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屋根裏のQちゃん
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誰もいないことを襖の小さな穴から確かめる。10分ほどは物音がしないことを確認して、ガタ、ガタッと引っかかる押し入れのドアを引き開ける。
キョロキョロとあたりを見回す。誰もいない。
一番最初に玄関まで行って、鍵がなくなってることと鍵がかかっていることを確かめる。
よかった。靴もない。確かに住人は出て行った。
私はこのアパートに勝手に住んでいる。
住みはじめたのは半年くらい前。家出をしてどうしようもなくて、おなかがすいて。雨の降る寒い日にたまたま鍵が開いていたこの部屋に飛び込んでしまった。木造二階建てのアパートの一室。
冷蔵庫を開いてそこにあった食パン1枚とコタツに置いてあったみかん1個と、それからジュースを拝借した。
久しぶりの食事。涙が出るほど美味しくて夢中になってがっついていると、玄関でガタガタと音がしているのに気がついた。やばい。ここは2階で逃げ道がない。あわてて食べかけのパンとみかんをもって窓に走ったけど窓だけでベランダはなくて。ガタつく押入れの上の段に逃げたら天袋があってそこから天井裏に移動できた。
「あれ? ジュース出しっぱなしにしてたかな」
若そうな男の声がする。出るに出られない。
でも久しぶりにお腹がいっぱいになって、すごく疲れていて、眠くなって天井裏で寝てしまった。埃がすごかったけど、そんなことは全然気にならなかった。
起きると屋根の隙間から光が差し込んでいた。一瞬ここがどこかわからなかったけど、手に持ったパンの袋で思い出した。そうだ、忍び込んじゃったんだ。
ここは天井裏。そうっと梁を伝って歩くと、他にも5つ天袋があることがわかった。ここは6部屋あるアパートなのか。昔の小説で天井板の隙間から階下を覗くみたいな話があったけど、今のアパートじゃ天井は板じゃなくてパネルが貼られているから部屋の中は見えなかった。
天袋に耳を押し当てて音を調べる。音は……しない。おそるおそる天袋をあけるとそこは真っ暗な押し入れで、そこで更に音がしないことを確かめてびくびくしながらそうっとあけると室内は真っ暗だった。
よかった、誰もいない。早く出ていこう。そう思っていると机の上にポテチの袋が開いていた。1/3くらい残っている。大好きなコンソメ味。思わずつまんで一口食べる。久しぶりのポテチ。ちょっとシケってるけど美味しい。でもポテチは喉が渇く。
罪悪感を感じながら冷蔵庫を開けると麦茶があった。一口だけもらう。おいしい。なんだか生き返る。トイレを借りたあと、改めて部屋を見渡すと漫画がたくさん置いてあった。好きだった漫画の最新刊。ちょっとだけ。
そう思って読んでいるといつのまにか時間が過ぎて、また玄関で鍵が回る音がする。やばいと思って私は屋根裏に逃げ帰った。
他の部屋から出られないかな。そう思って違う部屋の天袋をあける。そこも人はいなかった。そしてそこにも漫画がたくさんあって、冷蔵庫にはジュースが入っていた。
外は雨。天井裏で屋根を叩く雨の音を聞いている。ここを出たら、またお金もなにもない生活に戻ってしまう。身分証がないから働けもしない。
そう思うと、ここでこっそり暮らすという選択肢が生まれた。ここで。試しに毛布を一枚拝借して、天井裏でもう一晩休むことにした。朝起きて別の部屋に降りた。カップ麺、は流石にお湯を沸かしている間に帰ってきたら困っちゃう。そんなことを思ってみまわして、やっぱりここの天井裏に住むことにした。
だって一度外に出てしまうと、二度と鍵が開いてる部屋なんて見つけられると思えなかったから。
それからは住民たちの外出時間を調べて、なるべく偏らないように少しずつ食べ物を頂いて。それが完全に把握できるとお風呂を借りたり屋根裏の掃除をしたりして、いつの間にかそれなりに快適に暮らすことができるようになった。
そうして6ヶ月。全然家の外にはでていないし、いつかばれるんじゃないかとドキドキしているけど、快適に暮らしていた。
1日ずつ6日ごとにローテーションしてご飯を拝借しているけど、どの部屋もかならず食べ物があった。10本入りのアイスとか、ちょっと食べてもバレなさそうなももあって、そういう時は手を合わせて1本だけ頂いた。
ありがとうございます。ごめんなさい。頂きます。
◇◇◇
このアパートは入居希望者が殺到していた。
このアパートには秘密があった。屋根裏に女子高生が住んでいる。
最初は食べ物が減っていることを不審に思った住人の1人が部屋にビデオを仕掛けたのが始まりだ。そこには部屋からでておやつを食べてお風呂にはいったり漫画をよんでいる女子高生が写っていた。住人は舞い上がった。この部屋に女子がいる。尊い。
どうやら毎日降りてきているわけではなく、他の部屋にも降りているようだ。住人は残らず喪男だった。あっというまに情報が共有され、みんなで女子高生を暖かく見守る会が結成された。その女子高生は名前がわからないのでQちゃんと呼ばれるようになった。
そういうわけで、このアパートの2階以上に住んでいる住人はみんな幸せである。
キョロキョロとあたりを見回す。誰もいない。
一番最初に玄関まで行って、鍵がなくなってることと鍵がかかっていることを確かめる。
よかった。靴もない。確かに住人は出て行った。
私はこのアパートに勝手に住んでいる。
住みはじめたのは半年くらい前。家出をしてどうしようもなくて、おなかがすいて。雨の降る寒い日にたまたま鍵が開いていたこの部屋に飛び込んでしまった。木造二階建てのアパートの一室。
冷蔵庫を開いてそこにあった食パン1枚とコタツに置いてあったみかん1個と、それからジュースを拝借した。
久しぶりの食事。涙が出るほど美味しくて夢中になってがっついていると、玄関でガタガタと音がしているのに気がついた。やばい。ここは2階で逃げ道がない。あわてて食べかけのパンとみかんをもって窓に走ったけど窓だけでベランダはなくて。ガタつく押入れの上の段に逃げたら天袋があってそこから天井裏に移動できた。
「あれ? ジュース出しっぱなしにしてたかな」
若そうな男の声がする。出るに出られない。
でも久しぶりにお腹がいっぱいになって、すごく疲れていて、眠くなって天井裏で寝てしまった。埃がすごかったけど、そんなことは全然気にならなかった。
起きると屋根の隙間から光が差し込んでいた。一瞬ここがどこかわからなかったけど、手に持ったパンの袋で思い出した。そうだ、忍び込んじゃったんだ。
ここは天井裏。そうっと梁を伝って歩くと、他にも5つ天袋があることがわかった。ここは6部屋あるアパートなのか。昔の小説で天井板の隙間から階下を覗くみたいな話があったけど、今のアパートじゃ天井は板じゃなくてパネルが貼られているから部屋の中は見えなかった。
天袋に耳を押し当てて音を調べる。音は……しない。おそるおそる天袋をあけるとそこは真っ暗な押し入れで、そこで更に音がしないことを確かめてびくびくしながらそうっとあけると室内は真っ暗だった。
よかった、誰もいない。早く出ていこう。そう思っていると机の上にポテチの袋が開いていた。1/3くらい残っている。大好きなコンソメ味。思わずつまんで一口食べる。久しぶりのポテチ。ちょっとシケってるけど美味しい。でもポテチは喉が渇く。
罪悪感を感じながら冷蔵庫を開けると麦茶があった。一口だけもらう。おいしい。なんだか生き返る。トイレを借りたあと、改めて部屋を見渡すと漫画がたくさん置いてあった。好きだった漫画の最新刊。ちょっとだけ。
そう思って読んでいるといつのまにか時間が過ぎて、また玄関で鍵が回る音がする。やばいと思って私は屋根裏に逃げ帰った。
他の部屋から出られないかな。そう思って違う部屋の天袋をあける。そこも人はいなかった。そしてそこにも漫画がたくさんあって、冷蔵庫にはジュースが入っていた。
外は雨。天井裏で屋根を叩く雨の音を聞いている。ここを出たら、またお金もなにもない生活に戻ってしまう。身分証がないから働けもしない。
そう思うと、ここでこっそり暮らすという選択肢が生まれた。ここで。試しに毛布を一枚拝借して、天井裏でもう一晩休むことにした。朝起きて別の部屋に降りた。カップ麺、は流石にお湯を沸かしている間に帰ってきたら困っちゃう。そんなことを思ってみまわして、やっぱりここの天井裏に住むことにした。
だって一度外に出てしまうと、二度と鍵が開いてる部屋なんて見つけられると思えなかったから。
それからは住民たちの外出時間を調べて、なるべく偏らないように少しずつ食べ物を頂いて。それが完全に把握できるとお風呂を借りたり屋根裏の掃除をしたりして、いつの間にかそれなりに快適に暮らすことができるようになった。
そうして6ヶ月。全然家の外にはでていないし、いつかばれるんじゃないかとドキドキしているけど、快適に暮らしていた。
1日ずつ6日ごとにローテーションしてご飯を拝借しているけど、どの部屋もかならず食べ物があった。10本入りのアイスとか、ちょっと食べてもバレなさそうなももあって、そういう時は手を合わせて1本だけ頂いた。
ありがとうございます。ごめんなさい。頂きます。
◇◇◇
このアパートは入居希望者が殺到していた。
このアパートには秘密があった。屋根裏に女子高生が住んでいる。
最初は食べ物が減っていることを不審に思った住人の1人が部屋にビデオを仕掛けたのが始まりだ。そこには部屋からでておやつを食べてお風呂にはいったり漫画をよんでいる女子高生が写っていた。住人は舞い上がった。この部屋に女子がいる。尊い。
どうやら毎日降りてきているわけではなく、他の部屋にも降りているようだ。住人は残らず喪男だった。あっというまに情報が共有され、みんなで女子高生を暖かく見守る会が結成された。その女子高生は名前がわからないのでQちゃんと呼ばれるようになった。
そういうわけで、このアパートの2階以上に住んでいる住人はみんな幸せである。
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