14 / 43
13.反省
しおりを挟む
家に戻るとすぐに亜貴が飛び出してきた。
時刻は夜十時を回っている。リビングには真琴と牧、藤もいた。
「大和、大丈夫だった?」
「おう。大したケガじゃなかった──」
俺は安心させるためニコリと笑むが、途中で頬が引き攣った。その横から岳が。
「頬を十センチ切られた。お前じゃなくて良かったとは言えない」
「……っ」
亜貴はくっと唇を噛みしめた。
岳はその傍らを通り抜け自室へと向かう。血のついた服を着替えるのだろう。
「牧と藤は帰っていい。ご苦労だった。亜貴はリビングで真琴と待ってろ。話がある。大和もな」
「分かった」
俺が答える傍らで、亜貴は去って行く岳の背を黙って見つめていた。
「じゃあ、俺たちはこれで。お疲れ様でしたっ!」
牧はぴょこりと、藤はのそりと巨体を折って岳の背中へ頭を下げると、真琴に見送られ帰って行った。
真琴はリビングに戻りながら、廊下に立つ俺たちに。
「二人共、中に入ったらどうだ?」
入るように促す。真琴の言葉に俺は亜貴を振り返り。
「行こう。お茶くらい淹れられる」
亜貴は何も言わず、俺の後についてリビングに入ってきた。
+++
「で。お前はどう思ってる?」
リビングのソファには岳の隣に真琴が座り、向かいには俺と亜貴が座っていた。
岳は腕組みして亜貴を見つめている。ソファの背に上体を預けて凄む姿は、俺の知らない岳の姿だ。
「反省してる…」
「反省か。言葉では何とでも言えるな」
岳の視線は厳しいまま。表情も冷たい。
その空気を割るように、真琴が今回の件の首謀者について報告する。モバイルに映し出された画像をこちらに見せながら、
「大和を襲ったのはうちの組の若頭補佐、楠の実弟、楠倫也だ。職は無職に近い。人から巻き上げた金で生きてる。まあクズだ…。年齢は三十二才。兄とは正反対の性格ではあるが、その分、兄への憧憬が強く、邪魔者は排除しようとする傾向がある。今回の件もそうだ。岳は兄、楠と跡目を争っている。兄の邪魔になる岳に脅しを掛けて来たんだろう」
画面には、証明写真のように正面を向いた倫也の顔が映し出されていた。髪もまだ染まっておらず、俺を襲った時より少しはまともな姿をしている。
岳は亜貴を見つめながら。
「今回、大和はケガで済んだが、お前の代わりにもっと酷いけがか、もしくは命を落す危険もあった。お前の遊びに付き合ったばかりにだ。それに、このケガはお前が受けるはずのものだっただろう。この始末をどうつけるつもりだ?」
「岳。始末って、亜貴は普通の高校生だろ? そんな脅すみたいに言わなくたって」
俺は止めに入るが、岳は亜貴に厳しい目を向けたまま。
「一般人だろうが、組員だろうが、そんなことは関係ない。やったことの後始末は自分でするのが当たり前だ。誰かに拭ってもらっている様じゃ、一人前の人間にはなれない。で、どうするつもりだ?」
俺は二の句を継げなくなる。
それまで俯いていた亜貴は、閉ざしていた口をゆっくりと開くと。
「兄さんの言った意味が良く分かった…。俺が言いつけを守らなかったから、大和が怪我をしたんだ。全部、俺の責任だ。もう二度と背かない。治まるまで大人しくしてる…」
岳は深いため息をつくと。
「分かったならいい…。抜糸が終わるまで、大和は家政婦を休みにする。代わりに俺が朝と夜は準備する。昼の弁当は学食にでもしておけ」
「…兄さんが?」
「な、亜貴も驚くよな?」
俺は重い空気を振り払うように身を乗り出せば。
「ううん。小さい頃、兄さん、良く作ってくれたから…。なんか久しぶり」
その口元に漸く笑みが浮かぶ。
「後はちゃんと大和に謝れ。お前の身代わりになったんだからな?」
「いいって! 大袈裟だな? 俺は大した事ねぇって。大体、俺もぼうっとして隙があったんだ。だから亜貴に機会を与えたわけで」
しかし、それを岳が手で制する。
「お前に非はない。悪いのは亜貴だ」
岳はそこは一歩も引かない。俺はうっとなって言葉を詰まらすが。
「ごめん。大和。それに…ありがとう…」
横に座る俺に、亜貴は深く頭を下げたまま小さく呟いた。
「ありがとうって、礼を言われるようなことは…」
「でも、俺があちこち歩きまわる間、ずっと周りを警戒しててくれただろ? …気づいてた。それで俺も勝手に大丈夫だって、思い込んで…。だから、ありがとう…」
亜貴の頬が僅かに染まる。
うへ、こんな美少年に頬を染められたら、そっちの気がなくったって、よろめきそうになるな。
勿論、性格を知らなければ、だ。それもかわいいと思えばそれまでだが。
俺はポンとその肩を叩くと。
「亜貴、もう謝ったんだからこれでお終いだ。だから、気にすんなよ?」
「…うん」
笑って返せば、亜貴は俺の顔をちらと見てすぐに視線を逸らした。頬は相変わらず赤いままだった。
