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やっぱり無理だってば!
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家族会議で色々話した内容は、辻占い以外になるとしても、その理由を作らないといけないってことだ。
この世界のステータスカードは、例えどれほど疑わしくても正しいはずなのだ。この世界の魔女は前世の神にも等しい存在で、魔法が存在するこの世界では前世の神と異なり魔女は確かにこの世界を動かしている。そしてこの手元の中の小さなカードは、この領域を統べる魔女様がお作りになり、その領民に与えるもの。
だから一般常識として、間違いがあるはずがない。
「父さん、魔女様が何か勘違いしていらっしゃるんじゃないかしら」
「しっ。滅多なことをいうものじゃない」
父さんだってそう思ってる。けれども私はそれにかけるしかない。
だからまず、本当に、万一、占い師になる道があるのか確かめる。それをしないと始まらない。
可能性を全て潰さなくては、どこにも相談なんてできやしない。魔女様、つまり神様に『あなた間違ってるんじゃないですか』なんて言いに行けるはずがないんだから。
そして父さんが商店会の繋がりでなんとかねじ込んだ占い師との面談では、あっという間に結論が下された。
「その子が占い師に? 無理だよ」
「は? あの」
「だってお嬢ちゃん、魔力を感じ取れないだろ? 魔力回路がぴくりとも動いていない。いいかい? 魔法を使うには魔力がわからなければ話にならないんだ。これまで魔力というものを感じたことはあるかい?」
「ない……です」
その占い師は海商組合の顧問占い師で、それなりの力がある占い師なのだそうだ。海商組合の応接室は豪華で、その占い師も水晶玉は携えてはいなかったけれど、たくさんのキラキラした指輪や飾りをつけていて、まさに占い師っていう感じだった。
ふくよかな香り溢れる紅茶を恐縮しながら頂きつつ、占い師の次の言葉を待つ。
「ふむ、確かにお嬢ちゃんのステータスカードには『辻占い』とは書いているが、そもそもこれは占い師なのかい? 辻占いってのは何だ。聞いたことがない」
「あの、占い師の先生もご存知ないのでしょうか」
「辻ってのはあれだろ、道端だろ? そんなところで何を占うっていうんだ?」
「それは私どもにも皆目検討がつかず……」
「ふぅむ。何かの間違いじゃないのかね?」
「間違い?」
父さんはぽかんと口を開けた。
それは私が最も聞きたかった言葉!
占い師は急に声を顰め、私たちに耳打ちをした。
「魔女様のご指示も極稀に、本当に極稀に間違うことがある、という噂を聞いたことがある。本当かどうかはわからないがね」
藁にもすがる私たちにとって重要な話。
「本当に、そんなことがありうるのでしょうか」
「ない、とは言い切れない。だって私は未来というものは変わりうると思っているからだ。だって占いによってみんな行動を変えるだろう? だから魔女様が全てを定めておられるという話に、僅かばかり懐疑的だ」
いつのまにか私たちの小さな声は少しだけ震えていた。
未来。確かに未来というものは変わりうる、と思う。けれども魔女の力を疑うなんて、多分この世界の人たちはそんな発想をしたことすらないだろう。
魔女の指示が間違う。そんなことがこの世界ではおおよそ信じられないことは、私はこれまでの十年の暮らしで熟知していた。けれどもこの占い師が言うとおり、私は魔力なんて欠片も感知したことがない。
「先生、占いというのは魔力がなければできないものなのでしょうか」
「当たり前だよ。占いってのは未来の香りを嗅ぎ分ける行為だ」
「未来の香り?」
「ああ。例えばこの紅茶、とてもいい香りがするだろう? なんの香りかわかるかね?」
「ええと、茶葉は多分ファウエル王国のあたりの香りがします。それからナランハの実を乾燥させたものがまざってる、ような」
ナランハというのはオレンジのような柑橘系の木の実だ。確かにそんな香りがした。占い師はその茶葉を給仕に尋ねると、確かに『蜜柑と夏の雨』の魔女様の領域であるファウエル王国ノリル地方の茶葉で、特級のナランハの皮が香り付けに使われているそうだ。
「さすが料理店の娘だな。私にはそこまではわからない。つまりそういうことだ」
「どういうことでしょう?」
「お嬢ちゃんはこの香りの中からその匂いを嗅ぎ分けたのだろう? 私ら占い師は魔力の流れの中でその先の未来を嗅ぎ取るんだ。だから、魔力が感知できなければ話にならない。お嬢ちゃんは嗅覚がないのに紅茶を嗅ぎ分けようとしているのも同じなのさ」
その言葉はとても納得できるとともに、占い師に至る未来は絶望的に思われた。
実際の占い師にそこまで言われたわけなのだから、教会で魔女様にお尋ねしてもバチは当たらないだろうと思う……。だって、占い師になる方法が全くわからないんだから。
魔女様に質問する。それは普通では考えられないほど恐れ多い行為。
だから私と父さんが昨日ぶりに教会に舞い戻ったとき、奇妙な緊張を覚えて思わず手を繋いでいた。そして繋いだ父さんの手も、僅かに震えていた。
いつもは清廉さと親しみやすさを覚えている街の中心にある教会は、その豪奢な尖塔の影を長く伸ばしてその巨大さで私たちを威圧しているように感じられた。
けれども私たちの訪れは既に予想されていたのか、にこやかな使徒に迎え入れられ、奥の間に通された。
ここが私の人生の正念場だ!
