カーマン・ライン

マン太

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第4章 別離

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 咄嗟に機体を振って直撃は避けたが、被弾は免れない。
 アレクの搭乗する前方に攻撃を受けた。衝撃で機体は旋回しだしす。

「っ…!」

 ソルは強かに身体を打ち付けたがそれどころではない。
 瞬時にアレクの乗る前方のコックピットに外気を防ぐ防護シールドを張り、二人の間を隔てていたハッチを蹴り飛ばすと、座席に意識を失ったまま座るアレクのベルトを外し引き上げた。
 ヘルメットにひびは見られない。意識を失っているが、外見からは出血を伴う外傷は見られなかった。

 良かった…。

 ホッとしたが油断は出来ない。
 アレクを自分が座っていた座席に固定したあと、旋回を止めるため自動から手動操縦ヘ切り替え操縦桿を握る。
 回転する機体内での作業は手間取るがなんとかやり切った。 

「く…っ!」

 漸く旋回は止まり機体は揺れながらも安定する。と、追ってきた敵の戦闘機が再び閃光をほとばしらせた。

 ケイパー! どうして…? 

 それを寸での所で避ける。
 相手が自分だと解っているはず。ただ、致命的な攻撃はしてこなかった。

 狙いは俺じゃなく──。アレクを狙っている?

 ミサイルシステムを破壊されたため反撃することは叶わない。
 攻撃不能と見たケイパーが、こちらの機体上部に回り、拘束するための牽引ビームを照射しようとした。機内にロックオン警戒アラームが鳴り響く。
 アレクは帝国内で重要な地位を占める士官だ。もし連合に捕らえられれば、ただでは済まされない。命の補償はないだろう。

 させないっ!

 瞬間、機体を翻し敵機の腹へ機体を直にぶつけた。
 高速で飛ぶ機体に体当たりするなど、間違えば死に直結する危険極まりない行為なのだが、この際、形振り構っていられない。
 ケイパーがその攻撃に動揺している間に、間髪入れず機体を翻し、ふかしたエンジンの炎を噴射させる。
 ビーム程の威力はないが、間近でやれば機体の擁壁を溶かす事はできた。機体のどこかにその火花が引火し炎を吐き出す。
 予想しなかった攻撃にケイパーがその場を離れた瞬間、一気に加速し離脱した。

 例え俺が殺られても、アレクだけは殺らせない。

 捨て身の攻撃が効いたのか、ケイパーは追っては来なかった。

+++

 出来る限りのスピードで帰還する。

 あれは…ケイパーだった。

 自分の心音が煩い。
 もし今敵に襲われれば、そう思うといてもたってもいられなかった。
 ようやく旗艦のゲートが見えた所でほっと息をつく。
 途端に身体が悲鳴を上げ始めた。
 ドクリドクリと波打つように心音が響くと同時に身体のそこかしこが痛みを訴え始める。
 ポートに着陸し、コックピットを開くと、ユラナスが駆け寄って来た。

「アレク様!」

 座席からアレクを引き上げると、直ぐにユラナスが引き取る。

「外傷はないよ。呼吸も脈も安定している…」

 コックピットから降りながらアレクの容態を伝えると、ユラナスが頷いた。それから眉根を顰め。

「分かりました。あなたも直ぐにこちらへ…!」

 衛生兵がアレクを引き取り担架に乗せた所でユラナスが手を差し出してくる。

「え…? ぁ…」

 ポタリと頬を伝って生温かいものが床に落ちる。途端にクラリと視界が揺れ、視界が閉ざされた。
 最後に誰かが自分の名を呼んだ気がした。

+++

 自身が怪我を負っているなど、思いもしなかった。アレクを助ける、ただそれだけで自分の痛みなど二の次で。
 その後、アレクは全身の打ち身と軽度の脳震盪と診断された。直ぐに収容できたお陰で大事には至らなかったのだ。

 俺は──というと。

 敵の攻撃、機体を敵へ激突させた際にかなり身体に負荷が掛かっていたらしい。
 パイロットと違ってフルヘルメットをつけていない。
 肋骨や鎖骨、腕にひびが入っていた。
 それよりも、頭部から頸椎にかけての損傷が大きく。脳への損傷も僅かに疑われた。視力も以前よりかなり落ち。
 日々の生活に支障はないが、パイロットとしては致命的で。
 これで、もう宇宙は飛べなくなった。

+++

 戦闘が終結後、ブラシノス連合は降伏し解散させられた。各国は帝国の監視のもと、残ることを許される。
 その多大な功績により、アレクは大佐から一気に大将へと昇進する。
 ユラナス、ザインとアルバは少将、ラスターは中佐へとそれぞれ階級が上がっていた。

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