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3章 僕と紅林邸の怪談 ~雨谷かざりの繰り返される日々~
擬洋風建築はロマン砲
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いつもお読み頂き、ありがとうございます。
今回は「擬洋風建築」についてです。
本日はさっそく本題に入りましょう。
1.擬洋風建築とは
さて直球で「擬洋風建築」とはなにかご存じでしょうか。
擬洋風建築とは幕末から明治ごろにかけて流行ったなんちゃって洋風建築です。幕末・明治期に西洋文化がたくさん入ってきた時代に、外人になめられちゃいかんと当時の大工が西洋建築を見様見真似でとりいれた建築群といわれています。
和風と洋風と時には中華風もまざったオリエンタルな建物で、一種独特な雰囲気を醸し出していました。まさにロマン砲。
それで擬洋風不建築は西洋建築の技法を「知らない」からこそできるデザインというのがポイントです。
明治10年くらいからは洋風建築の技法が体系的に教えられるようになってきました。それに従いちゃんとした洋風建築の知識が入ってくる。そうするときちんとした知識に基づく洋風建築が建てられるようになり擬洋風建築は廃れていく。
更に正しい西洋建築が増えていくと「擬洋風建築」は正しい建築を知らない偽物だっていう話になってきます。それもあって新しく「擬洋風建築」が建てられることはなくなっていきました。
まぁ自然消滅です。
それで幕末から明治にかけてポッと出てポッと消えた建築群なのでそもそも数が少ない。
ただ残っているものもわずかにある。
有名な例は箱根の「萬翠楼」や長野の「旧開智学校」でしょうか。
萬翠楼は現在でも旅館として営業していますので、一回泊まってみたいなと思っています。
そして今残っている建物も、並外れた努力で維持されているのです。
2.古い建築物の維持は大変
細かいところだけでなく建物の梁とか柱といった構造自体も古くなって痛んでしまう。
でもこれを直すのって大変なんです。金銭的とか技術的以前に法律的にも。
建築基準法という法律があります。
大幅改装等、主要構造部分、つまり壁や柱とかの構造をいじる場合は今の最新の法律にあわせないといけません。例えば旅館を直す場合は最新の知識の耐震耐火構造にしないといけないし消防法という法律でも避難経路や廊下の広さを一定確保しないといけません。
ところが昔の建物は柱が変なところに立ってたり屋根は重いしで耐震確保は結構難しい。廊下は狭いけれども客室の広さを確保する必要があるから広げることもできない。そもそも現在の形状のまま直すのは難しいんです。
その結果、建物自体がもう無理でやむなく解体ってことも結構あります。古い建物をだましだまし使うのって、すごくお金がかかります。
それで建築基準法3-1-3というのを使えば地方でその状況に応じた条例を制定すれば建築基準法を適用しなくていいという規定もあるんですが、自治体にとっても独自の条例って結構難しい。神戸や京都、横浜は景観条例という景観を守る条例に混ぜたり新しくつくったり、古い建物が保護されやすくするような条例はあったりしますがもっと広がってほしいなと思っています。
古い建物好きなんで。
うーむ話が随分ずれてしまった。
3.明治大正ロマンと次回予告
「擬洋風建築」の「擬」という言葉は、当然ですが建築当初にあった言葉じゃありません。
昭和に明治を振り返ったときに、あのころの建築は単に西洋をまねただけの「擬」物だっていわれたところからできたって言われています。本編に「擬洋風建築の大家」っていう表現が出てくるけど、嫌味っぽいんじゃないかってちょっと気にしてます。
けれども確か戦後になってからその独創的なデザインが評価され直されてきました。ロマン砲があふれます。
「擬洋風建築」はいろんな大工が見様見真似で作っていたものなので、結構バリエーションがあります。最後のほうには傾向がまとまってきましたのだけれど。
