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第6章 青い石
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その日。エルガ—はいつもの通りベッドの上で目覚め、執事のかしずくままに任せ身支度を整えていた。
フィンスターニスは地球とよく似ている。
緑こそ後づけだったが、太陽に似た恒星があり、朝日が昇る。
窓越しにその光に照らし出される景色を眺め、進められている長女ゲルダと上級大将であるアレクとの婚姻を思った。
それは数週間後に取り決められている。
先に情報だけが先行し誤報とされたが、結局、婚姻と言う形で落ち着いたのだ。
当初はアレクが固辞したため、一旦は取り下げたものの、そのアレクを暗殺しようと企てたものがあり。
結局は未遂に終わったが、アレクを無くしたくはない。何とか安全である手元に置こうと、婚姻を強く勧めた。それで漸く、アレクはエルガーの意志を受け入れたのだ。
この婚儀はエルガーの固い意志に、アレクが折れた結果だった。
ようやく、安心出来る──。
その後も兄の息子の消息に何ら進展は見られなかった。やはり死亡したのだろう。
婚儀まで自分がもつか、それがここの所、頭にもたげる案件だったが。
「エルガー様?」
執事に声をかけられ我に返る。
しかし、次の瞬間、世界が闇に閉ざされた。さっと幕がかかったように視界が遮られたのだ。
ああ、と思ううちに意識を失っていた。
それから少しあと、士官のひとりが重要な情報を携えて、皇帝の住まう城を訪れた。
エルガーの甥に当たる青年、兄クリストフの息子の行方に関しての情報だ。以前から命令を受け、地道にその跡を追っていたのだ。
それは永らくエドガーが待ち望んでいた情報であり。
「エルガー様に直接お会いしてお話ししたいのです!」
調査官は訴えるが、対応した執事は目を伏せ首を振ると。
「エルガー様は今、どなたともお会いすることは出来ません」
「どうしてですか? これはエルガー様直々に命を受けた調査内容なのです! とても重要で──」
しかし、執事はやはり悲しげに首を振ると。
「…お会いになりましても、会話は愚か、相手が誰かもお分かりにならないでしょう…」
「…そ、それは──」
「意識がないのです…」
+++
「皇帝が倒れた?」
その一報が入り、旗艦の執務室にいたアレクに直ぐに報告した。
「はい、今朝がた。すぐフィンスターニスへ向かいますか?」
「……ああ。行く」
ユラナスの問いに一瞬の間をおいて答えた。
「それでは直ぐに出発の準備に取り掛かります…」
頭を軽く下げ、退出する。
ソルを失って以来、アレクには覇気が無くなった。それは側にいるものにしか気づかない程度のもの。昔からアレクを知るものなら違和感を持っただろう。
アレク様はどこへ向かわれるのか…。
自由を得るために帝国での最高地位を目指した。ソルと出会ったことにより、更にその意志は増したはずだったが。
そのソルがいない。
ともすると何処か遠くを見るように視線を彷徨わす。このままではと思う反面、どうすることも出来ず、もどかしさを感じる。
時間が経てば復活すると思うしかないのか…。
ユラナスは心の内で深く息を付いた。
時間では解決出来ない余念があったからだ。
あの未遂に終わった事件後、エルガーの長女、ゲルダとアレクとの婚約が発表される。
ソルがいなくなった今、対内的にも対外的にもそれを拒否する理由が見当たらなかったのだ。
その話が再び持ち上がった際、アレクは頑なに拒否した。
だが、今後の計画を進めるためには、よりエルガーの懐へ潜り込んだ方が得策だと強く進言し、この形だけの婚儀を受け入れさせたのだった。
そう形だけ──。
本心を言えば、ユラナスとていい心地はしない。心酔するアレクを年端も行かない、病弱な娘へくれてやるのだ。
ザインや、ラスターらは口を揃えてあり得ないと言うが、ユラナスもそれは同じ。
