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第5章 波乱
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しおりを挟む「ゼストスが捕まったって、ホントか?」
ラスターと共にラウンジにいたアルバの元へ、リーノが顔を出す。
「ああ。さっきな…。宇宙ステーションの研究所からこっちへ連行されてきたそうだ。話を聞くだけとは言っているらしいが、それだけで済むとは思えない…」
その後、旗艦グリューエンは、惑星アウローラの周囲で停滞を余儀なくされていた。
現場に到着したものの、僅かな差でワープした巡洋艦を見つける事が出来ず。
何とか手を尽くし跡を辿った結果、巡洋艦を漸く発見したが、何らかの要因でアウローラと言う辺境の惑星に不時着した後だった。
救出に向かうにも、惑星の特異性に容易に近づく事が出来ず、対策を立てている最中で。
「どうして…?」
信じられないラスターは、顔色を青くして聞き返す。ゼストスとの付き合いはザインやアルバに続いて長い。
「アレクの艦がアウローラに墜ちた件、奴が嚙んでいたらしい…。旧連合が襲って来たのもな」
「じゃあ、ザインが重傷を負ったのも?」
ラスターの問いかけにアルバは頷くと。
「ゼストスが関係しているだろうな。旧連合軍と繋がっていたらしい。いったい何時から奴は…」
ゼストスは傭兵部隊だった頃からいた古参メンバーだった。
どこか辺境の星にいたのを、アレクにその腕を買われ参加するようになったのだと聞いたことがある。
古参メンバーは皆似たようなものだ。
アレクに見いだされ、救いだされたものばかり。感謝こそすれ、恨むなどあり得なかった。裏切る理由は思い当たらない。
と、そこへアレクが無事アウローラから脱出したとの一報が入った。
あと少しで旗艦に到着するらしい。
緊張が解け、艦内の空気が一気に歓喜に沸く。
「迎えに行こうぜ!」
リーノは皆に先んじてゲートヘと向かう。
生死さえ危うかったのだ。アレクの無事を知って、浮き足立つのも無理はない。
同じく迎えに出たクルー達と同様、ポートに立ち、タラップから降りてきたアレクを目にしたラスターは。
「…なんだろう。雰囲気が──?」
そう言って、首をかしげる。
いったんフィンスターニスへ向かい、治療を受けてから旗艦に到着したアレクだったが、なぜか青白い顔をし、表情は無く笑みのひとつも見せなかった。
アレクにしては珍しい表情だ。
ソルと会う以前のアレクを思い出す。あの頃は笑みを見せるのはごく稀で。ふとすると、いつも固い表情を顔に張り付かせていた。
しかし、ソルを得てからと言うもの、いつ見てもアレクの表情は和らいでいて。
愛するものがいると、あんな表情になるのものだなと思っていた。
それが、無いのだ。
付き従うユラナスも普段通りといえばそれまでだが、どこかいつもに増して表情が険しい。
「雰囲気が──どうかしたのか?」
アルバが尋ねて来るが。
「…ううん。気の所為、かな?」
こちらには目も向けず、足早に去って行くアレク達を見送った。
しかし、その後、アレクの表情の理由を知ることになる。
ソルが死亡したと言うのだ。
アレク到着の一報のあと、今回の戦闘で死亡した者が皆に通知され。その中にソルの名前があったのだ。
「本当…なのかな?」
リーノと共にアルバの部屋に集まったラスターは、誰に告げるでもなく呟く。
ザインに次いで、ソルにまで不幸が襲うとは。しかも死亡したと言う。信じられなかった。
ソルに限って。
それが皆の一致した思いだ。
兵士ならばいつ何時そうなっても当たり前で。みな、その覚悟をもってここいいる。
しかし、余りに親しいものが亡くなると、やはり覚悟などとは言っていられない。
仕方のないことでは片付けられないのだ。
「ザイン、可哀そうだな…。起きたって、ソルがいないんじゃさ」
そこまで言ってリーノは言葉を詰まらせる。
「しかし、信じられないな…。前線からも外れたって言うのに…」
アルバは深いため息をつく。
知る者に詳しく聞くと、旧連合軍の襲撃を知ったソルは、研究所を戦闘機に乗って飛び出し、戦闘ではなく巡洋艦に帰艦した際、惑星アウローラへの不時着に巻き込まれ、その衝撃で死亡したと言うのだ。
しかし、それなら遺骸くらい連れて帰って来れそうなものなのに、その身体は帰って来なかった。
どうやら最後を目撃したのはユラナスらしいのだが、口の固いユラナスが早々その様子を語るはずもなく。
ただ人々の間で憶測が飛び交うだけだった。
「いったい、何があったのか…」
アルバが髪を乱雑にクシャリとかき上げれば、ラスターが引き取って答えた。
「ソルに事故があった時、アレクは気を失ってたって…。脱出後、フィンスターニスに行っただろう? その時、対応にあたった奴が教えてくれた。肋骨にひびが入ってかなりの衝撃を受けたようだったって…。アレクが言うには、降下中に艦が揺れた時、ソルを庇ったらしいんだ。ソルに何かがあったのはその後。気を失っている間に、何かはあったんだろうけれど…。ユラナス一人じゃ、全て対応できなかったはず。脱出の時だって…」
ラスターは唇を噛みしめる。アルバは顎に手をあてると。
「気を失ったアレクを連れて、シャトルで脱出か…。巡洋艦も艦長室がシャトルになったな。離脱作業はそれなりに時間がかかる。幾ら優秀でもユラナス一人で対応出来たのか…? 確か、他のクルーはアウローラに堕ちる前に脱出していたな。たった一人で出来るものなのか…」
「ソルがいれば、そんなの簡単だったろうな…」
リーノが呟く。その言葉にアルバは反応した。
「確かに、ソルが加わればあっという間だったろう。──着陸時に死んだのでなければな…」
「それって…。ソルが──生きてたってこと?」
ラスターが聞き返す。
「今の所、何とも言えないが、今得た情報ではその可能性もあり得る…。ユラナスひとりでこなせたとは到底思えない」
アルバはそう言って腕を組む。
「なぁ。調べようぜ! でないとザインがうるさいって。あいつが目を覚ます前になんとかしておかないとな?」
リーノが身を乗り出してそう口にした。ラスターも頷くと。
「だね…。例え死んだにしても、状況をはっきりさせておかないと、ザインも納得しないよ」
「少し…探るか」
アルバはそう言うと、自室の端末に向かった。ラスターと同じく上級士官でもあるアルバは、ある程度深くまで内部情報にアクセス出来る権限がある。
「ゼストスの持ってたデータは全部持ってかれたって?」
ラスターはアルバの背後からその画面を覗くと尋ねた。アルバはキーボードを素早く叩きながら。
「ああ。バックアップも全部な。そこは探るのは無理だろう。今見てるのはアウローラでのログだ」
探るのはアレクを乗せた巡洋艦のデータ。
ソルやゼストスに及ばないまでも、アルバもそれなりに端末の操作は熟知していた。研究員になってもおかしくない技術と能力は持っている。
ただ、性格上、パイロットの方が向いていると思った為、そちらには進まなかったのだ。
「アウローラって、脱出したときの?」
「そうだ。当時のやり取りや入退出の記録だが──」
アルバはじっと画面に流れるデータを見つめたあと。
「…間違いない」
「アルバ?」
「ソルは脱出直前まで生きていた」
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