けれども私の目論見は脆くも崩れ去る。
この世界のステータスカードは、例えどれほど疑わしくても正しいはずなのだ。この世界の魔女は前世の神にも等しい存在で、魔法が存在するこの世界では前世の神と異なり魔女は確かにこの世界を動かしている。そしてこの手元の中の小さなカードは、この領域を統べる魔女様がお作りになり、その領民に与えるもの。
だから一般常識として、間違いがあるはずがない。
「父さん、魔女様が何か勘違いしていらっしゃるんじゃないかしら」
「しっ。滅多なことをいうものじゃない」
父さんだってそう思ってる。けれども私はそれにかけるしかない。
だからまず、本当に、万一、占い師になる道があるのか確かめる。それをしないと始まらない。
可能性を全て潰さなくては、どこにも相談なんてできやしない。魔女様、つまり神様に『あなた間違ってるんじゃないですか』なんて言いに行けるはずがないんだから。
そして父さんが商店会の繋がりでなんとかねじ込んだ占い師との面談では、あっという間に結論が下された。
「その子が占い師に? 無理だよ」
「は? あの」
「だってお嬢ちゃん、魔力を感じ取れないだろ? 魔力回路がぴくりとも動いていない。いいかい? 魔法を使うには魔力がわからなければ話にならないんだ。これまで魔力というものを感じたことはあるかい?」
「ない……です」
その占い師は海商組合の顧問占い師で、それなりの力がある占い師なのだそうだ。海商組合の応接室は豪華で、その占い師も水晶玉は携えてはいなかったけれど、たくさんのキラキラした指輪や飾りをつけていて、まさに占い師っていう感じだった。
ふくよかな香り溢れる紅茶を恐縮しながら頂きつつ、占い師の次の言葉を待つ。
「ふむ、確かにお嬢ちゃんのステータスカードには『辻占い』とは書いているが、そもそもこれは占い師なのかい? 辻占いってのは何だ。聞いたことがない」
「あの、占い師の先生もご存知ないのでしょうか」
「辻ってのはあれだろ、道端だろ? そんなところで何を占うっていうんだ?」
「それは私どもにも皆目検討がつかず……」
「ふぅむ。何かの間違いじゃないのかね?」
「間違い?」
父さんはぽかんと口を開けた。
それは私が最も聞きたかった言葉!
占い師は急に声を顰め、私たちに耳打ちをした。
「魔女様のご指示も極稀に、本当に極稀に間違うことがある、という噂を聞いたことがある。本当かどうかはわからないがね」
藁にもすがる私たちにとって重要な話。
「本当に、そんなことがありうるのでしょうか」
「ない、とは言い切れない。だって私は未来というものは変わりうると思っているからだ。だって占いによってみんな行動を変えるだろう? だから魔女様が全てを定めておられるという話に、僅かばかり懐疑的だ」
いつのまにか私たちの小さな声は少しだけ震えていた。
未来。確かに未来というものは変わりうる、と思う。けれども魔女の力を疑うなんて、多分この世界の人たちはそんな発想をしたことすらないだろう。
魔女の指示が間違う。そんなことがこの世界ではおおよそ信じられないことは、私はこれまでの十年の暮らしで熟知していた。けれどもこの占い師が言うとおり、私は魔力なんて欠片も感知したことがない。
「先生、占いというのは魔力がなければできないものなのでしょうか」
「当たり前だよ。占いってのは未来の香りを嗅ぎ分ける行為だ」
「未来の香り?」
「ああ。例えばこの紅茶、とてもいい香りがするだろう? なんの香りかわかるかね?」
「ええと、茶葉は多分ファウエル王国のあたりの香りがします。それからナランハの実を乾燥させたものがまざってる、ような」
ナランハというのはオレンジのような柑橘系の木の実だ。確かにそんな香りがした。占い師はその茶葉を給仕に尋ねると、確かに『蜜柑と夏の雨』の魔女様の領域であるファウエル王国ノリル地方の茶葉で、特級のナランハの皮が香り付けに使われているそうだ。
「さすが料理店の娘だな。私にはそこまではわからない。つまりそういうことだ」
「どういうことでしょう?」
「お嬢ちゃんはこの香りの中からその匂いを嗅ぎ分けたのだろう? 私ら占い師は魔力の流れの中でその先の未来を嗅ぎ取るんだ。だから、魔力が感知できなければ話にならない。お嬢ちゃんは嗅覚がないのに紅茶を嗅ぎ分けようとしているのも同じなのさ」
その言葉はとても納得できるとともに、占い師に至る未来は絶望的に思われた。
実際の占い師にそこまで言われたわけなのだから、教会で魔女様にお尋ねしてもバチは当たらないだろうと思う……。だって、占い師になる方法が全くわからないんだから。
魔女様に質問する。それは普通では考えられないほど恐れ多い行為。
だから私と父さんが昨日ぶりに教会に舞い戻ったとき、奇妙な緊張を覚えて思わず手を繋いでいた。そして繋いだ父さんの手も、僅かに震えていた。
いつもは清廉さと親しみやすさを覚えている街の中心にある教会は、その豪奢な尖塔の影を長く伸ばしてその巨大さで私たちを威圧しているように感じられた。
けれども私たちの訪れは既に予想されていたのか、にこやかな使徒に迎え入れられ、奥の間に通された。
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