本編に出てくる紅林邸はイメージ的には外観は漆喰白壁で中は木造(内部の木材は経年劣化で黒光ってる)イメージです。紅林邸は内部設定では明治20年に建築されたことになっていて、時代的には「擬洋風建築」が作られた時代の最後あたりのつもりです。
当時は普通の洋風建築の知識も広まってきたころだから、正直なところ治一郎が東京にいつづけても活躍できなかったんじゃないかなとすこし思う。
「擬洋風建築」もそうですが、明治・大正期はロマンがあふれる時代に感じます。
明治大正はどんな時代か。
江戸川乱歩は明治生まれですが、乱歩の書く探偵も怪人もマントを羽織ってたり独特な恰好をしています。め〇てん好きなら葛葉ラ〇ドウとかもそう。ああいうイメージが大正時代のリアルな都市伝説感じゃないのだろうか。
白井光太郎という東大で世界初の植物病理学教室を作った学者がいるんですが、そんな人でも大正年間に「植物妖異考」っていう植物の妖怪の本を真面目に書く時代でした(なお国会図書館のデジタルアーカイブで読めます)。
これは伝承を集めたものに考察を加えた本です。
幕末・明治は妖怪も色々バリエーションがあります。街角で立ってて豆腐たべさせようとする豆腐小僧とか妖怪なのかよくわからないものも多い。でも虎狼狸(ころうり)とか怖いのもあります。虎狼狸は黒船でやってきたコレラが妖怪になったと言われています。
この時代は幽霊や妖怪は存在しうると普通に考えられる最後の時代で、おかしなことはおかしいとして排除されるのではなく文化としてとりこまれる方向性もあった時代。実は別のところで土御門鷹一郎という明治時代の陰陽師の話を描いているのですが、そのうち運んできます、多分。
それで明治というのは幕末から大正、昭和に至る過渡期。江戸の価値観が全部覆されて西洋文明っていう新しい化け物が襲い掛かってきた時代です。隣ではずっと大国だった中国が薬を盛られて半ば植民地になりました。
そんな中、立ち向かっていった明治・大正の人というのは凄いと思うのだけれど、そもそも現代と価値観とか全然違うんだろうなと思います。今考えるよりよほど異世界だろうなぁと思う。
次の解説は怪異よりの話になるのでまたお読みいただけると嬉しいです。
今回は「擬洋風建築」についてです。
本日はさっそく本題に入りましょう。
1.擬洋風建築とは
さて直球で「擬洋風建築」とはなにかご存じでしょうか。
擬洋風建築とは幕末から明治ごろにかけて流行ったなんちゃって洋風建築です。幕末・明治期に西洋文化がたくさん入ってきた時代に、外人になめられちゃいかんと当時の大工が西洋建築を見様見真似でとりいれた建築群といわれています。
和風と洋風と時には中華風もまざったオリエンタルな建物で、一種独特な雰囲気を醸し出していました。まさにロマン砲。
それで擬洋風不建築は西洋建築の技法を「知らない」からこそできるデザインというのがポイントです。
明治10年くらいからは洋風建築の技法が体系的に教えられるようになってきました。それに従いちゃんとした洋風建築の知識が入ってくる。そうするときちんとした知識に基づく洋風建築が建てられるようになり擬洋風建築は廃れていく。
更に正しい西洋建築が増えていくと「擬洋風建築」は正しい建築を知らない偽物だっていう話になってきます。それもあって新しく「擬洋風建築」が建てられることはなくなっていきました。
まぁ自然消滅です。
それで幕末から明治にかけてポッと出てポッと消えた建築群なのでそもそも数が少ない。
ただ残っているものもわずかにある。
有名な例は箱根の「萬翠楼」や長野の「旧開智学校」でしょうか。
萬翠楼は現在でも旅館として営業していますので、一回泊まってみたいなと思っています。
そして今残っている建物も、並外れた努力で維持されているのです。
2.古い建築物の維持は大変
細かいところだけでなく建物の梁とか柱といった構造自体も古くなって痛んでしまう。
でもこれを直すのって大変なんです。金銭的とか技術的以前に法律的にも。
建築基準法という法律があります。