真琴はモバイルをパタリと閉じると。
「さて。俺はこれで引き上げよう。明日は俺もお前の手料理をご相伴に預ってもいいのか? 久しぶりだな」
「好きにしろ。明日、頼んだぞ」
「ああ。きっちり証拠資料は揃えとく。また明日」
そういうと、リビングを出て玄関へと向かう。その背を玄関口まで出て岳と見送った。
「おやすみ。真琴さん」
すると俺の顔を見て、真琴はふっと笑んだあと。
「おやすみ。大和。タケ、良かったな?」
にっと笑んだ真琴は帰り際、岳に謎の言葉を残し、帰って行った。
時刻は夜十時を回っている。リビングには真琴と牧、藤もいた。
「大和、大丈夫だった?」
「おう。大したケガじゃなかった──」
俺は安心させるためニコリと笑むが、途中で頬が引き攣った。その横から岳が。
「頬を十センチ切られた。お前じゃなくて良かったとは言えない」
「……っ」
亜貴はくっと唇を噛みしめた。
岳はその傍らを通り抜け自室へと向かう。血のついた服を着替えるのだろう。
「牧と藤は帰っていい。ご苦労だった。亜貴はリビングで真琴と待ってろ。話がある。大和もな」
「分かった」
俺が答える傍らで、亜貴は去って行く岳の背を黙って見つめていた。
「じゃあ、俺たちはこれで。お疲れ様でしたっ!」
牧はぴょこりと、藤はのそりと巨体を折って岳の背中へ頭を下げると、真琴に見送られ帰って行った。
真琴はリビングに戻りながら、廊下に立つ俺たちに。
「二人共、中に入ったらどうだ?」
入るように促す。真琴の言葉に俺は亜貴を振り返り。
「行こう。お茶くらい淹れられる」
亜貴は何も言わず、俺の後についてリビングに入ってきた。
+++
「で。お前はどう思ってる?」
リビングのソファには岳の隣に真琴が座り、向かいには俺と亜貴が座っていた。
岳は腕組みして亜貴を見つめている。ソファの背に上体を預けて凄む姿は、俺の知らない岳の姿だ。
「反省してる…」
「反省か。言葉では何とでも言えるな」
岳の視線は厳しいまま。表情も冷たい。
その空気を割るように、真琴が今回の件の首謀者について報告する。モバイルに映し出された画像をこちらに見せながら、
「大和を襲ったのはうちの組の若頭補佐、楠の実弟、楠倫也だ。職は無職に近い。人から巻き上げた金で生きてる。まあクズだ…。年齢は三十二才。兄とは正反対の性格ではあるが、その分、兄への憧憬が強く、邪魔者は排除しようとする傾向がある。今回の件もそうだ。岳は兄、楠と跡目を争っている。兄の邪魔になる岳に脅しを掛けて来たんだろう」
画面には、証明写真のように正面を向いた倫也の顔が映し出されていた。髪もまだ染まっておらず、俺を襲った時より少しはまともな姿をしている。
岳は亜貴を見つめながら。
「今回、大和はケガで済んだが、お前の代わりにもっと酷いけがか、もしくは命を落す危険もあった。お前の遊びに付き合ったばかりにだ。それに、このケガはお前が受けるはずのものだっただろう。この始末をどうつけるつもりだ?」
「岳。始末って、亜貴は普通の高校生だろ? そんな脅すみたいに言わなくたって」
俺は止めに入るが、岳は亜貴に厳しい目を向けたまま。
「一般人だろうが、組員だろうが、そんなことは関係ない。やったことの後始末は自分でするのが当たり前だ。誰かに拭ってもらっている様じゃ、一人前の人間にはなれない。で、どうするつもりだ?」
俺は二の句を継げなくなる。
それまで俯いていた亜貴は、閉ざしていた口をゆっくりと開くと。
「兄さんの言った意味が良く分かった…。俺が言いつけを守らなかったから、大和が怪我をしたんだ。全部、俺の責任だ。もう二度と背かない。治まるまで大人しくしてる…」
岳は深いため息をつくと。
「分かったならいい…。抜糸が終わるまで、大和は家政婦を休みにする。代わりに俺が朝と夜は準備する。昼の弁当は学食にでもしておけ」
「…兄さんが?」
「な、亜貴も驚くよな?」
俺は重い空気を振り払うように身を乗り出せば。
「ううん。小さい頃、兄さん、良く作ってくれたから…。なんか久しぶり」
その口元に漸く笑みが浮かぶ。
「後はちゃんと大和に謝れ。お前の身代わりになったんだからな?」
「いいって! 大袈裟だな? 俺は大した事ねぇって。大体、俺もぼうっとして隙があったんだ。だから亜貴に機会を与えたわけで」
しかし、それを岳が手で制する。
「お前に非はない。悪いのは亜貴だ」
岳はそこは一歩も引かない。俺はうっとなって言葉を詰まらすが。
「ごめん。大和。それに…ありがとう…」
横に座る俺に、亜貴は深く頭を下げたまま小さく呟いた。
「ありがとうって、礼を言われるようなことは…」
「でも、俺があちこち歩きまわる間、ずっと周りを警戒しててくれただろ? …気づいてた。それで俺も勝手に大丈夫だって、思い込んで…。だから、ありがとう…」
