職業が占い師縛りなんて全然聞いていないんですけど!(旧Ver

Tempp

文字の大きさ
上 下
8 / 10

フラムビー討伐占い?

しおりを挟む
 目を覚ましたときは真っ暗で、ざざりと響くいつもの海の音と寝返りをうったときに月明かりの照り返しが見えた。だから自分の部屋にいるんだと理解した。
 心臓がいまだにばくばくしていた。
 あれは何だったのかしら。
 あんなにまっすぐ正面から見つめられて手を握られたのって、前世も含めて初めてかもしれない。前世の記憶は若いなとか言っているけど、ともあれ未だ微弱な混乱に動悸がおちつかない。いや、見つめられて倒れるとか恋愛耐性なさすぎでしょ……。

 体を起こせば、階下からは未だ賑やかさが溢れている。まだ営業時間内。だから倒れてたとしても、きっとそれほど長時間じゃない。
 恐る恐る階下におりれば、丁度父さんが私の様子を見ようと階段を上がるところで、ディードはひとまず帰ったとのことだった。
「メイ、何かあったのか? 倒れるなんて……何かされたわけではないよな」
「そんなことあるはずないじゃない、父さん」
「お、おう。それにしても本当に大丈夫か? 休んでいてもいいんだぞ」
「ううん、大丈夫」
 コックコートとシェフ帽をまとって厨房に入り、デザートの皿を作る。ナッツのフラムビーの蜂蜜漬けを添える。フラムビー。この時期に蜜を採取すれば一年にわたって食材になる。
「ねぇ父さん、フラムビーって強いの?」
「フラムビー? ああ、蜂蜜か。値段を考えると結構強いんだとは思うけど、父さんは戦いはカラッキシだから全然わからないな」
「そうだよね、私もわからない」
 父さんは思い出すように天井を眺める。
「聞くところによれば体長は十センチほどだそうだ」
 一体が10センチとか……。
「大きいのね。生態とかは普通の蜂と同じなのかしら」
「どうかなぁ。大きいもんな。父さんにはわからないよ」
「ねぇ父さん、明日お休みもらっていい?」
「うん?」
「フラムビーについて調べにいきたいの」
 父さんの目は僅かに狼狽えた。
 ディードはフラムビーを倒したいといっていた。私はどの時期にどんなモンスターが発生するかやその営巣位置、行動範囲なんかは一応把握はしていた。どのルートなら安全に旅ができるかという目安にして旅の吉凶を占う、もとい情報提供するためだ。
 けれどもそのモンスターがどのくらいの大きさで、どんなふうな行動パターンをとるのか。それからどのくらいの攻撃力があるのかという情報はこれまであまり調べてこなかった。
 私が戦うわけではないし、戦う人間はきちんとそれをギルドで調べるだろうから。

『きっとあなたが手伝ってくれれば、俺はこのクエストを完遂できる』

 なんだかその、妙に断定された未来への呟きは、それこそ予言のように思われた。
 クエスト。つまりモンスターの討伐。
 私は今世でそんなものと関わりになるとは、すでにちっとも思っていなかった。私の腕はその武器でモンスターを両断しはするけれど、それは相手が動かず既に切り身になっているからだ。包丁でとんとんと刻みながらも、この元になっていた食材が襲ってくるなんて考えたことなんてないな、と思う。
 けれども私は昔、冒険をしたかった。せっかく剣と魔法の異世界に転生したんだから。
 だから私は前世のラノベでたくさん読んだ通り、物心ついた時から必死で魔力というものを鍛えようとした。けれども魔力なんてものはさっぱりわからなかった。そもそも感知ができない。眉間に力をいれれば頭が痛くなるばかり。だから魔法の素養というものはちっともないのだろう、そう思って諦めたのが多分6歳のころ。
 それから私にとって戦いや冒険が土台無理だと思ったのは8歳くらいのころ。
 リストランテ・マイヤースのオープンデッキからはきらめく海がよく見えた。そして地球では存在しないような巨大魚が何メートルもの高さの白い飛沫しぶきを上げながら突然波間から飛び出して海鳥をかじり取り、時には海竜のようなものが海を割りさいて街を襲い、多くの冒険者や兵士が傷だらけになりながらも総出でなんとか撃退する姿も。
 つまりまぁ、モンスターと戦うなんて正気の沙汰じゃないんだ。自分の細腕を見ても、あれらと戦える将来なんてちっとも浮かばない。それにシーフってつまり盗賊で、歓迎されるはずはないし、とりたてて手先が器用なわけでもなかった。
 だから冒険者になるっていう夢もいつのまにか自然としぼみ、目の前の美味しいご飯ときれいな景色で、この料理店を継ぐのも悪くないな、と現実的な目線に落ち着いた、つまり諦めきったのが、多分8歳くらいのころ。
 ……確かに、私はこれまでの10年間の半分、以上、は、魔法を使ったり冒険したいと思っていた。思っていたけれども!

