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みたことも聞いたこともない私の適職
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適職:辻占い
「はい?」
思わず間抜けな声が出た。それが私が受け取ったばかりのピカピカのステータスカードに表示された私の『適職』。
この世界ではみんな10歳になったら町の高台にある教会でステータスカードを受け取る。そこにはその人に適する職業が表示されている。
……けれども辻占いって、何? この異世界に転生してからちょうど10年、けれどもそんな職業、聞いたことはない。道端で占いしてるなんて人にお目に掛かったこともない。
「どうしたメイ」
後ろから心配そうな父さんの声がした。あまりの衝撃で忘れていたけど、付き添いで来てくれたんだ。
「あの、父さん、その、適職が……」
「メイ、ステータスカードというのは家族でも簡単に見せるものじゃないんだぞ? お前は調理人か何かだろう? そうで……何だこれ」
困惑する父さんにカードを見せると、私と同じようにそのまま絶句して、硬直した。
ステータスカードはその人間の将来の可能性を示すもの。領域によって少し異なるけれど、おおよその能力の傾向や特殊な能力、いわゆるスキルのようなものが備わっていれば、たいていはカードに記載される。
その中で適職というカテゴリは、その人が持つ能力や、これまでの人生や環境や性格、希望といったものが色々と考慮されて、いくつかの方向性が通常複数、示される。それでその適職に従って徒弟に入ったり見習いを始めたりするんだ。普通は。
私の両親はこの港街フラルタ一番のレストラン、『リストランテ・マイヤーズ』を営む両親の一人娘として生まれ、物心ついたころから看板娘だった。それで最近は私がこの店を継ぐんだって思ってた。だから私や両親も適職はレストランに関係するものだと思っていて、一番身近で接している調理師や給仕が表示されると思っていた。それらに適正がなくても、商人や経理士なんかのこれまでの生活で関連があった職業がいくつか表示されるもの、のはずだよね。
けれども表示はたった一つで、それもわけのわからない『辻占い』。
「辻占いって何だ? どうしてそんなわけのわからないものがでるんだ? メイ、お前、占いが得意だったりするのか?」
「父さん、私も意味がわからない。占いなんて友達とする花占いしか思いつかない」
花びらをちぎって、好きとか嫌いとか占うやつ。でもそんなの職業になるはずないし。
「その、えっと、そもそも占いって何?」
「メイ、お前ひょっとしたら未来予知の特殊な能力や何らかの魔法の力を授かっているとか……」
そう思って見下ろしたステータスカードの表示はむしろ、魔力の素養が全くないとしか思えない。当然特殊なスキルなんて何もなく、かわりに『調理』とか『接客』とか、私がこれまで培っていたスキルが載っている。その事自体は私は予想していた。それなのに、全くそぐわない適職。
思わず涙がこぼれた。
「つまりメイ、お前はレストランは、継げないのか……?」
父さんも動揺している。だって私には兄弟なんていなくて、跡継ぎは私しかいない。
私はマイヤースが大好きだった。たくさんの気のいいお客さんも、テラス席から見える真っ赤な夕焼けも、たまに晴れた夜に落ちる流れ星も、何もかも。
けれどもステータスカードの表示は絶対だ。これはこの領域を管理する魔女様が決めたもので、だから普通は他の職業につくなんて考えない。
「私は占いなんて!」
「どうかしましたか?」
その声にはっと顔を上げる。私にステータスカードを手渡した使徒様が、私をにこにこと見下ろしている。30ほどの優しげで綺麗めな男性だけど、間近で改めて見ればその目は全く笑っていなかったことに気づく。
使徒様は教会で魔女様に仕えている。だから魔女様の定めた適職に反するなんてことをいうと、怒られそうな気はする。けれど。
「あの……適職が『辻占い』って表示されていまして、これが何だかわからないんです」
「ほう? 辻……占い?」
カードを手渡し、使徒様の様子を見守る。使徒様もわずかに首をかしげているから、初めて聞くものかもしれない。
「あの、せっかく魔女様にご指示頂いたのですけれど、聞いたこともない職業になりようがないっていうか……」
「なるほど。では調べてみますのでまたお越しください」
カードを返され、見上げた使徒様のにこにことした瞳はやはり笑っていないように見えた。
高台から見下ろすライトブルーの海は相変わらず眩しかったけれど、とぼとぼ歩く私と父さんは混乱の極みで、どうしたらいいのか全く分からなかった。
私は今日、本島なら適職に調理師とかそういうものが表示されるはずで、そうしたら父さんと一緒に誕生日のお祝いに一緒に調理器具とかエプロンとか、そういうものを買ってもらうはずで……。
だから今が夕方だときっと私は夕日に向かって叫んでいただろう。
これからどうしたらいいの!?