亜貴の頬が僅かに染まる。
うへ、こんな美少年に頬を染められたら、そっちの気がなくったって、よろめきそうになるな。
勿論、性格を知らなければ、だ。それもかわいいと思えばそれまでだが。
俺はポンとその肩を叩くと。
「亜貴、もう謝ったんだからこれでお終いだ。だから、気にすんなよ?」
「…うん」
笑って返せば、亜貴は俺の顔をちらと見てすぐに視線を逸らした。頬は相変わらず赤いままだった。
真琴はモバイルをパタリと閉じると。
「さて。俺はこれで引き上げよう。明日は俺もお前の手料理をご相伴に預ってもいいのか? 久しぶりだな」
「好きにしろ。明日、頼んだぞ」
「ああ。きっちり証拠資料は揃えとく。また明日」
そういうと、リビングを出て玄関へと向かう。その背を玄関口まで出て岳と見送った。
「おやすみ。真琴さん」
すると俺の顔を見て、真琴はふっと笑んだあと。
「おやすみ。大和。タケ、良かったな?」
にっと笑んだ真琴は帰り際、岳に謎の言葉を残し、帰って行った。
18
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
鈴木さんちの家政夫
ユキヤナギ
BL
「もし家事全般を請け負ってくれるなら、家賃はいらないよ」そう言われて住み込み家政夫になった智樹は、雇い主の彩葉に心惹かれていく。だが彼には、一途に想い続けている相手がいた。彩葉の恋を見守るうちに、智樹は心に芽生えた大切な気持ちに気付いていく。
嫌われ公式愛妾役ですが夫だけはただの僕のガチ勢でした
ナイトウ
BL
BL小説大賞にご協力ありがとうございました!!
CP:不器用受ガチ勢伯爵夫攻め、女形役者受け
相手役は第11話から出てきます。
ロストリア帝国の首都セレンで女形の売れっ子役者をしていたルネは、皇帝エルドヴァルの為に公式愛妾を装い王宮に出仕し、王妃マリーズの代わりに貴族の反感を一手に受ける役割を引き受けた。
役目は無事終わり追放されたルネ。所属していた劇団に戻りまた役者業を再開しようとするも公式愛妾になるために偽装結婚したリリック伯爵に阻まれる。
そこで仕方なく、顔もろくに知らない夫と離婚し役者に戻るために彼の屋敷に向かうのだった。

ガラス玉のように
イケのタコ
BL
クール美形×平凡
成績共に運動神経も平凡と、そつなくのびのびと暮らしていたスズ。そんな中突然、親の転勤が決まる。
親と一緒に外国に行くのか、それとも知人宅にで生活するのかを、どっちかを選択する事になったスズ。
とりあえず、お試しで一週間だけ知人宅にお邪魔する事になった。
圧倒されるような日本家屋に驚きつつ、なぜか知人宅には学校一番イケメンとらいわれる有名な三船がいた。
スズは三船とは会話をしたことがなく、気まずいながらも挨拶をする。しかし三船の方は傲慢な態度を取り印象は最悪。
ここで暮らして行けるのか。悩んでいると母の友人であり知人の、義宗に「三船は不器用だから長めに見てやって」と気長に判断してほしいと言われる。
三船に嫌われていては判断するもないと思うがとスズは思う。それでも優しい義宗が言った通りに気長がに気楽にしようと心がける。
しかし、スズが待ち受けているのは日常ではなく波乱。
三船との衝突。そして、この家の秘密と真実に立ち向かうことになるスズだった。
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(ヤンデレ攻略対象、電子書籍化)
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位

ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。

前世が俺の友人で、いまだに俺のことが好きだって本当ですか
Bee
BL
半年前に別れた元恋人だった男の結婚式で、ユウジはそこではじめて二股をかけられていたことを知る。8年も一緒にいた相手に裏切られていたことを知り、ショックを受けたユウジは式場を飛び出してしまう。
無我夢中で車を走らせて、気がつくとユウジは見知らぬ場所にいることに気がつく。そこはまるで天国のようで、そばには7年前に死んだ友人の黒木が。黒木はユウジのことが好きだったと言い出して――
最初は主人公が別れた男の結婚式に参加しているところから始まります。
死んだ友人との再会と、その友人の生まれ変わりと思われる青年との出会いへと話が続きます。
生まれ変わり(?)21歳大学生×きれいめな48歳おっさんの話です。
※軽い性的表現あり
短編から長編に変更しています

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる