷちと俺のシャツのボタンが外されていく。
 いつもの妄想と異なる反応。

「あの、片桐さん?」
「とりあえず一般的にしてみようと思いまして」
「一般的に?」

 混乱するうちにシャツはすっかりはだけて、倒れた俺の体にゆっくり体重がかけられ、さわさわと胸をなで始める。片桐さんの重みと考えると、なんだか心が沸き立ち、その細長く温かい指先が触れるところが泡立つように気持ちいい。
 暖かくてくすぐったい。俺を見下ろす片桐さんの視線が何かいつもとも妄想とも違う感じにうっすら微笑んでいて、唇の隙間からわずかに歯が見えた。

「気持ちいいですか?」
「ええと、特には、ツッ」

 無造作に突起が摘まれた。びっくりした。むずがゆいけど別に気持ちよくは……ない、な。驚きが表情に出たせいか、片桐さんは少し悩むように眉を寄せる。その表情になんとなく申し訳ない気がして、起き上がろうとして体が動かないことに気がついた。
 あれ?
 急に冷静さが帰ってきた。

「あの、体が」
「そのうち動けるようになりますから安心してください」

 片桐さんは今までと同じ優しそうな表情で言う。
 あれ? ちょっと何を言っているのかわからない。
 それでようやく思い出す。最初のキスで飲んだ……錠剤?
 動けない。効果を頭の中でたぐると、中枢性筋弛緩剤か、何か?
 体が強張る。でも動かない。体が動かないという事象は本能的に恐怖を呼び起こす。急に怖くなった。好きで、怖くて、動けない。目を合わせると優しそうな笑顔。混乱していると片桐さんは安心させるように俺の頭を優しく撫でて、甘い声で安心してと繰り返す。
 
「あの、そういう問題では」
「大丈夫です。ゆっくり見たいだけなんです。私の啓介を。だからこのままで」
「見たい……?」
「抵抗されるのは嫌なので。本当にそれだけです」

 見ているだけ?
 そういえば今、服がはだけてる。片桐さんに体をじっくり見られてる、そう思うと何か急に恥ずかしくなってきて体がこわばる。酒のせいもあるのか少し体温が上がって汗ばんでる気もして恥ずかしい。いろいろな気持ちが混ざって混乱が深まる。

 何故、何故こんな状況に。
 なんとかしようと体に力をいれる。けれどもピクリとしか動かない。
 恐慌。不安。また混乱。ええと、これはどういう状況? 一旦落ち着きたい。
 ふと見上げたら、俺を片桐さんはやっぱり優しそうに見下ろしていた。いつも俺を助けてくれる見慣れた瞳になんとなく、少し安心した。助けて。

 でも助けの代わりは安心させるような小さなキスだった。

「駄目ですか? 見たいだけなんです」
「駄目では……」

 見たい、だけ。
 同じ言葉が重なる。片桐さんに見られる。急に目線が気になって追う。なんだかうっとりと胸を見ている。こんなにまじまじ人に体を見られるとか、これまで経験したことはない。気になる。妙に恥ずかしい。意識するとなんだかその視線の先がくすぐったい。体が熱い。暖かな指先でそっと俺の表面が撫で回された。

「見た目より鍛えているんですね」
「……ずっとバスケをやってたので」
「そうでしたね」

 目線が首元に動いて背中と頭をそっとを持ち上げられてまたキスをした。その時頭が動かせることに気がついた。けれどもやはり首から下が上手く動かせない。片桐さんとくっついて幸せなのに怖い。酷い混乱で頭が揺れる。
 背中とソファの間にできた隙間にそっと片桐さんの腕が入って持ち上げられる。そのまま服を脱がされて肩周りがあらわになり、上腕が視線に撫でられる。見られていると思うとやっぱり妙にその視線が気になって。

「あの、見てて楽しいですか」
「とても奇麗です。だからどうか全部見せて」

 奇麗? 奇麗というなら片桐さんの方がずっと奇麗だ。
 すっと伸びた鼻筋と長いまつ毛が目の前にある。キスしたい。いつもより。自分の唇がうっすら開いていることに気がついた。
 片桐さんの細められた目線が俺の鎖骨と上腕をゆるゆると辿りその場所がまるで線を引かれたように熱くなり、その後を暖かな舌が丁寧になぞって肩を軽く齧られた。柔らかい唇と濡れた歯の感触に動かない体がピクリと反応する。そのまま舌はゆっくりと鎖骨に沿って、首筋をのぼって顎の骨を柔らかく這う。くすぐったくて、ゆたゆたと気持ちよくて妙に恥ずかしい。むずむずする。

「結構筋肉質なんですね」
「あの、すいません」
「啓介の全部が好きです」

 耳のすぐ近くで響く掠れた声。
 片桐さんに『好き』といわれること自体は凄く嬉しくて、心臓がバクバクして、でもそれ以上に現実感のないこの状況に困惑で、頭がクラクラする。触れられるほど、舌が届くほど近い。体が動かない。
 怖くて、とても気恥ずかしい。だから何か、もう少し普通がほしい。普通の、『好き』っぽいもの。

「えっとあの、俺も片桐さんのことを、その、紫苑さんと呼んでもいいですか?」
「出来れば名字のほうか嬉しいてす。名前にいい思い出がありません」
「そう、ですか」

 すげなく却下されたその隙に片桐さんの指は胸骨から腹筋を撫でてそのまま下腹部に滑り込む。カチカチとベルトを外す音がする。下着のすき間に忍び込む柔らかな指先。

「あの、えっと」
「汗かいてる」

 っあ……

 すっかり露わになった先端を指がひとなでしてそのまま奥に伸ばされる。片桐さんの暖かい指に形を確かめられて、そのまま包むような形で触れられる。
 なんで。恥ずかしさに思わず俺を見つめる片桐さんから目を逸らすと頬にキスされた。しなるソファの音とともに俺にかかる片桐さんの体重が温かい。