だが、これはアレク様を守るため。
今後の計画には必要だった。より、今の王家に近づく必要がある。でなければ、綺麗な幕引きが出来ない。
ユラナスは今度は本物のため息をつき、今あとにしてきたばかりの執務室へ目を向けた。
アレクの先を思い、憂いは増すばかり。
例え、今回の計画が上手く進行し、晴れて自由の身となっても、アレクに明るい未来は来るのだろうか。
ソル。あなたの選択は、アレクと言う人間を生かす意味では、間違っていませんでした。けれど、アレク自身を生かすと言う意味では──。
それは、精神の死を意味していたのだと、ユラナスは思った。それがソルに分からないはずはない。
それでも、その選択をしたのは、一縷の望みに託したのだろうか。
どうか、アレク様に平穏が訪れますように──。
そう願わずにはいられないユラナスだった。
+++
アレクがフィンスターニスに到着後、間もなく皇帝がこの世を去った。
享年五十二才。通常であれば亡くなる歳ではない。病弱な体質が死期を早めたのだ。
皇帝の長女、ゲルダとの婚儀は延期となる。
元よりその気はなかったのだ。これを機に取り消す方向に持っていくつもりだった。
エルガーの後継になるつもりはない。
エルガーの代まで続いた君主制。こちらもまた、廃止しする方向へ持っていくための準備を進めていた。
貴族出の官僚は全て一掃する。
君主制にすっかり馴染んだ貴族連中には受け入れがたい事実だろう。発表すればそれなりの反発はあるだろうが予測の範疇だ。
民主共和制への移行にあたり、大統領へとなるものの立候補者は数名出てくるだろうが、既に後押しする者も決めている。
貴族でも王族でもない、平民出の士官だった。アレクの補佐役のうちの一人だったが、ユラナスに次いで信頼のおけるものだった。
彼らに任せ、私は職を辞す。
ユラナスは婚姻した方が、職を辞する際、より効果的だと進言してきたが、もう譲るつもりはなかった。
確かに婚姻すれば、アレクは皇帝に近いものとして、新しい政治体制からはより強い力で排除されるだろう。
しかし、そこまでしなくとも、そうなるよう話は取り付けてある。誰もアレクを新体制に残そうとはしないだろう。
なにより、ソル以外の人間と形だけでも添うことはしたくなかった。
私は生涯、ソル一人と決めている──。
心を許すのも、甘い言葉を囁くのも、身体を通じ合わせるのも。
無意識に胸元の石に触れていた。
全て自由になる為。ソルと共に生きるためだった。そのソルがいない今、何をしてもまるで砂を噛むように空虚で物足りない。
ただ淡々とこなしていくだけの日々。
全て終えた所でソルがそこに待っている訳では無い。
早々に終わらせるべきだな…。
余計な事に煩わされたくなかった。早く一人になってソルを思い過ごしたい。
その煩わしいものの一つがゼストスとセレステの処遇だった。二人の扱いについては、正直、苦慮していた。
上級大将の命を狙っただけでも、厳罰に処されて当然。更にソルを失う原因を作った二人だ。当初は生かしておくつもりなどなかったが。
ソルの命懸けの抵抗により、計画は失敗に終わり、アレクの身体には害はなかった。
一般的には放逐か更迭か。
ゼストスは長年、帝国の研究員として過ごしてきた。しかも、アレクに一番近い位置で。下手に追放してまた旧連合軍にでも手を貸すような事になれば面倒だった。
セレステに関してはもっと厄介だった。
彼はアレクの弟なのだ。知らなければ、相当の処分を下しただろう。
しかし、弟と知った今、命まで奪うのは躊躇われる。追放したとしても出自がそれなだけに、下手に知られて祀り上げられれば、要らぬ火種を生む結果になる。
どちらも、幽閉し監視下に置くしかないか──。
ただセレステに関しては気になる結果があった。
その後、ネックレスを分析し、また血液からその血筋の証明を確認した。言葉に嘘はなかった。確かに母親は同じ。
ただ、父親の情報が合致しないのだ。
噂は本当だったのか?