大幅改装等、主要構造部分、つまり壁や柱とかの構造をいじる場合は今の最新の法律にあわせないといけません。例えば旅館を直す場合は最新の知識の耐震耐火構造にしないといけないし消防法という法律でも避難経路や廊下の広さを一定確保しないといけません。
ところが昔の建物は柱が変なところに立ってたり屋根は重いしで耐震確保は結構難しい。廊下は狭いけれども客室の広さを確保する必要があるから広げることもできない。そもそも現在の形状のまま直すのは難しいんです。
その結果、建物自体がもう無理でやむなく解体ってことも結構あります。古い建物をだましだまし使うのって、すごくお金がかかります。
それで建築基準法3-1-3というのを使えば地方でその状況に応じた条例を制定すれば建築基準法を適用しなくていいという規定もあるんですが、自治体にとっても独自の条例って結構難しい。神戸や京都、横浜は景観条例という景観を守る条例に混ぜたり新しくつくったり、古い建物が保護されやすくするような条例はあったりしますがもっと広がってほしいなと思っています。
古い建物好きなんで。
うーむ話が随分ずれてしまった。
3.明治大正ロマンと次回予告
「擬洋風建築」の「擬」という言葉は、当然ですが建築当初にあった言葉じゃありません。
昭和に明治を振り返ったときに、あのころの建築は単に西洋をまねただけの「擬」物だっていわれたところからできたって言われています。本編に「擬洋風建築の大家」っていう表現が出てくるけど、嫌味っぽいんじゃないかってちょっと気にしてます。
けれども確か戦後になってからその独創的なデザインが評価され直されてきました。ロマン砲があふれます。
「擬洋風建築」はいろんな大工が見様見真似で作っていたものなので、結構バリエーションがあります。最後のほうには傾向がまとまってきましたのだけれど。
本編に出てくる紅林邸はイメージ的には外観は漆喰白壁で中は木造(内部の木材は経年劣化で黒光ってる)イメージです。紅林邸は内部設定では明治20年に建築されたことになっていて、時代的には「擬洋風建築」が作られた時代の最後あたりのつもりです。
当時は普通の洋風建築の知識も広まってきたころだから、正直なところ治一郎が東京にいつづけても活躍できなかったんじゃないかなとすこし思う。
「擬洋風建築」もそうですが、明治・大正期はロマンがあふれる時代に感じます。
明治大正はどんな時代か。
江戸川乱歩は明治生まれですが、乱歩の書く探偵も怪人もマントを羽織ってたり独特な恰好をしています。め〇てん好きなら葛葉ラ〇ドウとかもそう。ああいうイメージが大正時代のリアルな都市伝説感じゃないのだろうか。
白井光太郎という東大で世界初の植物病理学教室を作った学者がいるんですが、そんな人でも大正年間に「植物妖異考」っていう植物の妖怪の本を真面目に書く時代でした(なお国会図書館のデジタルアーカイブで読めます)。
これは伝承を集めたものに考察を加えた本です。
幕末・明治は妖怪も色々バリエーションがあります。街角で立ってて豆腐たべさせようとする豆腐小僧とか妖怪なのかよくわからないものも多い。でも虎狼狸(ころうり)とか怖いのもあります。虎狼狸は黒船でやってきたコレラが妖怪になったと言われています。
この時代は幽霊や妖怪は存在しうると普通に考えられる最後の時代で、おかしなことはおかしいとして排除されるのではなく文化としてとりこまれる方向性もあった時代。実は別のところで土御門鷹一郎という明治時代の陰陽師の話を描いているのですが、そのうち運んできます、多分。
それで明治というのは幕末から大正、昭和に至る過渡期。江戸の価値観が全部覆されて西洋文明っていう新しい化け物が襲い掛かってきた時代です。隣ではずっと大国だった中国が薬を盛られて半ば植民地になりました。
そんな中、立ち向かっていった明治・大正の人というのは凄いと思うのだけれど、そもそも現代と価値観とか全然違うんだろうなと思います。今考えるよりよほど異世界だろうなぁと思う。
次の解説は怪異よりの話になるのでまたお読みいただけると嬉しいです。
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