 はっう……

 体はろくに動かないのに俺のそこだけ別のものみたいに熱い。意思に反して勝手にビクビクと小さく振動して、先端がもちあがって片桐さんの手のひらを小さく擦る。その刺激でまた隆起して当たって、頭がぼんやりして無意識にその手のひらに擦り付けようと腰が僅かに動くけど体うまく動かせない。もどかしい。触れているのは先ほどまで俺の顔を撫でていた片桐さんの指、そう思うとまた腰が揺れて、だめだ頭がおかしくなりそう。

 その度に俺の口から小刻みに漏れる息にその刺激以外ことが考えられない。ぁ、ん、片桐さん、片桐さんに挿れたい。挿れることを想像して擦っていたことを急に思い出す。でも想像と違って俺に触れる片桐さんの手は温かくて生々しい。それから関節が俺にひっかかる。俺の指より細い。いや、ちが、何考えてるんだ俺の頭。

 そう思うと余計に血が上って、振り向いたらすぐ近くにあった片桐さんの唇にそのまま軽くキスをした。唇の表面をちろちろ舐められておそるおそる舌を伸ばすとその舌先もちろちろ舐められた。くすぐったい。夢と現実がごっちゃになっているようなこのくすぐったい混乱。

「気持ちいい?」
 ぃぅ
「だいぶん大きくなってきました」
「か、たぎ、りさ、ん」

 すぐ近くで聞こえる声はまるで現実感がなくてそのまま頭の中をざりざりとノイズのようにくすぐった。荒い息でなんとか名前を呼ぶと軽く下唇を噛まれた刺激でまたびくびくと震えて片桐さんの手に擦れる。

 あっもう、んんっ
「どうして欲しいですか? 教えてください」
 ふっう、くっ
「よく聞こえないです」
「擦っ、て」
「どんなふうがいいですか?」

 どんな、て、ふっ、もどかしくて、苦しい。無理。もっと。
 刺激が欲しくてだんだん恥ずかしいという概念もよくわからなくなって口が勝手につぶやく。

「あの、たくさ、ん」
「たくさん?」
 くぁっ

 俺の上にただ置かれていたその指がそっと優しく竿を握って吐息にあわせてさわさわとゆっくりと上下する。おそるおそるな中途半端な勢い。手のひらと指先の暖かさとそのすき間の空気の冷たさ。ゆっくりで、優しくて、よけい苦しい。動かない体の奥に熱がこもるのと同時に顎に沿った舌が静かに動く。

 あっ
「啓介のここは随分気持ちよさそうです。びくびくしてる」

 だめだ、耳元で鼓膜を震わせるうっとりとした声と下半身のゆるやかな刺激。思うように動かない腰がわずかに動いてもっと欲しいとねだる。激しくその手に擦り付けたい。でも体が動かない、苦しい。なんだか頭がおかしくなって、魚が水中で空気をこぼすようにこぽこぽと音が漏れていく。

「ぁ、の、もっと、強く」
「このままじゃ駄目ですか?」
「駄、目、あっ」
「どうしても?」
「おねが、ぃ、し、ま、もっと、強、く、て」
「ふふ。わかりました」

 少し嬉しそうな声がした瞬間、きゅっと根本を強く握られて扱くように激しく手が上下する。
 ハッ ぁう、ん、片桐さん、の、ふっ……あっ

「たくさん気持ちよくなってくださいね。嬉しいです。啓介が私にお願いてくれたことですから」

 そっと頭の下に差し入れられた片桐さんの左手が褒めるように俺の頭を抱えて撫で、暖かくて柔らかい舌が唇から割り入ってくる。その開かれたすき間からひちゃひちゃ湿った音が乗った息が逃げていく。
 片桐さんにお願い? した。俺がお願い、手で、して、て。その事実にまた興奮して、止まらない。漏れ出る空気の塊が大きくなる。差し込まれた舌で口を閉じることもできず舌が絡まるその音が響いて頭の中を掻き回す。片桐さんの右手の指が俺を支えて上下するたびに腰の奥からずくりと快感が込み上げて、もうその刺激のことしか考えられなくて。口を閉じることも声を我慢することもできなくて、浅くなる呼吸とともに漏れるなんだかよくわからない音が増えていく。

「ぁっ、もう。くっ、あっぁ」
「震えてる。声がとてもかわいいです。イってください」
「あっ、んっく」

 その言葉と同時に軽く唇が触れ合う。イっていいと響く甘い声にもう何が何だかわからない。
 上下する手の動きが早くなって、その声に全く抵抗できなくて、なんとなくそうしたほうがいいような気がしたから、その瞬間は頭が真っ白になって、気がついたら達していた。ぼんやりハァハァと3回荒く呼吸したあと、だんだん落ち着いてくる鼓動。

 あ……れ?
 急に冷静になって混乱する。俺、今何で?
 腹に散った精液が冷えていく。それとともにますます広がる混乱。

 そういえはここは会社で。
 キョロキョロとあたりを見回すといつもの社長室。いつもいる他の社員の顔が浮かぶ。こんなところで?
 色々な要因が頭をよぎって酷い痴態を晒したことを理解する。湧き上がる恥ずかしさといたたまれなさ。
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