父親が違うと。
今、その情報を探っている最中だった。データに残る情報と合うものを探している。当時の母親の周囲にいたものは限られていた。その中に父親がいる可能性が高い。
膨大な情報は、帝国のデータベースに保管されていた。高官となれば閲覧も自由。過去のデータを探るのは訳なかった。
しかし、帝国に関わる者であることに変わりがない。処分を下せずにいた。
その間、皇帝エルガーの葬儀が粛々と行われる。国葬とあって、それは盛大にとり行われた。
長女ゲルダも病身を推して出席する。
その傍らに寄り添う様に手をかせば、何処からとなくため息の様な歓声が漏れた。
今だけだ──。
直に婚約は破棄される。
可憐な少女は元より青白い顔色を更に青くして、父の死に弔慰を顕し花を手向けた。
もし、病魔が彼女を侵さなければさぞ美しく成長を見せた事だろう。
哀れではある。
医師の話しでは、もっても後一、二年。早ければ今年中にも倒れる可能性はあるとの事だった。
彼女とは血の繋がりもある。何より食指が動く相手ではなかった。
エルガーの気を引くためそれなりの対応をしてきたが、それも直に終わりを迎える。
周囲の期待を他所に、ゲルダ自身も本気で結婚出来るとは思っていないらしい。いつか会った際、
『結婚できるとは思っていません。こうしてお話し出来るだけで…』
そう健気に語っていたが。
自分の死期も予知しているのかも知れない。
アレクに出来る事は、エルガー亡き後もその生活を保証するくらいだった。
+++
エルガーの国葬はつつがなく行われ、終了した。
その後、君主制を排し、民主制ヘと転換を図る。同時に婚姻は破棄され、アレクは職を辞した。
ついでにエルガー含め、いかに王家による政治が腐っていたかを、いささか誇張して流布もさせる。
これで、王政を支持する者は鳴りをひそめるだろう。
ニュースは帝国内外を駆け巡る。
『民主制へ。ラハティ上級大将、宰相辞意へ。首長はクルーガ主席補佐官。彼は現政権でラハティ宰相の補佐官として長年その責務を務め、今回の改革でも中心的な位置を占めていた人物であり、なにより平民出身ということで──』
やはり貴族や君主制の下、安穏と甘い汁を吸って生きてきた者達は反対し、抵抗を見せた。
しかし、意に介さず強行に推し進めた。
早く終わらせる事だけに専念する。
もう、誰も自分のあとを追わせはしない。
早く自由に──。
それがせめてもの、ソルに対する花向けであった。
自由になって、君とともに過ごす。
出会ったあの頃の様に、他愛もない日々を二人で──。
ソル。だから、そこで待っていてくれ。
フィンスターニスは地球とよく似ている。
緑こそ後づけだったが、太陽に似た恒星があり、朝日が昇る。
窓越しにその光に照らし出される景色を眺め、進められている長女ゲルダと上級大将であるアレクとの婚姻を思った。
それは数週間後に取り決められている。
先に情報だけが先行し誤報とされたが、結局、婚姻と言う形で落ち着いたのだ。
当初はアレクが固辞したため、一旦は取り下げたものの、そのアレクを暗殺しようと企てたものがあり。
結局は未遂に終わったが、アレクを無くしたくはない。何とか安全である手元に置こうと、婚姻を強く勧めた。それで漸く、アレクはエルガーの意志を受け入れたのだ。
この婚儀はエルガーの固い意志に、アレクが折れた結果だった。
ようやく、安心出来る──。
その後も兄の息子の消息に何ら進展は見られなかった。やはり死亡したのだろう。
婚儀まで自分がもつか、それがここの所、頭にもたげる案件だったが。
「エルガー様?」
執事に声をかけられ我に返る。
しかし、次の瞬間、世界が闇に閉ざされた。さっと幕がかかったように視界が遮られたのだ。
ああ、と思ううちに意識を失っていた。
それから少しあと、士官のひとりが重要な情報を携えて、皇帝の住まう城を訪れた。
エルガーの甥に当たる青年、兄クリストフの息子の行方に関しての情報だ。以前から命令を受け、地道にその跡を追っていたのだ。
それは永らくエドガーが待ち望んでいた情報であり。
「エルガー様に直接お会いしてお話ししたいのです!」
調査官は訴えるが、対応した執事は目を伏せ首を振ると。
「エルガー様は今、どなたともお会いすることは出来ません」
「どうしてですか? これはエルガー様直々に命を受けた調査内容なのです! とても重要で──」
しかし、執事はやはり悲しげに首を振ると。
「…お会いになりましても、会話は愚か、相手が誰かもお分かりにならないでしょう…」
「…そ、それは──」
「意識がないのです…」
+++
「皇帝が倒れた?」
その一報が入り、旗艦の執務室にいたアレクに直ぐに報告した。
「はい、今朝がた。すぐフィンスターニスへ向かいますか?」
「……ああ。行く」
ユラナスの問いに一瞬の間をおいて答えた。
「それでは直ぐに出発の準備に取り掛かります…」
頭を軽く下げ、退出する。
ソルを失って以来、アレクには覇気が無くなった。それは側にいるものにしか気づかない程度のもの。昔からアレクを知るものなら違和感を持っただろう。
アレク様はどこへ向かわれるのか…。
自由を得るために帝国での最高地位を目指した。ソルと出会ったことにより、更にその意志は増したはずだったが。
そのソルがいない。
ともすると何処か遠くを見るように視線を彷徨わす。このままではと思う反面、どうすることも出来ず、もどかしさを感じる。
時間が経てば復活すると思うしかないのか…。
ユラナスは心の内で深く息を付いた。
時間では解決出来ない余念があったからだ。
あの未遂に終わった事件後、エルガーの長女、ゲルダとアレクとの婚約が発表される。
ソルがいなくなった今、対内的にも対外的にもそれを拒否する理由が見当たらなかったのだ。
その話が再び持ち上がった際、アレクは頑なに拒否した。
だが、今後の計画を進めるためには、よりエルガーの懐へ潜り込んだ方が得策だと強く進言し、この形だけの婚儀を受け入れさせたのだった。
そう形だけ──。
本心を言えば、ユラナスとていい心地はしない。心酔するアレクを年端も行かない、病弱な娘へくれてやるのだ。
ザインや、ラスターらは口を揃えてあり得ないと言うが、ユラナスもそれは同じ。
だが、これはアレク様を守るため。
今後の計画には必要だった。より、今の王家に近づく必要がある。でなければ、綺麗な幕引きが出来ない。
ユラナスは今度は本物のため息をつき、今あとにしてきたばかりの執務室へ目を向けた。
アレクの先を思い、憂いは増すばかり。
例え、今回の計画が上手く進行し、晴れて自由の身となっても、アレクに明るい未来は来るのだろうか。
ソル。あなたの選択は、アレクと言う人間を生かす意味では、間違っていませんでした。けれど、アレク自身を生かすと言う意味では──。
それは、精神の死を意味していたのだと、ユラナスは思った。それがソルに分からないはずはない。
それでも、その選択をしたのは、一縷の望みに託したのだろうか。
どうか、アレク様に平穏が訪れますように──。
そう願わずにはいられないユラナスだった。
+++
アレクがフィンスターニスに到着後、間もなく皇帝がこの世を去った。
享年五十二才。通常であれば亡くなる歳ではない。病弱な体質が死期を早めたのだ。
皇帝の長女、ゲルダとの婚儀は延期となる。
元よりその気はなかったのだ。これを機に取り消す方向に持っていくつもりだった。
エルガーの後継になるつもりはない。
エルガーの代まで続いた君主制。こちらもまた、廃止しする方向へ持っていくための準備を進めていた。
貴族出の官僚は全て一掃する。
君主制にすっかり馴染んだ貴族連中には受け入れがたい事実だろう。発表すればそれなりの反発はあるだろうが予測の範疇だ。
民主共和制への移行にあたり、大統領へとなるものの立候補者は数名出てくるだろうが、既に後押しする者も決めている。
貴族でも王族でもない、平民出の士官だった。アレクの補佐役のうちの一人だったが、ユラナスに次いで信頼のおけるものだった。
彼らに任せ、私は職を辞す。
ユラナスは婚姻した方が、職を辞する際、より効果的だと進言してきたが、もう譲るつもりはなかった。
確かに婚姻すれば、アレクは皇帝に近いものとして、新しい政治体制からはより強い力で排除されるだろう。
しかし、そこまでしなくとも、そうなるよう話は取り付けてある。誰もアレクを新体制に残そうとはしないだろう。
なにより、ソル以外の人間と形だけでも添うことはしたくなかった。
私は生涯、ソル一人と決めている──。