 私が手伝えばクエストを完遂できる?
 けれども彼らは、冒険者たちはモンスターと直接戦っている。
 手伝う。手伝うって、私は何をすればいいんだろう。それの意味するところがちっともわからない。でも、あんなにまっすぐ目を見つめられたのは初めてで、何か力に成りたい。
 そんな上の空の様子に、どうやら父さんは心配になったらしい。
「メイ、危ないことするんじゃないだろうな」
「私が? まさか? どうやって」
「それならいいけれど。そういやお前はこの仕事の他に辻占いもやってるもんな。もっと休みをとってもいいくらいだよ」
「ありがとう、父さん」

 次の日、私はさっそく冒険者ギルドに向かってフラムビーの生態を調べた。それは前世の蜂とだいたい同じだった。木や土に巣を作り、集団で活動する。尾部に毒のある針を持つ。一回刺された程度では、その毒は強く腫れるものの生命への危険性はそれほどでもない。
 けれどもフラムビーに刺される回数が増えるほど、その危険性は等比級的に増加する。前世の知識でいえばアナフィラキシーショックとかそのようなものなのかもしれない。
 冒険者がどうやって蜂を倒すかといえば、少しずつ誘き寄せて数を減らしていくそうだ。そしてフラムビーが一匹もいなくなったら、その巣を切り取り持ち帰る。
 前世を知っていれば一匹ずつ蜂を倒すなんてちょっと頭がおかしいのではないかと思う戦法だけれど、それは蜂のサイズが十センチ以上もあって『倒せる』こと、それからその大きさから、1つの巣を守る数は十匹から数十匹程度であるかららしい。つまり、可能といえば可能。
 とはいえ、十匹が一度に人を襲えばひとたまりもないだろう。
 一通りの調査を終えて戻れば、店の前でディードが待っていた。どちらともなく広場の方に移動し、噴水際に腰掛ける。夕方が迫り、眺め下ろす海は僅かにオレンジ色を帯びていた。

「昨日は突然で申し訳なかった」
「いえ、ちょっとびっくりして」
「迷惑だっただろう、謝りにきたんだ。あなたが言うように、やはり無謀だと思った。だから今回は諦めようかと」
「えっとでも、直感は?」
 そういうとディードは少し残念そうに笑い、私を上から下まで黙って眺めて、申し訳無さそうに眉をひそめる。
「すまないな。いきなり一緒にモンスターを倒そうなんて言って。怖かったんだろう? みんなにお前は配慮が足りないっていつも言われるんだ」
「怖い……? いえ、そんなことは」
 怖いというか、びっくりしたっていうか。
「でも倒れたじゃないか」
「ああ、うん、それはまあそうだけれど。でも直感があったんでしょう?」
「うん、なんだかあなたを見ているとピリピリと、いつもより強く心が撃たれる感覚がするんだよ」
「それって直感なの?」
「多分?」
 直感というのはやっぱりよくわからない。
 聞けばなんだか心が高まって、居ても立ってもいられなくなるらしい。そのノリで拠点の街を飛び出し、フラムビーを求めてこの街に来たわけだ。なんだか凄い行動力。冒険者ってのはそういうものなのかな。時間の感覚が違う気がする。
 私はなんとなく、前世でたくさん読んだラノベの主人公の行動力は、よく考えたら正気の沙汰じゃなかったと思い返す。そういえばこのディードって、ラノベの主人公のノリを地で言ってる気がする。
 そう思って見つめたディードの頬は、段々と暮れていく太陽に赤く照らされていく。相変わらずディードの瞳はまっすぐ私を見つめていて、だから私の顔が多少赤く立って、問題ない。

