カーマン・ライン

マン太

文字の大きさ
上 下
76 / 84
第7章 未来

2

しおりを挟む
 エクラの湖畔近くのログハウス。
 ソルは落ち着かない様子で、ある人物を待っていた。
 午前中にユラナスが迎えに来ると言うのだ。彼に会うのも惑星アウローラで別れて以来。
 そろそろかと思うが、アレクはまだローブ姿のままソファに横になっている。

「ユラナスや警備兵は何処に待機しているんだ?」

 既にシャワーを浴び終えたソルは、グラスに冷たい水を汲み、アレクへ持って行く。

「警備兵はこの周囲に見えない様、待機させている。ユラナスは敷地内の管理棟で同じく警備兵と待機しているはずだ」

 身体を起こしたアレクにグラスを手渡すと、その傍らに座った。

「そうか。なんか申し訳ないな…」

 個人的な事に皆を煩わせている気がして、更に落ち着かなくなる。それに、ユラナスはこんな旧敵が支配する星に、アレクを長時間置いておきたくはないだろう。

 アレクを直ぐにでも連れ戻したいだろうな…。

 しかし、アレクは、

「気にするな。元々そのつもりだった。たまには休養も必要だ」

 そう言うと飲み終えたグラスをテーブルに置き、手を伸ばしソルの頬を捕らえると引き寄せた。間近にブルーの瞳が迫り、目が離せなくなる。

「そろそろユラナスが来る頃だ。もう──」

 支度を──と言いかけた唇を塞がれる。
 初めは触れるだけだったキスが、段々と深くなって来た。思わずその腕に縋り付く。

「──っ…」

 アレクは一旦、唇を離すと、息のあがったソルを見つめながら。

「そのユラナスだが、奴の父親とカエルラ──いや。セレステの父親は同じだ」

「それって、どういう…」

 驚きの余り言葉を失う。
 先にユラナスとアレクの関係は聞かされていた。セレステ自身が兄だと言っていたが──。

「母の一夜の慰め相手がユラナスの父親、私の父の側付だったと言う事だ。血液鑑定の結果、分かった。結果はユラナスの弟でもあると示している。王位の継承者ではない。噂は本当だった訳だが、これで放逐した所で害はないな…」

「そう、だったんだ…」

 セレステはアレクの弟であり、ユラナスの弟でもある。当時、彼らの両親と側付の間に何があったかは全て闇の中ではあったが、事実は残された。
 アレクとセレステ、ユラナスが繋がっているという事実に不思議な縁を感じる。

「ユラナスは、なんて?」

「別に。そうですかとそれだけだ。端からいないと思っていたものだ。突然、弟だと言われ親近感が湧くと言うものでもないのだろうが。…あれの内心は覗かなければ分からないからな。お前への思いも、あの事故がなければ分からなかったくらいだ」