「はい?」
思わず間抜けな声が出た。それが私が受け取ったばかりのピカピカのステータスカードに表示された私の『適職』。
この世界ではみんな10歳になったら町の高台にある教会でステータスカードを受け取る。そこにはその人に適する職業が表示されている。
……けれども辻占いって、何? この異世界に転生してからちょうど10年、けれどもそんな職業、聞いたことはない。道端で占いしてるなんて人にお目に掛かったこともない。
「どうしたメイ」
後ろから心配そうな父さんの声がした。あまりの衝撃で忘れていたけど、付き添いで来てくれたんだ。
「あの、父さん、その、適職が……」
「メイ、ステータスカードというのは家族でも簡単に見せるものじゃないんだぞ? お前は調理人か何かだろう? そうで……何だこれ」
困惑する父さんにカードを見せると、私と同じようにそのまま絶句して、硬直した。
ステータスカードはその人間の将来の可能性を示すもの。領域によって少し異なるけれど、おおよその能力の傾向や特殊な能力、いわゆるスキルのようなものが備わっていれば、たいていはカードに記載される。
その中で適職というカテゴリは、その人が持つ能力や、これまでの人生や環境や性格、希望といったものが色々と考慮されて、いくつかの方向性が通常複数、示される。それでその適職に従って徒弟に入ったり見習いを始めたりするんだ。普通は。
私の両親はこの港街フラルタ一番のレストラン、『リストランテ・マイヤーズ』を営む両親の一人娘として生まれ、物心ついたころから看板娘だった。それで最近は私がこの店を継ぐんだって思ってた。だから私や両親も適職はレストランに関係するものだと思っていて、一番身近で接している調理師や給仕が表示されると思っていた。それらに適正がなくても、商人や経理士なんかのこれまでの生活で関連があった職業がいくつか表示されるもの、のはずだよね。
けれども表示はたった一つで、それもわけのわからない『辻占い』。
「辻占いって何だ? どうしてそんなわけのわからないものがでるんだ? メイ、お前、占いが得意だったりするのか?」
「父さん、私も意味がわからない。占いなんて友達とする花占いしか思いつかない」
花びらをちぎって、好きとか嫌いとか占うやつ。でもそんなの職業になるはずないし。
「その、えっと、そもそも占いって何?」
「メイ、お前ひょっとしたら未来予知の特殊な能力や何らかの魔法の力を授かっているとか……」
そう思って見下ろしたステータスカードの表示はむしろ、魔力の素養が全くないとしか思えない。当然特殊なスキルなんて何もなく、かわりに『調理』とか『接客』とか、私がこれまで培っていたスキルが載っている。その事自体は私は予想していた。それなのに、全くそぐわない適職。
思わず涙がこぼれた。
「つまりメイ、お前はレストランは、継げないのか……?」
父さんも動揺している。だって私には兄弟なんていなくて、跡継ぎは私しかいない。
私はマイヤースが大好きだった。たくさんの気のいいお客さんも、テラス席から見える真っ赤な夕焼けも、たまに晴れた夜に落ちる流れ星も、何もかも。
けれどもステータスカードの表示は絶対だ。これはこの領域を管理する魔女様が決めたもので、だから普通は他の職業につくなんて考えない。
「私は占いなんて!」
「どうかしましたか?」
その声にはっと顔を上げる。私にステータスカードを手渡した使徒様が、私をにこにこと見下ろしている。30ほどの優しげで綺麗めな男性だけど、間近で改めて見ればその目は全く笑っていなかったことに気づく。
使徒様は教会で魔女様に仕えている。だから魔女様の定めた適職に反するなんてことをいうと、怒られそうな気はする。けれど。
「あの……適職が『辻占い』って表示されていまして、これが何だかわからないんです」
「ほう? 辻……占い?」
カードを手渡し、使徒様の様子を見守る。使徒様もわずかに首をかしげているから、初めて聞くものかもしれない。
「あの、せっかく魔女様にご指示頂いたのですけれど、聞いたこともない職業になりようがないっていうか……」
「なるほど。では調べてみますのでまたお越しください」
カードを返され、見上げた使徒様のにこにことした瞳はやはり笑っていないように見えた。
高台から見下ろすライトブルーの海は相変わらず眩しかったけれど、とぼとぼ歩く私と父さんは混乱の極みで、どうしたらいいのか全く分からなかった。
私は今日、本島なら適職に調理師とかそういうものが表示されるはずで、そうしたら父さんと一緒に誕生日のお祝いに一緒に調理器具とかエプロンとか、そういうものを買ってもらうはずで……。
だから今が夕方だときっと私は夕日に向かって叫んでいただろう。
これからどうしたらいいの!?
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