「あの、モンスターは怖いといえば怖いけど、多分、倒せるような、気はするの」
「えっ? それは占い?」
「えっと、うん、多分。私の占いでは、白い服がラッキーカラー。時間は日が落ちてから、それから、針を防ぐ防具が」
 ディードは混乱した目で私を見つめた。
「白は目立つんじゃないの? 黒い服のほうが目立たないだろう? それに昏いと視界が効かない」
 蜂対策には白というのが前世では鉄板で、黒はかえって警戒させる。日没からしばらくして動きが鈍ったところを駆除するのがいい。そう前世のテレビで見た記憶。巣に帰る蜂を撃退するのも効果的かもしれない。前世の所長は確かにそう言っていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

転生家族の異世界紀行 ~中流家庭が異世界で大貴族になりました~

安曇野レイ
ファンタジー
ブラックなIT企業で働く主人公。人生で初めての家族旅行に出発したものの、あおり運転を受け、さらに逆走してくる車に遭遇し、大事故で一家は死に瀕する。 気がつくとそこはワームホールの真っ只中。 固い絆で結ばれた仲良し家族は、異世界でも挫けず、力を合わせて困難や危機に立ち向かっていく! はたして一家は異世界を救い、元の世界へ帰ることができるのか。

RD令嬢のまかないごはん

雨愁軒経
ファンタジー
辺境都市ケレスの片隅で食堂を営む少女・エリカ――またの名を、小日向絵梨花。 都市を治める伯爵家の令嬢として転生していた彼女だったが、性に合わないという理由で家を飛び出し、野望のために突き進んでいた。 そんなある日、家が勝手に決めた婚約の報せが届く。 相手は、最近ケレスに移住してきてシアリーズ家の預かりとなった子爵・ヒース。 彼は呪われているために追放されたという噂で有名だった。 礼儀として一度は会っておこうとヒースの下を訪れたエリカは、そこで彼の『呪い』の正体に気が付いた。 「――たとえ天が見放しても、私は絶対に見放さないわ」 元管理栄養士の伯爵令嬢は、今日も誰かの笑顔のためにフライパンを握る。 大さじの願いに、夢と希望をひとつまみ。お悩み解決異世界ごはんファンタジー!

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

乙女ゲームの悪役令嬢は前世の推しであるパパを幸せにしたい

藤原遊
ファンタジー
悪役令嬢×婚約者の策略ラブコメディ! 「アイリス・ルクレール、その波乱の乙女ゲーム人生――」 社交界の華として名を馳せた公爵令嬢アイリスは、気がつくと自分が“乙女ゲーム”の悪役令嬢に転生していることに気づく。しかし破滅フラグなんて大した問題ではない。なぜなら――彼女には全力で溺愛してくれる最強の味方、「お父様」がいるのだから! 婚約者である王太子レオナードとともに、盗賊団の陰謀や宮廷の策略を華麗に乗り越える一方で、かつて傲慢だと思われた行動が実は周囲を守るためだったことが明らかに……?その冷静さと知恵に、王太子も惹かれていき、次第にアイリスを「婚約者以上の存在」として意識し始める。 しかし、アイリスにはまだ知らない事実が。前世で推しだった“お父様”が、実は娘の危機に備えて影で私兵を動かしていた――なんて話、聞いていませんけど!? さらに、無邪気な辺境伯の従兄弟や王宮の騎士たちが彼女に振り回される日々が続く中、悪役令嬢としての名を返上し、「新たな人生」を掴むための物語が進んでいく。 「悪役令嬢の未来は破滅しかない」そんな言葉を真っ向から覆す、策略と愛の物語。痛快で心温まる新しい悪役令嬢ストーリーをお楽しみください。