心を許すのも、甘い言葉を囁くのも、身体を通じ合わせるのも。
無意識に胸元の石に触れていた。
全て自由になる為。ソルと共に生きるためだった。そのソルがいない今、何をしてもまるで砂を噛むように空虚で物足りない。
ただ淡々とこなしていくだけの日々。
全て終えた所でソルがそこに待っている訳では無い。
早々に終わらせるべきだな…。
余計な事に煩わされたくなかった。早く一人になってソルを思い過ごしたい。
その煩わしいものの一つがゼストスとセレステの処遇だった。二人の扱いについては、正直、苦慮していた。
上級大将の命を狙っただけでも、厳罰に処されて当然。更にソルを失う原因を作った二人だ。当初は生かしておくつもりなどなかったが。
ソルの命懸けの抵抗により、計画は失敗に終わり、アレクの身体には害はなかった。
一般的には放逐か更迭か。
ゼストスは長年、帝国の研究員として過ごしてきた。しかも、アレクに一番近い位置で。下手に追放してまた旧連合軍にでも手を貸すような事になれば面倒だった。
セレステに関してはもっと厄介だった。
彼はアレクの弟なのだ。知らなければ、相当の処分を下しただろう。
しかし、弟と知った今、命まで奪うのは躊躇われる。追放したとしても出自がそれなだけに、下手に知られて祀り上げられれば、要らぬ火種を生む結果になる。
どちらも、幽閉し監視下に置くしかないか──。
ただセレステに関しては気になる結果があった。
その後、ネックレスを分析し、また血液からその血筋の証明を確認した。言葉に嘘はなかった。確かに母親は同じ。
ただ、父親の情報が合致しないのだ。
噂は本当だったのか?
父親が違うと。
今、その情報を探っている最中だった。データに残る情報と合うものを探している。当時の母親の周囲にいたものは限られていた。その中に父親がいる可能性が高い。
膨大な情報は、帝国のデータベースに保管されていた。高官となれば閲覧も自由。過去のデータを探るのは訳なかった。
しかし、帝国に関わる者であることに変わりがない。処分を下せずにいた。
その間、皇帝エルガーの葬儀が粛々と行われる。国葬とあって、それは盛大にとり行われた。
長女ゲルダも病身を推して出席する。
その傍らに寄り添う様に手をかせば、何処からとなくため息の様な歓声が漏れた。
今だけだ──。
直に婚約は破棄される。
可憐な少女は元より青白い顔色を更に青くして、父の死に弔慰を顕し花を手向けた。
もし、病魔が彼女を侵さなければさぞ美しく成長を見せた事だろう。
哀れではある。
医師の話しでは、もっても後一、二年。早ければ今年中にも倒れる可能性はあるとの事だった。
彼女とは血の繋がりもある。何より食指が動く相手ではなかった。
エルガーの気を引くためそれなりの対応をしてきたが、それも直に終わりを迎える。
周囲の期待を他所に、ゲルダ自身も本気で結婚出来るとは思っていないらしい。いつか会った際、
『結婚できるとは思っていません。こうしてお話し出来るだけで…』
そう健気に語っていたが。
自分の死期も予知しているのかも知れない。
アレクに出来る事は、エルガー亡き後もその生活を保証するくらいだった。
+++
エルガーの国葬はつつがなく行われ、終了した。
その後、君主制を排し、民主制ヘと転換を図る。同時に婚姻は破棄され、アレクは職を辞した。
ついでにエルガー含め、いかに王家による政治が腐っていたかを、いささか誇張して流布もさせる。
これで、王政を支持する者は鳴りをひそめるだろう。
ニュースは帝国内外を駆け巡る。
『民主制へ。ラハティ上級大将、宰相辞意へ。首長はクルーガ主席補佐官。彼は現政権でラハティ宰相の補佐官として長年その責務を務め、今回の改革でも中心的な位置を占めていた人物であり、なにより平民出身ということで──』
やはり貴族や君主制の下、安穏と甘い汁を吸って生きてきた者達は反対し、抵抗を見せた。
しかし、意に介さず強行に推し進めた。
早く終わらせる事だけに専念する。
もう、誰も自分のあとを追わせはしない。
早く自由に──。
それがせめてもの、ソルに対する花向けであった。
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