「確かに…。アウローラに残ると言った時、初めて怒鳴って引き留められたんだ。けっこう、熱い男だよな?」

 その言葉にアレクは小さく笑う。

「弟の件についても、私に遠慮して言わない可能性は高いな。思うところはあるだろうが…」

「セレステの事はどうするんだ?」

「それを言っていなかったな」

 アレクはソルの腰に腕を回すと。

「奴は監視付きでもといた場所へ返した。そこで生涯を過ごしてもらう」

「監視付き? それって──」

「ここエクラでな。アスールの監視付きだ。ユラナスも同意した」

 それは…。

 アレクに聞き返そうとしたところで、室内に来客を知らせる電子音が鳴り響く。ソルは玄関に顔を向けた。

「ユラナスだ」

「早いな…。少しくらい待たせて置けばいい──」

 アレクは腕を伸ばしソルを引き寄せると、軽く触れるだけのキスをする。

「そうはいかない。アレクッ──」

 そうは言いながらも、幾度目かのキスでようやくアレクの胸元を軽く押し返した。
 アレクは、それでも名残惜しそうに、幾度か口づけたあとようやく解放し。

「全く…。早く君との時間を充実させたいものだな」

「その…、予定なんだろ?」

 言いながら、頬が熱くなる。アレクは気にも止めていないが、ソルにとっては、アレクとの仲をまだ堂々と口にする事には慣れていない。

「ああ。フィンスターニスに帰れば直ぐにでも手続きを済ます。それまで我慢しよう」

 アレクにようやく解放され、戸口に出たが、ユラナスは待たされた事に小言も言わず、ただじっとソルを見つめたあと、

「お帰りなさい。無事で何よりでした」

 フワリと笑んだ。こんな優しい笑みは初めて見たかも知れない。

「俺の方こそ…。ユラナスに辛い役を押し付けて、すまなかった…。でも、あの時本気で引き止めてくれた事は忘れない。ありがとう」

 右手を差し出すと、ユラナスはそれを見つめたあと、両の手で包み込む様に握り返してきた。

「いいえ…。礼を言われる様な事は何も。ただ、あのままでしたら、死ぬまで後悔しない日はなかったでしょう。生きていて良かった…」

 それは、あの時以来のユラナスの素の感情だった。

「ユラナス。ソルを口説くなよ?」

 背後からアレクの声がした。肩越しに振り返れば、リビングを出た所にアレクが戸口に肩を預け腕を組み立っていた。
 ユラナスは今一度、口元に笑みを浮かべると、さあ支度を、と奥のアレクに声をかけた。

しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない

月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。 人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。 2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事) 。 誰も俺に気付いてはくれない。そう。 2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。 もう、全部どうでもよく感じた。

Take On Me

マン太
BL
 親父の借金を返済するため、ヤクザの若頭、岳(たける)の元でハウスキーパーとして働く事になった大和(やまと)。  初めは乗り気でなかったが、持ち前の前向きな性格により、次第に力を発揮していく。  岳とも次第に打ち解ける様になり…。    軽いノリのお話しを目指しています。  ※BLに分類していますが軽めです。  ※他サイトへも掲載しています。

いっぱい命じて〜無自覚SubはヤンキーDomに甘えたい〜

きよひ
BL
無愛想な高一Domヤンキー×Subの自覚がない高三サッカー部員 Normalの諏訪大輝は近頃、謎の体調不良に悩まされていた。 そんな折に出会った金髪の一年生、甘井呂翔。 初めて会った瞬間から甘井呂に惹かれるものがあった諏訪は、Domである彼がPlayする様子を覗き見てしまう。 甘井呂に優しく支配されるSubに自分を重ねて胸を熱くしたことに戸惑う諏訪だが……。 第二性に振り回されながらも、互いだけを求め合うようになる青春の物語。 ※現代ベースのDom/Subユニバースの世界観(独自解釈・オリジナル要素あり) ※不良の喧嘩描写、イジメ描写有り 初日は5話更新、翌日からは2話ずつ更新の予定です。

鬼上司と秘密の同居

なの
BL
恋人に裏切られ弱っていた会社員の小沢 海斗(おざわ かいと)25歳 幼馴染の悠人に助けられ馴染みのBARへ… そのまま酔い潰れて目が覚めたら鬼上司と呼ばれている浅井 透(あさい とおる)32歳の部屋にいた… いったい?…どうして?…こうなった? 「お前は俺のそばに居ろ。黙って愛されてればいい」 スパダリ、イケメン鬼上司×裏切られた傷心海斗は幸せを掴むことができるのか… 性描写には※を付けております。

上司と俺のSM関係

雫@3日更新予定あり
BL
タイトルの通りです。

【BL】国民的アイドルグループ内でBLなんて勘弁してください。

白猫
BL
国民的アイドルグループ【kasis】のメンバーである、片桐悠真(18)は悩んでいた。 最近どうも自分がおかしい。まさに悪い夢のようだ。ノーマルだったはずのこの自分が。 (同じグループにいる王子様系アイドルに恋をしてしまったかもしれないなんて……!) (勘違いだよな? そうに決まってる!) 気のせいであることを確認しようとすればするほどドツボにハマっていき……。

騙されて快楽地獄

てけてとん
BL
友人におすすめされたマッサージ店で快楽地獄に落とされる話です。長すぎたので2話に分けています。

年上の恋人は優しい上司

木野葉ゆる
BL
小さな賃貸専門の不動産屋さんに勤める俺の恋人は、年上で優しい上司。 仕事のこととか、日常のこととか、デートのこととか、日記代わりに綴るSS連作。 基本は受け視点(一人称)です。 一日一花BL企画 参加作品も含まれています。 表紙は松下リサ様(@risa_m1012)に描いて頂きました!!ありがとうございます!!!! 完結済みにいたしました。 6月13日、同人誌を発売しました。

処理中です...