没落した建築系お嬢様の優雅なスローライフ~地方でモフモフと楽しい仲間とのんびり楽しく生きます~

土偶の友
ファンタジー
優雅な貴族令嬢を目指していたクレア・フィレイア。 しかし、15歳の誕生日を前に両親から没落を宣言されてしまう。 そのショックで日本の知識を思いだし、ブラック企業で働いていた記憶からスローライフをしたいと気付いた。 両親に勧められた場所に逃げ、そこで楽しいモフモフの仲間と家を建てる。 女の子たちと出会い仲良くなって一緒に住む、のんびり緩い異世界生活。

悪役令嬢エリザベート物語

kirara
ファンタジー
私の名前はエリザベート・ノイズ 公爵令嬢である。 前世の名前は横川禮子。大学を卒業して入った企業でOLをしていたが、ある日の帰宅時に赤信号を無視してスクランブル交差点に飛び込んできた大型トラックとぶつかりそうになって。それからどうなったのだろう。気が付いた時には私は別の世界に転生していた。 ここは乙女ゲームの世界だ。そして私は悪役令嬢に生まれかわった。そのことを5歳の誕生パーティーの夜に知るのだった。 父はアフレイド・ノイズ公爵。 ノイズ公爵家の家長であり王国の重鎮。 魔法騎士団の総団長でもある。 母はマーガレット。 隣国アミルダ王国の第2王女。隣国の聖女の娘でもある。 兄の名前はリアム。  前世の記憶にある「乙女ゲーム」の中のエリザベート・ノイズは、王都学園の卒業パーティで、ウィリアム王太子殿下に真実の愛を見つけたと婚約を破棄され、身に覚えのない罪をきせられて国外に追放される。 そして、国境の手前で何者かに事故にみせかけて殺害されてしまうのだ。 王太子と婚約なんてするものか。 国外追放になどなるものか。 乙女ゲームの中では一人ぼっちだったエリザベート。 私は人生をあきらめない。 エリザベート・ノイズの二回目の人生が始まった。 ⭐️第16回 ファンタジー小説大賞参加中です。応援してくれると嬉しいです

不遇職とバカにされましたが、実際はそれほど悪くありません?

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界で普通の高校生として過ごしていた「白崎レナ」は謎の空間の亀裂に飲み込まれ、狭間の世界と呼ばれる空間に移動していた。彼はそこで世界の「管理者」と名乗る女性と出会い、彼女と何時でも交信できる能力を授かり、異世界に転生される。 次に彼が意識を取り戻した時には見知らぬ女性と男性が激しく口論しており、会話の内容から自分達から誕生した赤子は呪われた子供であり、王位を継ぐ権利はないと男性が怒鳴り散らしている事を知る。そして子供というのが自分自身である事にレナは気付き、彼は母親と供に追い出された。 時は流れ、成長したレナは自分がこの世界では不遇職として扱われている「支援魔術師」と「錬金術師」の職業を習得している事が判明し、更に彼は一般的には扱われていないスキルばかり習得してしまう。多くの人間から見下され、実の姉弟からも馬鹿にされてしまうが、彼は決して挫けずに自分の能力を信じて生き抜く―― ――後にレナは自分の得た職業とスキルの真の力を「世界の管理者」を名乗る女性のアイリスに伝えられ、自分を見下していた人間から逆に見上げられる立場になる事を彼は知らない。 ※タイトルを変更しました。(旧題:不遇職に役立たずスキルと馬鹿にされましたが、実際はそれほど悪くはありません)。書籍化に伴い、一部の話を取り下げました。また、近い内に大幅な取り下げが行われます。 ※11月22日に第一巻が発売されます!!また、書籍版では主人公の名前が「レナ」→「レイト」に変更しています。

処理中です...